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長崎 雲仙普賢岳と平成新山の防災登山 溶岩ドームの現状は?

  • 2023年11月15日

2023年11月13日に行われた「平成新山 防災視察登山」。
34回目となる今回、九州大学や島原市、気象庁などの関係者に同行し、普段立ち入りが禁止されている警戒区域内で現在の平成新山(溶岩ドーム)の状況を取材しました。

NHK長崎放送局アナウンサー・気象予報士 木花牧雄

平成新山(溶岩ドーム)へ

平成新山 防災視察登山に臨む関係者は午前9時前、長崎県雲仙市にある標高1000mあまりの仁田峠に集合しました。

多くの木々はすでに葉を落としていた

この日は今季一番の冷え込み。外気温は3度ほどで風も強く吹いていて凍えるような寒さでした。上空では雲が速いスピードで流れていき、晴れたりガスが出たりとめまぐるしく天気が変わっていました。

冷たい風が強く顔に吹きつける

今回の防災視察登山では、九州大学地震火山観測研究センターの松島健教授や気象庁の担当者などが現場で現在の状況を解説します。自治体関係者や報道陣も多く参加しました。

 

松島教授(一番右)などによる出発前のレクチャー

まずは、ロープウェイで妙見岳駅(標高1285m)に向かいます。

ラジオ番組の取材のためリポートしながら進む

ロープウェイを降りた後は、登山道を進んでいきます。まだかろうじて色づいた葉をつけている木々もありました。

この日は登山道を進み始めても風はおさまりません。尾根では風が強く吹き抜け、霧が登山道にたちこめます。上の方、下の方ともに遠くの景色はほとんど見えません。

登山道は落ち葉や湿った土に覆われ、そこかしこに霜柱ができていました。

さて、登山道の途中には「風穴」が見られます。

入口を背に解説する松島教授

ここは「西の風穴」と呼ばれるところで、溶岩が冷えて小さくなるときにできた割れ目で、入口には冷気を逃さないように人工的に石が積まれています。中に入ると、上部の所々に穴が開いているのがわかります。

外の光が差し込む上部の穴

ここは夏でも4度ほどに保たれるため「天然の冷蔵庫」になります。かつては蚕の卵の保存や氷室として活用されてきました。現在は地震計や傾斜計といった観測機器が設置してあり、実は1990年から始まった噴火活動の時も観測が行われていました。

現在の溶岩ドームの状況は?

登山開始から1時間20分ほどが経ち、普段は立ち入りが禁止されている警戒区域に入っていきます。ここからは山の様子が大きく変わっていきます。

巨大な赤茶色や灰色の岩がゴロゴロと転がっています。これらは雲仙・普賢岳の噴火の際にできた溶岩です。

岩が大きくなり、木々は少なくなってくる

溶岩ドームとは地下から上がって来たマグマが地表に現れ、ふもとに流れないまま固まったものです。雲仙岳など粘性の高い火山で形成されます。普賢岳の噴火では巨大な溶岩ドームが形成されて、新しい山ができました。それが平成新山です。

岩の隙間には草や苔、50センチほどの木が生えています。足元は赤茶色や焦げ茶色の砂や砂利のところもあり、「ザッ、ザッ」という乾いた音がします。

岩の隙間には雪が積もった草や苔がある
鋭く割れた断面の岩が覆う斜面

場所によっては岩を渡っていくようになります。人と比べると1つ1つの大きさがわかります。足を置くとグラグラと揺れ動く岩もあるので、慎重に足場を確かめて進んでいきます。

不安定な状況で留まっている岩
比較的小さい岩の中には揺れ動くものも

大きな岩が組み合わされて急斜面になっています。見上げてみると、この様子です。岩の壁に張り付くようにして移動する箇所もあります。

傾斜が30度ほどの所もあるという平成新山の斜面

今回の登山では強風など状況がよくなかったため、平成新山(標高1483m)の1360mほどの地点まで登って下山となりました。九州大学や気象庁の今回の調査では、噴気の温度などはここ数年と変わった様子はないということでした。

溶岩ドームの現状などを解説する松島教授

平成新山を下りて、写真左奥にある山、普賢岳の山頂へ向かいます。

普賢岳から望む平成新山

振り返ると平成新山の全景が見えてきました。溶岩ドームの大きさを実感します。

平成新山にも草や小さい木々が覆っている所がある

普賢岳の山頂(標高1359m)に到着しました。

木々に霜がつくほど冷たい風が吹きつけた普賢岳

普賢岳から見る平成新山です。実は普賢岳よりも、普賢岳の横から噴火してできた平成新山(標高1483m)の方が高い山となっています。火山活動のすごさを実感できます。

今回行くことができなかった平成新山の山頂付近には、さらに大きな岩があります。スパイン(岩尖)と呼ばれる鋭い塔のような岩も見えます。その周辺では噴気が上がっているのも見えました。

左上がスパイン

今回、実際に平成新山に登り、今の状況を確かめることができました。岩の大きさや、その規模、どれほど不安定な状態か実感できました。溶岩ドームは地震や大雨などで崩落の恐れも指摘されています。今後、平成新山がどのように姿を変えていくのか。引き続き、状況の変化を注視していきたいと思います。

火山活動でできた島原半島。平成新山や普賢岳からは有明海や橘湾など海が一望できます。雲仙温泉や小浜温泉といった観光資源ももたらしています。半島の四季折々の美しい風景や温泉の恵みはもちろん、溶岩ドームの状況や火山災害への備えを取材して、伝えていきたいと思います。

平成新山の防災視察登山を番組でお伝えします。

「はっけんラジオ from 長崎」
ゲスト:杉本伸一さん(雲仙岳災害記念館館長)
NHKラジオ第1 12月15日(金)午後5時5分~55分

らじる★らじるで聴けます👇
https://www.nhk.or.jp/radio/

  • 木花牧雄

    NHK長崎放送局アナウンサー

    木花牧雄

    新潟県出身
    「ぎゅっと!長崎」キャスター
    気象予報士
    「ぎゅっと!サイエンス」で科学分野を取材
    特技は古代DNA解析

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