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トラック盗難を追え!

執筆者のアイコン画像藤田梨佳子(記者)
2023年08月01日 (火)

20230727f_1.jpg 人口10万人あたりの自動車盗難の件数が全国で最も多い茨城県(2023年6月末)。茨城県は、道路の延長距離が北海道に次いで全国で2番目に長く、防犯カメラなどをすり抜けるルートが多いことなどが背景にあるといいます。被害が最も多いのが、乗用車ですが、ことしに入って異変が起きています。建設現場や運送などに使われるトラックなどの貨物用の車が狙われるケースが増えています。被害にあった事業者を独自に取材し、どんな背景があるのか、そして、有効な盗難対策について調査しました。

トラックが盗まれる被害が増加

20230727f_2.jpg茨城県那珂市で建設会社を営む男性。駐車場でことし5月、クレーンつきのトラックが盗まれました。

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被害にあった建設会社の社長
この反対側で店を営業していまして、たまたまお客さんが帰る時にスタッフがドアを開けてのぞいたら、トラックが動いていることに気がつきました。夜が遅い時間だったんで動く訳がないので(盗まれると思って)すぐに追いかけてもらったのですが、見失ってしまいました

被害額は300万円以上。トラックの台数が減り、今後の仕事にも影響するといいます。 

被害にあった建設会社の社長
盗難が多いとは聞いていましたが、まさか自分がっていう気持ちです。仕事で使っている大事な車ですから。早く捕まってほしい

 茨城県内では、こうした被害がことしに入って増えています。6月末までにトラックなどの貨物用の車が盗まれる被害は102件。去年の同じ時期に比べて40件増え、1.6倍になっています。警察は新たな傾向だとして警戒を強めています。

車の窃盗は、実行役、盗難車を一時的に保管する役割など複数の人物が分担しながらグループで関わっているとされます。警察は、盗難車の流通ルートを遮断しようと、対応の強化に乗り出しました。

 

警察はヤードへの調査を強化

20230727f_4.jpgその1つが「ヤード」と呼ばれる車などの保管や解体を行っている施設への調査です。過去に、盗難車が運び込まれ、流通ルートの一端となっていたケースがあるためです。まっとうに営業している「ヤード」がほとんどですが、違法な取り引きを行っているところが紛れ込んでいるとみて、警察は、県内にあるおよそ500か所の「ヤード」すべてを調べようとしています。

20230727f_5.jpg調査を受け入れたウガンダ人の男性経営者です。40年ほど前から日本の中古車をアフリカで販売するため、「ヤード」に車を保管しています。

ウガンダ人の経営者
日本車はアフリカでものすごく需要が高い。日本車が人気です

20230727f_6.jpg警察官が質問しながら、税関に届け出た輸出用の証明書にある記載内容と、保管している中古車が一致しているかどうかを調べていきます。輸出用コンテナの中にある車や事務所なども調べ、問題がないことが確認されました。

20230727f_7.jpg経営者の男性は、業界の健全性を確保して適正なビジネスを守っていきたいと、調査に積極的に協力していきたいといいます。

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ウガンダ人の経営者
私が日本に来たときから、人の車を盗んで売るなどという違法な方法で、車を販売している人がいるのを知っています。私は本当にそういう人たちが許せないんです。健全に営業している自動車輸出販売業者のイメージも下がってしまうので

 

茨城県警察本部 安全・安心まちづくり推進室 殿岡秀夫室長
立ち入り調査を強化して、まだ見つかっていない違法ヤード施設を見つけ、盗難車を保管できる場所を減らしていきたい

 

盗まれた車はどこへ?

それでは盗まれた車がどこにいくのか。その流通ルートは、海外に伸びているといいます。去年、茨城県警察本部などが検挙した自動車窃盗事件では、200台の盗難車がUAE=アラブ首長国連邦のドバイに運ばれていました。

 最近のトラックなどの盗難についても捜査関係者は、同じルートで売られている可能性があるとみて調べています。

 

中古車市場が活発なドバイ

20230727f_9.jpg盗難車が海外に運ばれる理由の1つが、日本の中古車の需要の高さです。

中古でも根強い人気があるといいます。

 海外の中古車市場に詳しい専門家に事情を聞きました。

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野村総合研究所 小池純司上級コンサルタント
日本車は、耐久性に優れているので壊れにくい。燃費も比較的、良いように設計されている。だから中古車として買った時の経済性が良いというところがあります。日本の中古車は、一大市場になっているため、部品の流通が中古車間で非常にしやすく、融通して修理することもできる。その観点からみても日本車が非常に人気がある

 

こうしたなか、世界の中古車売買の大きな市場となっているのがドバイだといいます。関税のかからない経済特区を設けているため、取り引きが活発で日本の中古車を供給する拠点となっているというのです。 

野村総合研究所 小池純司上級コンサルタント
ドバイにある経済特区ゾーンには、日本から中古車がどんどん行っています。そこでプールされたものがアフリカの東部からアフリカのいろんな国に行きます。アフリカは、中古車を輸入するのに非常に適した位置にあり、世界の中古車市場の4割を占める巨大市場というところがあります

さらに、経済の成長で建設需要が高まっているアフリカの国では、手ごろな価格で手に入り、長持ちするトラックなどの日本の中古車の引き合いがあるといいます。 

 

野村総合研究所 小池純司上級コンサルタント
アフリカの都市部は新しくビルが建ったり、道路の舗装だったりとか、いろいろな工事が行われています。その工事現場で使うような小型の貨物車の需要が主流というふうに理解しています

 

盗難車はどうやって海外へ

海外へと運ばれている盗難車。実は、通常の輸送の貨物の中に紛れ込ませて運んでいるといいます。税関など輸出する際にはチェックが入りますが、すり抜けているというのです。警察などへの取材で、その方法がわかってきました。

20230727f_11.jpgその1つが車をすり替える手法です。

まず、犯罪グループは、正規のルートで中古車を仕入れ、車検証や製造番号にあたる車体番号、それにコンテナの情報も含め、国の機関に申請し、輸出用としての登録を受けます。

20230727f_12.jpg次に、盗難車を「ヤード」に持ち込みます。輸出用のコンテナに盗難車を入れて、すり替えてしまいます。その後、盗難車が入ったコンテナはそのまま海外へと運ばれ、輸出の際のチェックをすり抜けているんです。一方、正規に購入した車は、日本で売られるといいます。

 そして、もう1つが、車を解体して運ぶ方法です。パーツなどにばらばらにし、スクラップ品などに偽装して海外に輸出しているとみられています。そのまま部品として売られることもあれば、海外で車を再び組み立て直して売ることもあるといいます。

 

どうすれば盗難を防げる?

一度盗まれてしまうと、海外へと運ばれ、戻ってくることは、ほぼ不可能になります。車の場合は、施錠をやぶって盗まれてしまうことがほとんどです。会社の営業や私たちの生活にとっても必需品になっている車をどう守るのか。

 こうしたなか、ある対策で被害を防いだ会社がありました。

 

隠しスイッチ

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茨城県稲敷市にある建設会社では、ことし5月、トラックが盗難にあいそうになりました。

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20230727f_15.jpgドアをこじ開けられ、キーシリンダーが壊された状態で見つかりました。

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盗難を防いだ建設会社職員
盗まれずに済んだ要因の一番は、やっぱり隠しスイッチですね。犯人がエンジンをかけられなかったんだと思います

 

効果を発揮したのは隠しスイッチと呼ばれる装置です。一体どんなものなのか。防犯上、設置か所は見せることができません。イメージ図を使って説明します。 

20230727f_17.jpgハンドルの近くにあるエンジンキー以外に隠された、もう1つのスイッチを車にとりつけ、その隠しスイッチを作動させないとエンジンがかからないしかけです。

 この会社では、警察からのアドバイスを受けて導入していました。 

取り付けるには、車の防犯対策を行っている業者に依頼し、設置工事が必要になります。今回の建設会社では2万円台で設置できたということです。設置は、乗用車でも可能です。

こうした防犯対策を何重にもすることが、大切な車を守ることにつながるといいます。車を盗むのにかかる時間が増えれば、見つかるリスクが高まります。犯行グループなどに盗みをあきらめさせる効果が期待できるからです。

茨城県警察 結佐駐在所 安藤武尊巡査部長
タイヤロック、ハンドルロック。今回の隠しスイッチなどを併用することによって、防犯能力を高めることができますので、組み合わせることが大事です

 

取材後記

自動車窃盗は、全国のなかでも茨城県の被害が多く、身近な犯罪の1つでもあります。茨城県で被害が多くなるのには理由がありました。茨城県は平地が多いこともあって、道路の延長距離は北海道に次いで2番目に長くなっています。そして、農地も広く、防犯カメラなどの設置がない道路も多いといいます。犯罪グループにとって、盗みやすい場所でもあるというのです。しかも、高速道路を使えば、横浜港まで2時間ほどと港とも比較的近いこともあります。

車は会社でも、私たちの日々の暮らしのなかでも、なくなると毎日の生活に大きく影響します。被害を食い止めていくために何が必要か、これからも取材を継続していきたいと思います。

 

 

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執筆者 田淵慎輔(記者),浦林李紗(記者),丸山彩季(記者)
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