性議員を増やせというが
産休の制度さえない!

日本には「地方議員」が3万人もいることをご存じですか?
今回、その全員に初めてのアンケートを行いました。回答してくれたのは2万人近く。NHKでは1か月にわたって、そのホンネを伝えるキャンペーンを展開します。

トップの画像、ご覧になってください。実はこれ、全国の議会における男性議員と女性議員の割合を表現しています。議会事務局へのアンケートの結果、女性議員は議員全体の13%で、1人もいないという議会も19%にのぼっていることがわかりました。
今回は、議会への女性参画に関する自由記述をご紹介します。

亡くなった夫が「議員も介護休暇をとるべきだ」と

まず、60代の女性県議の言葉からご紹介します。
「女性がもっと気軽に選挙にでて活躍できる社会になってほしい。夫が昨年、要介護の身で亡くなりましたが、しきりに議員も介護休暇を取るべきだと言われました。議会に出席する必要から自らそうした要請をすることができませんでした。とても悩みました。小さなお子さんをお持ちの女性達に議員になって欲しいと思いますが、相当、協力体制がないとむずかしいと思います」

女性が議員になりやすい環境になっていない、という声は、多くの議員から寄せられました。
「女性が議員になりやすくできる整備を強く思う」(60代女性区議)
「女性議員を増やすことができるような環境と制度の整備が必要だと思います」(60代女性市議)
「女性議員の数は、民主主義のバロメーターといわれているが、日本社会においては政界に出るには、女性にはハンディが多すぎる」(60代女性議員)

性別の問題ではない?

70代の男性議員は、性別の問題ではないと述べます。
「女性議員を増すことも言われているが、当選した議員の中身が問題で、物事を見る目、判断力が問われる。増やせば良いと言うことではない」

増やせばいいというものではないということは、40代の男性議員も記しています。
「それだけ女性議員を増やさなければならないと各メディアで報道される理由が分からない。数が増えれば意見が反映されるという考え方なのであれば、短絡的すぎるのではないかと考える。議員にならなくても話を聞かせてもらい、政策に反映させる機会は多々あるし、逆にこれだけ女性女性と取り上げる事が今までに頑張ってきた女性達の怒りを買っていることがあるという事を理解しておいてもらいたいと思う」

ママ議員は不可欠

その一方で、60代女性議員は、女性議員が必要なのには理由があるといいます。
「女性議員が増えてこそ、暮らしの中の細かな政策が実現出来ると考える。生活面で社会的弱者の方が相談できるのは女性議員だといわれたことがある」

30代の女性議員も「ママ議員が不可欠」と力説します。
「様々な問題の根源である少子高齢化問題を少しでも解決に近づけるためには、小さい子を育てているリアルなママ議員の存在は不可欠です。そもそも女性議員自体が少なすぎるし、もっと女性が声をあげていかなければ少子高齢化は解決しません。田舎の議会ではまだまだ子育てに対して理解も浅く、ママ議員になれても4年間の活動が大変すぎて2期・3期と続ける意欲がそがれてしまうと思います。『男子厨房に入らず(入るべからず)』が当たり前の時代を生きてきた人たちばかりの議会では、子育て中の女性議員の大変さや、主張を理解できないと思います。だからもっと若い人の台頭が必要だと感じます」

男性議員にとっては「敵」?

60代の女性議員は、理解してもらえないと嘆いています。
「女性議員のこと、男性議員たちが応援してくれれば良いのに全くそれは無く、男女共同参画や女性活躍推進等については価値観が違い過ぎて、話し合いにならない。こちらは仲間どうし、議員どうしと思っているが、あちらは選挙時の敵と思っている様子がありありと感じられる」

男性議員のことをいぶかる40代の女性議員も。
「『女性議員を!』と言っている男性の本音は、女性に、自分より下のところで活躍してほしいという事」

「男社会」の息苦しさ

30代の女性市議は、息苦しさを感じるといいます。
「市が合併後初の女性議員の1人として活動しているが、そもそも市の管理職も男性ばかりで、この世界は男性社会だと強く感じる。自治会も年長の男性が長であるため、役所でも地元でも“女性”としては息苦しく感じることが多い」

有権者も理解してくれていないというのは、30代女性議員です。
「女性議員の割合が少ない。出産した女性議員への有権者からの風当たりが強い」

女性自身が変わる必要も

その一方で、女性自身も変わる必要があると、60代の女性町議は考えています。
「地方にはまだ女性軽視の風潮が根強い。女性自身もまた、その気持ちがあるのではと思う」

80代の男性議員からは、こんな声も。
「女性議員は性別の意識なく行動してほしい。自らが垣根(女性のみのグループ)を作っている」

女性議員を増やす方法が分からない

とはいえ、女性議員を増やすための処方箋が見当たらないという声もありました。
「40歳前後の女性のかた達が立候補しやすい環境を整えるべきだが、今は何をすれば良いかわからない」(70代男性議員)
「女性が出にくい世論、風潮が強く、それを打開できる道筋が見えない」(70代男性議員)

今の状況では期待できない、というのは60代の女性議員です。
「2018年5月16日に政治分野における男女共同参画の推進法が法制化されたが、これは理念法で罰則も無いため、国も地方議会においても、『頑張りましょう』というかけ声だけでは増えるはずもない。あまり期待がもてない」

「女性枠」を決めてしまえば

いや方法はある、というのは70代男性議員です。
「町村議会に男子・女子別の定数割合必要。それが、なり手不足解消につながる」

政党がそれぞれ擁立するよう努めるべきだと50代の市議はいいます。
「各政党には、改選時に新人を立てるときには女性候補者を積極的に擁立するなど、議会内における性の偏りを減らすよう努めていただきたいです」

60代の男性議員は、国が号令をかけてはどうかと提案します。
「女性議員数の数値目標についても、国が地方議会にも号令を発するのも一つの方法ではないだろうか」

「クオータ制」を知ってますか?

60代の女性議員は、「クオータ制」の導入を訴えます。
「生活に密着した地域課題をきめ細やかに把握し、意思決定に反映させるという意味で、女性議員を増やす必要がありますが、そのためにはクォータ制度などもっと積極的に法整備をするべきだと思います」

別の60代の女性議員も、なり手不足対策としても重要だといいます。
「(議員のなり手不足)女性議員のクオータ制もまず導入してみたらと考えます。議員定数減や給与では問題は解決しないと考えています」

「クオータ制」とは、女性や少数民族などに、議席または候補者の一定数を割り当てる制度のことです。1970年代の初めにノルウェーで発祥しました。以前「クローズアップ現代」でスウェーデンでのケースを詳しく取り上げていますので、詳しく知りたい方はリンク先をご覧下さい。

一方で、制度に頼らなくても、希望はあると60代の女性議員はいいます。
「女性議員をふやす活動をしています。クオータ制も重要ですが、変えなきゃと思ったら、自ら出ることが必要。扉はおしてみれば、案外あくものです」

男女ペアで立候補!?

50代の男性議員は、フランスの県議会で行われた取り組みを導入してはどうかと訴えます。
「フランスであるような、男女ペア候補のような、公選法改正も必要な試みに取り組むべき」

フランスでの取り組みについて詳しく知りたい方は、こちらの「世界選挙紀行」の記事をご覧下さい。他にもさまざまな各国での取り組みをご紹介していますので、時間があるときにぜひお読みいただければと。

産休の決まりさえない

しかし、議員になっても、議会には支える制度がないと、40代の女性議員は憤っています。
「任期中に子どもを2人出産しているが、育休どころか、産休の決まりが全くない。自分の判断で復帰の日を決めなければならない母体保護の観点からも、最低何日は休まなければならないという規定を全国一律で定めるべき。代理投票制度なども必要と考える」

別の女性議員は、託児もできるよう整備して欲しいと訴えます。
「本当に女性議員を増やすには、小学校就学児(小6まで)の託児や、家族の在り方の意識改革などもしなければ、実現できないと感じています」

今回のアンケートでは、「女性が活躍しやすい環境が整っているか」という質問に対し、「全くそう思わない」「あまりそう思わない」と回答した議員が、合わせて58%以上にのぼりました。

社会全体の問題

そもそも社会が変わる必要があるというのは、50代の男性議員です。
「人口の半分は女性なのだから、もっと構成割合が高くなっていかないと社会の健全な発展は望めない。そのためには、女性が社会で活躍するための意識改革、家族観の改善が必要であり、議会だけでなく社会を挙げてのとりくみが求められる」

でも、時代は変わった?

そんな中でも、50代の女性議員は、「時代が変わった」といいます。
「私の所属する議会は年々女性議員がふえ、今は、女性だからという差別は感じなくなった。初当選の時は女で大丈夫かと同僚から言われたが、現在はそう言う人はいなくなった。時代が変わった気がする」

別の50代の女性議員も、手応えを感じています。
「私の議会は、女性が他市町村より多く在籍しています。女性議員が増えた事により、女性の関心が議会に向いてきたように思えます。会議の傍聴にも毎回多くの女性が足を運んで下さいます。
女性議員に頼りなさを感じている方々も多くいらっしゃいますが、私達の存在により、議会に行政に関心を持つ女性が多くなってくれた事をうれしく思っています」

60代の女性政令市議は、政策に反映できるようになったと述べます。
「政策立案や議会運営、議員条例の立案など、女性の視点を入れさせていただくようになってきました。今後、女性議員のみならず見識や考え方、価値観を共にする仲間を増やしていきたいと思っています」

最後に、10年以上、女性議員がいなかったという市議会に身を投じた、50代の女性市議の言葉を紹介します。
「子育てや介護、また、家庭の財政管理も女性が携わる割合が多いのに、女性がいない市議会、また部長級も女性ゼロで『これではいけない!』と意を決して立候補しました。
女性が立候補するには、家族の理解、支援者の協力、経済的な問題など、多くの課題が山積します。特に、私のように政党の支援もない無所属の女性が立候補することはとても勇気の要る事でした。
女性議員の誕生を望む声も多いのですが、市民の方のために、しっかりと勉強し、行動し、実績を積んでいく、その気持ちをずっと持ち続けていくことの大切さを改めて感じています。
男性には男性の視点、考え方があり、優れた面もあります。また女性にも同じことが言えます。それぞれの良さを出し合い、補い合い、年代も男女比も極端に偏らない議会が理想です。どんどん変化していく時代に合わせて柔軟に対応してける要素もこれからの議員に必要なことだと思います。
『市民のために』という目的は一つです」

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次回は「セクハラ」「パワハラ」について訴える声をお伝えします。

なお、寄せられた声をもとに、記事は随時更新していきます。一旦、集計は終了しましたが、ご意見は今後も参考にさせていただきますので、まだ回答されていない議員のかた、お待ちしております。
また、議員の方だけでなく、読者の皆様にも、地方議会の課題についてのご意見をいただきたいと思います。下の画像をクリックしていただけると、「ニュースポスト」が開きます。そちらにぜひ、「議員アンケートについて」などと書いて、投稿をお願いします。

【全議員アンケートについて】
NHKは、今年1月から3月にかけて、全国1788の都道府県・市区町村の議会と、所属する約3万2000人の議員全てを対象とした、初めての大規模アンケートを行いました。議員のなり手不足など、厳しい状態に置かれている地方議会の現状を明らかにし、「最も身近な民主主義」である議会のあり方について、有権者一人一人に考えていただく材料にしてもらおうというのが趣旨です。
約60%にあたる1万9000人余りから回答が寄せられています。集計結果をもとに、テレビ番組や特設サイト、そして週刊WEBメディア「政治マガジン」などで、統一地方選が終わる4月末にかけて「議員2万人のホンネ」と題したキャンペーン報道を行っていきます。4月27日には、午後9時から「NHKスペシャル」の放送を予定しています。

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