前を向いて歩けば
- 2023年09月01日
「『いつまでも、おしょうゆ待っています』。そのコメントは本当にうれしかった」
3年前の豪雨で被災した老舗しょうゆ会社の社長は振り返ります。
失意のなか、再建に向けて、少しずつ進めてきた歩み。
復旧を果たしたいま、思うことは。
(熊本放送局 記者 西村雄介)
2階から眺めるだけ
「道がもう川のようになってですね、みるみるうちに。にごった水がどんどん流れて、勢いがすごかった。これが現実なのかなとかね、そういう感じですかね」。
語るのは、岩永幸三さん。創業114年となる芦北町のしょうゆ製造・販売会社「岩永醤油」の4代目社長を務めています。
3年前の令和2年7月4日に、県内を襲った記録的な豪雨。
芦北町は中心部を流れる佐敷川が氾濫し、「岩永醤油」の店舗の1階部分にあった商品や原料の大豆、麦、ボイラーといった機械などが浸水する被害を受けました。
(岩永幸三さん)
「商品とか、コピー機なんかも、高いところにあげようとしましたけれども、それも、あとで考えたら無駄でした。その上まで水がきたので。自分自身、息子たちも、自宅の2階に避難して、上から眺めるだけでした」
「いつまでも待っている」
(岩永幸三さん)
「ボランティアの人たちが『直接来ました』みたいな感じで来てくれて、われわれも倍頑張れるというところがありました。みなさんの気持ちですね」
被災した店舗の片づけに駆けつけたのは、付き合いを続けてきた取引先の人などでした。先が見えない不安のなかで、少しずつ、再建に向けた歩みを進めていったといいます。
(岩永幸三さん)
「『自分の身体を壊さないようにね』と、アドバイスを頂いたり、『人に任せなさい、これはマラソンだから』と。ひとつずつ、復興をしていった」
再建に必要とされた資金はおよそ1億円。
国の制度だけではまかなえず、インターネットで寄付を募るクラウドファンディングにも挑戦しました。
(岩永幸三さん)
「『岩永醤油』の4代目、1人息子として生まれてきて、続けていく。それが使命というか、僕の人生というか。なので、努力して、途中でこれは無理だろうってなったら、それはしかたないけれども、まずは、挑戦してみるじゃないけれども、やれることを、できることをやってみようと」
クラウドファンディングの結果、集まったのは、目標の3倍を超える全国からの支援。
ともに贈られたメッセージに背中を押され、被災しておよそ3か月後、しょうゆ造りを再開しました。
(岩永幸三さん)
「『いつまでも、おしょうゆ待っています』。そのコメントは本当にうれしかった」
前以上の「ありがとう」を込めて
(岩永幸三さん)
「3年は長かったのかな。けれども、昨日のことのような。夢のようでもあった」
豪雨から3年。
5代目となる長男の宗大さんが被災後の店舗の内装を手がけ、おしゃれなよそおいに。
(岩永宗大さん)
「もう1回、下を見たので、あとは上がっていくだけ。自分の色が出せるしょうゆ屋をつくっていけたら、と思っています」
(岩永幸三さん)
「『店頭に商品が並んでいるのがうれしい』って聞いて、印象に残っています。うれしかった。 復旧できてよかったなって。以前よりって、おかしいですけれども、前以上に気持ちをいれて、感謝、『ありがとう』を込めて、造るようになりましたね」
楽ではなかった再建の道。
3年たった今の心境と、これからの歩みに向けた意気込みを語ります。
(岩永幸三さん)
「時間がかかるかもしれないけれども、前を向いて歩いていけば、どうにかなる。氾濫はしましたけれども、芦北町は、先代が気に入って住み着いたところです。海、山、川もあり、私も好きです。芦北町の岩永醤油なので、この地で頑張っていきたい。地元でとれた魚と、当社のしょうゆ、この組み合わせでですね、おいしく魚を食べていただければ、1番うれしいことです」