自公支援の市長が突如、維新に転身

9月24日に投票が行われた大阪・東大阪市の市長選挙は、現職の野田義和氏が、共産党が推薦した新人らを抑え、5回目の当選を果たした。
さかのぼること1か月あまり前の8月18日。過去4回の選挙は無所属で当選し、自民党や公明党の支援を受けていた野田は、突如、大阪維新の会からの立候補を表明。
ことし春の統一地方選挙で、維新に厳しい戦いを強いられ、立て直しを迫られている大阪の自民党や、ともに野田を支援してきた公明党に衝撃が走った。
(絹田峻、馬場勇人、橘井陸)

政策一致を強調

東大阪市は大阪市と堺市に次ぐ大阪第3の都市。“ラグビーのまち”としても知られている。

東大阪市の位置を示す地図

市長、野田義和は自民党の参議院議員の秘書を経て、東大阪市議会議員を5期務めたあと、平成19年の市長選挙で初当選。以来、無所属で当選を重ね一貫して自民党や公明党の支援を受けていた。
ところが、5回目となる市長選挙の告示まで1か月を切った8月18日。
大阪維新の会の公認候補として立候補することを突然表明したのだ。

東大阪市長選挙に立候補を表明する野田義和
東大阪市長選挙への立候補を表明する野田氏

「大阪維新の会のいまの考えと、私の考えは一致している。そういったことを踏まえて、横山幹事長とさまざまな議論をした結果として、この日を迎えることができた」

野田は大阪維新の会公認で立候補する理由について、いわゆる「大阪都構想」の実現のほか、みずからが進めている18歳以下の医療費の実質無償化といった政策などの考え方が、維新と一致しているためだと説明した。

同席した大阪維新の会の横山幹事長は、ことしの春ごろ、野田から「ともに歩む方法がないか」と持ちかけられたことを明らかにした。

ことしの春といえば、大阪維新の会が知事と大阪市長の大阪ダブル選挙を制し、府議会と大阪市議会の双方で過半数を獲得した、統一地方選挙が行われた時期だ。

野田市長の会見に同席する大阪維新の会横山幹事長
野田氏の会見に同席する大阪維新の会 横山幹事長(右)

維新が勢いを見せつける中、5期目を目指す野田は、勝ち馬に乗ろうとしたのではないか、報道陣から質問が相次いだ。

記者)どういう思いで転身するのか?

「政策の方向性というものが維新と一致をした。一致した以上、さらに加速させて成し遂げたい」

記者)維新が独自候補を出すと厳しい選挙になるからではないのか?

「私は、4回、選挙を勝ち抜いている。いわば、市民の皆様から4回の信託を得ている。多くの皆様からご理解をいただいていると思う」

記者)自民・公明両党には、どのように説明をしたのか?

「『こういった方向で考えている』ということは、お話をさせていただいている。当然、政党ということになれば、『そうですか。よかったですね』ということにはならない。しかし、地方政治というのは、それを超えて1つの目標に向かってやるべきではないか」

記者)政治信条が変わった理由は?

「決して、何か大きな心変わりがあったと私自身は感じていない」

記者)維新の公認でなければ、できなかったことがあるのか?

「大阪維新の会が大阪の成長をつくっている、これは事実であると私は認識している。東大阪市も流れのど真ん中に入っていくということは、市の将来にとっても必要だ」

自公は怒り心頭

維新が大阪で存在感を示す中、野田を支援していた自民党と公明党。

「支持者への裏切りだ。
あまりの怒りで気持ちを表現する適切なことばが思いつかない」(自民党議員)

野田の記者会見当日の朝、取材に応じた自民党の議員は、不快感をあらわにし、野田からは全く説明がないと憤った。

告示1か月前の表明について、自民党大阪府連の関係者はこう指摘した。

「ほかの党が候補者を擁立しにくいタイミングを狙ったんだろう」(自民党府連の関係者)

参議院議員を務める公明党大阪府本部代表の石川博崇も記者会見で怒りを込めた。

記者会見する公明党大阪府本部代表、石川博崇
公明党大阪府本部代表 石川博崇

「これまで16年にわたって協力関係を持ち、私も、何度も国土交通大臣室などにお連れしてきたにもかかわらず、大阪維新の会の公認を受けたことは、極めて遺憾だ」

公明党府本部は自主投票を決めた。

一方、ことし春の統一地方選挙で、維新に厳しい戦いを強いられた自民党大阪府連は、立て直しを迫られている状況にある。
野田の突然の表明は、次の衆議院選挙に向け、党本部が主導して、公募していた大阪の10の選挙区のうち8つで立候補予定者となる支部長が決定した、やさきの出来事だった。

自民党大阪府連からは次のような声が聞かれた。

「『自民党とやっても勝てない』ということで、ほかの党に行かれるのは、しかたがない。これが、いまの現実で、しっかり受け止めないといけない」(自民党府連内)

維新の思惑は

当初、維新は、野田とは別の候補の擁立を検討していた。
幹部は、そうした中で、野田から声をかけられたと経緯を説明する。

「最初に野田さんから話が来たのは4月ごろだったと聞いてる。その時は『公認をしてほしい』ということではなく『維新と一緒に何かできないか』という相談だったようだ」(大阪維新の会幹部)

そして、幹部によると、何度か話し合いを続ける中で、政策などの考え方が一致し、7月末には、公認候補として立候補する方向になったという。

維新の府議会議員は、自民党や公明党から支援を受けてきた現職の市長が維新から立候補する背景や意義を語った。

「あれだけ当選を重ねている野田さんでさえ、自民や公明では勝てないということだ。ある意味では象徴的な動きで、今後の選挙にも影響を与えるだろう」
「大阪府内で3番目に大きい東大阪市の市長を維新が取れるというのは大きい。隣接している大阪市や八尾市は維新の市長なので、政策面で連携していくことは、府民にとっても必ずよい効果が出ると思う」(大阪維新の会 府議会議員)


新たに維新の市長が誕生

自民党は、候補の擁立を模索したものの、時間的な猶予もなく断念。
関係者からは次のような声が聞かれた。

「誰もこんな事態になるとは想定していないし、選挙の準備が整うわけがない」(自民党関係者)

5回目の当選を果たした現職の野田義和氏が万歳する様子。

現職の野田に、いずれも無所属の新人で、共産党が推薦した元府議会議員と元東大阪市PTA協議会会長の2人が挑む構図となった市長選挙は、野田が勝利。

5回目の当選を果たしたことについて、野田は「『改革と成長』という、私自身の市政への取り組みはご理解いただけた」と述べた。

5回目の当選を果たした現職の野田義和氏が話す様子。

一方、維新から立候補した選挙戦を振り返り、次のように述べた。

「市民の皆様から当然激励があったが、『なぜ維新に』など、いろいろな批判もあった。しかし、4期16年間の市政運営を批判した方はゼロだった。ただ、ある種の政治闘争はあるわけで、『そこに、なぜ野田が飛び込んだんだ』という、なかなかご理解をいただけないところはあった。街頭での訴えで、ご理解いただけなかったことについては真摯に受け止め、反省もしながら、これから時間をかけて、機会があるごとに市民の皆様にはお話をしていかなければならない」

東大阪市長選挙の結果、大阪府内の43市町村のうち、大阪維新の会が自治体の長のポストを握るのは21の市と町となった。

一方、国政に目を転じると、衆議院議員の任期は10月末で残り2年と、折り返し点を迎え、衆議院の解散・総選挙の時期が政局の大きな焦点となる。

大阪では、前回の衆議院選挙で、19の小選挙区のうち15で維新が勝利した。

21衆院選大阪府内結果
前回衆院選 大阪府内 小選挙区当選者

維新は、次の選挙では、公明党の現職議員がいて擁立を見送ってきた、残る4つの小選挙区についても候補を擁立することにしている。

一連の地方選挙の結果も踏まえ、各党は、次の衆議院選挙に向け、どのような戦略で臨んでいくのか、引き続き、取材を進めていきたい。
(文中敬称略)

大阪・絹田記者
大阪局記者
絹田 峻
2011年入局。北見局、名古屋局、科学文化部を経て8月から大阪局。医療・科学技術のほか東大阪市の取材を担当。
大阪局・馬場記者
大阪局記者
馬場 勇人
2015年入局。高松局、政治部を経て8月から大阪局。大阪府政と大阪維新の会の取材を担当。
大阪・橘井記者
大阪局記者
橘井 陸
2016年入局。徳島局、長崎局を経て8月から大阪局に。大阪府政と自民党の取材を担当。