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人手不足が観光地・宮島を直撃 老舗旅館や土産物店の打開策は

  • 2024年01月22日

 

新型コロナの5類移行で、観光客が急速に回復する宮島。深刻なのが人手不足です。受け入れる側の人数が足りないところに、驚くほど多くの人が訪れる状況を、ある土産物店の社長はこう表現します。

「200ミリリットルのコップに1リットルの水を一気に流し込んだような状態です」

(広島放送局記者 大石理恵)

提供したいサービスが提供できない

広島有数の観光地・宮島を訪れる人の数は、コロナ禍前に近い水準に回復しています。

 

行楽シーズンの商店街は行き交うのが難しいほど混み合う

宮島で土産物の販売や団体客などへの食事の提供を手がける会社では、コロナ禍で10人ほどの従業員が退職。いまは30人あまりで業務にあたっています。急速に観光客が回復しているため、従業員の負担が増え、ギリギリの態勢です。

 

団体客などで混み合う店内

鳥居屋 佐々木健一社長
「受け入れる側の人数が足りないところに、驚くほど大勢の人が訪れる。例えるなら、200ミリリットルのコップに1リットルの水を上から一気に流し込んだような状態です。そのため、本当に提供したいサービスが提供しきれない時もあります」

 

鳥居屋 佐々木健一社長

島ゆえに「通勤しにくい」イメージも

宮島の観光業で働く人の数はコロナ禍で減少。休業要請などで仕事が減った時期に離職したケースのほか、5類移行のタイミングで、諦めていた海外でのワーキングホリデーを実現したいなどとして辞めたケースもあります。

人手を補うために、事業者は給料を上げるなどの対策を進めていますが、思うように人が集まらないといいます。「通勤しにくい」といった島ならではのイメージも、ネックになっているとみられます。

土産物店を営むこちらの会社でも、求人を出しているものの、応募がほとんどないため、人手を確保するための試行錯誤が続いています。

休暇を取りやすく 短時間アルバイトも活用

その1つが、働きやすい職場づくりです。社員の多くが40代以上ということもあり、子どもの行事などにあわせて休みを取りやすい環境を整えています。

もう1つは、短時間のアルバイトを仲介するサービスの利用です。「スポットワーカー」と呼ばれる短時間アルバイトを仲介するサービスを2023年夏から利用して、働き手を確保しています。

繁忙期の11月はほぼ毎日、1人から2人ほどアルバイトとして入ってもらいました。勤務経験がない人でもすぐにできる皿洗いや簡単な配膳を担ってもらい、急場をしのいだそうです。

 

短時間のアルバイトを仲介するサービスを利用

いまはこうした取り組みでなんとか乗り切れていますが、このまま人手不足が解消されなければ、将来的にビジネスが続けられなくなると危機感を抱いています。

鳥居屋 佐々木健一社長
「このままマンパワーが減って、ビジネスとして成立できなくなってくるのではないかということが怖いです。やれる手はなんでも尽くしていくというのが、いまの私の考えです」

老舗旅館も悩みは同じ

宮島で120年続く老舗旅館でも、課題はやはり人材確保です。ここ数年、客室をリニューアルし、単価も上げて路線変更を図ってきました。それに見合う質の高いサービスを提供するためには、優秀な人材の確保が欠かせませんが、新卒の採用人数はここ数年、目標の6割ほどにとどまっています。

 

リニューアルした客室

ネックは島で暮らす寮制度

人材確保のネックの1つが、社員寮の制度です。宮島の多くの宿泊業者が、夜間や早朝にサービスを行うため、島の中に寮を整備しています。この老舗旅館でも入社後しばらくは寮で暮らすことを推奨していますが、最近は、島の外で暮らすことを求める人が少しずつ増えているようです。

 

錦水館 志熊聡 総支配人

錦水館 志熊聡 総支配人
「毎年、新卒で入るスタッフから『完全に個室でないと嫌だ』とか『寮に住まずになんとか島外のアパートから通えないか』といった相談が寄せられています。仕事とプライベートを区別する意識が強まっていると思います」

朝食の時間を変更

そうした若い人たちのニーズに応えるため、旅館では島の外から通勤しても仕事が回るよう工夫を始めています。

そのひとつが、客に提供する朝食の時間変更です。これまで朝7時から提供していた朝食の提供時間を段階的に遅らせ、2023年夏からは、朝8時以降に設定。担当の従業員が、寮に入らず、始発のフェリーで通勤しても間に合う時間にしました。コロナ禍以降、宿でゆったりと朝を過ごしたいという客が増えたことも、決断を後押ししました。

 

朝食準備のミーティング

効率化で働きやすく

同時に業務の効率化にも取り組んでいます。これまで紙で行っていた仕事の連絡を、DXツールを使って、従業員のスマートフォンやパソコンで対応・共有できるようにしました。例えば、大浴場の清掃や使用済みタオルの回収など、誰が何時にどの作業を終えたのか、このツールを使うことで、すぐに把握できるそうです。

 

大浴場のチェック画面

このほか、客に提供する料理に含まれるアレルギー成分なども、ツールを使って共有できるようにしました。こうした効率化の積み重ねによって、働きやすい職場環境を整えていかなければ、人手の確保は難しいと考えています。

錦水館 志熊聡 総支配人
「DX化も含め、いろいろな仕事をシンプルにして、スタッフ同士のコミュニケーションを取りやすくしていくことが大切だと思います。それが離職率の低下や、新しい人材の確保にもつながっていくと考えて、推し進めています」

稼働率70%程度のところも

宮島町商工会によると、宿泊業では人手不足のために稼働率が70%程度にとどまるところもあるといいます。土産物店の中には、食べ歩きに人気のスイーツを、作り手が不足しているために、やむをえず時間を限定して提供しているところもあります。人手が足りないために、旺盛な観光需要を取りこぼす。そうした“もったいない”状態は宮島の観光業全体で言えそうです。

こうした状態を改善しようと、2023年秋には廿日市市などが事業者の合同説明会を開いたほか、シニア人材や外国人材の採用などに乗り出す事業者もあります。

全国的に人手の確保が課題となる中、まずは観光地・宮島で働く魅力を広く伝え続けていくことが欠かせないと思います。

それと同時に、働きやすい環境を整えて人材の定着をはかるといった、いわば従来から企業に問われている課題に向き合い、長期的な視点で取り組んでいくことが一層大切になると、今回の取材を通して感じました。

  • 大石理恵

    広島放送局記者

    大石理恵

    広島県廿日市市出身
    ネットワーク報道部等を経て2度目の地元勤務
    先日初めて宮島に宿泊
    夜のライトアップもきれいでした





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