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【現代の牧野富太郎】みんなで作る植物誌

  • 2023年10月03日

高知県いの町に“第2の牧野”と呼ばれる若者がいます。
地域おこし協力隊員でもあるこの若者が、町の植物をまとめた冊子を作ろうと地域を巻き込んで奮闘する姿を取材しました。
(NHK高知放送局 カメラマン 大和田純平)

“第2の牧野”がやってきた

いの町本川地区で、移住してきたある人物が話題になっています。

地域の人

変な道具持ってうろうろしているのは見たことあるけど

地域の人

植物とともにやってきたみたいな印象でしたね

地域の人

第2の牧野さんだなと

町内の道沿いではいつくばっているのは・・・

話題の人物、山名航平さんです。
植物に詳しく夢中になって野山をかける姿に、地域の人たちからは朝ドラ『らんまん』のモデルになった高知県の植物学者・牧野富太郎博士にちなんで“第2の牧野”と呼ばれています。

山名さん

物心ついたころからずっと好きですね
だいたい山の中でいろんな植物を見て駆け回っています

山名さんは、学生時代に全国のブナの原生林についてデータを集めていたところ、高知県いの町本川地区の自然に関心を持ちました。そしてこの春、地域おこし協力隊として兵庫県から移住してきました。

いの町に残るブナの原生林

高知県の森林面積は全体の84%を占めますが、その多くは植林によるものです。
天然林はその3分の1しかありません。

野生のシカによる食害が各地で広がる中、いの町本川地区に残るブナの原生林などの自然環境は貴重だといいます。

その恵まれた自然環境に、貴重な花々も自生しています。

    左上:アキチョウジ   /   右上:シコクフウロ(イヨフウロ)
左下:オオマルバノテンニンソウ    /    右下:シコクブシ(トリカブト)

四国にしか生えていないっていうようなそういった植物が多いですね、
この環境が残る今の姿を残したいです

みんなで作る植物誌プロジェクト

そこで山名さんは地域おこし協力隊の活動として、3年をかけてこの地区の植物すべてをまとめた植物の冊子を作ることを決めました。

この冊子を作るために必要なのが、植物の写真と自生していることを証明する標本です。

植物を網羅するために地域の人たちからの情報は欠かせないとして、町民から植物の写真を募ることを考えました。

地域の人に広報しようと作ったチラシ

それが“みんなで作る植物誌プロジェクト”。
1つの植物につき花・葉・全体の写真3点を投稿することで、100円を受け取れるという仕組みです。

報酬を受け取れるようにしたのは植物に興味のない人にも参加してもらうためです。

住民参加型のプロジェクトにすることで、
地域の財産である植物に目を向けてもらいたい

地域を動かす植物への情熱

山名さんは地域の集まりに積極的に参加しチラシを配って説明したり、地域の人たちを集めて、撮影や投稿方法を教えたりしました。

植物への愛情があふれるあまり、撮影方法を教えるうちについつい植物講座が始まってしまいます。
 

これはアオテンナンショウですね、花が咲くのは5、6月でしょうか

これはマツヨイグサとかオオマツヨウイグサ、
園芸で導入されて野生化してるようなやつですね

これはヤブレガサです、
芽が出たときは、ボロボロの傘のような感じです

山名さんの植物への情熱。その思いが地域の人たちへ徐々に伝わっていき、植物の投稿も少しずつですが増えていきました。

地域の人たちは、この投稿を通して植物へ目を向ける機会が多くなったといいます。
 

地域の人

山名君のおかげかな、一生懸命見るようになったのは

地域の人

身近な植物について興味がかなりわいてきたということで、
楽しみが増えたというとこですね

地域の人が参加するSNSで植物の写真や情報が続々と投稿された

募集を始めて1週間。
山名さんのもとに73件の情報や写真が集まりました。

ありがたいですよね、地域の中での一つの話題になって取り上げてくださって、
私としてもうれしいなと思っています

地域の力で発見!まだ見ぬ植物

集まった情報の中に気になるものがありました。

「フユノハナワラビっていうシダ植物がここにあったよ」という
お話を聞きましてちょっとやって来ました

この地区で500点以上採集してきた山名さんでもまだ集めたことのない植物です。
どうしても見つけたいと探し続けると・・・

目撃情報があった場所を探す山名さん

ありました、よかったです、
あまり植物が生えていない草地みたいなところにパラパラっとでるような
神出鬼没な子ですね、この子は

木の根元に隠れるように生えていた フユノハナワラビ

地域の人たちの協力で見つけたフユノハナワラビ。
傷つけないように丁寧に採集します。

地域の人と協力の証し

採集した植物は新聞紙に挟んで乾燥させたあと、標本にしていきます。

新聞紙から紙の上に植物を移し、固定する

標本には、情報を書き込んだラベルをつけて完成となります。
山名さんが用意したラベルはいの町特産の土佐和紙。
せっかく町の植物をまとめるなら、町のものでそろえたいというこだわりです。
ラベルに書き込むのは、植物の学名や採集地。
そして採集者の欄には協力してくれた住民の名前を記入します。

ふだんは自分の名前だけを書いているんですけど、
この欄がにぎやかになるっていうのは私自身もうれしいですね

地域の人たちの協力で集まった標本が完成しました。

地域の方と地域の植物を観察したっていう証しになると思うので、
思い出深い標本になったと思います

植物でつながる地域の輪

山名さんは協力してくれた住民に完成した標本を見せることにしました。

自分の名前が入った標本を見て喜ぶ地域の人たち

「植物の標本、初めて見た!」

「ここに佐竹さんの名前が入っているよ!」

「これかな、これがなんかかわいいかな」

地域の人たちとの交流で笑顔を見せる山名さん

これまで1人で採集してきた山名さん。
プロジェクトを通じて、関心を持った住民と一緒に行動することも増えました。

山名航平さん
「地元の方と交流を深める良い機会になったなと思います。
皆さんと一緒に植物を楽しみながら、3年後までになんとか1つにまとまったものを作りたいなと思っております」

山名さんはこれから3年かけてを植物誌を完成させ、町内の図書館や小学校に寄贈することを目指しています。

“第2の牧野”と呼ばれる移住者がいると聞いたときは、朝ドラ『らんまん』の影響もあってか少し大げさな表現だと思っていました。
しかし、ただただ植物が好きなだけでなく、その情熱で地域を巻き込んでいく山名さん。
その情熱と行動はまさしく“第2の牧野”でした。

  • 大和田純平

    高知放送局 カメラマン

    大和田純平

    2020年入局
    高知の文化や自然についてリポートで発信
    何かに打ち込む情熱、憧れます

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