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“日の香り”がする麺 江田島のこだわりの製法とは

  • 2023年09月12日

    “この麺は日の香りがする”

    江田島市で代々受け継がれてきた天日干しで作る乾麺。こだわりの製法に迫りました。

    (広島放送局記者 諸田絢香)

    受け継がれてきた 天日干しで作る麺

    迫製麺所4代目 迫寛和さん

    この製麺所では昔ながらの天日干しで、うどんやそうめん、そばなどを作っています。
    高い建物が少なく、日照時間の長い江田島は天日干しに適しているといいます。
    こだわりの素材で作った麺は、歯切れがいいと評判です。
    そして何よりも香りが大きな特徴だといいます。

    迫製麺所4代目 迫寛和さん
    「お客さんからは日の香り、よくあるじゃないですか。布団干したときの日の香りとか、それに近い市販の麺とは違う香りがすると言われます」

    江田島には、天日干しの麺作りを行う製麺所がいくつかありましたが、今では迫さんの製麺所だけになっています。

    迫さんが製麺所を継ごうと決めたきっかけは、先代の父、亮策さんのガンの再発でした。
    もともと東京で働いていましたが、伝統の天日干しの製法を自分の代で絶やすわけにはいかないと、8年前に島に戻ってきました。

    迫寛和さん
    「ひいおじいさんやおじいさんが頑張ってきた中で、自分もちょっと頑張ってみようかと思いました。父の代で製麺所が終わってしまったら、父が笑われてしまうのではないかと思いました」

    左:父 亮策さん

    限られた時間の中で、自宅療養中の亮策さんに1から教えを請いました。

    しかし、わずか数回、麺作りを教わっただけで亮策さんは帰らぬ人となりました。
    教わったのは、ベースとなる粉の配合くらいで、詳しい製造方法は受け継ぐことができませんでした。

    追い求めた伝統の味

    右:妻の亜希野さん

    ひとりで始めた麺作りは失敗の連続でした。

    当時、交際中だった妻の亜希野さんは、迫さんの苦悩する姿を陰ながら見守っていました。

    迫寛和さん
    「麺をぶん投げよったよね」

    妻 亜希野さん
    「付き合い始めの時に目撃したんですけど、あんなに感情的になってる人間を初めて見ました。その時は衝撃的でした。ちゃんとできるのかなって毎回思ってました。3回に1回ぐらいは商品にならないってなっていました」

    迫寛和さん
    「もう1人で泣いてました。うまくできんけん、尋常じゃなくメンタルは弱りますよね」

    手探りで伝統の味を追い求める迫さんを支えてくれたのは、父の友人たちでした。

    迫寛和さん
    「父が生きていたころに、毎日のように飲んでいた近所の消防団の人などがアドバイスをくれました。麺はもっと細かったよとか、太かったよとか、もうちょっと歯切れがいい感じとか」

    日によって生地は小麦などの配合を変える

    こうしたアドバイスを生かしながら、半年ほどしてようやく思い通りの味にたどりつくことができました。

    麺の生地づくりでは、その日の天気によって数種類の粉を自分の手の感触を頼りに調整してきます。

    迫寛和さん
    「粉によって粘りに強い弱いというのがあります。全部で6種類とか7種類ぐらいの粉を事細かに調整します。あとはもう手で触って判断するだけです」

    生地を数時間寝かせたあと、麺の形に裁断し、棒にかけていきます。

     

    そして、いよいよ太陽の下に運び出します。
    ここからが1番気を遣う作業です。

    気温や湿度、それに風の向きや強さ。

    これまでの経験を頼りに干す時間や場所を細かく調整していきます。

    麺の状態を見ながら、2日から4日ほど天日干しと室内干しを繰り返してじっくり乾かします。

    迫寛和さん
    「きょうのことも、あしたのことも、いろいろな今後の予定を考えながら外に干します。ここが肝になる大事な作業で、大変ですが、麺に愛着がわいてきます」

    豊かな自然と、周囲の人に支えられながらの乾麺作りには、江田島の魅力が詰まっています。

    迫寛和さん
    「人や環境の魅力があるからこの商品が続いています。豊かな自然の中で作られた麺を食べて、島の風景や青空を想像してほしいです」

      • 諸田 絢香 記者

        取材・構成

        諸田 絢香 記者

        2020年入局
        2022年夏より呉支局
        呉市のみならず、江田島市、竹原市、大崎上島町など広い地域を取材中

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