南海トラフ巨大地震 富山への影響は?
取材:牧野雅光(防災士資格所持)
2023年03月06日 (月)
近い将来の発生が危惧されている「南海トラフ巨大地震」。
想定されるリスクを知り、具体的な備えに結びつけることが大切です。
ところで、そもそも「南海トラフ巨大地震」とは、どんな地震なのでしょうか?
静岡県の駿河湾から九州の日向灘にかけての海底には、
日本列島のある陸側のプレートの下に海側のプレートが
少しずつ沈み込んでいる溝のような地形があります。
この地形のことを南海トラフと言います。
そして、このプレートの境界付近には、
徐々に「ひずみ」がたまっていて、
それが限界に達すると一気にずれ動き、
巨大地震が発生します。
これが「南海トラフ巨大地震」です。
この「南海トラフ巨大地震」は、
今後30年以内に、“70%から80%”の確立で発生すると予測され、
想定される被害は、東日本大震災をはるかに上回るとされています。
「南海トラフ巨大地震」が起きると、各地を激しい揺れが襲うとともに、
沿岸部には最大で、30メートルを超える巨大津波が押し寄せます。
最悪の場合、関東から九州にかけての30の都府県で、
合わせておよそ32万3,000人が死亡し、
揺れや火災、津波などで、238万棟余りの建物が全壊したり焼失したりすると
推計されています。
地震発生から1週間で、避難所や親戚の家などに避難する人の数は最大で950万人。
およそ9,600万食の食料が不足するとされています。
さらに、被害を受けた施設の復旧費用や企業や従業員への影響も加えると、
経済的な被害は国家予算の2倍以上にあたる総額220兆3,000億円に上ると
されています。
※参考:南海トラフ巨大地震とは? 被害想定・メカニズム・防災対策を網羅 - NHK
「 でもこれって、太平洋側でしょ!」
「富山県は日本海側だし、関係ないんじゃないの!」って、
思われる方が、いらっしゃるかも知れません。
そこで、「南海トラフ巨大地震」が起きたら、富山県にはどんな影響があるのか?
また、富山に暮らすわれわれは、どんな備えをしたらいいのか?
長年にわたり地震学を研究し、富山大学でも教べんをとった
富山市在住の京都大学名誉教授・川崎一朗さんにお話をうかがいました。
京都大学名誉教授 川崎一朗さん
Q:まず、南海トラフ巨大地震が発生した直後です。
富山で地震が起きるまでに、少しだけ時間差があると言います。
「南海トラフ巨大地震が発生したら、
たぶん5秒後ぐらいに、緊急地震速報が全国に流れると思うんです。
緊急地震速報が流れたら、巨大な地震波が富山にやって来るまでに
30秒ぐらい時間があるはずです、問題はそれをどう生かすかです」。
もちろん、震源の場所により地震波が到達するまでの時間は変わってきますが、
そのわずかな時間でも、当然できることはあります。
例えば部屋の中にいるなら、大型の家具から離れて丈夫な机の下に隠れたり。
屋外にいるなら、ブロック塀や自動販売機の転倒に注意しつつ、丈夫そうなビルの中に避難したり。
もしかしたら、エレベーターに乗っていたり、車を運転しているかも知れません。
そのときいる場所や状況により、対処の方法も変わってきます。
とにかく慌てずに(これが難しいのですが…)“身の安全を守る行動を”取るようにしてください。
NHK NEWS WEBに、それぞれの場所でどのように行動したらよいか、詳しい記事が掲載されていますので、
ぜひご覧になって、参考にして下さい。
※参考:地震・津波 発生時や備えのポイント イラスト解説
https://www3.nhk.or.jp/news/special/saigai/basic-knowledge/basic-knowledge_20230223_01.html
Q:とうとう揺れ始めました。揺れの強さや被害は?
国の想定によると、富山での最大震度は5強から5弱とされ、
その激しい揺れが2分から3分ほど続きます。
その上で、東日本大震災の際に震度5から6の揺れを観測した
南関東の状況が参考になると言います。
「富山で何が起こるか、
東日本大震災の際、千葉県浦安市の液状化が大騒ぎになりましたけど、
富山の海岸部で同じようなことが起こる可能性は非常に大きいと思います」。
「富山県内の液状化しやすさマップ 富山・高岡地域」
国土交通省北陸地方整備局 および 公益社団法人地盤工学会北陸支部 共同作成
こちらは、富山県内の土地について液状化しやすさの傾向を示した地図です。
(地震の被害想定を示した地図ではありません)
北陸地方整備局のホームページからご覧いただけます。
また、高層ビルの上層階が大きく揺れる長周期地震動にも警戒が必要だと言います。
「長周期地震動で新宿のビルが揺れたのをTVで見て、
恐怖を感じた方が多いかも知れないけど、
富山でも同じようなことが起こると思いますので、
高層ビルの高層階に住んでいる人は大型の家具はしっかりと固定するとか
いろいろ用心が大事だと思います」。
Q:南海トラフ巨大地震による、富山県民の生活への影響は?
さて、揺れは収まりました。
ところで、このあと、何が起こるのでしょうか?
川崎先生は、この地震により、
関東から西日本の太平洋側にある高速道路や新幹線などが、
大きな被害を受けるのではと言います。
「南海トラフ巨大地震のときは、東日本大震災のときよりも
ひどく関東から西日本一帯は、交通が大混乱すると思います。
生活物資の供給が滞る、大幅に滞って長引くことが考えられます。
食料品とか医薬品とか、子どものミルク、おむつ、ガソリンなど
そういうものの供給が滞る可能性があると思います。
直下型地震に対する以上に、南海トラフ巨大地震に対してこそ
ちゃんと備蓄しなければいけないと思っています」。
流通の混乱や生活物資の不足は、数週間続くかも知れません。
また、電気やガス、水道などのインフラについても、
当然、影響があると言います。
「上水道なんかが問題だと思います。
東京は部分的にしか水道は止まらなかったですが、
例えばつくば市は最大5日間上水道が止まりました。
つくば市に住んでいる僕の友人が言うのは、
何がつらいって、トイレに行けないのがつらかったって。
だから簡易トイレなんか、重要だと思います」。
ほかにも、
・東日本と西日本をつなぐ流通が北陸経由になるため、
北陸自動車道や国道8号線には多くの車がひしめき合い大渋滞が起きる。
・名古屋や岐阜など太平洋側から、多くの避難者が押し寄せてくる。
どこで避難者を受け入れるのか、空き家の活用などが必要になるのでは。
・東海地方の救援のために、富山からも多くの人々が被災地に行くことになるし、
大量の生活物資を送ることになる。
など・・・
直接的な地震の被害は、少ないかも知れませんが、
さまざまな面で、大きな影響を受けることは間違いありません。
Q:最後に、南海トラフ巨大地震が起こる前、いまできる備えは、何ですか?
「直下型地震に対する以上に南海トラフ巨大地震に対してこそ
備蓄しなければいけないと思っています。
東海地方の救援には北陸はすごい期待されているわけです、
それにかなり力を割かなきゃいけない。
いろんな物資、例えば電池とかいろんな物が不足気味になったら、
救援に行く部隊に優先的に使ってもらうようにしなきゃいけない。
われわれが使う物資は乏しくなる可能性はある。
それから食べ物、飲み物、薬、ガソリンが満タンになるよう入れておくとか、
改めて備蓄のチェックをするとともに
南海トラフ巨大地震だからというよりは、
リスクが高まっているいまだからこそ、
同時に足もとの活断層の備えにもする、
そういうことが大事だと思います」。
県内には、呉羽山断層帯や砺波平野断層帯など、警戒すべき活断層があります。
南海トラフ巨大地震の発生を防ぐことはできませんが、
水・食料の備蓄や、家具の固定、自宅の耐震化など、
地震への備えとして、一人一人ができることを行うこと。
ふだんから地産地消を心がけることも、地震への備えになると言います。
また、もし起きたときどう行動するか、
事前に考えておくことも、大事な備えになります。
川崎先生は最後に、こんな話をしてくれました。
「京都大学を定年退職して富山に帰ってくるとき、いろんな人に言われたんですよ。
『長い間、地震がないところを探したら、まぁ富山だよね、
“次危ないね、用心しろよ!”』って、言われたんですよ。
地震が起きていないことは、地震がないと言うことにはならないです。
むしろ、危険が高まっていると言うべきだと思います」。
自分や家族の命を守るためにも、
できる備えは、きちんとしておかないといけないなと、私自身改めて強く感じました。
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