石川県内灘町の液状化被害“拡大させた場所”は香川県にも
- 2024年03月08日
震源域から離れた石川県内灘町で深刻な液状化被害
石川県金沢市に隣接する内灘町。震度5弱でしたが、液状化で道路は波打ち、住宅がおよそ12メートル動くなど、甚大な被害を受けました。砂丘の町として知られる内灘町ですが、被害は砂丘の上でも海岸部でもなく、内陸部に集中していました。しかも、震源域からの距離は100キロメートル以上。これは香川から南海トラフ巨大地震の震源域までと同じ距離です。
なんで内灘町の被害がこんなに大きいのか不思議でならんで。すごい揺れた感じはあったけど、まさかこんなふうになるとは思わなかった。
能登半島地震で大きな被害を拡大させた液状化。液状化は、揺れで地盤が液状になり、道路や建物が沈下したり隆起したりする現象です。問題になるのは、水道やガスなどのライフラインが長期間使えなくなること。そして、避難の妨げにもなります。
香川大学の研究チームが現地調査
震源域から遠い町、しかも内陸部で被害が大きくなったのは、なぜか。
2月下旬、香川大学特任教授の長谷川さん率いる研究チームが、液状化が激しかった西荒屋地区と室地区に調査に入りました。
どういう地形条件や地盤条件のところで、住宅の被害が多いかということを調査に来ました。
まず注目したのは、地区のいたるところに現れた“段差”。南北に伸びる何本もの“段差”の場所をひとつひとつ地図上に記録していきます。
調査を進めていくと、“段差”は、畑や道、庭、そして家の中をも貫いていました。
ここで長谷川教授が注目したのは“段差”が線状に連なっているということ。
この段差はいったい何なのか?
かつての海と陸の“境界線”で液状化の被害拡大か
現地調査でわかったのは、液状化の被害拡大につながる“新たな場所”でした。
段差のある場所に、おそらく昔の海と陸地との境界があったんでしょうね。海があそこまで来ていた。砂丘とかつての海の「際」のところで、被害が大きいように見えますね。
長谷川さんが指摘したのは、内灘の町のなりたちです。
100年前の地図を重ねると、内陸にも海が広がっていたことがわかります。先ほどの調査メモで段差の集中していたエリアと、かつての海と陸の境目が一致することが浮かび上がりました。
なぜ境目に被害が集中したのか?
そのヒントが、同じ地区の道を1本挟んだエリアにありました。
かつて海だった場所に作られた田んぼです。液状化で、地下水と共に噴き出した砂の跡はあるものの、大きな段差はありません。
液状化が起きると一般的に、土地全体が地盤沈下します。田んぼでもこの現象が起きました。
一方、かつての海と陸の境目には、わずかな傾斜がありました。すると、地盤が低い方へ流れ出し、液状化による被害が拡大したと考えられるのです。
地盤的には、圧倒的に田んぼのほうが悪いはずですが、平らだからいいんです。いちばんいいのは平らでしっかりとした地盤。一方で、地盤が悪くて軟弱で傾斜している。これが最悪なんです。
液状化のリスクは県内各地にも
危険性が明らかになった、かつての海と陸の境目。香川県内では、どこにあるのか。
例えば、東かがわ市なら、白鳥の松原周辺。
かつての海を青で、陸を黄色で重ねると、危険な境界線が浮かび上がります。
そして、坂出市だと、JR坂出駅の北西部など。
さらに、多度津町は、JR多度津駅の西側にありました。
香川県にも内灘の砂丘ほどの高さではないけど砂州があります。
かつての海の跡などに田んぼが広がっている低地があるとすれば、その境界は気をつけないといけないと思います。
液状化の被害は、このほかにも香川県内の広い範囲で想定されています。
こちらは最大クラスの南海トラフ巨大地震が発生した場合の液状化危険度予測図です。
最も危ない場所を示すオレンジ色の総面積は県の15%にもなります。東かがわ、さぬき、高松、坂出、宇多津、丸亀、多度津、三豊、観音寺と各地に大きなリスクが広がっていることがわかります。
危険な境目がある場所を見分けるためには、正確にはボーリング調査をしないとわかりませんが、簡易的に判断できる方法はあります。国土地理院の「標高図」を見ることです。インターネットで見ることができますよ。
詳しい調べ方はこちらの記事からチェック!
液状化の対策はどうすれば?
内灘町西荒屋地区に住む南善明さんの自宅です。家のすぐ目の前が「境目」で、大きく崩れています。
ところが、南さんの家は被害が比較的軽微で、居住が可能であることを示す青色の紙が貼られていました。25年前に家を新築したときに「地盤改良」をしたことが、被害軽減につながったのではないかと考えています。
砂にコンクリートを混ぜて地盤改良をしたから、その分だけしっかりしとるかなと思う。それがなかったらたぶん家が傾いとった。
地盤改良は、東日本大震災の教訓を経て実施が盛んになりました。液状化の被害は受けたとしても、家が倒壊するほどの深刻な液状化被害は防ぐことができ、命を守ることにつながります。
液状化で“橋が通れない”思わぬ危険性も
県内のどこでも起こりうる“身近なリスク”も発見しました。それが“避難をせき止めてしまう”橋です。
橋のまわりが液状化した影響で、元々つながっていた地面と橋が離れてしまい、通行できない状態が続いていました。
液状化で橋が寸断されると避難の妨げになり、津波に巻き込まれるリスクが大きくなります。例えば、高松市には東から、新川、春日川、詰田川があり、橋が架かっていますが、南海トラフ巨大地震が起きたときに、これらがすべて通れなくなると考えるべきです。もちろん高松だけに限らない話です。
長谷川さんは、自治体と地域住民が一体となることで対策できると言います。
橋が寸断されたら、土木業者も到着できなくなります。地元の人が橋の付近に土のうを常備しておいて、簡易的に段差を解消することができれば、避難がすばやくできるようになります。先を見越して準備をしておくことが、より大事になってきます。