首都圏ネットワーク

  • 2023年1月10日

自治体データは防災の“お宝” ~オープンデータ最前線~

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あなたがお持ちの「ハザードマップ」。どうやってできているかご存じですか? 
自治体が持っている浸水の深さに関する「データ」を地図に落とし込んでできています。 
実はこうしたデータの多くは自治体のみが持っていて、一般企業にとってはさまざまな分野に活用できる「宝」とも言うべき貴重なものなんです。 
いま、こうしたデータを防災対策に活用する動きが活発化しています。 
(首都圏局/記者 直井良介)

立っている場所が浸水!? アプリを開発

こちらは大阪府内のとある交差点。スマートフォンのカメラでAR(仮想現実)の機能を使うと街が泥水を模した茶色い壁に覆われます。

東京に本社がある損害保険会社が開発したこの無料のアプリは、位置情報を活用して「自分が立っている場所の浸水の深さ」がわかることが特長です。

東京海上日動デジタルイノベーション部 石川沙莉 課長代理 
「水害が激甚化している中で、被害を自分事として捉えてもらうことが必要と考えました」

浸水データを入手せよ!

このソフトを広く活用してもらうためには、自治体のデータが欠かせませんでした。 
浸水の深さのデータは、川の形や土地の高さなど、さまざまなデータを複合的に組み合わせて作り上げるため、専門企業以外の一企業で作り上げることは困難です。 
そこでこの企業では、国からハザードマップに使われている、河川が氾濫した際の浸水の深さにまつわるデータを入手しました。

実態に近いものにするために、地方自治体のデータの収集も始めています。 
河川の浸水予測は、管理するか所によって国がつくる場合と、都道府県がつくる場合があります。中小の河川は、都道府県が管理している場合が多いです。しかし大雨の際は、こうした河川もあふれる可能性があります。 
会社では、大阪府に協力を依頼して2022年4月にデータを入手しました。

例えば、大阪市に隣接する吹田市江坂地区は、府が管理する神崎川が氾濫した場合に浸水が想定される地域で最大で2メートルの浸水があることがわかりました。 
住宅の1階まで水につかってしまいます。

防災・減災は新たなビジネス

損害保険会社がこのようなアプリを開発した背景には、少子化や若者の車離れがある中で、既存の保険金を支払うというビジネスモデルだけではなく、災害を未然に防ぐといった防災領域のビジネスにも力を入れているという状況があります。 
よりサービスに広がりをもたせる上で、自治体のデータの活用は欠かせないといいます。

東京海上日動デジタルイノベーション部 石川沙莉 課長代理 
「自治体が持っているデータは大変貴重なものです。民間企業側の商品やサービスの可能性がさらに広がり、住民の皆様の役にたつサービスの価値を創造できると思っています」

誰もが自治体データ利活用時代へ 東京の取り組みは?

東京都HPより

今の取り組みは、自治体からデータを提供してもらい、活用した事例でしたが、東京都は、自治体のデータを、広く一般に公開し、企業や個人が手続きなしで自由に利活用できるようにする取り組みを進めています。「オープンデータ」と言われています。

「いやいや、自治体のホームページにアクセスすれば情報はオープンにされているし、何を今さら」と思う方もいるかもしれません。

一般に「オープンデータ」という場合、ただホームページに情報を公開していればよいということではありません。 
例えば、自治体のハザードマップなどでよく使われるpdfファイルは、閲覧に汎用性があり、印刷にも向いていると言われます。しかし、機械で読み解いたり加工したりすることに向いていないと言われていて、企業の開発したシステムに利用しにくいのです。 
つまり、東京都の進めるオープンデータとは、データを加工・利用しやすいファイル形式に整えて公開することを言います。

2021年、静岡県熱海市で発生した土石流で、県が詳細な地形情報をオープンデータとして整備していたために、専門家や企業の分析で、いち早い被災状況が把握でき、二次被害の防止対策にもつながったことでも注目されました。

東京都のホームページでは、すでに、浸水予測データのほか、新型コロナウイルスの感染者数のデータ、公衆トイレの位置など、3600に及ぶデータが入手できます。(2023年1月現在) 
東京都では、防災に関するオープンデータも200種類公開し、ワーキンググループを開いて活用を特に推し進めていて、これまでに、のべ200社が参加するなど、期待が集まっています。

東京都デジタルサービス局 相本広樹 オープンデータ推進担当課長(当時) 
「我々行政は都民の防災・減災を担っているが、全てをカバーできるわけではない。都民に本当に使いやすいサービスの開発は、民間企業に一日の長があり、オープンデータを活用しながら官民が連携してサービスを開発していくことが非常に重要」

いち早い復旧へ 災害対応システムに活用の企業

実際に、オープンデータを活用したという東京に本社がある大手コンビニチェーンを取材しました。 
この企業では8年前に独自の災害対応システムを開発しました。

インターネット上に公開されている地図に、全国に2万余りある店舗の位置や営業情報、配送トラックのリアルタイムの移動情報などを落とし込んでいます。 
その上で、例えば、水害であれば、国の浸水の深さの予測データや、浸水が継続する時間の予測データなどを組み込むことで、どの川があふれた場合に、どの店舗やどこの道路が被害を受けるかが詳細に分かるようになっています。

きっかけは大雪

開発のきっかけは、2014年に山梨県で発生した大雪災害でした。 
現地の被害の状況を確認しようと、ひたすら現地に電話をかけて聞き取るなど把握に時間がかかり、復旧までの対応に課題が見えたのです。

これまでの災害の経験から、被災地ではコンビニの需要が大きくなる傾向にあるといい、プライバシーの問題などから在宅避難を選ぶ人も多い中、コンビニのいち早い復旧は、被災者の生活を支えることになるのです。

セブン-イレブン・ジャパン 西村出システム本部長 
「システムができる以前は、テレビの報道で読み上げられる被害を受けた地域と、店舗が書いたリストや地図を見比べて、被害を電話で聞き取って特定していました。その中で、情報が錯綜したり現場に負荷を与えたりしてしまい、初動に影響が出ていたこともあったと思います」

こうした反省をもとに作られたこのシステムでは、地震、台風、噴火など、さまざまな被害の想定をシステムに取り込んで対応を事前に検討できるほか、災害が起きても、現地の店舗の被害状況やトラックの運行状況がリアルタイムにわかることから、店舗の早期復旧や、物流網の確保につながると言います。

“高潮”のオープンデータを利用

この企業が利用した都のオープンデータは、「高潮」の浸水予測データと河川と海面のリアルタイムカメラ、そして火災の危険度を判定したデータの4種類です。

例えば高潮は、国に浸水範囲を予測するデータがない一方で、一部の地域では河川の氾濫を上回る大きな被害が出ることから、なくてはならないデータでした。

東京都は、高潮のデータもオープンデータとしてインターネットサイトで公開していたことから、スムーズにシステムに組み込むことができたと言います。

セブン-イレブン・ジャパン 西村出システム本部長 
「さまざまな事業者が、こういった自治体の持たれているデータを手軽に活用できれば、災害への対応力が高まっていく。東京だけではなく、全国にオープンデータの取り組みが広まってほしい」

課題も

新たなビジネスや自社の災害対策にとって「宝」とも言うべき自治体のデータ。 
オープンデータに詳しい駒澤大学の瀬戸寿一准教授に取材をすると、大きな期待を寄せる一方で、課題も指摘しました。

課題(1)規模の小さな自治体は 
オープンデータ化には、ファイル形式を整えるなど、ある程度の専門知識や予算が必要で、人も金も少ない場合が多い小さな自治体になればなるほど難しい。

課題(2)データの形式がそろわず 
たとえオープンデータ化に取り組んでいても、実は、自治体ごとにファイルの形式がまちまちで、企業が複数の自治体のデータを一挙に利用したいと考えても、結局、データを書きかえなければならないことがある。

国は2022年10月に、自治体がオープンデータを進めるにあたって守るべきルールや、フォーマットの注意点をまとめた資料を作りました。 
瀬戸准教授は、こうした取り組みを、さらに進めていく必要があると指摘します。

駒澤大学 瀬戸寿一准教授 
「災害は大きくなればなるほど自治体の境界を超えて広がることが想定される。だからこそ、全ての自治体が横並びにデータを公開するのが理想的だ。どのように進めていくか整理する必要がある」

社会全体で防災に取り組むために

これまで災害への備えや呼びかけは、行政が担うことが多かったと思います。しかし、災害が激甚化する中で、行政に加えて企業や専門知識を持つ個人などの力を借りながら、社会全体で取り組んでいくことが重要です。そのためには都が進めるようなオープンデータの取り組みは欠かせません。 
国がより強いリーダシップをとって、データが使いやすい仕組み作りを進めていくべきだと思います

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