【タイムライン】TX延伸をめぐる動き、まとめました
鈴木瞬(記者)
2023年06月27日 (火)
茨城県つくば市から千葉県と埼玉県を経由し、東京・秋葉原へとつながるつくばエクスプレス。いよいよ、茨城県が県内の延伸方面を決めます。延伸をめぐる茨城県や市町村の動きをまとめました。
延伸先は土浦方面に決定 NEW!!
茨城県の大井川知事は、6月23日の記者会見で2050年ごろの構想として掲げる茨城県内での延伸先について、筑波山方面、水戸方面、茨城空港方面、土浦方面の4つの候補の中から土浦方面に決定し、土浦駅でJR常磐線と接続することを目指して構想の具体化に向け検討していくと発表しました。土浦方面に決めた理由について「実現可能性のある延伸先であることが、最も重要だと考えて判断した」と説明しました。
土浦方面への延伸を目指すと決まったことについて、土浦市の安藤真理子市長は、「土浦市の描いた夢が現実へと大きく動きだしたことを大変うれしく思っている。延伸による効果を最大限発揮できるよう新たな事業の検討を進めていきたい。土浦延伸が実現することで県全体の発展に結びつくよう県と連携を密にしながら取り組んでいきたい」と話しました。
また、県は、土浦方面への延伸が実現したあと、状況が変われば、茨城空港方面への延伸についてあらためて議論するとしています。
延伸方面は決まりましたが、その実現には課題が残されています。
県は、土浦方面への延伸のメリットとして、東京圏からの新たな人の流れの創出や、公共交通の利用促進のためのサービスレベルの向上、それに、つくばエクスプレスとJR常磐線がつながることで災害時や輸送トラブルの発生時には相互に補完しあえることなどを挙げています。一方で、県の調査では、土浦方面に延伸した場合の概算事業費は1400億円に上る見込みです。
つくばエクスプレスの運行会社の株主となっている茨城県と東京都、それに千葉県、埼玉県はかつて、「東京方面以外への延伸はそれぞれの県が費用を負担する」ということで合意していますが、茨城県は、単独で巨額の費用を出すことは難しいと考えています。
このため大井川知事は、東京都が都心と臨海部を結ぶ新たな地下鉄の事業計画案でつくばエクスプレスとの接続を検討するとしたことに注目し、会見では「合意をなかったことにしてもらい、県内延伸と東京延伸を同時に進めようという構図に持っていきたい」と述べて東京方面への延伸と県内への延伸をセットにすることで3都県にも費用負担について理解を得たいという考えを示しました。
石岡市が再び要望 NEW!!
石岡市は6月22日、市内を経由して茨城空港に延伸することを改めて県に要望しました。
石岡市は、地元の経済団体などと協議会を立ち上げて市内を経由しての茨城空港への延伸を目指していて、協議会の会長を務める谷島洋司市長などが県庁を訪れ、横山征成副知事に要望書を手渡しました。要望書では「茨城県を大きく変化させるだけの可能性を見出せる延伸方面を切に望む」として、石岡市を経由した茨城空港への延伸の実現を求めています。
要望のあと、谷島市長は「第三者委員会は土浦方面としているが、県全体の発展と、県民の夢を将来につなぎたいという思いをしっかりと伝えたい」と話していました。
“1つに絞る”から始まった
茨城県は以前から、2050年ごろの構想として、つくばエクスプレスの延伸先に、筑波山方面、水戸方面、茨城空港方面、土浦方面の4つの方面を挙げていました。
しかし、延伸をめぐる動きが活発になったのは、2022年に入ってからです。きっかけは、県が令和4年度の当初予算に、県内の延伸について調査・検討する事業費として1800万円を初めて盛り込んだことでした。
県は、事業費や収支、地域経済への効果などを調査し、有識者による検討などを経て、2023年3月には、延伸する方面を1つに絞り込みたいとしました。
土浦方面への延伸
これを受けてまず動き出したのが、土浦市です。2022年3月には市政運営の指針に延伸の実現を目指すと明記し、4月には、安藤真理子市長を会長に、商工会議所などと「TX土浦延伸を実現する会」を立ち上げました。
6月12日の決起大会には約580人が集まり、安藤市長は「この大会は、私たちの思いを最大限に高め、土浦延伸の実現という夢に向かって大きく動き出す第一歩となる。オール土浦で頑張りましょう」とあいさつしました。
6月29日には、安藤市長たちが、小善真司副知事に約2万2200人分の署名と市内への延伸を求める要望書を手渡しました。要望書では、土浦市への延伸のメリットについて▼常磐線を通じて沿線都市の活力を県域全体に波及させられることや、▼高校が多数立地する土浦市とつくば市が結ばれることで教育圏が大幅に拡大することなどを挙げています。土浦市への延伸をめぐっては、土浦市議会も延伸した場合の財政負担や効果について独自に調査することにしています。
12月21日、茨城県土浦市への延伸の機運を高めようと、「TX土浦延伸を実現する会」がJR土浦駅前で、通勤や通学などで行き交う市民に「TXを土浦に延伸させましょう」などと呼びかけながら、チラシとオリジナルのボールペンを配りました。
安藤市長は「TXが持っている活力を県全体に広げるためにTXをJR常磐線につなぐことが必要だと思う。土浦に延伸させたいというみなさんの思いを今後も県に届けていきたい」と話していました。
石岡市経由・茨城空港方面への延伸
一方、土浦市に隣接する石岡市も動き出しました。市と地元の経済団体などは、石岡市を経由して茨城空港への延伸を目指し、こちらも谷島洋司市長を会長とする「TX石岡延伸推進協議会」を立ち上げました。
5月17日の初会合で、谷島市長は「石岡市は県のほぼ中央に位置しており、地域間の連携を支える役割が期待されているとともに、常磐道やJR常磐線も通っていて、県の観光の玄関口として豊かな環境資源を有している。石岡市を経由した延伸を目指して力を結集しましょう」と呼びかけました。
7月17日には、JR石岡駅前で「TXいしおか延伸フェスタ」と名付けた決起集会を開きました。
谷島市長は「市民が参加しやすい雰囲気のなかで延伸について考える機会をつくるため、フェスタを開催することにした。市民の思いを1つに集めて市内を通過する延伸の実現を前進させましょう」と意気込みを語りました。
会場には、ウサギと触れあったり、バルーンアートを楽しんだりできるコーナーもあって、大勢の親子連れが訪れていました。
つくばエクスプレスと常磐線の電車が並んで走る鉄道模型も置かれ、子どもたちが身を乗り出すようにして見ていました。
集会にあわせて駅や商業施設で延伸の実現を呼びかける街頭活動が行われ、通りかかった人たちに署名をお願いしていました。
10月17日、「TX石岡延伸推進協議会」が、市内を経由して空港に延伸することを茨城県に要望しました。谷島市長が横山征成副知事におよそ2万2000人分の署名と要望書を手渡しました。
要望書では「石岡市が有する特徴や強みを最大限発揮し、首都圏と茨城空港や県北・鹿行・県南各方面を結ぶことで茨城県全体を持続的かつ均衡的に発展させるためには石岡市を経由して空港へ延伸することが必要である」としています。
要望のあと、谷島市長は「 “茨城県のへそ”にあたる石岡市を経由すれば県全体が活性化するはずだ」として、石岡市が茨城県の真ん中に位置しているメリットを強調しました。
石岡市は延伸に向けた機運を高めようと、市内を経由した空港延伸をテーマにした絵画を市民などから募り、11月21日に応募作品のなかから優秀な作品を選びました。
「小学校中学年の部」では、行き先を知らせる表示板に「茨城空港」と記された電車の周りに、市の特産の柿や梨、それに地域の祭りに登場する幌獅子などを絵の具で鮮やかに描いた作品が最優秀賞に選ばれました。
審査のあと、谷島市長は「楽しい未来が表現されたみなさんの作品を見て、県全体の発展のために市内を経由した延伸をしてほしいと改めて思った」と話していました。
茨城空港経由・水戸方面への延伸
一方、水戸市が目指すのは、つくばから茨城空港を経由して、水戸までの延伸です。5月23日には、水戸市と石岡市、かすみがうら市、小美玉市、茨城町の5つの市と町の市長や町長たちが水戸市内のホテルに集まり、協議会の初めての会合が開かれました。
石岡市は独自の協議会に加え、この会にも加わっています。
会合で、会長を務める水戸市の高橋靖市長は「鉄道を1本通すことでまちづくりの選択肢が大きく広がる。関係する市・町で広域的に連携し、延伸に向けた機運を盛り上げたい」とあいさつしました。
8月24日、鉾田市が加わり7市町となった協議会が県庁を訪れました。水戸市の高橋靖市長が横山征成副知事に約9万3000人分の署名と、延伸を求める要望書を手渡しました。要望書では、「首都圏第3の空港である茨城空港を経由し、県都水戸までを結ぶことが、県全体を持続的かつ均衡的に発展させる上で極めて有効な手段である」としています。高橋市長は、要望書を読み上げたあと「特段のご配慮、よろしくお願いします」と念を押していました。
茨城空港方面への延伸
茨城空港方面への延伸を目指そうと空港周辺の土浦市・石岡市・つくば市・かすみがうら市・行方市・鉾田市・小美玉市の7市の議会は、4年前に期成同盟会を立ち上げました。
11月18日に議長らが横山征成副知事に要望書を手渡しました。
要望書では、コロナ禍前まで過去最高の利用者数を更新していた茨城空港のルートに延伸されれば県の発展の起爆剤になるとして新型コロナによる県内の地域経済の低迷を回復させるために不可欠だなどとしています。期成同盟会の会長を務める小美玉市議会の荒川一秀議長は、「陸と空を連携させることで沿線が活性化すれば最終的には茨城県全体の発展につながる。幅広い考え方で検討しながら茨城県を発展させていきたい」と話していました。
筑波山方面への延伸
県が示した4つの延伸先候補のうち、筑波山方面への延伸をめぐっては具体的な動きは見られず、つくば市は筑波山方面ではなく、東京駅への延伸を要望しています。
茨城県の動き
延伸を目指す自治体の動きが活発になっていることについて、大井川知事は6月23日の会見で「延伸については費用対効果や採算性などの調査を踏まえて専門家による検討委員会で決めていくもので、運動が活発だったから決まるというものではない」と述べ、冷静な対応を求めました。
そして「延伸はぜひ実現したいと思っている」としながらも、「延伸先を決めてもスタートラインにやっと立てたという程度で、関係者の合意形成など、乗り越えなければならない壁は非常に高い」という認識を示しています。
12月12日、延伸方面の絞り込みを検討する第三者委員会(委員長=筑波大学社会工学域・岡本直久教授)の初会合が開かれました。
会合のなかで県は、延伸方面を絞る際の判断基準を示しました。▼東京圏からの新たな人の流れの創出、▼つくばと水戸という2つの都市圏の交流拡大、▼自動車からの転換に向けた公共交通サービスのレベル向上、▼延伸を起爆剤とした茨城の未来のさらなる飛躍の4つです。
県は延伸方面それぞれの需要の予測や必要となる事業費を調べていて、第三者委員会はこの調査結果や4つの判断基準などに基づいて延伸先を1つに絞り込み、2023年2月に大井川知事に提言書を提出する予定です。
県はその後、県民に広く意見を募るパブリックコメントを行い、3月下旬に延伸先を決定することにしています。
1月5日、大井川知事は「いば6」に出演し、「東京延伸のタイミングで茨城県内の延伸を実現することが最も可能性が高いと思っており、そのタイミングを逃してしまうと永遠に県内延伸のチャンスを失ってしまうと恐れている。決断しなければいけない時に決断しておくことが大事ではないかと」と話していました。
一方で、「『1つに絞ることイコールそこで実現する』という単純な話ではない。国や東京都、千葉県、埼玉県の理解を得ながら進めていかなければならず、1つに絞ってやっとスタート台に立てるという話だと思う」と、慎重な発言もしていました。
1月16日、茨城県内での延伸先について検討している県の第三者委員会の2回目の会合が非公開で開かれました。関係者によりますと、県から提言のたたき台として土浦方面への延伸案が示され、議論が交わされたということです。
県は、土浦方面への延伸の利点として、▼つくばエクスプレスのつくば駅とJR常磐線の土浦駅までは直線で10キロほどで、4つの方面のなかでは最短距離で常磐線と接続できることや、▼つくば市と土浦市を結ぶ道路は通勤の時間帯以外でも混雑している区間があるため、利便性の向上が期待できることなどを挙げています。
第三者委員会では、今後も書面のやりとりなどで議論を続け、2月9日に予定されている最後の会合では延伸先を1つに絞り込んだ提言書をとりまとめて、大井川知事に提出することにしています。
2月6日、茨城県は、第三者委員会の会合を、2月9日から3月8日に延期すると発表しました。
2月9日の第三者委員会の3回目の会合では、延伸先を絞り込んだ提言書をとりまとめてその日のうちに大井川知事に提出する予定でした。
しかし、茨城県によりますと、委員から「提言をまとめるためには新たな調査データが必要だ」という指摘があったということで、調査の時間を確保するため3回目の会合を3月8日に延期すると発表しました。
また、3回目の会合では提言はとりまとめず、3月下旬に開くとしている4回目の会合でとりまとめて、その後、大井川知事に提出するということです。
これに伴い、県民に広く意見を募るパブリックコメントの実施は4月以降になる見込みで、延伸先の決定は令和5年度に持ち越されることになります。
3月3日に開かれた県の定例県議会の代表質問で、大井川知事は県内への延伸について、第三者委員会からの提言を踏まえ、令和5年度にパブリックコメントを実施して決定する方針を説明しました。
一方で、延伸にかかる費用について「莫大な総工費が予想され、茨城県だけで負担することは困難であり、国の支援や、関係する都県からも負担のあり方を含む事業の枠組みの合意を得ていく必要がある」と述べ、沿線の東京都や埼玉県、千葉県との間で合意の形成を進めていく考えを示しました。
また、東京方面への延伸については「県内延伸とあわせて実現することで多大な相乗効果が得られ、茨城県はもとより首都圏の発展にも大きく寄与する」と述べ、県内延伸と東京延伸を一体的に進めるため、調整を進めていく方針も示しました。
3月8日、第三者委員会の会合が非公開で開かれ、3月31日に延伸方面を1つに絞った提言書をまとめ、大井川知事に手渡すことが決まりました。
第三者委員会では当初、2月9日に提言書をまとめる予定でしたが、委員から追加の調査を求める意見が出されたため、とりまとめの時期を延期していました。
会合では追加調査の結果が示され、議論が交わされたということです。県は調査内容については明らかにしていませんが、「これまでの議論を充足させるもので議論の方向性が大きく変わることはないと思う」としています。
第三者委員会は、3月31日、最後の会合を開き、土浦方面を延伸先とする提言書をまとめて大井川知事に提出しました。
土浦方面を選んだ理由について、提言書では「延伸によって得られる経済面などの効果と費用のバランスなどを考慮し、最善と判断した」としています。また、土浦方面に絞った上で、JR常磐線との接続については土浦駅と神立駅の2つの駅を比較し、「土浦駅に接続したほうが収支採算性などで優位性が認められる」としています。
県は、提言を踏まえてパブリックコメントを実施し、ことし6月末までに延伸方面を決定することにしています。
提言書を受け取った大井川知事は、「延伸の実現によって経済の発展や社会的利便性の向上などさまざまなメリットがある。まずは周辺自治体の理解を得て、幅広い観点から延伸に向けてアプローチしていきたい」と話していました。
第三者委員会が延伸方面を絞る上で、最も重視したのが、「実現可能性」でした。
県が行った調査結果によると、輸送人員では水戸方面が最も多くなっていますが、路線距離が長いことから、輸送密度では、土浦方面も多くなりました。
概算の事業費は、高い順に、水戸方面が約4800億円、茨城空港方面が約2400億円。土浦方面と筑波山方面がいずれも約1400億円で、最も安価となりました。
収支採算性は、4方面いずれも赤字になるという調査結果でした。1年あたりの赤字の額は、大きい順に、水戸方面がマイナス58億円、茨城空港方面がマイナス50億円、筑波山方面がマイナス22億円。土浦方面が最も赤字の額が小さく、マイナス3億円でした。
費用対効果を示す指標である「費用便益比」は、値が「1」を上回れば事業の効果があるとされています。最も「1」に近かったのは土浦方面で、「0.6」でした。
こうした結果を踏まえて、第三者委員会は、延伸先を土浦方面に絞り込みました。
ただ、毎年3億円の赤字になるという結果は、課題として提言書に盛り込まれていて、第三者委員会の委員長を務めた筑波大学の岡本直久教授は「費用対効果の分析の結果が土浦方面のいちばんの決め手となったが、基準には達しておらず、議論を重ねていく必要がある」と話していました。
5月1日、茨城県は延伸に関する資料を県のホームページなどで公表し、広く意見を募るパブリックコメントを開始しました。 関係者によりますと、県は4月28日、第三者委員会による提言を踏まえて、延伸先は土浦方面としてJR土浦駅で常磐線と接続するという考えを、自民党の会合の中で説明したということです。パブリックコメントでも、こうした県の考え方が示されています。 パブリックコメントは5月30日まで行い、県は、寄せられた意見を踏まえ、ことし6月下旬をめどに延伸方面を正式に決定することにしています。
県は5月30日までパブリックコメントを募ったところ、283の個人や団体から意見が寄せられ、県によりますと、このうち82%にあたる232の個人や団体が県内への延伸に賛成だったということです。
意見の提出者が最も多かったのは、土浦方面で、125の個人や団体。次いで茨城空港方面が71、水戸方面が20、筑波山方面が13だったということです。土浦方面への延伸については、実現可能性が高いことや公共交通の利便性アップにつながること、県全体への波及や将来的には茨城空港への延伸にもつながることなどを評価する意見が寄せられたということです。
一方で、延伸そのものに反対する意見も35あり、採算性に乏しく赤字路線化が懸念されるといった内容だったということです。
県は寄せられた意見などを踏まえ、近く延伸方面を正式に決定することにしています。
都内延伸に動きも
東京都は11月25日、JR東京駅付近から江東区の東京ビッグサイト付近までのおよそ6キロを結ぶ新たな地下鉄の事業計画案を発表しました。そのなかで、現在、東京・秋葉原が始点となっているつくばエクスプレスとの接続を今後、検討すると明記しました。
これについて大井川知事は、12月1日の記者会見で「都内での延伸については茨城県としても推進すべしという立場なので、期待を持って今後の流れを見ていきたい」と話していました。
そして、「茨城県内の延伸をしっかりとパッケージ化できるように、スタートラインに乗れるように準備を進めていきたい」と述べ、都内での延伸を県内での延伸にもつなげていきたいという考えを示しました。