いろいろと大変なこともある育児。でも、育児は楽しんでこそ。そんなときにおすすめなのが「子育て川柳」です。そこで、全国から応募があったたくさんの川柳の中から10句をノミネート。番組MCと、倉石哲也さん、麦谷綾子さんが審査員となって、子育て川柳大賞を選びます。

専門家・審査員
倉石哲也(武庫川女子大学 教授)
麦谷綾子(日本女子大学 准教授)

子育て川柳「子育て悪戦苦闘」編

川柳を3つの部門「子育て悪戦苦闘」「子育てあるある」「子育てハッピー」にわけて紹介します。

まずは、大変なこと、やっちゃった失敗などを詠んだ「子育て悪戦苦闘」編です。

目覚ましは 赤ちゃんキック 顔の上

埼玉県 お子さん8か月のママより

1人娘を寝かしつけたあとは、かわいい寝顔の鑑賞会。まるで天使のようなその顔に癒される毎日で、寝顔の写真コレクションをしちゃうほどです。でも、そんな娘が悪魔にひょう変するときがあります。娘はとにかく寝相が悪く、朝方になると動き回り、毎日のように顔にキックをしてくるんです。
そんな娘を詠んだ一句です。

目覚ましは 赤ちゃんキック 顔の上

最近では、先に起きて「かまって!」とパンチやキックをしてきます。とはいえ、私が起きるとうれしそうに笑う娘と、キックをする小さい足を見て毎朝しあわせを感じます。

倉石哲也さん

寝相が悪いのは、よく眠れていることなんですよ。深い眠りと浅い眠りのリズムがあるのですが、リズムの中で体が動くときがあるわけです。大人の寝返りと一緒なのです。

鈴木あきえさん(MC)

よく眠れているからこそのキックなんですね。

麦谷綾子さん

わが家も、子どもから裏拳をされたことがありましたね。娘をベッドの真ん中に、川の字で寝ているのですが、ベッドの端に押されて、目が覚めると体が痛いことがあります。子どもに何かされて「痛!」となっても、許せてしまうのが不思議ですね。

鈴木あきえさん(MC)

子育てをしていると、痛いときが多いのですが、それを笑いながら共有できるとダメージも報われるような気がします。

つわりでも ビニール片手に オムツ替え

島根県 お子さん5歳・3歳・1歳2か月のママより

3人の男の子を育てています。1年前は3人目を妊娠中で、当時4歳の長男と2歳の次男をみながらでした。私はつわりが重く、1人目のときは1か月入院したほどで、体力が限界でした。周囲からは入院を勧められましたが、2人の子どものお世話があるので自ら断り、家にいる選択をしました。
そんな「つわり」と「子育て」でヘトヘトなときに考えた一句です。

つわりでも ビニール片手に オムツ替え

とにかくつわりがひどく、常に袋を持ち歩きながら家事・育児。でもオムツ替えのときは、袋にオムツを入れてしまえるので、その点は便利でした。
※一般的におむつ処理用に使われるのはポリ袋です

麦谷綾子さん

妊娠中で2人も育てて、それを笑いに変えられるのが、とてもたくましいですね。

鈴木あきえさん(MC)

ちなみに、このママは川柳が大好きで、今回なんと9句も詠んでくれました。そのひとつが、「子のために 虫取り名人 母本気」です。
結婚前は虫を見るのも触るのもできなかったけど、3人の男の子のママとなって、子どものために虫を手づかみできるようになったそうです。ときには虫カゴを横目に食卓を囲むこともあるとか。「我ながら強くなったな」と思っているそうです。

麦谷綾子さん

想像はできますが、おそらく私の想像の斜め上だろうと思いますね。大変だと思いますが、このご家族ならではのおもしろエピソードにことかかないのではないでしょうか。私は弟が3人いるので親近感があります。
わが家は娘2人で、少し違ったコミュニケーションがありますが、それぞれの家庭にそれぞれのストーリーがあるのでしょうね。

閉め出され 到着したのは 消防車

長野県 お子さん3歳5か月三つ子のママより

三つ子を育てています。3人をみるのは忙しく、特に朝が大変です。仕事をしているので、まずは自分の準備、そのあとに子どもたちの食事、着替えです。そして車で保育園に送ります。
そんなある日、大変なことが起こったときの一句です。

閉め出され 到着したのは 消防車

その日、保育園に送るために、子どもを1人ずつ車に乗せようとしていました。まずは、いちばんおとなしい長男を乗せ、2人を玄関で待たせていました。でも、2人目を連れてこようとすると玄関の鍵が閉まっています。どうやら子どもたちが遊んで閉めてしまったようです。
鍵は玄関の中にあるので、外からは開けられません。「開けて!」と言っても、子どもたちには伝わりません。「台所へ行ってしまったら危険」と思って、すごく焦りました。そこで、消防署へ連絡をして鍵を切断して開けてもらうことにしました。電話から5分ほどで消防車がサイレンを鳴らして到着。「よかった、これで大丈夫」と思った瞬間、カチャっと鍵が開く音が。まさかのタイミングで、消防士さんにあやまることしかできませんでした。ただただ反省しています。

麦谷綾子さん

ある操作ができるからといって、逆ができるとは限りません。ズボンを脱げるけど履けない、ボタンを外せても、かけられないこともあります。鍵も同じかもしれないと思いますよね。
今回の場合は、もしかすると、子どもたちが消防車の音を聞いて、「消防車だ!」と思って開けたのかもしれませんね。

倉石哲也さん

やってしまったことを「これからはやめてね」と言わなければいけませんが、つい焦って怒りながら伝えると、「怖かった」だけが残ってしまうことがあります。落ち着いて聞けるような状態になったときに、「大事なことだよ、これからはやめようね」と伝えるといいでしょうね。

鈴木あきえさん(MC)

ちなみに、このような状況になったとき、消防署は対応してくれるそうです。ママが消防署に連絡したのは間違えではなかったんですね。
※消防署への連絡は緊急性がある場合のみにしましょう


あきえママが選んだ「子育てあるある川柳」編

続いてのテーマは、「あきえママが選んだ 子育てあるある川柳」です。

仕事でも 言ってしまった 「ママがやる」

神奈川県 お子さん2歳のママより

仕事でも 言ってしまった 「ママがやる」

仕事で取引先と打合せしているとき、つい自分のことを「ママ」と言ってしまいました。「ごめんなさい!」とあやまると、笑ってもらえて、なごやかなムードになりました。

鈴木あきえさん(MC)

この句を聞いて思ったのですが、子ども側もありますよね。「家でもね 言われてしまった ねぇ先生」。よく間違えませんか?

古坂大魔王さん(MC)

ありますが、自分で選んで自分の句を詠んだらだめですよ!

マジックか 増える落書き 減るキャップ

愛知県 お子さん4歳・1歳7か月のママより

マジックか 増える落書き 減るキャップ」

1歳の息子が、油性ペンで壁に落書きします。いちばん困ったのは冷蔵庫と炊飯器に落書きをされたこと。炊飯器は余白がないほど描いていました。その上、外したキャップがよくなくなり、今まで20~30本のキャップがなくなっています。

古坂大魔王さん(MC)

落書きは増えるけどキャップはなくなるところが、手品のマジックと書くマジックがかかっていてうまいですね。

倉石哲也さん

思いっきり楽しんでいる雰囲気が伝わってきますね。

昼ごはん 娘5品で 父粗品

東京都 お子さん9か月のママより

昼ごはん 娘5品で 父粗品」

娘のごはんは毎食、おかゆ、おかず、フルーツなど何品もあります。一方、在宅勤務の多いパパへの昼食を用意する余裕がありません。そんなパパに申し訳ない気持ちと感謝でいっぱいです。パパは餃子が大好きなので月に1度「餃子の日」を設けておうちで食べます。月いちの楽しみです。

古坂大魔王さん(MC)

上手な句ですね。「座布団1枚!」と言いたいです。全員、怒ることもなく、いい人ですよね。

麦谷綾子さん

やさしいですよね。この川柳で、自分にもこういうときがあったなと、忘れてしまっていたことが思い起こされました。ほっこりしますね。


番組MC・専門家の一句

ここで、番組MC・専門家の4人が考えた子育て川柳を発表します。

こんなにも 好きになられて いいのかな

麦谷綾子さん

こんなにも 好きになられて いいのかな

子どもは、私がいいかげんなことをたくさんしているのに、とても好きになってくれて、愛してくれます。人生の中で、こんなに好かれることがあるんだと思いました。しあわせのような、一方で少し申し訳ないような、そんな気持ちを詠みました。

古坂大魔王さん(MC)

私も思うことがありますよ。子どもが生まれる前は、「無償の愛」という言葉が、親から子への愛だと思っていたんです。でも今は、子どもから親への愛なんだと思うようになりました。逆だったんですね。

迷ったら ハッピーなほう すくすく流

鈴木あきえさん(MC)

迷ったら ハッピーなほう すくすく流

これまで、「すくすく子育て」で専門家のみなさんから、「どうすればいいか迷ったら、親子が少しでもハッピーなほうを選んだらいい」と、あたたかい言葉を学びました。この川柳は、人生の川柳にもなっていると思います。

はじめての むすめのことば 「まぁいいか」

倉石哲也さん

はじめての むすめのことば 「まぁいいか」

娘のはじめての言葉が「まぁいいか」だったんです。親がよく言っていたんですよ。子どもが何かしても「まぁいいか」と。わが家のモットーみたいなものです。できないときは、まあいいじゃないかと、許し合う感覚なんです。

ヘトヘトの 心にしみいる 「パパ大好き」

古坂大魔王さん(MC)

ヘトヘトの 心にしみいる 「パパ大好き」

「大好き」という言葉がどれだけ重要か、子どもが生まれて気づきました。1日に10回は言っています。娘たちも「パパ大好き」を言うんです。最近はかしこくなって、何かこぼすなど、やってしまったときに「パパ大好き」と言うんです。でも、その「大好き」が疲れているときに聞くと、いいなと思うんですよね。みなさんも、子どもに、ママ、パパでも言い合いましょう。


子育て川柳「子育てハッピー」編

続いて、うれしいこと、感動したことを詠んだ「子育てハッピー」編です。

うつむいて 幸せ広がる だっこひも

北海道 お子さん10か月のママ

10か月の息子は寂しがりやで、ママと一緒じゃないとすぐに泣いてしまいます。ひとときも離れてくれないので家事がおろそかになりがちでした。パパはそんな状況を見て、率先して家事を進めてくれます。でも、「他のママはできているのに」と落ち込んでしまうことも。あまりにも離れてくれないので、家の中でだっこひもを使ってだっこすることにしました。
そんなとき詠んだ一句です。

うつむいて 幸せ広がる だっこひも

だっこで泣くことが減り、家事もはかどるようになりました。そして、ふとしたときにうつむくとだっこひもの間からぷくぷくのほっぺが見えます。そのたびに「かわいいな」と思い、つらいことを忘れ、しあわせな気持ちになれます。今は1日5時間だっこすることもあります。以前はスマホのゲームが趣味でしたが、今はだっこが趣味になり、ゲームはしなくなりました。

倉石哲也さん

だっこはスキンシップにもなり、実は赤ちゃんの育ちにもいいのです。親に体を任せていると、余計な力が抜けて、体のバランスがよくなるといわれています。

麦谷綾子さん

以前は、「だっこ癖がつく」といわれることもありましたが、今はアタッチメント(愛着形成)といった観点からも、子どものだっこに応えることは大事だとわかってきています。子どもが成長していくと、だっこ以外のいろんな方法ができるようになって、その引き出しがたくさんあると、どんどん楽になると思います。コミュニケーションのしかたはそのときどきで、だっこがいいときもあれば違うやり方がいいことも出てくるのではないかと思います。

何してる? 「風食べてるの」 口開けて

お子さん2歳4か月のママより

子どもを保育所へ迎えにいった、帰り道のできごとを詠んだ一句です。

何してる? 「風食べてるの」 口開けて

ある日、自転車で保育所から家まで帰るとき、チャイルドシートに座る娘が口を開けていました。「なんで口を開けてるの?」と聞くと、「風食べてるの」と言うんです。天使のような答えに、ストレスフルだったことが嘘のように吹き飛びました。

麦谷綾子さん

子どもが見ている世界は、枠組みや知識、言葉がないからこそ出てくる表現がありますよね。大人には、なかなか発想できません。そのおもしろさが、子どもの思いがけない表現や行動で気づかされます。

母よりも 慈愛に満ちた 兄4歳

三重県 お子さん4歳・1歳のママより

娘(1歳)は、すぐ泣いてしまいます。新生児のころは夜泣きもすごく、お世話で慢性的な寝不足状態。当時はストレスがMAXで、思わず「なんで泣いとんのさ!」と声を荒げてしまったことがありました。そのとき、お兄ちゃん(4歳)が、「まだ赤ちゃんだから怒らないで!」と注意してきたんです。
その反省の気持ちを詠んだ一句です。

母よりも 慈愛に満ちた 兄4歳

お兄ちゃんは「どうしたの?」と妹にやさしく声をかけてくれました。私は、お兄ちゃんに怒られた瞬間、我に返り「ごめんなさい」という恥ずかしい気持ちになったと同時に、お兄ちゃんの成長を感じ、しあわせな気持ちにもなりました。

倉石哲也さん

もともと、親からやさしさを受け継いでいると思いますよ。夜泣きなどで大変なときは、きつく言うことがあるかもしれませんが、ほかの場面では、日常的に、家の中にやさしい会話があるのだろうと思いました。

麦谷綾子さん

「母親は慈愛に満ちている」という理想像がありますが、そんなことはありません。それなのに、どうしても罪悪感を持ちやすい傾向があります。ママが常に家の中の慈愛を全て引き受ける必要はなく、家族みんなで慈愛のバランスをとればいいのです。
お兄ちゃんがその役割を担えているのは、家庭のあたたかさがあると思います。家族みんなで妹に愛情を注げているのだろうなと感じました。

写真館 一人立つ 小さな背中

東京都 お子さん5歳のママより

娘が生まれたのは3月29日。はじめての子どもです。早生まれの娘は、同級生より一回り小さくて、何をやるにも出遅れてしまいます。甘えん坊でママやパパが大好きで、いつもだっこをせがんできます。
そんな娘が、5歳のとき見せた姿を見て詠んだ一句です。

写真館 一人立つ 小さな背中

5歳の記念に、写真館で家族写真と本人1人の写真を撮影してもらいました。1人の撮影のとき、小さな足で台にあがり、心細そうな背中を見せ、カメラマンさんの「笑ってね」という声かけに一生懸命対応していました。かよわいその肩と背中に胸が熱くなりました。

倉石哲也さん

写真のお子さんは、すごくしっかりしたりりしい、いい顔をされてますね。

麦谷綾子さん

うちの上の子も早生まれなんです。11か月の子と0か月の新生児は、全然違いますよね。「相対年齢効果」という研究もされています。その子たちが同学年になると、ある程度の発達の差はしかたがないことですが、親はほかの子と比べて心配になります。でも、比べるべきは他の子ではなく、その子の少し前の姿です。成長を感じて、早生まれだからこそ、より感動することもあります。
お子さんが写真館で頑張っている姿に親が成長を感じて、そこに喜びを見つけられたのは、早生まれだったこともあるかもしれませんね。とてもすてきな話ですね。

鈴木あきえさん(MC)

私もここで一句出てきてしまいました。「子育ては 最高級の 推し活だ」。ありがとうございます。川柳、楽しいですね。

古坂大魔王さん(MC)

自分の句ばかりどんどん出さないでくださいね!


すくすく子育て川柳大賞

以上の10句を、番組MC・専門家の4人で審査を行い大賞が決定しました。
すくすく子育て川柳大賞は…

つわりでも ビニール片手に オムツ替え

「つわりでも ビニール片手に オムツ替え」です。


鈴木あきえさん(MC)

票が分かれましたが、やはり「この句だ」となりましたね。

倉石哲也さん

そうですね。親の強さが伝わってくるいい句だと思いました。

麦谷綾子さん

家族写真を撮るように、川柳で家族のできごとを残していくと、きっとそのときの光景が言葉で立ち上がってくるだろうと思います。とても楽しいですね。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです