10月から「ふるさと納税」基準の厳格化でどうなる?

ふるさと納税の仲介サイトでは「10月から値上げ」の文字が目に付きます。こうした値上げの背景にあるのは、10月から始まる、国による基準の厳格化です。ふるさと納税の過度な返礼品競争を防ぐため、10月から、自治体が寄付を募るのに使う経費を寄付額の5割以下とする基準が厳格化されるんです。
自治体では、返礼品の見直しなど対応に追われています。

返礼品の見直しなど対応に追われる自治体

ふるさと納税の基準が厳格化されることを受け、寄付額の値上げや、返礼品の内容を減らすなどの対応に追われる自治体もあります。

愛知県小牧市では、返礼品のうち、特産品の名古屋コーチンの鍋セットや長期保存ができるパンなどの食料品、それに、おしりふきなどの日用品が人気で、昨年度の寄付金額は13億円を超えました。

名古屋コーチンの鍋セットのパンフレット

基準の厳格化に関する国の通知を受けて、返礼品を確認したところ、全体のおよそ6割で経費が寄付額の5割を上回っていることがわかりました。
このため、7月ごろから返礼品を扱う業者と契約上の単価や内容量の変更について交渉を続けてきました。その結果、長期保存ができるパンについてはこれまで、1万2000円以上の寄付で、27個入りのものを提供していましたが、おいしく、災害時の備えとしても人気が高かったことから、必要とする寄付額は維持したまま、24個入りに減らすことになりました。
一方、名古屋コーチンの鍋セットは、内容を減らすことが難しく、寄付額を2割値上げし、これまでの1万円から1万2000円に値上げせざるを得ないということです。

小牧市商工振興課の久田雅樹課長

小牧市商工振興課の久田雅樹課長は「総務省の通知があってから3か月かけて業者と話し合って1品ずつ5割以内に収まるように計算して契約を変更した。地場産品を通じて市内の事業者さんの支援につながる制度ですので、ルールを守り、工夫しながらやっていきたい」と話していました。

そもそも「ふるさと納税」基準の厳格化 なぜ?

「ふるさと納税」基準の厳格化のは背景を図式化

そもそも、ふるさと納税の制度では、寄せられた寄付のうち半分以上を自治体が独自の財源として活用できるようにするため、返礼品の調達費用など「寄付を募るのに使う経費」は寄付額の5割以下に抑えるよう総務省が基準を設けています。
しかし、過度な返礼品競争で5割を超える自治体が相次いだため、基準が厳格化されることになったのです。

新基準とは

具体的には、これまでその経費に含まれるのか、取り扱いがあいまいだったのが、寄付の受領証の発送費用や仲介サイトへの手数料など。
新しい基準では、これらもすべて経費に計上した上で5割以下にするよう求めています。
総務省は経費の基準について「ワンストップ特例制度の関連書類や受領証の発送費用など、募集に付随する事務費用を含む」と明記したほか、仲介サイトへの手数料もすべて経費に含まれることも自治体に通知しました。
また、返礼品の「熟成肉」や「精米」に関する基準も厳格化し、原材料がその都道府県で生産されたものに限るとしています。

これを受けて、全国の自治体は、返礼品の見直しや寄付額の引き上げなど対応に追われているんです。

経費そのものの削減に取り組む自治体も

北海道釧路市の様子

ふるさと納税の経費の基準が厳格化されるのを前に、返礼品の送料を抑え経費そのものの削減に取り組む自治体もあります。
北海道釧路市は、ふるさと納税の寄付は東京や大阪など大都市圏から寄せられる傾向が強く、距離が離れているため返礼品の送料がかさんでいます。
さらに、返礼品の9割近くを魚介類が占め、冷凍や冷蔵で輸送する必要があるため、送料の増額に拍車をかけています。

こうした中、市は、「送料のかからない返礼品」を増やすことで、経費を抑えることにしました。

市が進めているのが、観光客などがその場で返礼品を受け取ることができる「現地決済型」のふるさと納税です。
市内の観光体験施設や飲食店などの店舗に設置されたQRコードを読み取ることで寄付をすることができ、その場で返礼品として電子クーポンを受け取り、支払いに使うことができるシステムです。

電子クーポンの紹介

これまで1か所の宿泊施設で実施していましたが、10月からは観光の体験施設や地場産品を扱う商業施設にまで広げる方針です。
釧路市ではクーポンは事前に紙に印刷されたものを送付していましたが、これを電子クーポンで受け取れるようにすることで、送料を削減できるとともに利便性も高まるとしています。
さらに、市が検討しているのが関東地方での倉庫の利用です。
現在は、寄付をした人に個別に返礼品を配送していますが、関東地方の倉庫に多くの寄付が寄せられる返礼品を一括して送り、そこから寄付した人に配送することで、送料を抑える案も検討しているということです。

釧路市総合政策部の久万田康司・自治体戦略担当部長

釧路市総合政策部の久万田康司・自治体戦略担当部長は「1番考えやすいのは寄付額を引き上げることだが、そうすると釧路市に寄付する人が減ってしまう。なるべくそこは最後の手段として検討し、まずは送料の見直しなどを考えたい。制度改正に伴い対応が変わる難しさはあるが、実際に釧路市に足を運んでもらい、豊かな自然やおいしい海産物の魅力を楽しんでもらう機会も増やしていきたい」と話しています。

制度の健全化には必要な対応策

慶応大学総合政策学部の保田隆明教授

ふるさと納税の制度に詳しい慶応大学総合政策学部の保田隆明教授は、基準の厳格化について「制度が始まって15年がたつが、そのつど、より健全化するために改善している過程の1つだと思う。制度の健全化や発展のためには必要な対応策だ」と述べました。
一方、今後の制度のあり方については「健全な競争環境が整備されることが重要だ。一部の自治体が寄付を過度に集めすぎ、一部の自治体から過度に税が流出しすぎている可能性があり、いま一度、議論を深める必要があると思う」と指摘しました。         

国の今後の対応は

総務省の対応

基準が厳格化されるふるさと納税。
総務省は28日、全国1785の自治体から基準にのっとった計画が提出されたとして、引き続き制度への参加を認めると発表しました。
ただ、「計画どおり実施されない場合は、参加を取り消す可能性もある」として、引き続き、目を光らせることにしています。 

政治部記者
鈴木 壮一郎
総務省担当。34歳。4歳と1歳の娘の寝顔が日々の癒やし。自身の育児時間の少なさを猛省中。
名古屋局記者
田川 優
2021年入局。名古屋が初任地。事件担当を経て、現在は小牧支局で、地域の話題を幅広く取材している。
釧路放送局記者
中山 あすか
2021年入局。札幌局を経て、8月からは釧路局で行政や街ネタを幅広く取材。道東の食と自然に魅了される日々です。