員は退職後の再就職先?

日本には「地方議員」が3万人もいることをご存じですか?
今回、その全員に初めてのアンケートを行いました。回答してくれたのは2万人近く。NHKでは1か月にわたって、そのホンネをお伝えするキャンペーンを展開します。

前回までの3回、議員報酬をめぐる自由記述をご紹介しました。しかし、なり手不足はそれだけが理由ではないようです。

資産家しかなれない?

ある男性議員は、「退職金もない、年金もない仕事にサラリーマン層が興味を示してくれない。たとえ興味を持っても、家族の大反対であきらめるケースが多い。このままでは資産家しか出る人がいなくなるのではないか」という心配をしています。

この状況、すでに起き始めていると、指摘する声もあります。
「高額な財産収入を得ている人以外、議員になりにくい現状がある」(40代男性議員)
「生活に余裕がある者が議員になる傾向は否めない」(50代男性市議)
「地方議員の活動だけでは生活出来ないので、年金生活者、自営業、お金持ちという偏った人たちだけになっている」(60代男性議員)
「若い人に立候補する気持ちになってもらうハードルは高いと感じる。私も家族経営の商店で祖父に続いて(50年おいて)立候補できたのも、二代にわたって父が店を支えてくれたからである」(60代男性議員)

退職して議員、定番化か

必ずしも資産家ではなく、元の仕事を退職した後、議員になるケースが増えているという声も見られました。

70代の男性議員は、それが議会活動にも影響していると述べています。
「自営業が少ない地域にあっては、定年退職後に議員となるケースが多く、議員の高齢化となり行政のチェック能力が劣ってくるように感じている」

40代の男性議員は、定年退職後に議員になることには否定的です。
「市議はまる三期で一人前と言われてる。ですので、会社等を60~65歳で退職をしてから議員になっても、意味がないと思います」

70代の男性議員は、だからこそやはり議員報酬を引き上げるべきだとしています。
「定年退職して年金をもらって参加する小遣いかせぎの議員が増えている。思いがあるなら若い時からにしてほしい。だから議員(町村)の報酬を上げるべきだ。そうすると後任がでてくる」

役場のOBが増えている

無投票が続いている町議会の60代の議員は、役場を退職して議員になるケースが多いと記しています。
「60歳以下の立候補の話もないし、たぶん次回も選挙無しであろう。議員の質も低く、どんな活動がしたくてなったのか解らない議員が多い。議論しないし、広報活動、提案もしない。暇な退職者集団である。しかも、町職員経験者が多すぎる」

50代の女性議員も、やはり同じようなケースが増えていると指摘します。
「役場を退職した職員が立候補しているケースが増えてきている。各自の考えもあるのだと思うが、どうなのだろうと疑問がある。町や村の議員は報酬が少ないため、退職した方々がどうしても多くなり年齢が偏っている」

60代の男性議員は、その影響が出ているといいます。
「地方公務員の定年退職者の議員が多すぎる。公務員時代できなかったことを現職員に押しつける意見が多々ある」

80代の男性議員は、こうした状況を打開したいといいます。
「地方議員も、役所の定年直前、直後に、役所を退職して地方議会へ立候補して市議会に席を置く議員が増えておりますが、これではますます、地方も役人天国になりますので、何か歯止めが出来ないかを考える時があります」

OB側は「他の議員は勉強不足」と

ただ、実際に公務員を退職後、議員になったという男性は、問題は別のところにあると指摘します。
「私自身は、公務員で退職し、年金もあり、家の別途収入もあり、議員報酬については多すぎると思うが、他の議員の方々のほとんどが、議員報酬のみで生活を行っている。そのため、かなりの年齢でありながら議員を続けている方が多くいる。行政の仕組や内容を勉強しない方が多すぎる」

70代の男性議員も、同じような意見です。
「私は地方公務員として40年余り、さまざまな経験と勉強を積み重ね、退職後、町議会議員になりました。議員の役割を頭において、まず公共の利益のために何をすべきか、行政に不公平が無いか、議会を通して追求すべきだと思っています。ほかの議員ももっと勉強して、住みよい町づくりに尽力していただきたいと思います」

なり手不足は、報酬の問題だけなじゃい

“定年後に議員”が定番なら、さらに役場OBが議員になるケースが増えるかも知れない、そんなことを思わせる事情を、60代の男性議員は記していました。
「自営業、農業者関係で立候補する人の減少もあるが、会社員等の定年延長も、議員のなり手不足の大きな問題になるのではないかと思われる」

40代の男性議員は、議員のやっていることが敬遠されているとしています。
「議員のなり手不足の問題は議員が“地区お世話係”となってしまっているのが問題。もう少し政策立案能力などで評価できるようするべきでないか」

70代男性議員は、いまの人の意欲の問題だといいます。
「新しい社会に飛び込んでいろいろな経験をしてみたいとか、自分の考えを公的な場所で発言したいとか考える人が少ないのではないか。良く言えば堅実派ということになるのでしょうが、あまり冒険する人は少なくなったのではと思います」

「議員」のイメージの問題も

一方で、問題は議員のイメージだ、という意見が散見されました。
30代の男性議員は、対策が必要だと述べます。
「『議員』という仕事に対するイメージが年々悪化しており、また、一部の不祥事が大きくとり上げられる傾向があるため、なかなか地方議員のなり手不足という課題の解決は難しい。また、『議員』=『選挙』という面で捉えられがちであり、もっと議会の本質を県民に知ってもらえるための方法がないものか、考えていく必要がある」

40代の男性議員は、議員の仕事が知られていないことが問題だといいます。
「地方議員のなり手不足は、権能が小さすぎて、できることが少ない。したがって、社会に与える影響も小さく報道もされにくい。知られない部分が多く、知られていることは『大変だ』とか『何か悪いことをしてそうだ』というイメージで、多くの人がやりたいと思う仕事ではなくなっているのではないか。地方分権によって、地方行政や議会の重要性が増して、注目され、優秀な人材が集まるようにすべきだと思う」

後継者がいない!

こうしたなか、引退を考え始めた議員からは、「後継者がいない!」との叫びも。
「今から、自分の後釜をどのように発掘しようかそればかり考えている。それほどなり手がいない」(50代男性議員)
「出たい人ではなく、出したい人が出馬してくれない。退任するときの後継者がいない」(70代女性議員)
「住民の地方政治への関心低さや不信感、低額な議員報酬などもあり、議員の後継者不足深刻化しています。この現状は地方自治体を支える住民自治のあり方を問う課題だと思います」(60代女性議員)

今は「変人」しか…

最後に、40代の男性議員の嘆きの声をお伝えします。
「議員というものに魅力がなくなっている。以前のような特権的なものがなくなっていることは歓迎すべきことであるが、やりがいだけで議員になる人が少ないのも事実。議員になりやすい環境整備は必要と思うが、環境整備が整えば、候補者が増えるとも思えない。
今は変人でないと議員はできない気がする。しかし、本来は誰でも議員になれる社会の方が健全だと思う」

**********************

次回は、議会の議員定数についての意見を紹介します。
なお、寄せられた声をもとに、記事は随時更新していきます。一旦、集計は終了しましたが、ご意見は今後も参考にさせていただきますので、まだ回答されていない議員のかた、お待ちしております。
また、議員の方だけでなく、読者の皆様にも、地方議会の課題についてのご意見をいただきたいと思います。下の画像をクリックしていただけると、「ニュースポスト」が開きます。そちらにぜひ、「議員アンケートについて」などと書いて、投稿をお願いします。

【全議員アンケートについて】
NHKは、今年1月から3月にかけて、全国1788の都道府県・市区町村の議会と、所属する約3万2000人の議員全てを対象とした、初めての大規模アンケートを行いました。議員のなり手不足など、厳しい状態に置かれている地方議会の現状を明らかにし、「最も身近な民主主義」である議会のあり方について、有権者一人一人に考えていただく材料にしてもらおうというのが趣旨です。
約60%にあたる1万9000人余りから回答が寄せられています。集計結果をもとに、テレビ番組や特設サイト、そして週刊WEBメディア「政治マガジン」などで、統一地方選が終わる4月末にかけて「議員2万人のホンネ」と題したキャンペーン報道を行っていきます。

アンケートの集計結果はこちらから。
全国各地からの現場リポートはこちらから。
統一地方選の候補者紹介や選挙結果はこちらから。