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長崎・佐世保高専の半導体授業 人材育成でチャンス生かせ!

  • 2023年08月01日

長崎県佐世保市にある佐世保工業高等専門学校(佐世保高専)では、半導体関連の人材を育成するため、昨年度から半導体の授業が行われています。高専で行われている半導体の授業とはどのような内容なのでしょうか?取材しました。

NHK長崎放送局アナウンサー 木花牧雄

佐世保高専の「半導体授業」とは?

半導体の授業を取材するため、佐世保高専を訪ねました。

国立工業高等専門学校第1期校として
昭和37年に創設された佐世保高専

週1回ほどのペースで行われている半導体の授業。この日は、半導体の製造工程についての授業でした。

講師は、九州工業大学の馬場昭好教授。内容はウエハーの切断やチップのパッケージングなど、半導体製造の終盤の過程となる「後工程」についてです。

大学や企業などから派遣される講師が授業を担当

馬場教授が今回の授業で用意したものの一部がこちら👇

実物の半導体です。これを学生に実際に手に取ってもらいながら授業を進めていきます。

実際に見て触れて半導体の理解を深める

用途が多岐にわたり、関係する学問も広範囲にわたる半導体の分野。授業をする側も様々な工夫を凝らしています。

どういう点を意識して授業をしていますか?

馬場昭好
教授

半導体はかなり広い分野ですが、半導体の製造に関して言えば、基礎は変わっていませんので、その基礎を理解してもらうことを心がけています。もう一つは、実物を見ないとなかなか分からない部分があるので、できるだけ実物を見せて講義を進めていこうと思っています。

半導体に関心のある若い世代にはどんな期待がありますか?

馬場昭好
教授

日本の半導体業界を盛り上げてもらいたいと思っています。また、その分野に進まなくても、半導体はデジタル産業の基本になっているので、中身を知るだけでも、かなり生かせるし、役に立つのかなと思っています。新しい産業を作るという意味でも非常に期待しています。

佐世保高専の半導体の授業は選択コースの1つです。選択コースで受講者数が最も多い人気の授業になっています。

多くの学生が受講する半導体の授業
授業中、講師の端末に学生から次々と質問が寄せられる

座学に加えて、工場見学や大学での実習などもあるため半導体について様々な観点から学ぶことができます。

学生たちはどんなビジョンを持って半導体の授業を受けているのでしょうか?

みなさんは将来どういう分野に進みたいですか?

電気電子工学科の学生

僕は製品開発に興味があるので、その分野もどんどん調べて、半導体と商品開発を両立できるところに関わっていきたいと考えています。

物質工学科の学生

工場見学をした時に半導体を見せてもらい、工場で材料を研究して作っていることを聞きました。私も材料系なので、半導体の材料面で活躍できるのかなと思っています。

物質工学科の学生

半導体関連でいうと、今までないことを開発するとか、今ある物をそれ以上の物にしたい、やってみたい。

半導体分野への興味や関心とともに、明確な将来像を描いている学生が多いことがとても印象的でした。

実際に作って理解する「半導体」

半導体教育のさらなる充実のため、佐世保高専では様々な機器が導入されています。

全国の高専で唯一導入した「ミニマルファブ」

2023年に導入した「ミニマルファブ」です。何台かを組み合わせて使用する小型の半導体製造装置です。佐世保高専にあるのは「レジストコータ」・「マスクレス露光」・「デベロッパ」という3台です。数多くの工程からなる半導体製造。佐世保高専ではこの装置を使用して、設計した回路図をシリコンウエハーに描く作業を実際に行うことができます。

佐世保高専の「ミニマルファブ」で行える工程

現在、「ミニマルファブ」は製造や研究の分野で活用されていますが、佐世保高専は全国に先駆けて「教育」に導入。全国の高専で持っているのは佐世保高専だけです。

この装置は教育にどのようなメリットがあるのか?電気電子工学科の猪原武士 准教授に聞きました。

猪原武士 准教授

佐世保高専はこれまで半導体の「薄膜」を作ることを得意としてきましたが、この3台の装置を導入することで、実際にデバイス・形にしていくことができます。最近の半導体はブラックボックス化して、中身がよくわからない所があります。「ミニマルファブ」は実際に装置が動いていく工程が見え、どういうふうに動かすかを簡単に設定できる。実習装置として面白いですね。

実際にどのように操作していくのでしょうか?電気電子工学科5年の町田智幸さんに実演してもらいます。

「ミニマルファブ」の最適な製作条件を研究する町田さん

まずはシリコンウエハーを準備して、シャトルと呼ばれる容器に格納します。

シャトル(赤い容器)を開けて、ピンセットでシリコンウエハーをセットします。

シャトルの中に薄くて小さなシリコンウエハーをセットできました。このシャトルをミニマルファブの装置へ。すると、シリコンだけが装置の中に取り込まれます。

いよいよシリコンに回路図を描く工程に入ります。まずは「レジストコータ」です。

シリコンウエハーに回路図を描くための液を載せます。装置の内部の様子です👇

シリコンの上に液がたらされる

液を載せた後、高速で回転させて薄く表面に延ばしていきます。

回転速度は5000rpm(1分間に5000回転)

次は「マスクレス露光」の工程です。ここでは回路図の通りに紫外線を当てていきます。「レジストコータ」で塗った液は紫外線に当たるとその部分だけが固くなる性質があります。今回はモニターに出ているイメージ図をシリコンウエハーの上に描きます。

👆さまざまなスケールが表示されたイメージ図

最後に「デベロッパ」の工程です。露光装置によって紫外線を当てたシリコンウエハーを洗い流していきます。紫外線が当たらなかったところは液が固まっておらず、流されていきます。

ここでも回転させて洗い流していく

以上の工程が終わるとこの通り👇
イメージ図通りにシリコンウエハーの上に描かれました。

どのくらいの細かさで描かれているのか。ここから先は顕微鏡で見ていきます。

モニター右上の四角模様を拡大していくと…

2マイクロメートル間隔の線まで描かれています。こうして実際に自分たちで半導体を作る体験ができることは、学ぶ点が多くあると町田さんは言います。

町田さん

ウエハーの状態がよく見えるので、液の「ムラ」や「載り」の具合が分かります。どこで、どうなっているかが分かり、研究に役立ちます。

半導体にすごく興味があって、学校で実際に半導体を作れるのは貴重な体験でうれしいです。半導体製造に関われるのは貴重な体験ですね。

 

急務となる「半導体人材」の育成

半導体人材の育成に力を入れる佐世保高専。半導体関連のニュースも多く、注目されているこの時代をどう捉えているのか。中島寛 校長(九州大学名誉教授)に聞きました。

半導体の研究者でもある中島寛 校長

佐世保高専 中島寛 校長

2000年代くらいまでは国が半導体産業をサポートしてくれたんですね。ところが2010年頃になると国が「半導体は外注でいいや」という考えになり、日本の重点施策から外された経緯があります。

私はそういう中でも「半導体は重要だからやらないといけない」と思っていました。それが再び、「国を挙げてやろう」ということになった。非常に喜ばしいと思うと同時に「このチャンスは絶対に生かさないといけない」という思いですね。

こうした現在の状況で、高専に求められることは何か聞きました。

佐世保高専 中島寛 校長

今後10年間、毎年1000人の半導体の技術者が要ると言われています。そういう意味で人材育成というのは急務なんですね。

もう1つ重要なのは座学だけではなく、高専ですから実習ですね。そこは高専の強みでもあるので力を入れていかないといけない。自分の専門プラス、半導体の設計とか製造とか、そういったことができる人材を提供していくのが使命だと思いますね。

かつては世界のトップシェアを誇っていた日本の半導体産業。これから巻き返していくためにも、佐世保高専の取り組みが今後どのような人材を育成していくのか注目されます。

  • 木花牧雄

    NHK長崎放送局アナウンサー

    木花牧雄

    2012年入局 新潟県出身 
    「ぎゅっと!長崎」キャスター
    「ぎゅっと!サイエンス」で科学分野を取材
    気象予報士
    特技は古代DNA解析

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