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長崎国際大学 アルツハイマー病予防に向けた最先端研究に迫る

  • 2023年09月25日

「豆もやし」に含まれる成分によって、マウスでアルツハイマー病の進行を抑えられたという論文が、今年、長崎国際大学から発表されました。今後、ヒトでもアルツハイマー病の進行を抑えることができるようになるのでしょうか?アルツハイマー病を予防するための新たなアプローチに迫ります。

NHK長崎放送局アナウンサー 木花牧雄

「豆もやし」に含まれる成分とは⁉

長崎国際大学

長崎県佐世保市。ハウステンボスにほど近い所にある長崎国際大学。その中の薬学部・分子生物学研究室を訪ねました。

分子生物学研究室

田中宏光 准教授です。今回、「豆もやし」に含まれるポリフェノールの1種、「クメストロール」の効果について研究しました。

分子生物学が専門の田中宏光 准教授

今回の実験では、SPF(Specific pathogen free)という、実験動物の健康や実験結果に影響を与える可能性のある、ウイルスや細菌などがいない部屋で飼育されているマウスを用います。

SPF管理区域内は作業衣・マスク・キャップなどを装着

今回、「アルツハイマー病患者の遺伝子を導入したマウス」を実験に用いました。成長とともにアルツハイマー病を発症するマウスです。

遺伝子導入(トランスジェニック)マウス

乾燥させた豆もやしの粉末を餌に混ぜて、マウスに与えます。「豆もやしの粉末を加えた餌を与えたマウス」と、「豆もやしの粉末を加えない餌を与えたマウス」を比較することで、アルツハイマー病の進行程度の変化を観察します。

大豆を発芽させた「豆もやし」
乾燥豆もやしとその粉末
マウスのエサに豆もやしの粉末を混ぜる
豆もやし入りの餌を食べることでどんな変化が起きるか

 

アルツハイマー病に効果はあるか?

まず、行動実験でマウスの動きにどのような変化があるか観察します。「Y迷路試験」を使って短期記憶力を測ります。

Y字の迷路の中にマウスを入れて行動を観察する

短期記憶が正常なマウスほど、元の道には戻らずに、異なる道に進入することが多くなります。アルツハイマー病のように記憶能力に障害が出ると、異なる道ではなく、元の道に戻る行動が増えてきます。今回、連続して3回異なる道に進入した数をもとに計測しました。

「豆もやしを餌に加えたマウス」は、順調に異なる道に入っていきます。

上から始まり
左へ
そして右に向かう

一方、「餌に豆もやしを加えていないマウス」では、元の道に戻る行動が増えてきます。

右から
左へ
上ではなく右に戻ってしまう

行動試験の結果、豆もやしを与えたマウスは、元の道と異なる道を選ぶことが多くなりました。3回連続で異なる道に入る確率は平均で「66.5%」でした。正常なマウス(66.1%)とほぼ同じ傾向が見られました。

一方、豆もやしを与えていないマウスは平均で「54.8%」となり、低くなりました。正常マウスや豆もやしを与えたマウスに比べて、元の道に戻る行動が増えたことになります。行動実験からは、豆もやしを与えたマウスでは、アルツハイマー病を予防できていることが分かりました。

 

「豆もやし」クメストロールの作用

アルツハイマー病の発症のメカニズムは、現在「アミロイドカスケード仮説」が支持されています。

脳内にたまった「アミロイドβ」が引き金となって、「タウ」タンパク質がリン酸化されて「リン酸化タウ」になり、細胞内に蓄積。すると、経細胞死に至り、認知機能が低下するというものです。

 

豆もやしに含まれる「クメストロール」はリン酸化を阻害する性質があります。ということは、マウスの脳内の「リン酸化タウ」が減ることで、アルツハイマー病を発症しなくなったのではないかと考えられます。

タンパク質の量を測る「ウエスタンブロット」という方法で、脳内の海馬の「リン酸化タウ」の変化を見てみます。

通常の餌と豆もやし入りの餌を与えた個体の違いです。①・②は通常の餌。⑤・⑥は豆もやし入りの餌です👇

⑤・⑥ではリン酸化タウの線が薄くなっている

豆もやしを餌に加えた⑤・⑥は、「リン酸化タウ」の量が通常餌の①・②より減っているのがわかります。

 

では、「アミロイドカスケード仮説」の上流である「アミロイドβ」の量はどうなっているのか?予想では変化はないと思われたのですが…。

アミロイドβはどうなっているのか?
顕微鏡で脳切片を詳細に観察
茶色の斑点がアミロイドβの蓄積(老人斑)

上の画像は、海馬とその周辺の脳切片です。豆もやしを与えることで「リン酸化タウ」を減らすだけでなく、「アミロイドβ」の蓄積も減っていました。なぜ豆もやしで「アミロイドβ」まで減ったのか。この作用機構はまだ解明できていないとしつつも田中准教授は仮説をこう話します。

豆もやしで「リン酸化タウ」だけではなく、「アミロイドβ」も減ったことに関しては、どう考えたらいいのでしょうか?

田中
准教授

私たちの考えは、豆もやしごと食べさせたマウスなので腸内細菌の運動が活発になって、腸内細菌が作り出す他の抗酸化物が「アミロイドβ量」を減らした可能性や、 「タウ」のリン酸化が減ると「アミロイドβ自身」も減るというような相関関係があるかもしれません。その部分に関しては、今後も研究を進めていきたいと考えています。

今回の発見はあくまで「マウス」で効果が確認できたという段階です。これから先「ヒト」への応用については。

田中
准教授

私たちもヒトに関しては分子メカニズムまではたどりついていませんが、実験動物では作用点がはっきりしました。ヒトではどのように作用するかというのは、今後臨床の現場の先生方のご協力が得られましたら観察していただきたいと思いますね。

臨床研究に向けて専門医も注目!

今回の発見は、臨床現場の医師も注目しています。

佐世保中央病院

佐世保中央病院・認知症疾患医療センターの井手芳彦 医師です。

認知症サポート医として臨床の現場に立つ井手医師

井手さんは認知症治療の難しさについてこう話します。

井手芳彦 医師

ようやく「レカネマブ」で本格的な認知症治療ができそうだという時代になったんですが、ある程度進行した認知症の人、つまり中等症以上に進行した認知症の人には、薬が効かないんです。ことごとく失敗します。医療は、症状が始まって治療するというのが普通のやり方なんですが、認知症は症状の始まりを待っていたら遅いんですよね。

田中准教授の論文は、今までの薬と違ってちょっと視点を変えた内容の研究発表でした。しかも、動物実験のデータがあったので「これはいけるかもしれない」と思ったわけです。

豆もやし(クメストロール)をアルツハイマー病の「予防」に使えるものにするため、今後、安全性や効果、量などを慎重に確かめて「ヒト」での臨床研究に臨んでいきたいという井手さん。 今後の展望について聞きました。

ヒトへの応用の可能性を探る井手医師

井手芳彦 医師

「リン酸化タウ」は他のタイプの認知症にも関係します。「タウ」のリン酸化を阻害するのなら、認知症のタイプはあまり問わずに応用できる可能性もあります。 高齢になればなるほど、2つも3つも病気は重なるんです。その共通因子である「リン酸化タウ」をコントロールできれば、複合病理にも効くだろうと思います。

この先、身近な食べ物由来の成分で、認知症を「予防」できる時代が来るかもしれません。今後の研究成果が注目されます。

  • 木花牧雄

    NHK長崎放送局アナウンサー

    木花牧雄

    新潟県出身 
    「ぎゅっと!長崎」キャスター
    気象予報士
    「ぎゅっと!サイエンス」で科学分野を取材
    特技は古代DNA解析

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