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独自取材!奄美大島自衛隊施設 中国に向き合う最前線は

  • 2022年07月28日

南西諸島周辺での活動を活発化させる中国。こうした動きを受けて、鹿児島県内でも防衛力の強化が急速に進んでいます。とくに、施設の強化が図られているのが、沖縄と日本本土の間に位置する奄美大島です。国は3年前、島に2つの自衛隊の施設を新設。地域情勢の変化とともに戦略的な重要性が高まっています。今回、NHKは、取材を特別に許可され、施設での訓練に密着。中国と向き合う最前線の島で、今、何が起きているのか、取材しました。

(鹿児島局記者 高橋太一)

南西諸島防衛の最前線では

陸上自衛隊「瀬戸内分屯地」

奄美大島の市街地から車でおよそ1時間。亜熱帯の森の中を進んだ先にその場所はありました。陸上自衛隊「瀬戸内分屯地」。南西諸島の防衛力を強化するため3年前、新たに設置されました。今回、私たちは、特別な許可を得て、内部を撮影することができました。

外国部隊の南西諸島侵攻を想定した訓練

ある日、分屯地で行われた訓練。決められた時間になると、突然、大きな銃声が響きました。行われていたのは、外国の部隊の南西諸島への侵攻を想定した訓練。主力部隊の投入を前に送り込まれた武装工作員を無力化するのが目的です。

「安心しろ、リラックス」

銃撃戦でけがをした隊員はその場で救護。隊員同士で声を掛け合い、実戦さながらの対応を確認します。こうした訓練を行っていたのは、陸上自衛隊の「奄美警備隊」です。この地域で起こりうる、あらゆる事態を想定した訓練を重ねています。

瀬戸内分屯地司令 諸岡大輔三等陸佐

「南西地域の安全保障上の守りとしての役割、意識については常に持ち続けています。その時々で変化を加えながら訓練の質が上がるよう、シチュエーションを工夫しています」

森の中で行われる“ある訓練”

「滑りやすいので気をつけてください」

案内役の隊員にそう声を掛けられながら、取材班は分屯地の森の中に導かれました。そして、うっそうと生い茂る木々の中で、“ある”訓練を行っていることを知らされます。

森に潜むスナイパー

草木に擬態していたのは、スナイパー。林の中を歩き続けていた私たちは、かなり近づくまで、その存在に気づくことができませんでした。

2人組のひとりはスコープで目標の状況を確認。もうひとりが、狙撃を行います。任務は、相手の見えないところから、味方の部隊の援護射撃を行うこと。800メートル以上離れた目標を狙うこともできると言います。

奄美の防衛強化の背景は

奄美大島で進む防衛力強化の背景にあるのが、軍備増強を続け、海洋進出の動きを強める中国の存在です。中国が台湾有事を念頭に、アメリカの接近を阻む防衛ラインと見なす「第1列島線」。奄美大島はこの延長線上に位置します。台湾問題などをめぐって米中の対立が深まる中、「第1列島線」は、両国のせめぎ合いの最前線となっているのです。

撮影 海上自衛隊

ここ数年、周辺海域では、中国軍の潜水艦などがたびたび確認されています。去年10月には初めて、大隅海峡をロシア軍の艦艇と同時に通過するのを確認。警戒が強まっています。

奄美駐屯地の一室。取材班は、見慣れない地図が貼り出されているのを目にしました。それは、中国目線で見た東アジアの地図。

奄美駐屯地司令 日高正暁一等陸佐

「近隣の国がどういうことを考えているかを説明するために、有効な地図です」

さらに、駐屯地トップの日高司令は、台湾情勢の緊迫化を念頭に、奄美大島の戦略的な重要性を強調します。

奄美駐屯地 日高司令
「奄美大島は日清戦争のとき、九州から台湾までの船が移動するときの中継点だったので、この地図を見ると、台湾で起きることが奄美大島にも関係してくるんだろうなということを思います」

進む日米の連携強化

こうした中で、今、進められているのが、アメリカ軍との連携強化です。奄美駐屯地に配置されている相手の戦闘機などを迎撃する「地対空ミサイル部隊」。

奄美駐屯地での日米共同訓練

去年夏には、アメリカ軍のミサイル部隊と初めて共同訓練を実施し、沖縄の嘉手納基地に配備されている迎撃ミサイル「PAC3」の発射装置などが運び込まれました。日高司令は、日米の一体化が進む中で、求められる役割も今後、変わっていく可能性があると言います。
 

奄美駐屯地 日高司令

「東シナ海での作戦と米軍も含めた太平洋での戦いを制するような地形なので、この中でいかにしっかりと対応できて、さらには、外海から米軍が来隊するような話があったときは、できることというのが必ず出てくるんだろうなと。この南西諸島というものが中国の活動によって重要性が高まっていくということと、米軍も高い関心を寄せる地域であると思うので、いかに日米で連携を高めていくかということが課題だと考えています」

これからの南西諸島防衛は?

実戦を意識した訓練を重ね、まさに最前線になりつつある奄美大島。奄美駐屯地では、さらに、ことしに入ってから新たに電子戦部隊が置かれたり、巨大な射撃場も完成したりし、機能強化も着々と進んでいます。

鹿屋基地でのアメリカ軍の無人機の一時展開をはじめ、アメリカ軍との共同使用が進む中で、奄美の施設の役割も変わっていくことが予想されると日本の安全保障政策に詳しい明海大学の小谷哲男教授は、次のように指摘しています。
 

明海大学 小谷哲男教授

「台湾有事が発生した場合、中国は艦船や航空機を南西諸島周辺に飛ばしてくる、あるいは派遣展開してくるということが考えられます。アメリカと中国が直接対決することになることも考えられるので、米軍としても南西諸島に柔軟に部隊を配備し、自衛隊が米軍の柔軟な展開を支える役割というのが、より今後強化されていくということはあるかもしれません。この先日本が反撃能力を保有するとなった場合、敵国にも届くようなミサイルの部隊の配備ということは今後検討されることはあるかもしれません」

一方、アメリカ軍との共同使用、日米一体化が進む中で、米中がさらに対立を深めれば基地や施設が標的となり、住民が巻き添えになりかねないという懸念の声もあります。こうした中で、住民の生命・財産をどのように守っていくかという視点も求められますが、琉球大学の山本章子准教授は、そうした備えが自治体まかせになっていると指摘します。

琉球大学 山本章子准教授

「台湾有事が起きたときに、どうやって住民の方々が避難するか。ここが大きな問題になってきます。しかし、小さな自治体は、島民全員の避難手段としての船舶とか飛行機を保有しているわけもないですし、避難できるような環境が十分整っていないにもかかわらず、軍事強化が進んでいます。しかもそれは日本の国境防衛ではなくて、台湾を防衛するための軍事強化です。こうした状況が住民の危機感を大きくしているということは間違いありません」

また、山本准教授は、「現行の国民保護法では住民の避難を受け持つのは自治体に委ねられている」として、「国が主導して各機関が連携して避難する仕組みを作ることが求められる」としています。

取材を終えて

政府は今後、さらに防衛費を増額させていく考えを示しているほか、「敵基地攻撃能力」についても検討するとし、専守防衛のあり方は今、大きな議論になっています。

日本周辺だけでなく、ウクライナでロシアによる軍事侵攻が起きている今、防衛強化の必要性を訴える声はいつになく高まっていますが、防衛力を強化し続けることは、かえって地域の緊張を高めかねないということを忘れてはならないと思います。まずは戦争を起こさないために何ができるのかということについても、知恵を出し合う努力をすべきときなのではないでしょうか。

  • 高橋太一

    NHK鹿児島放送局 記者

    高橋太一

    2017年入局。奄美支局を経て現在は安全保障や県政を担当。これまでに県内18の島を取材。離島からは地方の課題と解決のヒントが見えてきます。

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