「いい母になれない」と悩むママたち。自分の思い描く「理想の母親」を目指していたけれど、実際には理想のようになれないということもありますよね。
今回は、そんなママたちの心にのしかかる「理想のいい母」について考えます。

専門家:
大日向雅美(恵泉女学園大学学長 発達心理学)
長谷川博一(こころぎふ臨床心理センター所長)

笑顔でいられない私は、いい母ではない?

子育てをする上で、なるべく笑顔で、穏やかでいることを心がけています。
しかし、夫が仕事から帰ってきた際に、「笑顔で迎えてほしい」と言われてしまいました。夫のその言葉を聞いてから、プレッシャーを感じ、「自分はいい母ではないのでは?」と思うようになりました。
夫は子育てに対して協力的で、尊敬しています。そのため、「私がストレスを感じてはいけない」と思うのですが、子育ての疲れから笑顔でいられないときがあります。
笑顔で穏やかにいられない私は、「いい母」とは言えないのでしょうか。
(3歳9か月の女の子と1歳の男の子をもつママより)

子育て中にいつも笑顔で穏やかでいることは無理

回答:大日向雅美さん

子育て中にいつも笑顔で穏やかにいるというのは無理だと思います。
子育ては修羅場! 子どもを叱るために大きな声をあげてしまうなどして、疲れて笑顔でいられないことがたくさんあると思います。
ママは、パパが帰ってきたときに「援軍が来た!」と安心して、笑顔になればいいと思います。
まずは夫婦で、「いつも笑顔で穏やかにいる」という目標設定を変えましょう。

パパは、仕事から疲れて帰ってきたときに「ママには笑顔で迎えてほしい」との思いから、言ったひと言だと思いますが、「ママも子育てで疲れている」ということを理解した上で、「今日は大変だっただろう」「僕が帰ってきたから大丈夫」といった労いの言葉をかけてあげると、ママを少しでも笑顔にすることができると思いますよ。
夫婦の会話は、いつもベストでなくてもいいですね。
けんかをし、行き違いをしながら、なんでも言えるような夫婦の関係を築いていけるといいと思います。

笑顔は人に見せるためのものではなく、自分の心の中で自然と出てくるもの

回答:長谷川博一さん

無理をして笑顔を作る必要はないと思います。
人間は感情を持っており、その感情に応じて表情が出てくる生き物です。そのため、「笑いたい」という気持ちがないのに笑顔を作ることはできません。
笑顔は人に見せるためのものではなく、自分の心の中で自然と出てくるものです。作った笑顔を見せていても、いずれは家族や親しい人に作り笑顔をしていることを気付かれてしまうと思います。


実母からの指示や注意で、自信がなくなる私は大丈夫?

母が、おいとめいの面倒を見ていたため、その経験から子育てについてアドバイスをもらうことがあります。
親切で教えてくれているのだと分かってはいるのですが、自分に自信がなく、落ち込んでいるときに、母からのアドバイスや注意を受けると、「自分はいい母親になれていない」と感じ、より自信がなくなります。
(1歳9か月の女の子をもつママより)

メリハリをつけて聞き流すことも大事

回答:大日向雅美さん

アドバイスや注意は、メリハリをつけて聞き流すことも大事だと思います。
今のおばあちゃんは、若くて、元気もあって、自分の子育てに自信を持っています。そのため、娘を思うあまり、つい干渉的になってしまいますが、悪気があって指摘しているわけではありません。
アドバイスを受けたら、「ありがとう」と返し、しかし「すべてをうのみにはしない」と決めて、振り分けをするといいと思いますよ。
また、パパは、おばあちゃん(妻の母親)から子育てについて指摘されたときは、「妻は子育てをよくやってくれているんですよ」などと、妻をほめて守ってあげるようにしましょう。

また、よいお母さんになろう、と思う気持ちは大切ですが、誰かに決められた「いい母」ではなく、自分の「いい母」を決められるといいですね。そのためには、誰のために、何のために「いい母」になりたいのか、自問自答することもいいことだと思いますよ。

おばあちゃん主導の子育ては立場の入れ替えになってしまう

回答:長谷川博一さん

おばあちゃんが子育ての主導になってしまうと、立場の入れ替えが起きてしまうため、最終的な子育ての方針は自分たちで決めるようにしましょう。
夫婦でスクラムを組んで、「自分たちが責任を持って子育てをしていく」という旨を伝え、参考のためにおばあちゃんの知恵を借りるようにするといいと思いますよ。


感情的に怒ってしまう私はいい母ではない?

2人目の子どもが生まれてから、「いい母」ではないと感じ、悩んでいます。
現在、上の子はイヤイヤ期で、何事にも「イヤ」と言います。
わがままを言うことに、「しかたないな」と思えるときもありますが、自分の気持ちに余裕がないときは、つい怒鳴ってしまい、その後、「どうしてこんなにイライラしてしまうんだろう」と落ち込みます。
「自分の気持ちを抑えて、子どもの気持ちになって考えてあげる母親」が理想だったのですが、実際にはそれができずに、感情的になってしまいます。心の余裕が持てない私は、「いい母」ではないのでしょうか?
(2歳7か月の女の子と1歳2ヵ月の女の子をもつママより)

欠点や自信がないことは、成長のために大事なこと

回答:大日向雅美さん

自分の欠点や自信がないと理解することは、自分の成長のためにとっても大切なことです。
人間は感情をもった生き物で、ママも人間です。感情的になって怒ってしまうのは当たり前のことだと思います。
子どもの発達年齢を考えると、大きな声で子どもを叱らなければいけないときもあります。それを子どもが見て、「自分はなにかいけないことをしてしまったんだ」と子ども自身が気付くことも大切です。みんなが子どもに対して、やさしく笑顔でいることの方が不自然だと思います。

一番問題なのは、自分の欠点を見てみぬふりをする、言い訳をしてごまかしてしまうことです。
まじめで完璧な「いい母」になる必要はありません。「自分も人間である」と認めた上で、自分の至らないところも埋めながら、徐々に「いい母」になっていけばいいと思いますよ。

目の前の展開から目を反らしてみることも必要

回答:長谷川博一さん

子どもがわがままを言って、外に出なかったり、おむつを履かなかったりするときには、目の前の出来事から少し目を反らしてみることも大切です。
いったん冷静になれる時間を持つことで、ママとしての自分を守ることができたり、自分の中にある気持ちや、やりきれない思いなどを多少解消することが出来ると思います。


母親の行動や考え方は全部子どもに影響してしまう?

自分の行動や考え方が全部子どもに影響してしまうのではないかとプレッシャーを感じています。
小さいうちは問題ないかと思いますが、成長するにしたがって、どのように育てていけばいいのか悩んでいます。
(10か月の女の子をもつママより)

母親と子どもの良い関係、適度に距離がある

回答:長谷川博一さん

確かに、母親の行動や考え方に子どもは影響を受けますが、子どもはより多くの刺激の中で成長していきます。

母親と子どもの良い関係は、適度に距離感があることです。
しつけをするときも、程よいしつけをするといいと思います。
完璧に正しいしつけをするのではなく、少しいい加減だったり、手抜きをするときがあったりするくらいが適切な親子関係だと言われています。
息抜きも大事です。

例えば、子どもが硬いおもちゃにあたまをぶつけると、痛がって泣きます。
子どもはそれを体験して、「これに頭をぶつけると痛いんだ、次からは気を付けよう」と学習します。
この体験は子どもの主体性を伸ばすためのきっかけになります。

完璧に親がしつけようとすると、失敗の機会、つまり子どもの成長する機会を奪ってしまうことになります。
子どもにあえて痛い、苦い体験をさせることは、成長する上での肥やしになると思いますよ。

ママは「舞台監督」になってほしい

回答:大日向雅美さん

「子どもとは適度に距離をおく」ことの具体的なイメージは、「役者と舞台監督」のような関係です。
その中で、ママには「舞台監督」になってほしいと思います。

舞台に上がって、主役を演じるのは子どもです。
しかし、子どもはママだけではなく、周囲の脇役の人たちに支えられて、徐々に輝いていきます。

親の役割は、子どもにどのような人々に関わってもらえばいいのかと配役を考えることです。
そのためには、ママが舞台に上がるのではなく、少し距離を置いたところで様子を見守るといいと思います。


すくすくポイント
「いい母になれない」と悩むママにおすすめの自分を認める方法

理想の母親像はありますか?
「感情的にならずに」「子どもの気持ちになって」と思っていても、つい声を荒げてしまい、落ち込んでしまうこともありますよね。
自分で自分を追いつめてしまうママも多いそうです。

そんな「いい母になれない」と悩むママたちに、専門家がおすすめする「自分を認める方法」についてご紹介します。

自分を認める方法

日常の子どもとの場面(食事のシーンなどを約30分)を、録音・録画し、自分の行動を見返してください。
実際に自分がどんな言葉を発しているのかを確かめてみるという方法です。
そうすることで、客観的に自分を知ることができます。

<録画の例>

今回は、忙しい食事どきの様子を録画しました。
録画した映像で行動を見返してみると、ママは次から次に子どもへの指示の声かけをしていました。
しかし一方で、子どもに何かを運んでもらったときは、「ありがとう」、ごはんをきれいに食べられたら、「上手に食べられたね」などと、子どもの気持ちに寄り添う言葉もありました。

▽昼食時の30分間に子どもにかけた言葉の数
撮影した映像の中でママは子どもに、以下の3種類の声かけをしていました。

「禁止」の言葉・・・11回
「指示」の言葉・・・9回
「尊重」の言葉・・・4回

専門家によると、好ましくない言葉がけの回数は少ないとのこと。
以下の言葉は、子どもへの声かけの際に、好ましくない言葉なのだそうです。

「否定」・・・いい加減にしなさい
「指示」・・・~しなさい
「禁止」・・・~しちゃダメ

「上記の言葉は、子どものしつけの中ではあまり必要のない言葉とされています。逆に必要とされる言葉は、『そうなんだね』、『わかったよ』『いいよ』などの『尊重』の言葉です。」
長谷川博一(こころぎふ臨床心理センター所長)

今回録画してみたママは、「自分では『いつも怒ってばかりいる』と思っていても、こうして見返してみると意外な自分を発見することができました。」と、少し自信がついたようです。
客観視することは、自分を認めるための第1歩になります。自分の子育てに自信が持てない、というママは一度試してみてはいかがでしょうか?

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです