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茨城県内の地震リスクは? 専門家「いずれ大地震の宿命」

執筆者のアイコン画像田淵慎輔(記者),浦林李紗(記者),丸山彩季(記者)
2024年01月18日 (木)

2011年3月11日の東日本大震災。
茨城県内は広い地域で建物の倒壊などの被害が相次ぎました。しかし、県内で今後、起こりうる地震の被害はさらに深刻です。
災害リスク評価の専門家は「茨城県は地震の頻度が高く、いずれ大地震が起こってしまう宿命にある地域だと理解しなくてはいけない。特に地震の激しい揺れに対してきちんと備えることが重要だ」と指摘しています。
あらためて地震の揺れの恐ろしさを知り、被害を防ぐためにできることを考えてみませんか。

茨城県内の将来の地震リスクは?

東日本大震災で、茨城県内では24人が死亡、1人が行方不明、42人が災害関連死に認定されています。
もうあんな経験はしたくない、と誰もが思うところですが、茨城県内で今後予測されている地震のリスクは決して安心できるものではありません。

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政府の地震調査委員会が公開している「全国地震動予測地図」では、今後30年以内に震度6弱以上の激しい揺れに襲われる確率が水戸市で81%に上るなど、県内広い範囲で高くなっています。
この予測地図は防災科学技術研究所のウェブサイト「地震ハザードステーション」で拡大するなどして詳しく見ることができます。

また、東北から関東の沖合にある、陸側のプレートの下に海側のプレートが沈み込んでいる「日本海溝」沿いで今後30年以内にマグニチュード7クラスの大地震が発生する確率についても、茨城県沖は80%程度などと推計され、「高い」と評価されています。

そして、茨城県はこれと別に震源域などから次の7つのタイプの地震に分けて、大地震の被害想定をまとめています。


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1)首都直下地震で県南部が震源となった場合の地震
2)同じく首都直下地震で、県西部・埼玉県との県境が震源となった場合の地震
3)北茨城市などで県北部の3つの断層が連動した場合の地震
4)大子町などで県北部の断層が連動した場合の地震
5)太平洋プレート内北部で発生する地震
6)太平洋プレート内南部で発生する地震
7)茨城県沖から房総半島沖にかけての巨大地震

なかでも特に、「1)首都直下地震で県南部が震源となった場合の地震」、「3)北茨城市などで県北部の3つの断層が連動した場合の地震」、「7)茨城県沖から房総半島沖にかけての巨大地震」、この3つで甚大な被害が予測されるとしています。
いずれも大震災以上に深刻な被害が示されていて、このうち、3)の県北部の断層地震で想定されている被害は、日立市や高萩市、北茨城市で震度7を観測し、724人が死亡、1万3275棟の建物が倒壊や焼失するというものです。

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茨城は“地震多発地域”

県は公表している被害想定の中で、「本県では大規模な地震の発生と無縁の地域はありません」としています。
なぜ、これほどまでに県内全域で地震のリスクが存在しているのか。なぜ、全国の中でも茨城県のリスクが高いのか。災害リスクの評価に詳しい防災科学技術研究所の藤原広行 研究主監に聞きました。

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(防災科学技術研究所 藤原広行 研究主監)
「茨城県は地下に太平洋プレートとフィリピン海プレートという2つのプレートが沈み込んでいる地域であり、世界的に見ても珍しい地震多発地域を構成しています。このため、茨城県は日本全国47都道府県の中でも、地震の発生の頻度、こうしたものがいちばん高い地域の1つといえます。」

揺れの被害の恐ろしさ

東日本大震災で亡くなった県内の24人のうち、6人が津波に流されて亡くなりました。一方で、残る18人はいずれも、高所からの転落や倒れてきたものにぶつかるなど、地震の激しい揺れによる死亡でした。
また、当時は建物被害も県内全域に及びました。瓦が落ちる、ブロック塀が倒れるなどの被害が相次いだことは記憶にも強く残っていると思います。
県内では、津波に備えるだけでなく、揺れによる被害にも備えが必要です。県の被害想定も、そのことを示しています。「7)茨城県沖から房総半島沖の地震」では、津波や液状化による被害が多く発生し、96人が死亡、建物1万棟余りが被害を受けるとされていますが、「3)県北部の断層地震」のほうが、死者数も、建物被害もこのタイプの地震を上回っています。

(防災科学技術研究所 藤原広行 研究主監)
「東日本大震災の前は、県北部で活断層タイプの地震活動は全くありませんでした。震災翌月に茨城県北部から福島県いわき市にかけて活断層地震が起きて、その後から地震活動が活発になり、微小地震の活動が今も続いています。2016年12月には、県北部の高萩市で震度6を超える地震が起きました。それ以来、震度6クラスの地震は起きていませんが、さらに大きな揺れが起きる可能性があります。

国の公表しているハザードマップなどを見ても、非常に強い揺れ、震度6弱以上の揺れに見舞われる確率は日本の中でも最も高い地域です。茨城県では、地震への備えは、津波への備えもありますが、特に揺れに対してきちんと備える覚悟、これが大変重要であると考えています。」

地震が多いと大地震のリスクも高まる

また、藤原さんは、体に揺れを感じる震度1以上の「有感地震」の多さが茨城県の地震の特徴だと言います。特に茨城県は震度4や震度3の地震が他の都道府県より多くなっています。

(防災科学技術研究所 藤原広行 研究主監)
「たくさん小さな地震があるところは大きな地震が起きやすいという法則がありますので、茨城県は、いつ強い地震に見舞われてもおかしくない状況になっています。」

ここで、気になったことがあったので質問してみました。茨城ではときどき、「県内はふだんから小さい地震が多いから、地震のエネルギーを解放していて大きな地震は起こりにくいんだ」という話がまことしやかに語られます。これは正しくないということなのでしょうか。

(防災科学技術研究所 藤原広行 研究主監)
「私も、長く茨城県にお住まいの方と話をしているとそういう話を聞きます。なので、講演会や地元の人たちにお話をする機会では、『それは違うんだよ』ということを繰り返し説明しています。」

藤原さんは「直感的に分かりやすいところまでかみ砕いた」と言って、こう説明してくれました。

単純化して言うと、地震には「マグニチュードが1減ると、地震の起きる回数は10倍になる」という法則があるそうです。一方で、地震の規模を表すマグニチュードは、2増えるとエネルギーが1000倍になります。

なので例えば、マグニチュード7の地震と5の地震で比較すると。

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地震の回数では小規模な地震、つまりマグニチュード5の地震は、マグニチュード7の地震の100倍多く起きます。
回数の多い小規模な地震でエネルギーが十分解放されればいいんですが、そうはいきません。エネルギーを比較すると、マグニチュード7の地震はマグニチュード5の地震の1000倍のエネルギーを持っています。大規模な地震のエネルギーを解放するにはとても足りないということになります。

(防災科学技術研究所 藤原広行 研究主監)
「いま私たちが知っている地震の発生に関する法則性から見ると、大きな地震でたまって解放されるエネルギーというのは小さな地震がいくら起きたとしてもどうしても残ってしまうのです。マグニチュード7クラスの地震が起こりえる地域では、そうした地震が起こらないかぎり、そこの地下にたまっているひずみのエネルギーを解放できません。いくら日頃マグニチュードの小さな地震がたくさん起きたとしても、やはりエネルギーがたまり続けていて、いずれ大きな地震が起こってしまう。こういう宿命にあるところにわれわれは住んでいることを理解した方がいいと思います。」

能登半島地震 被害の実態は

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藤原さんが現地で撮影した写真

2024年の元日発生した、能登半島地震。藤原さんは、現地調査へ行きました。
防災科学技術研究所では全国に約1700の地震計を設置していて震度速報や緊急地震速報にいかされていますが、今回の地震では奥能登地域で停電が発生し、機器の状態を調べることが主な目的でした。

また、輪島市や珠洲市で大規模な火災や住宅倒壊の現場も確認しました。
政府の地震調査委員会の分析で、能登半島地震では複数の活断層が関係している可能性が高いことが分かっています。

ただ、藤原さんは、能登半島で断層が連動して大きな地震になるということは十分想定されていなかったとも話します。

(防災科学技術研究所 藤原広行 研究主監)
「今回の地震は震源が海底ではありますが、いわゆる活断層と言われる内陸の浅いところで起きる地震だと見られています。能登半島の北側に活断層があるというのは知られていましたが、それらが連動して今回のような大きな地震になるというのは研究され始めていたところで、被害想定のシミュレーションを含めてまだ対策が十分に行き届いていないところで地震が起きてしまいました」

県内で想定される「活断層型」の地震リスク

藤原さんは県内でも、特に県北地域は今回の能登で起きたような活断層タイプの地震が起こる可能性があると指摘しています。
県の示した7つのタイプの中では、「③北茨城市などで県北部の3つの断層連動」がこれにあたります。

想定されるマグニチュードは能登半島地震の「7.6」を上回る「7.8」。
冬の深夜に発生した場合、死者は730人(うち、建物倒壊による被害が650人、火災による被害が80人)。
全壊の建物は1万2000棟(うち、揺れによる被害が9700棟、火災による被害が1600棟)。
避難者は8万8000人、建物の40%以上で停電するなどライフラインにも深刻な影響が想定されています。

藤原さんは孤立状態になる集落も出るおそれがあるとして、備蓄など地震への備えをする必要があると指摘します。

(防災科学技術研究所 藤原広行 研究主監)
「茨城では昔から活断層の地震は心配ないんじゃないかと言われたこともありましたが、東日本大震災のあと活断層タイプの地震が急に起こって余震も続いている。震源が浅い、活断層タイプの地震は揺れが非常に強くて建物の被害、道路の寸断や崖崩れなどが起こりやすくなる。県の北部は道路が限られているところもあるので孤立化することへの備えを改めて考える機会にしてほしい」

液状化リスクも

能登半島地震では液状化による被害も多数確認されています。

県の想定で液状化による建物被害が最も多くなるのが「⑦茨城県沖から房総半島沖にかけての巨大地震」です。

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「茨城県地震被害想定調査報告書」より

液状化によって、取手市や神栖市、つくばみらい市などを中心に県内全域ではあわせて760棟が全壊。また、半壊は県内全域で6100棟に上ると想定されています。

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神栖市の液状化
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潮来市の液状化

東日本大震災でも鹿嶋市で2570棟、潮来市で2543棟、神栖市で1660棟など全県では9333棟の住宅に被害が出ました。

藤原さんは河川が多い県南部などで液状化のリスクを指摘します。

(防災科学技術研究所 藤原広行 研究主監)
「県南地域、特には利根川とか鬼怒川。県北地域だと那珂川や久慈川がありますが、川の近くは液状化しやすい地盤がたくさんあります。県南地域は東日本大震災のあとも多数の地点で液状化の被害にあっていて、その記憶もあると思います。液状化したところは次の大きな地震でも再び起きてしまうという性質もあるので、液状化が起きた地点は今後も注意が必要です」

ピンポイントでリスクを知る

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地域の災害を知る上でまずは確認してもらいたいのは自治体が整備しているハザードマップですが、藤原さんは地震リスクを知る上で防災科学技術研究所で提供している「地震ハザードカルテ」も活用してほしいとしています。

自宅の住所や地図からピンポイントで地震のリスクを「診断」してくれるという無料のサービスです。
専門的な内容も含まれていますが、30年・50年というスパンで震度5や6の地震が起きる可能性や表層地盤の「ゆれやすさ」などを確認することができます。

被害をイメージしてすぐにも備えを

いつ、巨大地震に襲われてもおかしくない。そしてその確率も全国の中で高いと予測されている。そんな茨城県に住む私たちは、こうした地震のリスクをどう受け止めたらいいのでしょうか。

茨城県の被害想定では、対策をとることで被害を減らすことができるということも試算されています。具体的には、自宅の耐震化やどこに避難するかの確認などです。すぐできる対策として家具の固定なども挙げられています。
地震は前触れなく起こるものですし、想定されている地震のうちどれが次にやってくるのかも事前には分からないので、どうしても被害をすべて防ぐのは難しくなります。それでも、事前にどれだけ準備ができているかで、地震が起きた後の運命が変わると言っても過言ではありません。例えば、家具を固定していれば倒れてきて下敷きになってしまうことは避けられます。

20230310_2.jpg「いま、できる対策」で防げる被害は多いです。東日本大震災でも多くの人が防げたはずの被害にあっているので、油断することなく、必要な備えを進めてください。

 

2022年3月 記事公開:田淵慎輔 記者

2023年3月 記事更新:浦林李紗 記者

2024年1月 記事更新:丸山彩季 記者

 

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執筆者 田淵慎輔(記者),浦林李紗(記者),丸山彩季(記者)
2024年01月18日 (木)