焼き肉と言えばマトン?!会津で徹底取材!
- 2023年10月06日
大雨被害から11年ぶりに復旧したJR只見線をめあてに、多くの観光客が訪れる福島県只見町。実は羊肉『マトン』のまちとして知られています。お肉屋さんはもちろん、コンビニにも「マトンあります」の文字が踊っていたり、マトンケバブのお店があったり…。大きな牧場があるわけでもないのに、なぜこれほどまでにマトン食文化が根づいているの?調べてみるとその起源は、実に70年以上前にさかのぼることがわかりました。なぜ会津でマトンなのか、徹底取材しました。
牛肉でも豚肉でもなく…
今年度から会津地方に赴任した私。只見町を訪れるたび、ある違和感を感じていました。それがこれ。町の中心部にあるコンビニに『只見名物 味付きマトン』の大きな看板。
さらに、全線再開1年を迎えたばかりの只見線の只見駅前にも…。
このカフェでは、メニューに、マトンケバブとマトン丼。マトンがぎっしり、大盛りです。
話を聞いてみると、只見町では古くからマトンが人気なんだそう。
でも町内で羊の姿を見たことがない…。マトンのルーツや人気の理由、教えてください!
(マトンケバブカフェ 目黒道人店長)
「かなり歴史があるらしいと聞いたことはあるのですが、詳しくは分からないです。町の歴史に詳しい飯塚恒夫さんを訪ねてみてはどうですか?」
食糧難を背景に生まれた食文化
紹介してもらった人物を訪ねて、町中心部から車で20分ほど離れた場所にある明和地区へ。
迎えてくれたのは、88歳の飯塚恒夫さん。
町の歴史・文化を調査し、次世代に伝える活動の中心を担っている、只見町の“生き字引”とも言える方です。さっそくルーツを聞いてみると…。
(町の歴者文化に詳しい飯塚恒夫さん)
「昭和25年に、河嶋さんという獣医師さんが家畜保健衛生所の初代所長として赴任していらしたことがきっかけとなりまして」
時は、いまから73年前の1950年。河嶋さんとは、この地域にあった家畜保健衛生所の初代所長・河嶋悟郎さんのことです。 戦後間もない食糧難の時代に、タンパク質などが不足する農家の食生活を見かねた河嶋さんが、当時ほとんどの家で飼育されていためん羊に着目。羊の寿命は5~6年ほどで、寿命を迎えたあとに食肉処理をして、貴重な食料とすることを提案したのです。
しかし、マトンは脂などが発するにおいのクセが強く、町民の間にすぐに定着しませんでした。そこで河嶋さんは、福島市にあったジンギスカンのお店を訪ねて独特のクセを落とす焼き方を教わったり、高価だったジンギスカン用の鍋を複数購入して配ったりと、マトンの食文化の浸透に尽力します。
さらに、手間がかかり面倒だという声が上がっていた食肉処理の許可申請などの手続きを簡略化するなど、住民がマトン食にありつきやすい環境を整えていきました。
その後、町内で羊を飼育する人は減少しましたがマトンの食文化は根づき、いまも輸入肉を食べるかたちでその文化が受け継がれてきたのです。
(飯塚恒夫さん)
「河嶋さんがいなかったらここまで町内にマトンが根づくことはなかったと思います。最初のころはジンギスカンの鍋も少なくて広がっていませんでしたが、徐々にシャベルの上に肉をのせて焼いたり、余計な脂を落とすために波打つブリキ製のトタンを使って焼いたりと、工夫しながら楽しんでいる町民やダムの建設作業員の姿をよく見かけました。今ではお盆に家族が集まるとマトンの焼き肉をしようと、肉屋には大行列ができるほどで、広く、長く親しまれています」
よみがえった伝説の精肉店
住民の間で徐々に浸透していたマトン食を、現代につながるメジャーな食文化に発展させる「お店」も現れました。
馬場食肉店。1957(昭和32)年から平成のはじめ頃まで、只見町に存在したお店です。経営していたのは故・馬場兵一さん。
もともとは、羊の繁殖や毛刈りをする専門家でしたが、羊の特性を知り尽くしていたため、独自に肉の臭みを抑える切り方や食べ方を研究。特に、ジンギスカンの食文化の先進地を訪ね歩いた馬場さんが考案したオリジナルの「タレ」は絶品で、このタレをからませたマトンが多くの人をとりこにしました。
そんな伝説の精肉店の魂を引き継いだ店が、ことし4月、会津若松市にオープンしました。
経営するのは、只見町出身の野村ひな子さん。伝説の馬場食肉店の経営者、あの馬場兵一さんの娘です。店の名前は、馬場食肉店があった只見町の地名からとりました。
店内には、父親がマトン食の普及に奔走したエピソードがマンガで紹介されています。
この店のこだわりは、もちろん「タレ」。レシピを聞いてみると…。
両親の手書きのレシピを受け継いでいますが、門外不出で絶対に見せられません!
秘伝の味ということで、残念ながら作り方は教えてもらえず…。
味見をさせてもらったところ、しょうゆには特にこだわっているほか、みりんやにんにくを入れているということでした。野村さんの店には、本家の只見町や、隣町の南会津町から1時間以上かけてわざわざ買いに来る人もいるほどの人気だとのこと。
多くの人が関わってきた歴史がある只見のマトン。今も多くの人が思いを受け継いで地域の特産品として愛されていました。
(会津若松市で羊肉店を経営する野村ひな子さん)
「マトンをあれだけ只見町の人に愛していただいて食べていただいた、その気持ちを引き継いでいきたいと思います。マトン文化をこのまま残していきたいです」
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