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シリーズ地域医療を考える②

開業医の後継者不足 “在宅医療”新たな取り組み
  • 2023年11月17日

医療現場の現状や新たな取り組みを伝えるシリーズ「“地域医療”を考える」。
2回目は「開業医」について。各地では医師が高齢化し開業医の後継者が不足していて、その影響で開業医の役割の1つ「在宅医療」の継続も難しくなっている。こうした課題に対応しようと酒田市で新たな取り組みが始まっている。

シリーズ地域医療を考える②
「開業医」の後継者不足 “在宅医療”新たな取り組み

【地方の“開業医”の現状 衝撃の結果が・・・】

日本海に面した山形県酒田市。人口およそ9万6000。山形市・鶴岡市に次いで3番目に多い。

ことし5月に酒田地域の医師会が開業医を対象に行ったアンケート。76%にあたる62件から回答を得た。そこには衝撃の結果が…
後継者について尋ねたところ、「決まっていない・今後の確保も困難」と答えた開業医は、46件、なんと74%にのぼった。さらに、医師会によると、酒田市内では3年連続で新規の開業はなく、このままだと開業医の平均年齢は10年後には75歳を超えることがわかった。
この中で特に厳しいといわれるのが「泌尿器科」「小児科」そして「在宅医療」だ。

 

酒田地区医師会十全堂が行った後継者に関するアンケート

循環器専門医の岡田恒弘医師(60)、開業して25年、酒田市の地域医療を支える1人だ。
岡田医師は午前の診療を終えると、週4日、患者の自宅や施設で「在宅医療」を行っている。酒田市では岡田医師も含めて5人の開業医在宅医療の7割以上の患者の診察などをしている。午後の診療が始まるまでの2時間半の間に10件ほどの診察をすることもある。
岡田医師は、患者が住み慣れた自宅や地域で暮らしていくために在宅医療が不可欠だと考えている。

 

岡田内科循環器科クリニック 岡田恒弘医師

医療は必ず人が住んでいるところには必要で、在宅医療も必ず誰かがしなければならない。
“社会資源・社会インフラ”のようなものだ。在宅医療をしている診療所はそんなに多くはない。1件の診療所ができなくなると、かなりの負担がこちらにかかる可能性がある。

【在宅医療の継続に“地域連携”】

こうした中、酒田市の本間病院が「在宅医療」の強化に踏み出した。

本間病院は、内科や外科など7つの診療科があり、ほかの医療機関と役割分担を進めてきた。その一環として、本間病院の外科の手術だけをことし9月から基幹病院の日本海総合病院に移したのだ。
そして、その分のマンパワーで本間病院では在宅医療に力を注ぐことにした。「在宅医療」を担う開業医の高齢化が進む中、地域の病院が支援する体制を構築することが必要だと考えている。

 

本間病院(酒田市)

外科の本間理医師(39)。
ふだんは手術や外来などを担当しているが、今月から新たに「在宅医療」を始めることにした。
本間医師は次のように話している。

 

本間病院 本間理医師

いままで通っていた患者が通院困難になって往診を希望するケースがある。
そうした時に担当医を変えずに継続して診療できることは患者の安心にもつながる。

新たに「在宅医療」を担当することになった本間医師は、市内の開業医や施設にあいさつに行っている。経験豊富な岡田医師のもとにも訪れた。

岡田医師は「在宅医療」に開業医だけではなく地域の医療機関が取り組んでくれることに明るい兆しを感じている。地域医療の根幹を担う開業医。後継者不足、そして在宅医療の継続という課題に対し新たな形の地域連携が始まっている。

 

(左)本間医師   (右)岡田医師

私も60歳になり、すぐにやめるわけではないが、この先未来永ごうずっと診療をしているわけではない。どこかで若い世代にうつしていかなければならない。診療所・病院、さまざまな機関が関わってくれて、今後さらに連携を深めていきたい。

【取材後記】

開業医の後継者がいない、新たな開業もない中で期待が持てる取り組みだと感じた。
本間病院が在宅医療を強化して以降、開業医の中には、新規で在宅医療が必要な患者を、本間病院に紹介するところも出てきている。では、なぜこのような連携が可能だったのか?

酒田地域では、平成30年に東北地方で初めてとなる地域医療連携推進法人「日本海ヘルスケアネット」が立ち上がった。
酒田地域の医療機関や介護施設など13機関でつくられていて、人口減少が進む中、医療・介護のサービスを持続的に提供するため役割分担業務の連携を進めている。
ことし9月、13機関の関係者が集まった会議でも「開業医」の後継者不足や「在宅医療」について議題に上がった。メンバーどうしの顔の見える関係が構築されていて、日頃から地域全体の課題として意見交換を続けてきたことが、スムーズな連携につながったのだ。 

 

日本海ヘルスケアネットの会議(2023年9月)

今回、取材した岡田医師は県の在宅医療研究会の会長も務めていて、岡田医師によると、他の地域でも
開業医の後継者不足や高齢化が課題となっていて、解決策を模索しているのが現状だ。岡田医師は、地域全体で、在宅医療を継続的に供給できる体制を組織的にサポートしていく必要があると話している。

これからますます人口減少・高齢化が進む中、開業医の数を増やすことは簡単なことではない。
だからこそ、これまでの連携をいかして、限られた中で何ができるのか、地域で考えていくことが大切だと思う。

 

(11月15日「やままる」で放送)

  • 和田 杏菜

    NHK山形放送局酒田支局 記者

    和田 杏菜

    2016年入局
    甲府局を経て山形局
    おととし11月から酒田支局地域医療連携や最先端医療など医療分野の取材を継続

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