注意しても言うことを聞かない子にうんざりしたり、許せない行動にイライラした気持ちを子どもにぶつけてしまったり、どうすればいいのか困ってしまうことはありませんか? そんな「子どもの叱り方」について、専門家と一緒に考えます。

専門家:
柴田愛子(保育施設代表)
遠藤利彦(東京大学大学院 教授/発達心理学)


効果的な叱り方は?

最近、娘(2歳)のわがままな行動に、どう対応すればいいのか悩んでいます。
例えば、娘が遊んでいるときにもじもじしだしたので、トイレかと思い「トイレはどうですか?」と声をかけても無視され、何度も声かけすると「やだ!」と言われます。おやつがなくなると「もっと食べたい!」とお皿をたたいたり、お風呂の時間に好きなアニメを見たいと言ってものを投げたり。私もつい大声を出してしまうときがありますが、怖がらせるしつけはしたくありません。
言葉をよくしゃべるようになりましたが、見当違いの返事があるなど、まだ伝わっていないこともあると感じています。理屈で説明してもなかなか届かない年齢だと思うのですが、どうすればうまく伝わるのでしょうか。効果的な叱り方を知りたいです。
(お子さん2歳6か月のママ)

古坂大魔王さん(MC)

こういったやりとりが、1日に何十回もありますよね。毎回叱るわけにもいかないし悩むところです。

鈴木あきえさん(MC)

難しいですよね。子どもに聞いてほしいことに限って無視されるのは、うちでもよくあります。どうすれば心に響く叱り方になるのか気になりますよね。

―― 子どもへの対応はどうすればいいのでしょうか?

子どもが「自己主張できるようになった」と受け止める

回答:遠藤利彦さん

おそらく、ママの言っていることは聞いていると思います。ただ、「言われていること」より「やりたいこと」が勝っている状態なのでしょう。
見方を変えれば、自分の感情や欲求をきちんと持って、自己主張できるようになってきているわけです。それは、子どもの発達において大切なことでもあるので、まずはポジティブに受け止めてみてください。

一貫性を持って叱ることが重要

回答:遠藤利彦さん

叱るときに重要なのは、「こういうときはダメなんだよ」と一貫して伝え続けることです。子どものしつけにおいて、「ブレる」ことはいちばん気をつけないといけません。行き当たりばったりな叱り方だと、子どもが大人を信じられなくなることがあります。子どもが「こういうときは絶対ダメなんだ」とわかるようになると、子どもの行動にもあらわれてくると思います。

古坂大魔王さん(MC)

一貫性を守り続ければ、そのうち子どもにわかってもらえるのですね。

鈴木あきえさん(MC)

耳が痛い話ですね。私はよくブレてしまうので、一貫性を持てていないなと反省しました。

「トイレに行こう」とお伺いをたてる必要はない

回答:柴田愛子さん

私はメリハリがあってもいいと思います。例えば、トイレをしてしまっているなら、「どうですか?」と聞かなくても、「あっ、大変!うんち!出してこようね」と言って実力行使でもいいと思います。そのとき、「出したあとで、また一緒にこれで遊べるから大丈夫」と、遊びを中断してもあとでできることを伝えておきましょう。親が管理しなければならないところは、一貫性を持てばいいと思います。

ものを投げるのは感情表現

回答:柴田愛子さん

子どもは、思うようにいかないことがあってムシャクシャしても、うまく言葉にできず、どうしていいのかわからないから体で表現するわけです。泣き叫んだり、じだんだを踏んだり、ものを投げたり。私は、その感情を我慢するより出したほうがいい、思いを吐き出す行為は止めないほうがいいと思います。
ただ、投げて危ないときは「これはやめて、これにしてくれる?」と伝えて、投げてもいいものに取り換えてみたり、投げる方向を変えたり、危険がないように子どもに促してみてください。

古坂大魔王さん(MC)

私も我慢するより出したほうがいいと思います。私の趣味で家にサンドバッグやキックミットがあるのですが、子どもが「あー!」となったら、キックミットを打たせるんです。そのうち笑っているんですよね。スカッとするのでしょう。


家で暴れる兄弟… どうすればいいの?

息子2人はやんちゃざかりで、少しの間もじっとしていられません。家の中でも飛んだり騒いだり、ばたばた暴れるように遊んでいます。集合住宅なので「他の家の迷惑になるからやめてね」「下の人に響くよ」と繰り返し言いますが、あまり聞いてくれません。ケガも心配で、危ないことはやらないでほしいです。
長男が2歳のころは、強く叱ってやめさせようと思っていましたが、兄弟が2人になってあきらめました。「いい注意」って、どんな注意なのでしょうか。もう毎日が、疲労困ぱいです。
(お子さん5歳・1歳7か月のママ・パパ)

家の中のルールを作り、親子で確認できるように

回答:遠藤利彦さん

「暴れる」という表現でしたが、映像を見ると、兄弟で「体を動かしたくてしょうがない」が全面に表れていて、とても仲よく遊んでいる様子が伝わってきました。見ているこちらが、楽しくなってくるようです。
ただ、子どもが遊びに夢中になると、なかなか止まらないですよね。基本的には、徐々にルールを作ることが必要でしょう。「こういうときはやめよう」「何時になったらおとなしくしよう」などです。親子で確認できるように、紙にひらがなで書いて張り出しておくといいですね。そのように、親子で一緒に確認しながらルールを作るのも一つの方法です。

子どもと一緒に、住んでいる人に会いに行き、周囲と子どもとの関係をつくる

回答:柴田愛子さん

お子さんぐらいの年齢だと、「迷惑」の意味がわからないと思います。そこで、お子さんと一緒に下に住んでいる人の家まで挨拶に行って、どのくらい響いているのか聞いてみるのはどうでしょう。「いつもうるさいですか?」と聞くと、「そうだよ! うるさい!」と言われるかもしれないし、「あんまり気になってません」かもしれません。あるいは、「やっぱり夜はやめていただきたい」の場合もあるでしょう。実際に会って、話して、住んでいる人と子どもとの関係を作っていくと、子ども自身が「あのおじさんが嫌がっている」「あのおばさんはこう言っていた」と考えて、「自分はこうしたい」と自分でコントロールするようになると思います。
周囲の人たちに「大きくなったね」と言ってもらえるような関係になるのもいいですよね。

―― 子どもが危険なことをしていると、つい大声を出してしまうことがあります。どうしたらいいでしょう?

危険なときには感情を込めて叱る

回答:柴田愛子さん

危険なことは、間髪を入れずに「それはダメ!」と叱りましょう。感情的に叱ってはいけないと思いがちですが、私は感情を込めて叱らないと子どもに伝わらないと思います。大好きな人が喜んでいる、悲しんでいる、苦しんでいる。その感情は、子どもに直結しています。だから、なぜ危ないのか説明するより、「これは危ないからダメ!」と伝えたらいいと思います。

古坂大魔王さん(MC)

そうですね。危険が差し迫っているときは、そのほうがいいですよね。

感情が「親の本気」を伝える

回答:遠藤利彦さん

感情は、親の本気度を伝えるものです。子どものために感情をともなわせるわけです。例えば、目をしっかり見たり、ふだん使わないような言葉を使ったり、表情をつくったりすると、本気度が伝わります。子どもは「これは重要なんだ」というメッセージを受けることになるのです。


公共の場で叱るとき、周りの目が気になる…

外出先で叱らなければならなくなったとき、周囲の目が気になります。いつもより長く叱ってしまったり、自分のイライラが出ていないか心配になったりします。先日、子どもを叱っていたら年配の女性が口に手を当ててこちらを見ていて、その場にいるのが耐えられなくなりました。私は悪いママなのでしょうか。
(お子さん6歳・2歳のママ)

古坂大魔王さん(MC)

これは、多くの親が感じていることだと思います。周りの人たちの意見が刺さるような感覚です。「最近の親は…」「虐待…」と言われているのではないかと気になってしまいますよね。

鈴木あきえさん(MC)

スーパーや病院など、公共の場で叱らなければならないケースもあるので、どうしても人の目が気になってしまいますよね。私は全く「悪いママ」だなんて思いません。気持ちがとてもわかります。

すくすくファミリー

公共の場で叱るのは、よほどのことでなければ「いいかな」と思っています。でも、「どうして、子どもを放っておいて叱らないの?」など、叱らないことでどう思われるかも少し気になります。

古坂大魔王さん(MC)

周りの目は、自分の気持ちによって受け取り方が変わりますよね。どうしても弱い立場になりがちな育児中は、強く感じてしまいます。

―― みなさんの話を聞いていかがでしょうか?

一貫性を持って、きぜんと叱ったほうがいい

回答:遠藤利彦さん

やはり、周りの目は気になりますよね。ただ、基本的には、一貫性を持って叱るべきときにはきぜんとして叱ったほうがいいと思います。外出先であったとしても「絶対ダメなことはダメ」と、きぜんとした態度で貫く原則は必要だと思います。

「虐待」という言葉に必要以上に臆病になるのは子どもの発達にマイナス

回答:遠藤利彦さん

世の中では「虐待」「不適切な養育※」といった言葉や考え方が浸透しています。それらに対して、厳しい目ができたこと自体はいいことだと思います。一方で、叱ることが「他の人に虐待と思われてしまうのではないか」、自分のしていることが「実際に虐待にあたるのではないか」と、育児に臆病になってしまうのは、子どもの発達にマイナスだと思います。叱るときには、本気の感情を込めていくことで、子どもにはしっかり、徐々に伝わっていくと思います。
※不適切な養育:保護者が子どもに対して不適切な関わり方をし、子どもが苦痛を感じたり心身に危険が生じたりする状態

叱ることを親の責任にし過ぎている

回答:柴田愛子さん

「どうしてきちんと叱らないの?」などと、親を冷たい視線で見る大人が多過ぎませんか。親も困っているのです。そういうときは、周りの人が「ここは暴れちゃいけないところだよ」と言えるようになるのが、いちばんいいと思います。子どもも、他人に言われると「ドキッ」として響くのです。親の責任にし過ぎているように思います。

必要以上に冷たい視線を浴びないために、社交辞令的な言い方をしてもいい

回答:柴田愛子さん

親が「少し迷惑かもしれない」と思うときには、自分はよくても、子どもに嫌な顔をされるのをなんとかしようと思うわけですよね。それは、「いい親に見られる」ことと違います。必要以上に冷たい視線を浴びないために、社交辞令的な言い方をしてもいいと思います。自分にとってどうしても嫌なことや危険を伴うことにはきちんと叱って、周りから鬼のように見えてもいいのです。

子育ての本音を言い合える場を持つ

回答:柴田愛子さん

「いい親に見られたい」と思い過ぎると、自分が苦しくなってしまいます。建前ではなく本音を語り合える場を持ってみてください。夫婦でも、友だちでもいいのです。子育ての本音を言い合える場を持っておかないと、健康によくありません。


イライラして感情的に叱ってしまう… どうすればいい?

最近、下の子が生まれて、2人の世話に疲れていて、長女(2歳)の行動にイライラしてしまうことがあります。
注意をしてもソファでごはんを食べたり、食べたものを吐き出したり、次女(3か月)が寝ているそばで奇声を発したり。余裕があるときは大きな心で受け止められますが、寝不足や疲れで余裕がないときには、カッとなってしまうこともあります。
以前、水分をとっていなかった長女に牛乳を飲ませようとしたら、手をはねのけられて、思わずカッとなって腕をつかんでしまいました。長女は大泣きして、そのあと我にかえって謝りました。
成長過程で、言って分かる部分と分からない部分があることも理解しているのですが、本当にどうすればいいのか悩んでいます。
(お子さん2歳8か月・3か月のママ)

鈴木あきえさん(MC)

私も子どもを叱って、聞いてくれなくて、イライラして、感情をぶつけて、反省して、ということを何百回もしているように感じます。大きな心で許せる穏やかなときもあれば、ピリピリして「自分の中に人格が2つあるのではないか、子どもが混乱しないかな」と思うときもあります。

上の子を抱きしめるなど、愛情表現をしてほしい

回答:柴田愛子さん

親も子どもも「感情動物」です。親に穏やかなときもピリピリしているときもあるように、子どもも聞き分けのいいときと悪いときがあります。
下の子どもが生まれると、上の子がわがままになることがあります。聞き分けが悪くて、思わず怒ったり、つかんだりしてしまうこともあるけど、上の子のサインかもしれません。だから、下の子が寝ているときなどに、「大好きだよ」「最初に生まれてきてくれてありがとうね」と愛情を伝えて抱きしめてあげてほしい。子どもにとって、親に忘れられることがいちばん怖いことだと思います。子どもが「大丈夫、忘れられていない」と思えるような時間を作りましょう。

エモーション・トーク

子育て中は親も子どもも、感情的になってぶつかってしまうことがあります。でも、親子で「エモーション・トーク」をすると、子どもが感情をコントロールする力がつくといわれています。

解説:遠藤利彦さん

「エモーション・トーク」とは、感情的になったのはなぜか、落ち着いた状態で、親子がそれぞれそのときの感情を話し合うことです。良い・悪いを除いて、フラットに子どもと話してみましょう。
「あのとき、ママはあんなふうに怒ったけど、〇〇のことでアップアップになっちゃって、こういう気持ちだったんだ」のように話します。子どもからも同じように、何でそんなふうにしたのか、そのときの気持ちを引き出して、その気持ちを受け止めて、「じゃあ、今度からはお互いに注意しようね」と伝えます。感情がたかぶったのはなぜなのか、落ち着いた状態で話し合うことが大事なのです。
親子で感情を話題にしてコミュニケーションすることは、子どもがきちんと自分の感情を調節していく力を身につける上で重要だといわれています。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです