訪日した歴代米大統領まとめ バイデン大統領がアメリカ出発

アメリカのバイデン大統領は就任後、初めてとなる日本と韓国への訪問に向けて日本時間の20日午前、アメリカを出発しました。
日韓両国と首脳会談を行うほか日米豪印の4か国の枠組み、クアッドの首脳会合に出席する予定で、中国を念頭にインド太平洋地域への関与を深める姿勢に変わりはないと強調したい考えです。

バイデン大統領は19日昼すぎ、日本時間の20日午前1時すぎ、最初の訪問国、韓国に向けて専用機で首都ワシントン近郊のアメリカ軍基地を出発しました。

バイデン大統領は20日午後に韓国に到着し、21日にはユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領と初めての首脳会談を行う予定です。

22日からは日本を訪れ、岸田総理大臣と首脳会談を行うほか、日米両国にオーストラリアとインドを加えた4か国の枠組み、クアッドの首脳会合に出席することになっています。

また、日本滞在中、地域での影響力を増す中国への対抗を念頭においたIPEF=インド太平洋経済枠組みの立ち上げに向けた協議の開始も表明する見通しです。

今回の訪問についてホワイトハウスで安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官は「インド太平洋という重要な地域でアメリカのリーダーシップを発揮する極めて重要なときだ」としています。

バイデン大統領が日本、韓国を訪問するのは就任後初めてで、ウクライナ情勢をめぐって対応を迫られる中でも、中国を念頭にインド太平洋地域への関与を深める姿勢に変わりはないことを強調したい考えです。

訪日した歴代米大統領

アメリカの歴代の大統領は1974年に、現職の大統領として初めて日本を訪れたフォード大統領以降、在任中に少なくとも1度は日本を訪れています。

レーガン

1983年に来日したレーガン大統領は中曽根総理大臣と「ロン」「ヤス」と愛称で呼び合う間柄でした。

レーガン大統領を東京 日の出町の別荘「日の出山荘」で中曽根氏がもてなし、ほら貝を吹く姿も話題になりました。

ジョージ・H・W・ブッシュ

ジョージ・H・W・ブッシュ大統領は1992年、宮沢総理大臣との会談で自動車の貿易やコメの市場開放など、日米の貿易摩擦の解消について議論しました。

晩さん会ではブッシュ大統領が体調を崩し、会場で倒れる場面もありました。

クリントン

現職の大統領としては最も多い5回の来日を果たしたのがクリントン大統領です。

クリントン大統領は1996年の来日で、橋本総理大臣と冷戦終結後も日米の安全保障体制が地域の安定の基礎だとする共同宣言を発表しました。

また、宣言では沖縄県に集中しているアメリカ軍基地について整理・縮小に取り組むとし、クリントン大統領は4年後の2000年、九州・沖縄サミットに出席するため沖縄の本土復帰以降、アメリカの大統領として初めて沖縄を訪れました。

クリントン大統領は公式行事の合間を縫って、シークレットサービスを引き連れて皇居周辺などをジョギングする姿も話題になりました。

ジョージ・W・ブッシュ

2001年9月11日に発生した同時多発テロ事件をきっかけに「テロとの戦い」を掲げ、アフガニスタンでの軍事作戦やイラク戦争に乗り出したジョージ・W・ブッシュ大統領は小泉総理大臣と親しい関係を築きました。

2002年に来日した際には「テロとの戦い」で協力を求めたのに対して、小泉氏は「日本は常にアメリカと共にある」と応じ、緊密に連携する考えを示しました。

その後の来日でもブッシュ大統領と小泉氏は自衛隊派遣を含むイラクの復興支援などについて協議しました。

オバマ

アジア重視の外交政策を掲げたオバマ大統領の最初の日本訪問は2009年。

同じ年に就任した民主党の鳩山総理大臣と会談しました。

この際、沖縄県のアメリカ軍普天間基地の移設先について「最低でも県外」と述べていた鳩山氏が「トラスト・ミー=私を信頼して」と発言し、アメリカ側が沖縄県の名護市辺野古を移設先とした日米の合意通りに決着できると約束したものと受け止め、混乱が広がりました。

また、2016年5月に来日した際には現職の大統領として初めて広島を訪問し、被爆者たちを前に「われわれは核兵器のない世界を追い求めなければならない」とスピーチしました。

オバマ大統領は在任中、4回、日本を訪問していて、2014年の来日の際には、安倍総理大臣がオバマ大統領を東京 銀座のすし店に招き個人的な信頼関係の構築に努めました。

トランプ

そして、アメリカ第一主義を掲げたトランプ大統領。

初めての来日となった2017年11月は安倍総理大臣と首脳会談を行い、北朝鮮への対応について話し合ったほか、両国の経済対話の枠組みなどについて意見を交わしました。

また、令和初の国賓としての訪問となった2019年5月の来日では、外国の元首として初めて、この年即位された天皇皇后両陛下と会見しました。

またトランプ大統領と安倍氏は訪日の際、共通の趣味であるゴルフを楽しみ親交を深めています。

バイデン大統領 訪日のねらいは

バイデン大統領が今回初めて日本を訪問する最大のねらいは、ロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻が続く中でもアメリカのインド太平洋地域への関与は揺るがないと明確に示すことにあります。

アメリカが軍事侵攻への対応に追われ、中国が軍事力を背景に影響力を増すインド太平洋地域への関与を「後回し」にするのではないかという懸念が関係国の間で生じているからです。

このため、バイデン大統領は今回、日本と韓国という、信頼を置く東アジアの同盟国に足を運び、強固な同盟関係や地域の安全保障への一貫した関与をアピールしたい考えです。

とりわけ、岸田総理大臣との首脳会談では、アメリカの核兵器を含む軍事力による抑止力を同盟国に提供するいわゆる「拡大抑止」が強固で十分であることを再確認することで、中国をけん制したい考えです。

バイデン政権は、ウクライナ危機を受けて、中国が軍事力で台湾統一を試みることへの懸念が台湾で強まりつつあることも認識しています。

アメリカとしては、今回の日本訪問が中国による軍事的な圧力にさらされている台湾に対するアメリカのメッセージになるとも考えています。

さらには弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮へのけん制にもつなげたい考えです。

また、バイデン大統領は24日、日米豪印4か国からなるクアッドの首脳会合にも出席し、中国を念頭に多国間の枠組みでの結束を打ち出したい考えです。

隠れたもう一つのねらいは、東南アジア諸国の取り込みです。

バイデン政権は、中国を念頭に置いたインド太平洋戦略の成否は、ASEAN=東南アジア諸国連合の国々と強力な関係を築けるかにかかっていると見ています。

ところがASEAN諸国の中には、アメリカの「本気度」に対する懐疑的な見方や、経済的結び付きの強い中国との関係悪化を懸念する声が少なくありません。

このためバイデン大統領はデジタル貿易や経済安全保障の分野などで、ASEAN諸国の取り込みを図ろうと、今回、IPEF=インド太平洋経済枠組みという新たな経済連携の枠組みの立ち上げに向けた協議の開始を東京滞在中に発表したい考えです。

ただ、ASEANの中には、関税の引き下げといったメリットが感じられないとして参加に慎重な意見も出ています。

こうしたことから、ASEAN諸国の間で信頼度の高い日本の後押しを受ける形でIPEFの構想を発表することで立ち上げに向けたスタートダッシュを図りたい考えです。

今回の訪日中、IPEFの具体的な中身や何か国が参加するのかが注目されることになります。

中国念頭に日本含む同盟国との連携強化の方針

アメリカのバイデン政権は、軍事的な活動を活発化させる中国への対応を安全保障上の最優先の課題と位置づけ、日本を含む同盟国などとの連携を強化して対抗する方針を示しています。

アメリカ国防総省はことし3月、バイデン政権としては初めてとなる「国防戦略」をまとめ、概要を公表しました。

この中で、中国を「最も重要な戦略的競争相手」と位置づけ、幅広い領域で脅威を増す中国に対応する形で国土を防衛するとしています。

そして「インド太平洋における中国の挑戦を優先し、次いでヨーロッパでのロシアの挑戦を優先する」と明記し、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中でも中国への対応を最優先する姿勢を強調しました。

バイデン政権は去年8月、アフガニスタンから軍を完全撤退させたほか、12月にはイラクに駐留している部隊の戦闘任務を終了させるなど、戦力を中国への対応に振り向ける態勢づくりを進めています。

ただ、中国が軍事力を急速に増強していることを踏まえ、アメリカ単独ではなく同盟国や友好国との協力関係を強化しながら中国に対抗していく方針も繰り返し示しています。

去年9月にはイギリス、オーストラリアとの3か国による「AUKUS」と呼ばれる安全保障の枠組みを創設し、オーストラリアの原子力潜水艦の配備を技術面で支援するほか、中国がすでに実戦配備したとされる極超音速兵器の開発を共同で行うことを決めました。

そして日本についても「日米同盟はインド太平洋地域の平和と繁栄の礎だ」として、安全保障面での連携を一層強化していきたい考えを示しています。

ことし1月に行われた日米の外務・防衛の閣僚協議、いわゆる「2プラス2」では、海洋進出の動きを強める中国を念頭に、南西諸島などでの態勢を強化するため両国による施設の共同使用を増やしていくことで一致しました。

これを受けて両国政府は、鹿児島県にある海上自衛隊の鹿屋航空基地にアメリカ軍の無人機を配備する方向で検討を進めるなどアメリカ軍と自衛隊が協力を強化する動きが鮮明になっています。

協議ではまた、中国がサイバーや宇宙などの領域で軍事力を強化していると見られることも念頭に、従来の陸・海・空だけでなく、新たな領域も含めた横断的な能力の強化が重要だとして、サイバー空間での脅威に共同で対処する必要があるという認識で一致したほか、多数の小型衛星が互いに連携する「衛星コンステレーション」について議論を続けることを確認しました。

西太平洋地域では、アメリカ軍の中国軍に対する優位性が失われつつあるとも指摘されている中、今後、アメリカが日本にさらなる役割を求めてくることも予想されます。

インド太平洋地域の重要性強調 中国には強い警戒感

バイデン政権はことし2月、外交政策の柱となる「インド太平洋戦略」を発表し、太平洋とインド洋沿岸の国と地域からなるインド太平洋地域について「世界のGDPの60%を占め、経済成長をけん引している。アメリカはこの地域に根ざし、同盟国や友好国とともにこの地域を強化することによってのみ、自国の利益を高めることができる」と、その重要性を強調しています。

一方で、この地域に「大きな挑戦を突きつけている」として「最大の競合国」と位置づける中国に対し、強い警戒感を示しています。

バイデン政権は「中国はインド太平洋地域に安定と繁栄をもたらしてきた人権や航行の自由などの国際法を弱体化させている」と批判したうえで「中国がこれらのルールや規範を書き換えるかどうかは、今後10年間のわれわれの努力次第だ」として日本や韓国、それにヨーロッパ諸国などの同盟国や友好国との連携を強化し、経済を含めた安全保障の面で対抗する姿勢を鮮明にしています。

ただバイデン政権は、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアへの対応に追われ、いわば「二正面作戦」を強いられる中、この地域での影響力を増している中国を思うように抑え込めていません。

先月には中国が南太平洋のソロモン諸島と安全保障協定を締結しました。

協定の詳しい内容は明らかになっていませんが、中国が軍の部隊を常駐させるのではないかという見方が広がっています。

バイデン政権は去年、中国に対する抑止力の強化を念頭に、同盟国オーストラリアへの原子力潜水艦の配備支援を打ち出しましたが、仮に中国がオーストラリアに近いソロモン諸島に部隊を常駐させた場合、抑止力は低下するのではないかという懸念が出ています。

また、経済安全保障の面では、バイデン政権は新たな経済連携「IPEF=インド太平洋経済枠組み」の立ち上げを掲げています。

これは参加国の間で貿易上の共通ルールの設定を目指すものですが、関税の引き下げは対象になっていないためメリットが見えにくいとも指摘され、どれだけの国が参加するのかや、どこまで実効性のある枠組みにできるのかなど、見通せないのが実情です。

さらに、地域内の友好国との連携も課題です。

バイデン政権は、中国への対抗を念頭に去年、日本、オーストラリア、それにインドとの4か国による枠組み「クアッド」の首脳会合を初めて開きました。

このうちインドは、伝統的に「非同盟」と呼ばれる、特定の国との関係に偏らない外交方針をとっていて、安全保障に関わる分野での協力には慎重な姿勢を示すなど、各国の間で温度差もあります。

そして、核・ミサイル開発を進める北朝鮮への対応も引き続き課題となっています。

バイデン政権は非核化に向け対話の再開を呼びかけていますが、アメリカ政府によりますと北朝鮮はこれに応じておらず、弾道ミサイルなどの発射を繰り返している上、7回目の核実験に向けた準備を進めていると見られ、核・ミサイル開発に歯止めをかけられていないのが現状です。

日米豪印「クアッド」の枠組み重視

バイデン政権は、日米両国にインドとオーストラリアを加えた4か国でつくる「クアッド」の枠組みを重視しています。

背景にあるのは「最大の競合国」と位置づける中国に対抗するうえで、民主主義や法の支配といった価値観を共有する同盟国や友好国との連携を強化するという外交方針です。

このためバイデン大統領は、閣僚レベルの枠組みだったクアッドを首脳レベルに引き上げて、去年3月にオンラインの首脳会合を、9月には対面での首脳会合を初めて開き、今後は定例化して毎年開催することで合意しています。

アメリカはほかの3か国のうち、日本とオーストラリアとはそれぞれ同盟関係にあり、インドは同盟国ではないもののアメリカが関与を深めるインド太平洋地域の大国で、中国に対抗するうえでの重要なパートナーと位置づけています。

これまでの会合では、国境を接する中国との緊張の高まりを懸念するインドに配慮して、新型コロナワクチンの供給に向けた取り組みなど合意が得やすいテーマを中心に話し合われました。

クアッドの枠組みでは、新型コロナウイルスや気候変動への対策に加え、中国が強化を図っている宇宙やサイバー、それに高速・大容量の通信規格、5Gといった先端技術などの分野でも連携を深めようとしています。

また、アメリカは、従来の同盟関係や2国間関係などでは対処しきれない、インド太平洋地域全体での経済安全保障や先端技術といったさまざまな分野を包括する連携の枠組みとして重視しているとされています。

一方、クアッドはこれまでの共同声明では中国を名指しせず、インドや米中対立の先鋭化を望まない東南アジア諸国に配慮していますが、中国外務省の報道官はクアッドについて「時代遅れの冷戦思考に満ちている」と述べるなど、強く反発しています。

インド 3か国と価値観共有もロシアとの友好関係崩さず

インドは、世界最大の民主主義国として他の3か国と価値観を共有していることを改めて確認するとともに、ロシアとの友好関係を崩すわけにはいかないというみずからの立場への理解を求めるものとみられます。

インドは、隣国の中国、パキスタンと緊張状態にあります。そのため、インドとしては、兵器の多くの供給元であり、政治的にもつながりが深いロシアとの友好関係は維持する必要があると考えているとみられます。

モディ首相は、ことし3月に行った岸田総理大臣との会談後の会見でも、ウクライナへの軍事侵攻について直接的には言及しませんでした。

こうした姿勢について、インドを訪れたロシアのラブロフ外相は先月、「一方的な捉え方をしておらず、感謝している」と述べました。

その10日後にはアメリカのバイデン大統領がモディ首相とオンラインで会談し、予定されていた外務・防衛の閣僚協議、いわゆる「2プラス2」は首脳を含めた異例の「3プラス3」の形となりました。背景には、ロシアと距離を取るよう促すとともに、インドは本当に信頼できる相手なのか、直接確かめるねらいもあったとみられます。

しかし、その後もインドはウクライナの周辺国に救援物資を輸送する日本の計画について、自衛隊機ではなく民間機が望ましいという考えを示すなど、ロシアに配慮する姿勢を崩していません。

インドはロシアとの関係は維持しながら、アメリカなどとは今回のクアッドの首脳会議を通じて揺らいだ信頼の再構築を図ろうとするものとみられます。

オーストラリア 冷え込む中国との関係背景にクアッド連携重視

オーストラリアは去年、アメリカ・イギリスと創設した安全保障の枠組みAUKUSとともに、民主主義の価値観を共有するクアッド各国との連携を重視してきました。背景にあるのは、「この数十年で最悪」ともいわれるまで冷え込む中国との関係です。

オーストラリア政府がおととし「新型コロナウイルスの発生源を解明するための独立した調査が必要」との見方を示したのに対し、中国は強く反発し、オーストラリアからの輸入品を制限する措置を相次いでとりました。

さらに先月には、中国が、オーストラリアの北東2000キロに位置する南太平洋の島国、ソロモン諸島と安全保障に関する協定を結びました。中国が太平洋地域で影響力を拡大させている実態が明らかになり、オーストラリア政府は警戒感を高めています。

オーストラリアは、すでに同盟関係にあるアメリカに加え、日本とはことし1月に自衛隊とオーストラリア軍が共同訓練を行う際などの対応をあらかじめ取り決めておく「日・豪円滑化協定」に署名するなど、安全保障分野でも協力関係を深めています。

オーストラリアとしては、地域で経済的にも軍事的にも存在感を高めているインドとの連携も、中国と対抗していくうえで今後の鍵となると考えていて、クアッドの枠組みをインドとの関係強化につなげていきたいねらいもあるとみられます。

バイデン政権提唱の「IPEF」とは

IPEFは、Indo-Pacific・Economic・Frameworkの頭文字をとった新たな経済連携で、「インド太平洋経済枠組み」と呼ばれています。

提唱したのは、アメリカのバイデン政権です。

アメリカはもともと、TPP=環太平洋パートナーシップ協定に積極的に関わっていましたが、トランプ政権時代に交渉から離脱し、バイデン政権も労働者への配慮や議会の対立といった国内事情から協定への復帰に否定的です。

このため、TPPに代わる枠組みとして、去年、IPEFの構想を打ち出しました。

最大のねらいは影響力を強める中国への対抗です。

アメリカは、経済安全保障を強化するため、軍事転用に関わっているとする中国のハイテク企業に対する半導体の輸出禁止や、新疆ウイグル自治区で強制労働によって生産されたとみられる製品などの輸入を原則禁止するといった措置を相次いで導入しています。

アメリカとしてはインド太平洋地域でこうした共通の基準やルールを設け、各国と理念を共有していきたい考えです。

対象として挙げられている4つの柱が▽デジタルを含む貿易、▽サプライチェーン=供給網、▽クリーンエネルギー・脱炭素、インフラ、▽税制・汚職対策です。

一方で、TPPなどと違って、関税の撤廃や引き下げの交渉は行わないとしています。

しかし、IPEFの構想には課題が指摘されています。

バイデン政権はIPEFをことしの早い時期に立ち上げるとして各国と議論を重ねてきましたが、中国と経済面のつながりが深い東南アジア各国との調整が遅れ、参加する国がどこまで広がりを見せるかや、中国への対抗というねらいが十分に実現できるか見通せない面があるとされます。

東南アジアの中には、アメリカ主導のIPEFに参加すれば中国との貿易などに影響が出るおそれがあると考えたり、関税の撤廃や引き下げがないため、アメリカ向けの輸出の拡大といったメリットを得にくいと見たりする国があるとみられます。

このため、関係者によりますと、バイデン政権は、IPEFの協議に参加する条件を4つの柱すべてではなく、参加したい分野を選べるように緩和し、各国に参加を促す方針に改めているということです。

こうした中で中国は、日本や東南アジア各国などとことし1月にRCEP=地域的な包括的経済連携を発効させたほか、去年秋にはアメリカのいないTPPへの加入も申請し、アメリカを揺さぶっています。

「TPP」や「RCEP」との違いは

日本が加わるこの地域での経済連携協定には、TPP=環太平洋パートナーシップ協定とRCEP=地域的な包括的経済連携があります。

4年前に発効したTPPは、日本のほか、オーストラリアやカナダなどアジア太平洋地域の11か国による経済連携協定です。

当初はアメリカも交渉に参加していましたが、トランプ政権時代に離脱。

一方で、去年、イギリスが加盟申請を行ったほか、中国と台湾なども相次いで申請しました。

また、日本や中国、韓国など東アジアを中心に15か国が参加するRCEPは、世界のGDPと人口のおよそ30%をカバーし、世界最大規模の自由貿易圏です。

TPPやRCEPでは関税の撤廃や引き下げで市場開放を進めることになっていますが、IPEFは関税の交渉は対象になっていません。

▽TPP11か国
▼締約国
日本、シンガポール、ニュージーランド、カナダ、オーストラリア、ベトナム、ペルー、メキシコ
▼未締約国
ブルネイ、チリ、マレーシア

▼加入申請
イギリス、中国、台湾、エクアドル

▽RCEP15か国
▼発効
日本、ブルネイ、カンボジア、ラオス、シンガポール、タイ、ベトナム、オーストラリア、中国、ニュージーランド、韓国、マレーシア
▼未発効
インドネシア、フィリピン、ミャンマー

専門家「IPEF バイデン政権ができる最大限の取り組み」

かつてアメリカ国務省でTPPの交渉などに関わったカート・トン氏は、IPEFについて、課題があるとしつつも、今の国内状況の中でバイデン政権ができる最大限の取り組みだという見方を示しました。

トン氏は「今のアメリカ国内の政治状況は貿易協定を結べるような環境にはない」と述べ、国内産業の保護を打ち出すバイデン政権の姿勢や議会の対立といった事情から、日本がアメリカに呼びかけているようなTPPへの復帰は現実的ではないと指摘しました。

そのうえで「率直に言ってIPEFはTPPほど意味のあるものではないが、今のアメリカにできる精いっぱいの取り組みだ。政治的に可能な範囲内でインド太平洋地域、特に東南アジアの経済発展に関与しようとするものだ」と述べ、関税の撤廃や引き下げを含まないといった課題があるものの、バイデン政権としては議会の承認なしにできる最大限の取り組みだという見方を示しました。

また、IPEFの柱の一つとされる強じんなサプライチェーン=供給網の構築について「友好国の間でお互いを頼れる安心感をもたらすことができる。それはTPPにもRCEPにもなく実りが期待できる協力分野になるだろう」と意義を強調しました。

一方、ウクライナ情勢への対応を迫られるアメリカが中国に十分注力できていないのではという懸念があることについては「重要な課題と喫緊の課題との間でどうバランスを取るかは常にある問題だ」と述べました。

そのうえで「価値観を共有する国々と連携して対処する問題の中で最も重要なものの一つは専制主義国家による侵略行為にどう向き合うかだ。ウクライナ情勢はアメリカのアジア政策から注意をそらすもののように見えるかもしれないが、実は同じ問題だ」述べ、ロシアによる軍事侵攻への対応は中国への対応にも通じるものだと指摘しました。