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【第4回】発災時 データで命は守れるか ~自治体編~

2023/1/11

 人の位置情報や道路の通行情報など、発災時のリアルタイムデータを利活用することで、より多くの人の命や生活を守ることができるか。第4回目の検討会を11月に実施しました。今回は自治体が抱える発災時データ利活用の課題や可能性について。自治体や救助組織、有識者、データを扱う企業の担当者など、26名に集っていただき話し合いました。

 

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【出席者】※肩書きはオンライン検討会開催時点

〇熊本県知事公室 危機管理防災課 企画監 三家本 勝志 

〇一般社団法人 球磨川ラフティング協会 代表理事 渕田 拓巳

〇人吉市総務部防災課 課長 鳥越 輝喜

 

◎東京大学空間情報科学研究センター 教授  関本 義秀 <本検討会 座長>

〇東京理科大学理工学部土木工学科 教授  二瓶 泰雄、平本 達典(B4)

〇京都大学防災研究所 教授 畑山 満則

〇京都大学防災研究所 准教授 廣井 慧

〇熊本学園大学経済学部 教授 溝上 章志 

〇国立研究開発法人 防災科学技術研究所 総合防災情報センター長 臼田 裕一郎

 

〇一般社団法人 社会基盤情報流通推進協議会(AIGID) 大伴 真吾

〇本田技研工業株式会社 コネクテッドソリューション開発部 福森 穣

〇(公財)日本道路交通情報センター デジタル事業推進部 杉田 正俊、小野 史織

〇特定非営利活動法人 ITS Japan 地域ITSグループ 理事  森田 淳士、部長 齋藤 祐司、部長  石毛 政男 

〇(株)ドコモ・インサイトマーケティング エリアマーケティング部部長  鈴木 俊博、副部長 森 亮太

〇(株)Agoop  代表取締役社長  柴山 和久、社長室 室長 佐伯 直美

〇TomTom Japan 交通情報サービス事業開発シニアマネジャー 水野真由己

         交通情報サービスシニアセールスエンジニア 西弘二

〇(株)レスキューナウ 代表取締役 朝倉一昌

〇損害保険ジャパン(株) 執行役員CDO DX推進部長 村上明子

〇送配電網協議会 ネットワーク企画部 部長 田村 豪一朗 

 

事務局 NHK(第2制作センター 捧 詠一/メディア戦略本部 浅野 将/プロジェクトセンター 中井 暁彦)

 

 

 

 

 

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関本(東京大学):そろそろ年末に入り、大変皆さんお忙しいところだと思いますが、お集まり頂きありがとうございます。本検討会も4回目ということで、かなり全体像が見えつつ、「細部をどうまとめてどういうふうに世の中に訴えていくか」という話に移りつつあると思いますし、今日は熊本県様からも色々話題をいただけます。大変楽しみに進めていきたいと思いますのでどうぞよろしくお願いします。

 

1.令和2年7月豪雨 熊本県が知りたかった情報とは

 

関本(東京大学):まずは1つ目の議事にいきます。「令和2年7月豪雨や昨今の豪雨被害を受けて 熊本県が考える『利活用したいデータ』と『課題』」ということで、熊本県知事公室の危機管理防災課企画監、三家本様からお話をいただければと思います。どうぞよろしくお願いします。

 

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三家本(熊本県危機管理防災課):熊本県知事公室危機管理防災課の三家本と申します。令和2年7月豪雨を振り返りまして、今回のテーマであります、利活用データに関して、「当時もしこうしたデータがあればこういうことに使いたかった」というところと、それから当時、「情報はどういうふうに入ってきたか」「何が問題だったか」について触れたいと思っております。

 

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三家本(熊本県危機管理防災課):我々、県としましては災害が起きた時、特に発災して72時間は、「人命救助」。これを最優先で行います。令和2年7月豪雨の時にも、発災後72時間から90時間は人命救助を行いました。その時に我々が必要な情報を列挙しますと、まずは人命救助の最も根本である「救助対象は誰で、どこにいるか、何人いるか」という情報が最優先となります。それに付随しまして、救助対象の場所に行くまでの、例えば「救助部隊の進出」、つまり「そこに向かう経路」、あるいは「ヘリポートがあるか・使えるか」といったところがまず1つの重要な情報になります。また「現場に至る道路が使えるか」、あるいは「気象的にヘリが飛べるか」「ヘリが降りられるか」といった情報が必要になってきます。またもし現場に行ける場合は、現場にヘリで降りてから、到着してから、当然救助部隊は必要な重機だとかボートの準備をしたり、あるいは長期間活動するところに拠点をつくりますので、そういった活動に必要な拠点と、そこで救助した場合にその方々を収容、運ぶための準備ができるかといったところを最優先で調べてまいります。それが72時間から90時間にかけての我々の必要な情報です。令和2年7月豪雨については、この情報を取るためにずっといろんな活動をしておりました。

 

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三家本(熊本県危機管理防災課):また、時間が経過してくると、次に把握が急がれるのが「孤立地域」です。ご承知のとおり熊本県は、球磨川流域にそれぞれ集落が点在しておりまして、道路が寸断されると孤立します。これが最大で36箇所ほど発生しまして、2020年7月4日に発災し、7月19日くらいまで孤立が解消しませんでした。孤立というのは、定義は「車で行けない」、あるいは「徒歩でもいけない」といったところまでを定義として、かつ「電話が通じない」「食料が運べない」といったところをそれぞれ定義して、そこを孤立として認定して活動しました。「車が通れなくても食料や必要なものは運べる」場所は孤立とは言わずに、別途対応・管理しました。

 孤立が起きた場合に、最優先で確認するのは「安否情報」です。その地域、何人の人がいらして、「みんな無事なのか」、あるいはそれがわからないのか、あるいは「怪我や病気をしているのか」。という安否確認が大事となってきます。それと、「固定電話は使えるか」「携帯電話は使えるか」、あるいは「防災無線がまだ機能しているか」といったあたりが非常に大事な情報になります。ある程度の安否確認がすんだ後については、次は「ニーズ」。例えば食料、水、薬等の現場からのニーズですね。それから、孤立地域は基本的には避難をしてもらうんですが、「避難の意思があるかないか」といったところを確認するのがだいたい、発災後2週間から3週間くらい行いました。当然この時期には生活の支援や瓦礫の撤去、あるいは帰宅のためのいろいろな応急住宅の設置も始まるんですが、人命救助をメインにすれば、こういった流れで、様々な情報が必要になってきます。

 

2.豪雨時 次々と寸断される情報網

 

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三家本(熊本県危機管理防災課):そういったことを前提にしまして、令和2年7月豪雨の時に我々が「どういった情報が取れたか・取れなかったか」ということを簡単に紹介します。

 令和2年7月豪雨は、7月3日金曜日の夜、23時くらいから雨が降り始めまして、7月4日未明に雨がひどくなってきました。それに付随して河川の氾濫、土砂崩れ等が起きました。私は全体の救助の指揮をとっていましたが、今回、人命に関係する情報について、当時入ってきた情報と、県が市町村と共同して「どんな対応をしたか」をまとめています。令和2年7月豪雨では67名の方が亡くなっています。また、約320名の方が怪我をされておりますが、当時、私のところに来た情報は、そのうちの3分の1くらいしか情報がありません。逆にいうと3分の2については私のところに届かなかった、つまり後でわかったということです。表には警察・消防・自衛隊、あるいは住民の方を通じて市町村から来た情報が記載しています。

 

三家本(熊本県危機管理防災課):令和2年7月4日、土曜日、午前3時から7時については、雨が激しくなって災害が発生した時間帯です。それぞれ警察・消防から情報が来ましたが、県警から来た情報、それから消防については消防本部から来た情報です。また市町村からは電話、あるいは無線で入ってきた情報です。この時間帯は、「今浸水した」、「土砂崩れが起きた」と。あるいは「何人かの方が病院で今救助を待っている」といった情報が来まして、それぞれ、警察・消防に加えまして、陸上自衛隊に災害派遣要請をしまして、様々な派遣の準備をしました。

 

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三家本(熊本県危機管理防災課):続いて、午前7時から午前8時の時間帯。この辺りで土砂、記録的短時間大雨情報や、あるいは河川の氾濫が起きまして、浸水被害が発生しました、特に人吉については警察から、「水中に取り残された方」「救助を待っている方」の情報が入ってきました。また、八代市の坂本地区でも孤立家屋が出たと。それから芦北町では行方不明者が出まして、この時間帯から人身被害の発生が出ました。また午前7時半には津奈木町で土砂崩れが発生し、家族が生き埋めになりました。こんな情報も入ってきたところです。

 

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三家本(熊本県危機管理防災課):午前8時以降です。午前8時44分に球磨川地域の人吉市で通信が断絶しました。これはまず、NTT回線が落ちてしまった。土砂崩れや倒木により、まず地上回線が使えなくなった。それから携帯電話、基地局がいくつか使えなくなりまして、一般の電話、メール、それからシステムが、それぞれ県で持っていますが、ほとんど使えなくなりました。特に使えなくなったのは球磨村、芦北町。全く使えませんでした。人吉市については若干使えるシステムが残っていました。またこの時に、消防や警察の通信機能も、特に有線ついてはかなり使用が困難になってきました。使えたのは携帯電話と無線です。

 

三家本(熊本県危機管理防災課):令和2年7月4日午前8時44分以降ですが、人吉市からは情報が上がってきましたが、そのほかの芦北町、球磨村、それから八代市の坂本地区からはほとんど情報が上がってこなくなりました。また八代市はネットワーク異常がありまして、避難指示が出せなくなりました。

 

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三家本(熊本県危機管理防災課):午前10時からです。ご覧のように人吉、あるいは人吉の上流にあります相良村や山江村からは情報が来ましたが、その下流である球磨村、芦北町、八代市からはほとんど情報が来ませんでした。この時間帯は「何が起きているのかわからない」という状態でした。率直な当時の実感です。

 

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三家本(熊本県危機管理防災課):こうした状態が続きまして、12時くらいになりまして警察の機動隊や陸上自衛隊が現地に到着し、現場の状況等が無線や伝令を通して入ってきました。この時間帯については、使える機能は無線と、それから携帯電話。携帯電話も、雨が降っていましたので、不通の箇所が多かったので、防災無線と、警察・自衛隊の無線、これが有力な通信手段でした。システム、ネットワーク、インターネットはほとんど使えませんでした。熊本県庁、熊本市付近については通常通り使えました。支障があったのは、「現地の状況がわからない」こと。県と国、あるいは県と熊本市役所では、通常の通信あるいはシステムが共有できました。

 

目 次

1. 令和2年7月豪雨 熊本県が知りたかった情報とは

2. 豪雨時 次々と寸断される情報網

3. 発災後 明らかになった「通信の脆弱性」

4. 連続する“想定外” どう備える?

5. その訓練想定外を想定しているか

6. 発災時 膨大な情報を的確に選別できるか

7. 臨機応変な対応へ 部署横断でできることは

8. 寸断するシステム 何を優先し強靱化すべきか

9. 過去の災害データ 検証用プラットフォームの早期構築を

10. 試みが進む “リアルタイムデータ×避難訓練”

11. 過去の発災時データ 柔軟な共有

 

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