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世界の水不足解消に役立つ!?世界も注目 夢の給水機

  • 2022年12月22日

「空気から取り出した水を使った給水機がある」
そんな夢のような給水機が、ことし11月に池袋の公園に設置されたと聞きました。
しかもこの給水機、世界が注目としているといいます。
“いったいどんな給水機なのか”早速取材に行きました。
(首都圏局/カメラマン 井出健太)

池袋の公園に無料給水スポットが!

その給水機は豊島区・池袋にある区立としまみどりの防災公園(愛称、イケ・サンパーク)にありました。

見た目はよくある給水機と大きく変わりませんが、ただ水を貯めるタンクがありません。担当者に聞くと「空気から水を作っているんです」という答えが返ってきました。

早速給水する親子がいて、おいしそうに飲む姿が見られました。私も試しに飲んでみましたが、普通のミネラルウォーターと変わらない味わいです。

私は開発した会社にも足を運び、社長の二羽啓史郎さんにまず素朴な疑問をぶつけました。 

井出
カメラマン

特殊な技術が用いられているんですか?

二羽社長

いえ、技術自体はとてもシンプルで除湿機とほとんど同じですよ。

なんと除湿機と似た構造だということでした。
その仕組みは次のとおりです。

(1) 吸気口から取り込んだ空気を冷やして結露
(2) 銀イオンと特殊なフィルターで除菌
(3) およそ5時間かけて飲み水に

担当者によりますと、理論上は気温10℃、湿度30%の空気と、電源さえあれば世界中のどこでも水が作れると言います。

なぜ空気から水を? 開発した企業の思い

私には小さな子どもがいるのでよく分かりますが、出先にこうした給水スポットがあるととても助かるし、ペットボトルのゴミを出さないのでSDGsだと思います。

しかし、ここでまた私の頭に疑問が。
「それならなぜ、これまで誰も作らなかったのだろうか?」
それについても重ねて聞くと、海外には加熱して水を蒸留するものや海水をろ過して飲み水を作るものはあるそうです。しかし、空気中の水分をここまで飲める水にしたのはおそらく自分の会社が初めてではないか、ということでした。

では、技術的に何が重要だったのでしょうか?
それは「結露させたあとの除菌方法」だと言います。

二羽社長
「私たちも開発当初苦労したのが除菌でした。フィルターで何度ろ過しても嫌なニオイや雑味がどうしても取り除けなくて…。6年かけて普通の水と変わらない味に仕上げる工夫を試行錯誤してきました」

その具体的な方法について尋ねると…

 

すみません、それは企業秘密です(笑)

やはり何か特別な技術が使われているようです。

この会社が作る給水機は池袋のほか、沖縄の離島など災害時に飲み水の確保が難しい地域などで取り入れられています。しかし、国内での導入例はそれほど多くないのが現状です。二羽さんは、日本では水道水の質が高く安心して飲めるうえに、ミネラルウォーターなどを買って飲む習慣があるからではないかと話します。

では、それをわかっていながら、どうして空気から水を作る技術を開発しようと思ったのでしょうか。これについて尋ねると、二羽さんはきっぱりと答えました。

二羽社長
「開発のきっかけは、途上国などの水事情を知ったからでした。日本ではとても考えられないような衛生環境で、茶色く濁った水を飲まないと生きていけない。しかし、そのために命を落とす人の話も聞きます。テクノロジーで、安心して飲める水を安定して提供できないかというのがはじまりです」

空気から水を作る技術が世界の水不足を救う?

実際に、この機械は海外、特にアフリカ・エジプトから熱い視線を集めていました。背景には年々、水需要が高まっているエジプトならではの事情があります。

エジプトではナイル川に水資源の95%を依存していますが、おととしには人口が1億人を突破。2030年には1億2000万人に達して、日本の人口を上回ると予想されています。
さらに、この国ではカイロ東の砂漠地帯に、「首都移転計画」が進められていて、これまで頼ってきた「ナイル川」以外の水源が求められているのです。

エジプト政府は、二羽さんの会社の「空気から水を作る技術」を知り、乾燥した気候でも水が作れるか知りたいと打診。それをうけ、二羽さんたちはことし8月から現地5か所で実証実験を行い、11月15日に正式にエジプト政府と契約を結びました。
今後はアフリカや中東で広く販売していくということです。

エジプト国民「空気から水ができるなんて信じられない!」

11月エジプトで開かれた気候変動対策の国連会議COP27。私も取材のため現地を訪れましたが、主要なテーマのひとつが「水」で、二羽さんたちの給水機も展示されていました。その給水機ですが、期間中「空気から水を作る技術があるらしい」との口コミが広がり、連日、ブースは多くの地元の人たちでにぎわっていました。

なかには期間中毎日訪れて試飲した女性もいたそうです。
COP27の取材でエジプトを初めて訪れて分かりましたが、エジプトでは水を飲むにはミネラルウォーターを買うしかありません。水を買わなくてもいつでも自由に手に入る生活は、エジプト国民の悲願でもあるのだと感じました。

テクノロジーで水不足の課題を乗り越えろ!

ただ、この技術を普及させるのには課題もあります。それは電力の問題です。一般的なウォーターサーバーと違って、水を作る過程で消費する電力が多くなります。

取材した会社によりますと、エジプト政府もこの点を改善する必要があるとしています。将来的には、エジプトで盛んな太陽光発電を活用するなどして電力消費の問題を解決し、持続可能な仕組みを開発していくということです。

水不足の問題はエジプトだけでなく中東・アフリカなど多くの国々で共有されている課題です。ことしは世界各地で干ばつが深刻になっていて、気候変動の影響が指摘されています。そうした地球規模の危機を、テクノロジーの力で乗り越えようという強い意思を感じた取材でした。

エジプトの人たちの期待に応え、水不足という大きな課題が解決に向かうのか、今後も注目していきたいと思います。

  • 井出健太

    首都圏局 カメラマン

    井出健太

    2012年入局。京都局ー報道局などを経て首都圏局に。前任地の時から国内外の環境問題に関心があり取材しています。大好物はクスクス料理です。

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