多発性骨髄腫とは?特徴や症状、新しい治療法について解説

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多発性骨髄腫やせてきた体がだるい吐き気全身

さまざまな症状の多発性骨髄腫

多発性骨髄腫は、骨に大きな影響を与える血液のがんです。悪性リンパ腫や白血病に比べて、患者さんの数は多くありませんが、発症するのはほとんどが60代以上なので、これからの高齢化を考えると今後、増えていくことが予想されている病気です。

白血球の一種であるBリンパ球は、体内にウイルスや細菌などが入ってくると「形質細胞」という細胞に変化し、抗体を作って戦うのですが、その「形質細胞」ががん化したのが多発性骨髄腫です。がん化した形質細胞「骨髄腫細胞」が骨髄の中で過剰に増えていくので、血液のバランスが崩れます。赤血球の減少により貧血などが起こりやすくなり、また、感染症にかかりやすくなったり、出血しやすくなったりするなど、血液のがんに共通する症状が現れます。しかしそれだけではなく、多発性骨髄腫は骨にも影響を及ぼします。

多発性骨髄腫の主な症状、骨

骨はもともと古い骨を壊す「破骨細胞」と、新しく骨を作る「骨芽細胞」がバランスよく働きながら新陳代謝を行なっています。ところが多発性骨髄腫になると、骨髄腫細胞が骨芽細胞の働きを抑え、破骨細胞を活性化させる指令を出します。つまり骨の新陳代謝のバランスが崩れ、骨が徐々に破壊されてしまうのです。そのため多発性骨髄腫は、腰痛や背中の痛みのために整形外科を受診し、そこでこの病気が疑われて血液内科で診断されるという人がほとんどです。多発性骨髄腫では、骨が血液中に溶け出すために「高カルシウム血症」になり、吐き気や便秘、意識障害を起こすこともあります。

さらに骨髄腫細胞は本来の役割である抗体を作る代わりに、Mたんぱくという物質を作るようになります。このMたんぱくが腎臓の細い血管につまると腎障害を起こすことがあります。また正常な抗体が少なくなるので感染症にかかりやすくなります。

多発性骨髄腫の全身の症状

このように高カルシウム血症や腎障害、貧血、骨の破壊など、多発性骨髄腫特有の症状が出てきたら治療が必要です。しかし症状がない「くすぶり型多発性骨髄腫」と診断された場合は、積極的な治療をせず、経過観察を行います。半数の人は5年間このまま症状は出ません。

見極めるための広範囲の検査

多発性骨髄腫の検査

多発性骨髄腫が疑われた場合、さまざまな検査を受けなくてはなりません。血液検査や尿検査はもちろん、骨髄に針を刺して骨髄液をとる骨髄検査。さらにX線やCT、MRI、PETなどの画像検査も必要です。診断をつけるだけでなく、がんの影響がどこまで広がっているか、骨の病変がないかなど、全身を確認する必要があるからです。

新薬が続々登場!多発性骨髄腫の治療法

かつては、多発性骨髄腫の場合、他の血液がんに比べて有効な治療法がありませんでした。新しい治療法が出てきたのは、ここ15年ほどです。治療の選択肢が劇的に増え、それに伴って余命も大幅に延ばすことができるようになりました。

移植を行う場合の治療法(65~70歳まで)

多発性骨髄腫では、骨髄腫細胞をピンポイントで攻撃する分子標的薬のボルテゾミブと、骨髄腫細胞の増殖を抑える免疫調節薬、そして従来から使われてきたステロイド薬などを進行状況などに応じ、組み合わせて使用する3剤療法を行います。副作用に関しては、分子標的薬は軽いのですが、免疫調節薬は胎児に影響が出る場合があるので、妊婦や妊娠の可能性のある人には使用できません。
またレナリドミドに関しては2次的に新たながんを誘発する可能性が報告されています。ステロイド薬には寝つきが悪くなったりイライラしたり、血糖値が上昇する副作用があります。

3剤療法の副作用

そして薬物療法で効果が見られたら、移植となります。移植は比較的安全な自家移植です。
薬物療法で骨髄内に骨髄腫細胞ができるだけなくなった状態にし、冷凍保存しておいた自分の造血幹細胞を移植します。およそ2週間程度で生着し、正常な血液を作り始めます。
しかし、残念ながらほとんどの人は数年で再発します。その場合は、まず薬物療法を行い、その後もう一度自家移植を行うか検討します。

移植を行わない場合の治療法

移植できない、あるいは移植を希望しない場合は、抗体薬、分子標的薬、免疫調節薬、抗がん薬、ステロイド薬のうち3剤から4剤を組み合わせる薬物治療を行い、寛解状態を目標に病気をコントロールします。
また多発性骨髄腫の場合は、がん治療と並行して、もろくなっている骨の骨折を予防する治療を行う必要があります。骨を強くする薬を注射するのですが、この治療は歯科医との連携が欠かせません。この治療をしている間に歯を抜いたりすると、あごの骨が壊死してしまう危険性があるからです。まず歯の治療を終わらせて、骨の治療に進むのが一般的です。

多発性骨髄腫は、現時点では、はっきり「治る」とは言えない病気です。しかし、症状のない状態を長く続けられることも多くなりました。また、ここ15年で治療法が劇的に増えたように、今後も良い薬が出てくることが予想されます。実際、新しい分子標的薬の臨床試験も行われていますし、CAR-T細胞療法という、自分の健康なリンパ球を採取して加工した上で体に戻し、骨髄腫細胞を攻撃させるという治療法も2022年から使えるようになりました。主治医と相談しながら、前向きに治療に臨みましょう。

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2021年1月 号に掲載されています。

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