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鶴岡 土砂災害から1年② なぜ起きたのか?

日本地すべり学会東北支部有志の調査 代表・八木浩司さんに聞く
  • 2023年12月28日

 

去年12月31日。私は就寝中にデスクからの電話で目を覚ました。「鶴岡市で土砂災害があった、何棟も巻き込まれているとみられる」。断片的な情報しかない中、急いで現場に向かい、到着したのは午前6時ごろ、夜明け前だった。日が昇り徐々に明るくなってくると、山肌が大きく崩れ、赤茶色い土がむきだしに。ことばを失った。あれから1年。静かな集落を突然、襲った土砂災害はなぜ発生したのか?日本地すべり学会東北支部の有志たちは発生直後から半年かけて調査を行った。有志の代表で山形大学名誉教授(深田地質研究所客員研究員)の八木浩司さんに聞く。

 

山形大学名誉教授・深田地質研究所客員研究員 八木浩司さん

観測史上最も多い雨 “複合災害”

記者
土砂災害の発生原因についてどのように考えるか?

八木浩司さん
現場周辺の地質は非常に風化していて、岩というよりも“土”のような地質だった。また、そこに変形が加われば、一気に滑り落ちて非常に長い距離を流れる。そうした場所を50年ほど前開削(切り開いた)してしまった。まさに“つっかえ棒”を外したような形になった。そこに、去年、12月としては観測史上最も多い雨、つまり、夏とほとんどひけをとらないような量の雨が降ってしまい、地下水圧があがり崩れたとみている。いくつかの要因が重なりあって複合災害が起こってしまったとみている。

 

令和5年1月 風化した地質 調査の様子(提供:八木浩司さん)

“冬”の土砂災害の危険性 豊富な“地下水”
(有志のメンバーで水文企画・渡邉修さんの分析含む)

記者
冬の土砂災害 夏と違う点は?

八木浩司さん
夏と違うのは、気温が低い冬は、蒸発散量が非常に少ないということ。夏の場合は蒸発していくが、冬の場合は、少し降ったものもじわじわと地面に浸透していく。空気中に戻る量が少なく地下水を増やす非常に効果的な雨だった。今回の調査では、去年12月下旬時点で例年と比べても現場の地下水位が非常に高かったこともわかった。

記者
住民は“湧き水”に関心がある どう考えるか?

ポイント① “湧き水” 過去にほぼ同じ場所でも

八木浩司さん
地滑りがおこったあと、斜面の中腹標高約32メートルのところで湧き水が確認できた。だが、実は過去にさかのぼって1962年撮影の空中写真をみても、30~40メートルぐらいの間湧き水があった。また、斜面のどこが変形しているか解析を行ったところ、湧き水があった地点大きな変形が見られた。このため、地下水は、非常に長い時間をかけて流れ出るような環境にあったと考える。それが降雪融雪によって、一気に斜面を押し出してしまった

ポイント② 崩れた南側の斜面 北側より“湧き水多い”可能性

八木浩司さん
土砂災害が発生した南側の斜面は、道路がいつも濡れるほどの湧き水があったと聞いている。実は、崩れなかった北側と比べると、南側の方が湧き水が多かったとみられる調査結果も出た。斜面を切ってしまったことで、南側は深い位置の地下水が出るようになり、水が流れ出やすくなった。もともと非常に強度が弱っている地層のため、何かのショックがあると、サッと崩れてしまう。地下水が少し上がっただけで、押されたように崩落していったと考えている。

国土地理院(1962年)より八木浩司さん作成 赤丸が湧き水ポイント

複数回崩落 “音もなく”

記者
土砂はどのように崩落したのか?

八木浩司さん
斜面が一度に崩れたわけではなく、まばたきするほどの速さ4つのフェーズで崩れていったとみている。いわば芯が抜けるように斜面中部が次々と崩れ、足もとが抜けてしまったことで、残された上部が追いかけるように落ちたと考えている。また、仮に瞬間的に崩れたとすると大きな音がするが、今回の土砂災害では、音がなかったと聞いている。土砂はゆっくり流れ、スローモーションを見ているような感じで斜面が動いていったと考える。通常、土砂の動く距離は30mでもそうそうないが、今回は約100メートルも距離が動いた。通常では考えられない。

 

八木浩司さん作成

冬の気象・気温の変化に注意

記者
冬場の土砂災害、どう備える?

八木浩司さん
近年の気象変化にも私たちは配慮していかなければならない。雪が降ったり暖かくなったり小刻みに繰り返されていると、地下水をため込むような状況をつくりだすように思える。“冬の雨は斜面にきいてくる”ということは心に置いて、雪が降る前に自宅の近くの崖から水が出ていないか、崖の上に隙間ができていないかなど、住民たちでチェックしていくような活動が、自分たちの身を守るまず第一歩だと考える。

 

斜面の“ほったらかし”に注意

記者
山を削ったことによる影響は大きい?

八木浩司さん
あくまでトリガー(引き金)は“雨”。さらに、もともと地層が非常に悪かったわけだが、斜面を切り開いたことも素因のひとつだ。切り開いたまま斜面がほったらかしにされているところがないか、今のうちから探しておいてほしい。何も対策がされていないところを見つけて気にしておくこと、見回りを行っていくことが大切だと考える。また、自分の住んでいる地域の山が土砂災害警戒区域などに指定されていないかハザードマップで確認し、日頃から気にかけておくことが大切だ。

 

山形大学名誉教授・深田地質研究所客員研究員 八木浩司さん
  • 和田 杏菜

    NHK山形放送局酒田支局 記者

    和田 杏菜

    2016年入局
    甲府局を経て山形局
    おととし11月から酒田支局
    鶴岡市の土砂災害発生
    直後から取材を継続

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