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長崎大水害「1時間雨量187㎜」梅雨に起きた観測史上最大の豪雨

  • 2023年06月12日

1時間雨量187㎜。1982年(昭和57年)7月23日に長崎県の長与町で観測した雨量です。今も破られていない日本の観測史上1位の記録です。さらに、アメダスなど気象庁が観測した史上1位の記録・1時間雨量153㎜を観測したのも、同じ日の長崎県の長浦岳です。この大雨をもたらし、299人の犠牲者を出した長崎大水害はどのような災害だったのか。その後の観測や防災体制、情報提供のあり方を変えた未曾有の大水害を取材しました。

NHK長崎放送局アナウンサー・気象予報士 木花牧雄

 

長崎大水害 観測史上最大の雨

1982年7月23日の長崎市長浦岳と長与町での1時間雨量
長崎市の中島川にかかる眼鏡橋も大きく壊れた

1982年(昭和57年)7月の長崎大水害。犠牲者は299人に上り、建物の全壊は600棟近く、床上・床下浸水は3万7000棟あまりとなるなど大きな爪痕を残しました。長崎の都市インフラが破壊され、「都市型災害」の始まりとも言われました。

長崎市に隣接するベッドタウン、長与町です。この町では長崎大水害で住民6人が犠牲になりました。

この町で観測史上最大の雨が降った

1982年(昭和57年)7月23日、長与町役場に設置されていた雨量計で午後7時から午後8時までの1時間に187㎜の雨を観測しました。

当時の長与町役場(現在の長与町図書館)

187㎜を観測した記録簿の原本は、今も長与町役場に残されています。

雨量計や降水量を記録する記録簿など

記録簿の一番上には、昭和57年7月20日から26日までの雨量が記されています。

23日の前後を拡大してみます。

23日の夜に状況が一変

23日夜から大きく針が振れ出しているのがわかります。記録する紙の下から上までで50㎜です。

観測史上1位の雨量が刻まれている

19時から20時までの1時間で針が3往復以上しています。雨量は役場の職員が確認しましたが、あまりの雨量に気象台の職員も細かく再確認したといいます。

気象庁の、雨の降り方によって人が受けるイメージによると、1時間雨量80㎜以上の猛烈な雨では「息苦しくなるような圧迫感がある」「恐怖を感ずる」とされています。それをはるかに上回る187㎜というのはどのような降り方だったのか?

実際に187㎜の雨を体験できる施設で、当時の状況を確認しました。

宮崎県延岡市にある施設
187㎜を体験できる降雨体験機

この装置で、長崎大水害で観測した雨量を体験することができます。187㎜の雨の状況です。

傘が重く感じられるほどの雨
白くかすんで視界も悪くなる
傘を川のように流れていく雨
降る雨と跳ね返りで足元はこのような状況に
自分の声を含め、周囲の音が聞こえにくくなる

視界が悪くなり、音が聞こえにくくなり、周囲から得られる情報が少なくなるのを感じました。何より、この状態で1時間ずっと降り続けて187㎜という数字になることに恐ろしさを感じます。降雨の継続時間も想像を絶しています。実際には自然現象なので、一時的にもっと強まったりすることがあったかもしれません。これほどまでに雨が降ることがあるのかと驚きました。

 

長崎大水害で変わった情報と街

この雨をもたらした長崎大水害は、「記録的短時間大雨情報」が出されるきっかけとなりました。

長崎大水害の当時、警戒を呼びかける最高ランクの情報が「大雨警報」でした。より災害が差し迫っていることを知らせる情報が必要だとして、大水害の翌年、1983年(昭和58年)から「記録的短時間大雨情報」の運用が始まりました。

土砂災害についても、警戒避難の呼びかけが必要だという機運が高まり、今の「土砂災害警戒情報」につながっています。

さらに、長崎大水害の後、長崎の街は河川の改修工事などの「ハード面」の整備も行われ、大雨や土砂災害に強い街づくりが行われてきました。防災工学に詳しい長崎大学の高橋和雄名誉教授に現状と課題を聞きました。

長崎大水害について研究してきた高橋和雄 名誉教授

長崎大水害をきっかけに情報やインフラは整備され、当時に比べて防災対策は格段に進歩していると高橋さんは言います。

長崎市中心部を流れる中島川に作られたバイパス水路
バイパス水路によって受け止められる雨量は増加

ただ、長崎大水害から40年以上がたち、新たな課題も浮き彫りになってきました。

この40年ほどの変化はどんなところに感じますか?

豪雨が巨大化して、今まで経験したことのない雨が降り出しました。そうすると整備してきたインフラでは足りなくなってくることも考えられます。「早めの避難」は今でも変わらない状況になっています。

時代も変わってきました。今の地域の状況はどう見ていますか?

高齢化・過疎化して、自分で避難できないお年寄りが増えたり、市町村合併で職員が減ってきたりしているので、地域に目が届かなくなっています。コミュニティ単位の防災をしっかりやっていかないといけない時代になっています。

大雨災害から身を守るために、「ハード面」に頼りすぎることなく、「ソフト面」も強化していく重要性を高橋さんは強調しています。

さらに現在は「記録的短時間大雨情報」に加えて、「線状降水帯」や「大雨特別警報」など大雨の危険性を知らせる情報が増えています。

2022年7月18日に観測された線状降水帯

災害を経て、時代とともに変わってきた大雨に関する情報。こうした情報を活用し、身を守る行動につなげていくことが重要です。

長崎大水害の発生から40年以上が経ちますが、いまだ日本の観測史上1位の雨量として記録が残り続けています。この記録がいつまでも1位であるとは限りません。もうこんな雨はないだろうと考えることなく、次の観測史上最大の雨に備えた準備や心構えをしておく必要性を感じます。

観光名所として賑わう現在の眼鏡橋
  • 木花牧雄

    NHK長崎放送局アナウンサー

    木花牧雄

    2012年入局 新潟県出身 
    「ぎゅっと!長崎」キャスター
    気象予報士
    特技は古代DNA解析

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