知ってほしい 発達障害の「グレーゾーン」
舟本 真理(キャスター)
2023年01月10日 (火)
みなさんは発達障害の「グレーゾーン」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
発達障害の「グレーゾーン」とは、特性や傾向はあるものの、発達障害と診断されるには至らない状態を指す言葉です。
このグレーゾーンの子どもを育てている知り合いの母親から、学校での友人関係などに悩んでいるという話を聞き、そもそも「グレーゾーン」とは何だろうと取材を始めました。
発達障害のグレーゾーンとは
発達障害とは、生まれつきの脳機能の発達の偏りによって、社会生活に困難が発生する障害のことで、主に次の3つに分類されます。
・コミュニケーションが苦手、こだわりが強いなどの特性がある自閉スペクトラム症
・注意が持続できない、落ち着きがないなどが特徴の注意欠如・多動症(ADHD)
・読み書きや計算などの特定の分野の学習が極端に困難な学習障害
グレーゾーンとは、こうした発達障害の特性がみられるものの、診断基準をすべて満たさないため、確定的な診断がおりない状態を言います。
例えば、5つの基準があったとすると、下の表のように、そのすべてを満たしていないAさん、Bさん、Cさんは、発達障害とは診断されず、グレーゾーンということになります。
文部科学省によりますと、小中学生は、通常の学級の11人に1人程度が発達障害の可能性があると推計されていて、グレーゾーンの子どもたちも含まれると考えられます。
そこで、子どもの発達に不安を抱える親が参加する交流会を取材しました。この交流会は富山県内で毎月行われていて、子育ての悩みを共有する場になっています。
参加者に話を聞いてみると・・・
「最初、長男はグレーゾーンという診断で、幼稚園の時に出ていたんですけど、小学3年生の時にもう1回検査して、アスペルガー、今の自閉症スペクトラム症って診断されました。最初の子育てでそんなこと言われたって受け入れられなくって」
「人づきあいがあんまりうまくなくて、教室でぽつんとしているタイプ。しゃべるけど自分からはいけないから楽しくないし、学校が」
「やっぱり親としてはすごくしんどい。県リハビリテーション病院に行っても本当にグレーだから、療育とか、次おいでとかつながらなかったんだけど、だからこそこのやり場のない思いがすごくきつくって」
このように、実際にグレーゾーンの子どもを育てる母親たちの戸惑いや悩みに触れることができました。
このうち、現在、中学生の「こうせい」君を育てる、富山市の「のぞみ」さんに詳しく話を聞きました。こうせい君は小さなころから友達とトラブルになることが多く、手をあげてしまうことも少なくなかったと言います。
「お友達と遊ぶときに自分の思いが通らなかったら、すぐカーッとなって言葉の前に手が出たり、すねてぷんぷんとどこかに行ったり。学校の先生には、感情のコントロールが苦手だってことは、毎年違う担任の先生になるたびに伝えていたんです。でも、学校は(こうせい君は)頑張ってますよ(という認識)で」
こうせい君は、コミュニケーションや感情のコントロールが苦手だったり、あちこちに注意が向いてしまったりなどの特性があります。
その一方で、文章力があるため、発達障害の特性があるとはなかなか周りに理解されにくく、生きづらさを感じることがあると言います。
こうせい君が母親に送ったメッセージです。
こうした特性について、ソーシャルワーカーなどを交えた話し合いも行いましたが、うまくサポートにはつながらず、学校へ行けないこともありました。
そんな中、小学6年生の時に医療機関で細かい検査を受けました。
「IQとかも出て、苦手なところとか、細かな数値も出て、それをみたら、どこにも属さない。ノーマルかって言われたら、ノーマルでもないかもしれないし、苦手なところは多々あるし。でも、それでも何か(診断)つくかって言われたら、そうでもない。ほんとに間(グレー)なんだなって」
発達障害という診断ではなかったからこそ、この先、どう息子と向き合っていけばいいのか、ますますわからなくなったと言います。
少しでもこうせい君の特性を知って寄り添いたいと、専門の病院へ通うことにしました。困っていることを伝えたり、アドバイスをもらったり、信頼する医師に出会えたことで、のぞみさんとこうせい君は救われました。
子どもの心の外来を担当する医師、森昭憲(もり・あきのり)さんです。
こうせい君は、学校や親に言えないことでも、森さんには話せるようになりました。取材したこの日も、自らの行動について率直に話していました。
「イライラしやすくなった。貸してもらえなかったら、すぐ切れたりしてしまうことがちょくちょくある。やめようと思っても続けてしまう」
特性を知る
森さんは、子どもの発達に関して相談に来る親子は年々増え続けていると言います。そのうえで、グレーゾーン特有のつらさをたくさんの人に知ってほしいと話します。
「深刻なのは、一見すると一般的にやれる人と同じように会話ができても、あることについてできないとなると、『なんでよくわかっているのにできないの?』と、ある程度できるが故にできないことを非難されたり、ハラスメントを受けることがある。典型的な人より、特徴を一部持ってる人とか、なんとかできてしまう人の方がダメージ大きくて後々深刻になる」
そして、発達障害の診断のあるなしに関係なく、困っている人の特性を支援する必要があると言います。
「子どもの行動は,子どものSOSサインだと思っている。なんとかしてほしいというサインの表れじゃないかなと。人間の行動の一部として、神経発達症(発達障害)の特徴からくるものがあるということを知ることで、一見するとよくわからない行動がわかってきて、その人に対していい方法が見出しやすくなる。そこを知ることは、(発達障害の特性を)持っている人の生活を尊重することにもつながると思う」
ありのままの自分を受け入れてくれる存在ができたことで、こうせい君は、「悩んでることを誰にも相談できなかったけど、森先生と会って、相談相手ができた」と話し、中学校では自分らしく過ごせていると言います。
最後に、こんな願いを話しました。
「困ってる子がいたら、寄り添ってあげれる社会になったらいいと思う」
富山県では、小中学校でも、発達障害のグレーゾーンの子どもたちを支援するため、スクールカウンセラーやカウンセリング指導員といった専門家を置いたり、一部の授業を個別に受ける「通級指導教室」を設置したりしています。
ただ、学校現場と保護者とのコミュニケーションが不可欠で、お互いの認識にギャップがあると、なかなか支援につながらないケースもあるということです。
今回の取材を通して、グレーゾーンの子どもたちに寄り添うためには、1人1人の特性をしっかりと理解することが大事だと感じました。