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JR芸備線 高まる廃線への危機感に 地元は

  • 2023年08月29日

広島県と岡山県の県境をまたいで、およそ150キロを結ぶ「JR芸備線」。
JR西日本は一部区間について、新たな法律に基づき、路線の存続やバスへの転換などを議論する協議会の設置を国に要請する考えを明らかにしました。地元では「廃線になるのではないか」という懸念が強まる中、少しでも利用者を増やそうという地道な取り組みが続けられています。

(NHK広島放送局記者 福島由季)

【地域の足となっているのか】

備後庄原駅を利用する高校生

1日におよそ230人が利用する、庄原市の備後庄原駅を取材で訪れたのは、7月12日。

朝7時すぎ、制服姿の高校生たちで、駅のホームはにぎわっていました。三次方面に向かう列車には、1両編成の車内に座れない生徒の姿もありました。しかし、通学の時間帯を過ぎると、駅には人の姿がほとんど見られなくなりました。一方で、駅前のロータリーには、三次や広島に向かう高速バスや、地域のコミュニティーバスが発着し、利用客が乗り降りしていました。

(バスの利用者)
「バスの方が便数が多いし、早い。経済的にどうしても芸備線を維持するのが無理なら、代替のバスでもいいと思う」
(鉄道の利用者)
「列車はほとんど時刻表どおり到着するので、残してほしい」
「学生のころ乗っていた思い出があるから、なくなったらさみしい」

栄枯盛衰を見つめて

駅の窓口で働く清原正明さん

次に会ったのが清原正明さん(69)です。40年以上、芸備線などの運転士を務め、退職した今も庄原市の委託を受けて備後庄原駅の窓口で働いています。清原さんは芸備線沿線の当時のにぎわいを知っているだけに、利用者が減っている現状にさみしさを感じています。備後庄原駅のすぐ近くで生まれ育ち、子どものころ、力強く走るSL機関車にあこがれ、中学生のころからおよそ50年にわたって写真を撮りためてきました。

芸備線の歴史を知ってもらおうと、清原さんは撮影した写真の展示会を7月から10月9日まで三次市の「みよし風土記の丘ミュージアム」で開いています。

昭和49年の東城駅

昭和49年の東城駅の写真には、多くの高校生が利用している様子が写っています。当時は人だけではなく、木材や農産物などを運ぶ貨物車も走っていて、交通の要衝となっていたことが分かります。

昭和58年 庄原市内を走る列車

現在の車両は1両のみですが、当時(昭和58年)は7両編成でグリーン車もありました。この列車に800人ほど乗ることもあったといいます。しかし、昭和60年代に入ったころから、多くの人が自動車に乗るようになり、利用者は減少していきました。

清原正明さん

清原正明さん
「もし芸備線が廃線になってしまえば、2度と取り戻せないという気持ちがあります。利用者を増やすためには、観光客だけに頼るのではなくて、ふだん車に乗ることが多いという地元の人もたまには列車を利用してみようという機運が少しでも盛り上げられたらいいと考えています」

最も利用する自分たちが行動を

三次高校沿いを走る芸備線

芸備線は今も高校生の通学に利用されています。沿線にある三次市の三次高校では、全校生徒のおよそ3割にあたる150人ほどが、通学で芸備線を使っているといいます。


この高校では、2年生の総合の時間に、生徒たちが芸備線の利用促進策を話し合っています。

三次高校の生徒たちが作ったパンフレット

去年の授業では、芸備線の魅力を知ってもらうため、芸備線の利用者が減っている現状や、沿線にある飲食店を紹介するパンフレットを作りました。

授業に参加する生徒たち

ことしの授業には5人の生徒が参加。この中には毎日、芸備線で通学している生徒もいて、「廃線の問題はひとごとではないし、なくなったら困る」といった意見や、「生活に必要不可欠」と訴える声が聞かれました。この日の授業では、高校生らしい利用促進のアイデアが出されました。

「芸備線の線路をすごろくにして、地元の店や観光スポットをめぐってもらう」
「列車の車内で流行の音楽を楽しむ」

生徒たちにとっては身近な問題だけに、利用者が増えるように少しでも力になりたいと、みずから行動しています。

放課後に活動する生徒たち

さらに、授業以外にも活動は広がっています。この日は、生徒の有志5人が放課後に集まっていました。メンバーたちは、「カープ号」や四季折々の沿線の写真を撮影して、SNSにアップ。

生徒たちが撮影した「カープ号」

現在は、芸備線の利用を呼びかける歌も作詞・作曲中で、今後も発信を続けていく予定です。

「芸備線を盛り上げる会」代表 國岡大暉さん

三次高校 「芸備線を盛り上げる会」代表 國岡大暉さん
「芸備線が廃止になるかもしれない危機感が高まっている今、列車を一番使っている高校生から動きを起こしていくことが大事だと思って活動しています。高校生だからこそできることを目指してやっていきたいと思います。ぼくたちが活動することで、まわりの大人たちやほかの学校の生徒を巻き込んで活性化につなげたいと思います」

これまでも利用促進の取り組みは行われてきました。JRや沿線自治体は、行楽シーズンに土日の列車の本数を増やしたり、地域住民が主体となって「カープ号」を走らせたりしています。

しかし、通勤や通学などで日常的に利用する人は増えていないことが課題となっています。こうした現状にJR西日本は「大量輸送という観点で、鉄道の特性が十分に発揮できていない」という考えです。

新たな法律に基づき協議会設置を要請へ

8月2日、JR西日本が芸備線をめぐって新たな考えを明らかにしました。

4月に成立した「改正地域公共交通活性化再生法」に基づき、10月にも国に「再構築協議会」の設置を要請する方針を示したのです。この協議会では、▽地方鉄道の存続や▽利用促進策、▽バスへの転換などが議論される見通しです。

JR西日本として、協議会の設置を要請する考えを示したのは初めてのことです。対象として検討されているのは、庄原市の「備後庄原駅」と岡山県新見市の「備中神代駅」の間です。

沿線の自治体が路線の維持を求めている中で、JR西日本と自治体はこれまでの検討会議で利用促進に限って話し合いを行ってきました。この協議会が設置されれば、一歩踏み込んだ議論が行われることになります。

人口が減少する中で、地域の公共交通のあり方はどうあるべきなのか。生活の足をどう維持していくのか。今後の議論に注目したいと思います。
 

  • 福島由季

    広島放送局記者

    福島由季

    広島市出身 経済や原爆などの取材を担当

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