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気象台予報官が語る熊本の過去の災害~防災・命のラジオより

  • 2023年09月01日

毎年9月1日「防災の日」に県内の7つのラジオ局が放送する「防災・命のラジオ」。
ことしのテーマは「未来に語り継ぐ」です。
今回、NHKが取材をしたのが、熊本地方気象台の岡本聡予報官です。
1992年に気象台に入り、九州各地に赴任し、熊本ではあわせて13年勤務しています。
熊本地方気象台は5人の予報官が交代しながら業務にあたっていますが、
岡本さんは、平成24年の九州北部豪雨、令和2年7月豪雨の際に勤務していました。
岡本さんが、これまでの災害で何を感じ、それがどう今にいきているのか、話を聞きました。

熊本は予報しやすい?しづらい?

予報官にとって熊本はどういう土地なんですか?

南西側の海の方から風が吹くと山にぶつかって
雨雲が発生する中で、
山が複雑にからみあうので
雨雲がどこら辺で強まるかっていうのがなかなか読めず、
そこでいつも苦労してますね。

最新の計測機器があっても難しいのですか?

やはり風の予想はですね・・・
熊本というのは西に海があります。
海の観測情報は意外とないので、
風のぶつかりがここら辺だろうと予想してもちょっとずれたり、
予想に反して風のぶつかりが強くて大雨が発生したりとか・・・
精度がだんだんよくなっていけばいいと思いますけども
それを待つ前に私たちが過去の経験をもとに、
大雨の予測をしている状況ですよね。

大雨の降る場所の予想はどのくらいずれることがありますか?

50キロぐらいのずれも場合によってあります。
前線本体の雨雲は、予想されるんですけれども、
前線よりも南側に暖かく湿った空気が集まるところは
南北に数十キロずれることもあるので、
それによって大雨になるかならないかが違ってきます。

平成24年九州北部豪雨

岡本さんは、九州北部豪雨が発生した夜、勤務していたそうですね?

その日は、夜勤で随時、情報を発信する業務でした。
夕方から夜中の12時ごろまでは雨雲は弱かったです。
そしたら、夜中12時ぐらいから、
菊池から阿蘇にかけて、恐ろしいぐらい雨雲が発達して、
甚大な災害になってしまいました。
私たちもいろんな災害とか見てきたんですけれども、
経験したことないような状況でした。

岡本さんは、被災状況を見てどう思いましたか?

自分たちはただ予報を出すだけでなくて、
その後には亡くなられる方や様々な被害が出てしまう恐ろしさを
目の当たりにしました。
亡くなってしまった方々に何かできんかったかなって思うんですよね。
その方たちっていうのはどうしたら救えるんだろうなって思いました。

令和2年7月豪雨

令和2年7月豪雨の際、岡本さんは、災害発生前日の7月3日に勤務。
翌日、つまり災害当日の予報を出しました。
その際、大雨は予想していたものの、球磨地方の予想雨量は多いところで200ミリでした。
 

2020年7月3日(金)クマロク


しかし、実際には、500ミリ近くの雨が降ったのです。
その時、何があったのでしょうか。

先ほどお伝えした梅雨前線の南側に風が集まる部分があったので、
鹿児島と球磨地方の境界ぐらいに大雨が降る予想が出てました。
そして、鹿児島県寄りが大雨の中心になると考えたので、
球磨地方は200ミリぐらいと予想しました。
一方で、悪めのシナリオも考えていて、
それであればもっと雨量は増えると考えました。
どちらにせよ警報級の大雨として夜勤担当者に引き続きは行いました。
ただ、風が集まるところが、
今まで経験したことないくらい細長く、長時間同じ場所で持続し、
球磨地方でとんでもない量の雨になってしまいました。

悪めのシナリオとしては、想定された雨だった?

500ミリは想定できませんでしたが、
悪めのシナリオだと300~400ミリは降る可能性がありました。

実際に災害となってしまいどういったことを感じましたか?

私たちが考える予想雨量が、その100ミリが200ミリ、
200ミリが300ミリとか、その数値が持つ意味というのは
ものすごく大きいと感じました。
その上で悪めのシナリオの雨量が、
主の予想よりはるかに多いときは、
ある程度、主の予想に近づけておかなければいけないケースも
あるんじゃないかなというのをつくづく感じました
もう空振りでもいいから、ちょっとでも悪いサインっていうのは
見逃さないようにすることが一番重要だと感じております。

悪めのシナリオを発表することはできないのでしょうか?

2つ資料があると、皆さん混乱するかもしれないと思います。
それに悪めのシナリオばかり発表すると、
今度はオオカミ少年のようになってしまい信頼をなくしてしまうし、
と言って、今度はとんでもない量が降ってしまうと
”何でもっと予想雨量を多く出さなかったか"ということにもなるし、
いつもそこが難しいところです。
そうした中で、
本当にこれ発達する可能性が高いものを選別していくために
予報の経験値をもっと上げていくしかないですね。

空振りを恐れずに予報を出されている面もあれば、
一方で悪いシナリオ以上に降ってしまうことも?

予想は完璧ではないので、悪めのシナリオの
さらにまだ上のクラスもあることを知っておいていただき、
予想を上回った場合には、気象台も早め早めに情報を切り替えてます。
ただ、それでも間に合わない場合があります。
例えば、予想だと1時間に50ミリの雨だったのに、
70ミリ以上降っている場合は、
より一層危機感を高めていただければと思います。

未来に語り継ぐ

岡本さんの経験は、どういかされているのですか?

出水期を前に九州管内の気象台で行う勉強会で伝えています。
大雨が予想されるちょっとしたシグナルを見逃さないよう、
過去の災害発生時の詳細な気象状況を振り返るとともに、
”予想は責任を伴う”ということをもう一度意識するよう伝えています。

気象台以外の場では過去の経験をどういかしていますか?

私たちの予報が住民一人一人に伝わることが一番大事なので、
まず、自治体の防災担当者に伝えることが重要です。
ことしから試験的に始めたことがあります。
大雨警報などが発表されているときに
常に各地域の担当者とオンラインでつながっている状態にして、
切迫したような状態のときには、
気象台から直接”○○の自治体は危ないですよ”とか、
伝えられるような取り組みを試験的に行っています。
そういった工夫をして、
少しでも私たちの情報が早く伝わるようにしていければと思います。

オンライン解説の様子

インタビュー後記

「予想は完璧じゃない」という言葉が印象的でした。
気象予報は私たちの生活に密接していて、かなりの信頼を寄せている人が多いと思います。
そうした中で、大雨の予想の難しさを感じました。
毎年のように「明日は警報級の大雨のおそれが」と聞いていると、
今度は「どのくらいの大雨なのか?」と考え、詳細な予報を知りたくなってしまいます。
そして、詳細な予報を確認するところまでは良いですが、
自らの判断で「そんなに降らないのではないか」と考えるのは、大変危険だと感じました。
岡本さんが経験した平成24年の九州北部豪雨、令和2年7月豪雨、
ともに発表されていた想定より雨量は多かったものの、いずれも「警報」は発表されていました。
「警報」と聞いたら、その時点で「警戒感」を上げておかなければ、
未曾有の災害には対応できないと感じました。

  • 後藤 佑太郎

    熊本局アナウンサー

    後藤 佑太郎

    2017年入局 
    熊本局3年目
    神奈川県出身
    剣道4段。
    趣味はランニング。

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