鶴岡 土砂災害から1年① 救助された男性の思い
- 2023年12月28日
去年の大みそか、鶴岡市西目で発生した土砂災害。当時、私は就寝中にデスクからの電話で目を覚まし、急いで現場に駆けつけた。あの日から1年。土砂災害に巻き込まれて救助された男性がいる。男性は引っ越しを余儀なくされ、新たな住まいで初めての新年を迎える。今の心境を取材した。
加藤省一さん(77)。
去年の大みそか、鶴岡市西目で発生した土砂災害で自宅が全壊した。現在は、現場から約10キロ離れた公営住宅に住んでいる。加藤さんは、自宅の2階で眠っていた時に土砂災害に巻き込まれた。
救助まで約2時間 “奇跡”
体が少し動かせる程度の空間で、救助されるまでの約2時間待ち続けた。加藤さんは、手や顔に軽いけがをして病院で手当をうけたあと、地区の公民館に戻り、すぐにNHKの取材に応じた。
加藤省一さん
竜巻のような音がして、家の中に大木が入ってきた。大変だと思ったらベットが横滑りしてドンッと落ちた感覚があってそこから動けなくなった。最初の30分は助けを叫び続けたが、力尽きてあとはずっと待っていた。サイレンの音が聞こえて救助隊に助けてもらったときは、ホッとした。改めて現場を見て、助かったことは奇跡だと思った。
そして、約1か月後、市内の公営住宅に移り、ここから、加藤さんの新しい生活が始まった。
あれから1年 いまの生活は
土砂災害の発生から1年。加藤さんは公営住宅で初めての新年を迎える。日々の日課は、趣味の料理だ。この日つくったのは「野菜スープ」。野菜のうまみをいかした自信作。また、冷蔵庫の中には加藤さん手作りのさまざまな料理がならぶ。料理は飽きないと話す。
新しいことも始めた。地域の人たちと交流しようと、3月ごろから公営住宅の近くにある公園を掃除している。すると、こんなうれしいことが…
加藤さんが掃除する姿をみて、1人の住民が声をかけてくれたのだ。一緒に掃除する仲間が増えたことを加藤さんはとてもうれしそうに教えてくれた。
一方、加藤さんは土砂災害によって自宅や家財、そして、思い出の品も失った。約2か月前の10月には、巻き込まれた時の夢を見たと話す。
加藤省一さん
ずっと夢は見なかったが、約2か月前から夢を見るようになってベッドから思いっきり落ちてしまった。“あのころに近づいてきたから、こんな夢をみるのかな”と、気持ちとしては、不安なところがあった。
今後も経験を伝え続ける
12月8日。加藤さんは土砂災害が発生した現場を訪れていた。1年前まで自宅があった場所を冷静にみつめる。加藤さんは、亡くなった夫婦の隣の家に住んでいて、親交もあった。夫婦が亡くなって半年たったころには、夫婦の墓を訪れた。そして、「私が長生きするからね」と声をかけた。
冬場の土砂災害はことしも長野県や奈良県で発生している。気象条件がめまぐるしく変化し、さまざまなことが起きる環境になっている中で、加藤さんは当事者としての思いや経験を今後も伝えていきたいと考えている。
加藤省一さん
隣に住んでいたご夫婦も、もし生きていたら、自分のことばで発することができたが、亡くなってしまった。だからこそ、私がこの災害を通して思ったことや感じたこと、真実を発信していかなければならないと考えている。土砂災害は一瞬ですべてがなくなる、おそろしいもの。こんなことは二度と起こしてはいけない。私のようなつらい思いをする人は私だけでいい。
取材後記
今回崩れた場所は「土砂災害特別警戒区域」に指定されていた。加藤さんは、「土砂災害警戒区域」や「土砂災害特別警戒区域」に指定された場所については、住民が安心して暮らしていくために、2年~3年に1度ほどで構わないので、専門家も交えて点検してもらい、状況に応じてハザードマップの更新などを検討してほしいと要望する。また、住民にわかりやすい周知の方法も検討してほしいと話す。
鶴岡市は今年度、市内全域を対象に、作成してから約10年経過している土砂災害のハザードマップの更新作業を進めている。住民の意見も反映される見通しで、10月に行われた意見交換では、住民から▼これまでに土砂災害が発生した場所や▼避難経路で冠水したことがある道路、▼指定されている避難場所などについて意見が出された。
NHKでは土砂災害の発生直後から加藤さんを取材してきた。今回、取材に伺った時の加藤さんは、つらい経験をしたものの、希望を持って1日1日を大切に生きている姿が印象に残った。また、日本全国で災害が頻発する中、自分の経験を話すことで、今後の防災対策や避難者・被災者への支援の充実につなげてほしいと話していた。
加藤さんが取材中、何度も話していたことば。
“”きのうのことは忘れて、きょうは元気で。あすは希望だけ”
私も鶴岡市の土砂災害をきっかけに、この1年、地震や津波・土砂災害・豪雨など、さまざまな災害・防災の取材に取り組んできた。今後も命を守るための取材を続けていきたいと強く思う。