認可外施設での事故を防げ
藤田梨佳子(記者)
2023年06月21日 (水)
昨年7月、茨城県の認可外保育施設で、うつ伏せで寝ていた7ヶ月の男の子が死亡しました。その後の調査で、保育士が不足しているなど施設によるずさんな運営が明らかになりました。
保育施設は、茨城県の認可を受けた施設のほか、認可を受けていない施設も多くあります。認可外の施設は、夜間に子どもを預けたい場合などの受け皿になっている一方、行政による指導監督が行き届きにくいことが指摘されています。
施設で子どもの死亡事故が起きた土浦市での再発防止の取り組みを取材しました。
認可外保育施設の需要
水戸市にある認可外保育施設「みるくほいくえん」は、夜は15人から20人の子どもが預けられてきます。
認可外保育施設は、保育士の人数の基準はありますが、設置にあたって都道府県の認可は必要ありません。営業時間などは自由で、24時間営業している場合もあり、遅くまで働く保護者から根強い需要があります。
「みるくほいくえん」も24時間営業で、いわゆるベビーホテルとされる施設です。
保育士たちは深夜も子どもたちの様子を注意しているため、負担の多い仕事となっています。
そのため、24時間営業のなり手が少ないという問題もあります。
みんなが寝ている時間に働くので、やっぱり大変です。 深夜1時2時というのは、呼吸などがやっぱり一番心配になる時間帯なので、特に注意しないといけません。
夜間まで預かってもらえたり、風呂やご飯を食べさせてもらえたりする施設はなく、仕事が夜遅くなる身としては、とても助かっていました。
子どもを家に1人で留守番させることは出来ないので、夜間保育がなくては働きに出ることが出来ないと話す母親がいます。そういう母親がいる限り、24時間営業の保育施設は、なくてはならない場所だと思います。
事故の背景にあった行政の調査の形骸化
施設を必要とする声がある一方、茨城県では、2015年以降に4件相次いだ子どもの死亡はすべて認可外施設で起きたものでした。
去年7月には、土浦市の施設で、うつ伏せで寝ていた生後7か月の男の子が死亡する事故が起きています。
事故後検証委員会の調査で、保育士の人数が基準を下回っていたことが判明し、土浦市が行っていたこの施設への立ち入り調査がこうしたずさんな運営実態を見抜けなかったことが検証委員会に指摘されました。
土浦市の調査は、形式的な調査となっており、施設に対する指導監督が不十分であった。さらに市は施設長が改善する意思を見せないにもかかわらず改善勧告を行わずに文書指導を繰り返していた。
改善に向けて変わる土浦市
乳児死亡事故を受けて、土浦市は立入調査の強化に取り組み始めています。これまで年度末に行っていた調査を年度初めに実施し、問題がある施設には年度内に何度も調査していくことにしています。
調査は、保育課の職員が2人1組で行い、園長や保育士から保育士の人数が基準を満たしていることや、ブレスチェックを行っていることなど、直接聞き取りを行います。
事故のあと、調査では土浦市独自のチェックリストを導入しました。
事故後の検証委員会で、「施設長の言い分を鵜呑みにし、裏付けとなる書類を確認しなかった」と指摘されているため、勤務表や、ブレスチェックを記録した書類を、調査の中で漏れなく見るよう徹底する目的です。
担当者の専門性をどう高めるかが課題
一方で課題もあります。調査に向かう担当者は役所内の人事異動で入れ替わり、慣れていない場合が少なくないのが実情です。担当者の中には、前任が選挙管理委員会と全く関係のない部著から来ている担当者もいます。取材したこの日、調査員の1人は、今回が異動してから2回目の調査だと話していました。
調査を終えた後、担当者同士が話し合い、ブレスチェックを重点的に確認していく必要性などを確認していました。行政は毎年異動があるため担当者の専門性をどう高めていくのかが課題となっています。
頻繁に行う業務ではないので、なかなか慣れない部分もあります。 慣れないのでチェックに時間をかなり要しました。調査について、もっと勉強して知識をつけていかないといけない。
調査員には、ベテランもいれば当然新人もいます。ただこの調査を実施しないとやはり子供たちの安全を確保できないので、やはり市の責務としてやっていかないとならないと思っています。
県内で起きた認可外保育施設での子ども死亡
茨城県の認可外保育施設での死亡事故は、2015年以降、4件起きています。つくば市で1件、水戸市で2件、土浦市で1件、いずれも24時間営業でベビーホテルと呼ばれる施設で起きています。
4件のうち水戸市の2件は、同じ施設で起きたものでした。
2016年に、7か月の女の子が、2年後の2018年に、2ヶ月の男の子がいずれもうつぶせ寝により死亡しています。
施設には、2人配置しないといけないとされている保育士が1人もいませんでした。
そして4件目が土浦市の施設で、土浦市の施設は、保育士が2人いないといけませんが、1人しかおらず、基準を満たしていませんでした。
行政は見抜けなかったのか
水戸市、土浦市のケースは、いずれも保育士の人数が足りていなかったことが問題視されました。
行政がこうした運営実態を十分に見抜けていなかったのです。
土浦市の事故の経緯は、事故から4年も前の2018年に遡ります。
検証委員会の報告書などによりますと、土浦市は、2018年に、事故のあった保育施設が、1人で複数の乳幼児を保育しているという情報を得て、事前通告なしの立ち入り調査を行った結果、保育士が1人もいない基準違反を確認し、文書指導を行いました。
土浦市は、その後、保育士2人が在籍しているという証明書を施設に提出させていますが、検証委員会は、「実際に施設に出向いて、保育士がいるかどうか確かめることをしなかった」と指摘しています。
事故が起こるまで
2018年以降、再び保育士不足の違反を土浦市が把握したのは、事故のおよそ半年前、2021年の12月です。12月に立ち入り調査をしたあと2月に文書指導、3月に立入り調査と、4月に文書指導を行っていますが、施設側は、「お金がないので雇うことができない」と市に回答していて、改善の意思が見られませんでした。
それから7月、行政処分を視野に入れた文書を出した5日後、事故が起きてしまいました。
もっと早く対応できなかったのか
検証委員会は、2つの問題点を指摘しています。
1つは、検査が形式的であることです。毎年の立ち入り調査で、保育士の出勤記録などの裏付けとなる資料の提出を求めて確認することがなく、施設側の嘘の申告に気がつけなかったと指摘しています。
2つめは、問題を指摘しても、行政処分に踏み切れなかったことです。
報告書では、施設側が改善の意思が見られなかったのに、行政処分に切り替えることなく、文書指導を繰り返したと指摘しています。
事故を防ぐには
専門家は、保育の現場の専門性の高い人物が訪問し、現場の問題を解決することにつながると指摘しています。
園長経験者など、園運営もされたことがあり、かつ保育もわかっているっていうような人がそこの地区を少し何園かあってそこを回っていく制度や、あら探しをするのではなく、十分安全安心に機能していることを確かめていき、施設に困りごとがあれば、適切にアドバイスするというようなやり方で、確実に回っていくっていうのが制度化されるといいかなと思います。
認可外保育施設の必要性
働き方が多様になる中で、認可外保育施設は必要とする声があります。実際、茨城県内にもことし1月の時点で325か所、ベビーホテルに限っても16か所あります。
県は、多くのところは法令を守って運営されているとしています。一方で、認可外保育施設での死亡事故は、茨城県だけでなく、去年沖縄県で、ことし3月に宮崎県で起きるなど、全国的に課題となっています。
安心して子供を預けられる施設にするために、行政にはより一層の対応が求められると思います。
取材後記
取材したみるくほいくえんには、15人ほどの子どもが毎日やってくるということで、取材した日も15人が親の仕事が終わる明け方まで、預けられていました。
園長は、子どもたちがおうちでひとりぼっちになることがないように、園をやっていると話していました。
認可外保育施設は、行政からはほとんど金銭的な援助がなく自力で経営していかないといけず、なかには経営が苦しい園もあります。
そうしたなかで、保育士を雇えているのかなど、安全性を担保するために園の状況を常に把握する行政の責務は大きいと感じました。