員なんて、もうやめたい
~地方議員2万人アンケート

「生まれ変わっても議員になりたいですか?」
こんな質問に現職の地方議員の7割近くが「NO」と答えました。
暮らしに最も身近な存在である地方議員。
統一地方選挙目前。現場の本音に耳を傾けてはもらえないでしょうか。

初の「全議員」アンケート、やってみました

地方議員とは、どんな人たちでしょう。
都道府県議、市町村議、東京23区の区議。
関係ないよ、と言わないでください。決して遠い存在ではありません。自治体の規模によって、待遇や取り巻く環境も異なりますが、「ごみ収集」「水道料金」「学校運営」「介護」「学童の費用」などなど、暮らしに直結するサービスを左右する議論などを、いつも行っているのが地方議員です。

その数、3万2000人余り。

NHKは、今年1月から3月にかけて、そのすべての地方議員を対象に郵送によるアンケート調査を行いました。

なぜ、このような調査をしたのか?
それは、地方議会の危機が抜き差しならない事態を迎えていると思うからです。
そもそも、なりたいという人がいないという、なり手不足の問題。
最近では、都市部にも広がりつつあります。
また、政務活動費の流用や真剣にやっているの?と疑いたくなるような議員の言動…不祥事も後を絶ちません。

アンケートに回答していただいたのは、およそ2万人。膨大な数です。
都会でも過疎のまちでも共通の悩みごとがあったり、地域特有の問題があったり。
切実な声が聞こえてきました。

疲弊する地方議員

まずは、アンケートの自由記述欄に書き込まれたメッセージを紹介しましょう。

「町会議員の報酬で生活するのは大変です。ましてや家族がいたら特に思います。国民年金、健康保険を支払ったら手取り10万ほどになります。生活ができないのでバイトをしたりして何とか生活しています。ほかにも冠婚葬祭費用も掛かり、行事やイベントにも参加しないと選挙に当選することも難しい。夜寝ないで働いたりしてから議会に出る日もあります。私の実情を知ったら誰も議員なんてやりません」(30代男性町議)

「町村議会は政務調査費も無いし、議員報酬も少なく若い子育て世代などは出たくても生活のことを考えると立候補出来る状況ではない」(60代男性町議)

町議や村議を中心に、生活の不安を訴える声が多数ありました。
議員報酬は、自治体によって違います。人口規模の小さな町や村の議員の平均月額は、20万円余り。
議員年金は廃止され、退職金はない。これでは、若い世代が議員を目指すことは難しいというのです。

人口減少に悩む地域からは、こんな意見もありました。
「私は、本来なら議員になるべき人材の多くが東京など、都市部に流出していると思います。
東京一極集中の弊害が、議員の質と量の両面でも出ていると感じます」(40代町議)

「地方にいると都市部でやっている勉強会に参加するにも時間がとれず、断念してしまうことが多い。地方は、すべてにおいて不利だと思う。常に迷いと悩みの中で、議員を続けている」(60代男性村議)

妻に土下座して立候補

本人がなりたいと思っても、周囲が壁になるケースも少なくありません。

「家族の理解を得るのは大変」と答えた人が半数を超えました。

「『あの人は議員の奥様だ』と指をさされ、いつも頭を低くしていなければならないのが『イヤだ』と言われる。選挙に出る時、土下座して、お願いした」(60代男性市議)

地域密着の地方選挙。昔ながらの風土を壁に感じる人も多そうです。
「地方議員になるためには、地縁・血縁・カバンが最重要で、資質・行動力・実現力が軽視されている」(60代男性町議)

きちんと仕事してますか?

議会としての役割は果たしているという答えが多数派を占めました。

「この数年間、議会改革として様々な取り組みを行ってきた。『議会』としての機能を強化する必要性を認識している議員は増えてきた」(30代男性市議)

確かに、先進的な取り組みが注目を集める議会はあります。
でも、そういう議会ばかりでもなさそうです。

「議会はチェック機能を果たす役目があることを勉強して欲しいと思います。先般の議会でも『市長が提案したことだからしょうがない』と議案が通ってしまい、終了後に『あれはおかしい』と言う議員がいました。なぜ反対しなかったのか聞くと『市長が言っていることだから』との返事。『それだったら議会なんかいらない』と言い返しました」(60代男性市議)

「ほとんどがいわゆる町長派と呼ばれる議員で、町長には無条件で100%賛成します。一方、町長は完全に議会を掌握しているので、やりたい放題です」(40代男性町議)

「古参のボスの言いなり議員を、私は『何でも賛成議員』略して『NSG』と名付けました」(60代男性市議)

また、地方分権の中で、国政とは違った議論のあり方を求める意見もありました。
「地方議員が中央政党の使いっ走り、出先機関になり下がっている。選挙のときには『市民の声を市政に反映させます』と約束しながら当選すれば『政党の都合』を『市民』よりも優先させる議員が多すぎて、そのために、地方議会の改革は大きく滞っている」(60代男性市議)

大胆な議会改革の提案もありました。
「地方議会は、欧米並みの『夜間ボランティア議会』にすべき。純粋に街を思う、政策を考える資質の高い議員が中心となる。住民直接参加型議会として運用すればいい」(50代男性市議)

問題議員を告発する

同じ議会に、資質を問いたい議員がいる…あきれた議員の告発も目立ちました。

「4年任期で1度も議会で質問しない議員がかなり存在することが、市民に知られていないのは残念に感じる」(50代男性政令市議)

「議員になって3期12年が経ったが、議員は実によく居眠りをする。午前中からでも居眠りをする。許せない。傍聴の市民が少ないことも原因である」(60代女性市議)

「立候補するに当たって論文試験をやるべきである。あまりにもレベルが低い議員がいるので」(70代男性町議)

もっと関心持って

最近の地方議員の選挙は、投票率の低迷が続いています。有権者のことを、地方議員はどう見ているのでしょうか。

世間の厳しい視線。しかし、こんな愚痴も聞こえてきます。

「世間では議員に対する風当たりも強くなっています。コツコツ頑張っている議員が多い中で、議員の不祥事もマスコミに大きく取り上げられ、議員はとんでもないというイメージが作り上げられ残念でなりません」(60代男性市議)

そして、切実な訴えがあります。

「有権者の関心が低すぎると考えます。関心を高めるため、議会の傍聴案内を頻繁に出していますが、傍聴に来ていただける方は限定的です」(60代男性市議)

「今、議員の成り手がいない、若者の参加がない!といわれるが、当たり前である。努力する人ほど努力の割に評価と対価の無いのが地方議員だと思う。有権者のみなさんも、もう一度地方が生き残るには?そのために優秀な議員を育てるにはどうすればいいのか?と自身にも問いかけ頂けたらと思います」(男性市議)

地方議員はつらいよ

やはり、この結果には寂しさと危機感を感じました。

「忙殺される日々ですが、達成感を感じる仕事だと思います。でも時々、心の中にポッカリと穴があく気分になる時もあります」(40代男性政令市議)

「有権者、同僚議員、行政職員に『若い』『女性』へは失礼があってもよいと考える人もおり、パワハラ、セクハラが必ずついてまわります。そのため、せっかく当選しても長く続けられず、女性の声、若い世代の声が行政に届きにくいまま、改善されることがありません」(30代女性町議)

アンケートの回答者、およそ2万人。
正直、想像をはるかに超える反響でした。
それだけ、地方議会、地方議員の現状を知ってほしいと願う気持ちがこもっているのだと思います。
平成の時代、地域社会、家族、人々の暮らしのありようは大きく変わりました。
しかし、変化の中で、本来役割を果たすべき地方議会は、かえって存在感を失い、住民との距離が広がっている、そんな印象を受けます。
今回語られた本音が、議会活性化に向けた多くの“気づき”となることを願ってやみません。

**********************

アンケートには、今回の記事では伝えきれなかった「声」も多数あります。いえ、むしろ伝えられなかったことの方が多いぐらいです。NHKでは、集計結果をもとに、テレビ番組や特設サイト、そして週刊WEBメディア「政治マガジン」などで、統一地方選が終わる4月末にかけて「議員2万人のホンネ」と題したキャンペーン報道を行っていきます。4月27日(土)には、午後9時から「NHKスペシャル」の放送を予定しています。

「全議員アンケート」は、いったん集計を終えましたが、ご意見は今後も参考にさせていただきますので、まだ回答されていない議員のかた、お待ちしております。
また、議員の方だけでなく、読者の皆様にも、地方議会の課題についてのご意見をいただきたいと思います。下の画像をクリックしていただけると、「ニュースポスト」が開きます。そちらにぜひ、「議員アンケートについて」などと書いて、投稿をお願いします。

アンケートの集計結果はこちらから
全国各地からの現場リポートはこちらから。
統一地方選の候補者紹介や選挙結果はこちらから。