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「年収の壁」対策どうなる 106万円 130万円…支援強化パッケージは

  • 2023年9月26日

「年収の壁」は、配偶者の扶養に入りパートなどで働く人が、一定の年収額を超えると扶養を外れて、社会保険料の負担が生じ、手取りの収入が減るもので、人手不足の要因とも指摘されています。「年収の壁」の解消に向けて、政府は、対策を10月から実施することにしています。その支援強化パッケージの概要や課題についてまとめました。

年収の壁 106万円を超えると

パートなどで働き一定の年収を超えると扶養を外れてみずから保険料を支払う必要があり、手取りが減ることから「年収の壁」と呼ばれています。
従業員が101人以上の企業などで働く人は、年収が106万円を超えると、扶養を外れ、厚生年金や健康保険の保険料の支払いによって手取りが減り、おおむね125万円まで、その状態が続きます。

年収の壁を超えないために徹底管理

「年収の壁」の問題で影響を受けているのが、パートタイム従業員が多く働くスーパーの業界です。
山梨県のスーパーのパート従業員・齋藤麻衣さんが意識している壁は「106万円」です。スマートフォンのアプリで出退勤の時間や日当などを毎日記録して、年収の壁を越えないよう徹底して管理しています。

齋藤麻衣さん
「今の時給で社会保険料を引かれてしまうと生活が厳しくなる。年金などで返ってくると言われても、正直どこまでか分からないので(月8万8000円を超えないように)毎月管理した方がいいと思っています」

「就業調整」扶養の範囲に収めるために

パートタイムで働く人たちなどが年収を配偶者の扶養の範囲内に収めようと働く時間を減らす「就業調整」を行うことが、企業の人手不足を加速させていると指摘されています。

民間のシンクタンク、野村総合研究所が2022年9月に行った調査では配偶者がいてパートタイムやアルバイトとして働く全国の20歳から69歳の女性およそ3000人のうち、61.9%が、「就業調整」をしていると回答し、38.1%の「調整していない」を大きく上回りました。

さらに年収の壁を超えても手取りが減らないのであれば年収が多くなるよう働きたいかと尋ねたところ、とてもそう思うが36.8%、まあそう思うが42.1%とあわせて80%近くが、年収が多くなるように働きたいと考えていることがわかりました。

時給UPで「壁」が…人手不足に

「年収の壁」は人手不足の要因にもなっています。齋藤さんが働くスーパーのパンのコーナーでは1日に何回もパンを焼き、焼きたてを提供してきましたが、従業員不足の影響で午後早い時間までにすべて作り終え、夕方以降に焼くのを取りやめざるをえなくなったということです。

パートタイムで働く多くの人の時給を最近は、毎年30円程度あげてきましたが、その分、「年収の壁」に早く到達することから、配偶者の扶養の範囲内に収めようと労働時間を減らす「就業調整」を行う人が増えているということです。

いちやまマート 辻隆元取締役
「扶養の範囲内で働きたい人の時給単価が上がり、労働時間を減らしてほしいと依頼されるが、減らした分は新しく人を採用する必要がある。しかし、昨今の人手不足で採用も困難になっていて、厳しい状況となっている」

詳細 年収の壁・支援強化パッケージ

「年収の壁」をめぐり、岸田総理大臣は9月25日夜、「若い世代の所得向上や人手不足への対応の観点から『年収の壁・支援強化パッケージ』を週内に決定し、10月から実施していく」と述べました。

そして27日、厚生労働省は、いわゆる「年収の壁」対策として、10月から実施する「パッケージ」の詳細を発表しました。

〇106万円の壁 企業に助成金
配偶者の扶養に入り、従業員101人以上の企業などで働く人が、扶養を外れ、みずから厚生年金や健康保険の保険料を支払うようになる「106万円の壁」対策として、賃上げに取り組むなどして、実質的に保険料を肩代わりする企業に、1人あたり最長3年間、最大50万円の助成金を支給するとしています。

〇130万円の壁 一時的増収は扶養
従業員100人以下の企業など、厚生年金などが適用されていない職場で働く人が、扶養を外れ、みずから国民年金や国民健康保険の保険料を支払うようになる「130万円の壁」対策として、一時的な増収であれば連続2年まで扶養にとどまれるとしています。
事業主側が一時的な増収と証明し、扶養している配偶者が働く企業の健康保険組合などが認める必要があります。

〇配偶者手当
企業が、収入を基準として支給している配偶者手当も就労時間の抑制の要因とされているとして、廃止や縮小に向けた見直しを促すとしています。

今回の「パッケージ」は当面の対策として10月1日から実施します。厚生労働省は、自営業者の配偶者など、みずから保険料を支払う人との公平性に欠くとした指摘もあることから、今後、扶養のあり方や、厚生年金への加入要件の緩和といった制度の見直しも検討し、誰もが「壁」を意識せずに働ける環境を実現したいとしています。

「壁」を超えるメリットも

一方、厚生年金や健康保険に加入することで、将来受け取ることができる年金が増えるほか、けがや病気で休んだ際の「傷病手当金」や「出産手当金」を受け取れるといったメリットもあります。そうした点をいかに周知していくかも課題となります。

専門家 “制度の抜本的見直し必要”

社会保障制度に詳しい日本総合研究所 西沢和彦理事 
〇評価する点

「(130万円の壁への対策について)これから年末にかけて繁忙期も迎える中で、残業できたり、労働時間の延長に事業主が賞与で報いたりしやすくなり、即効性はある」

〇実効性に不透明な点も
「扶養の範囲が拡大することは、恩恵を受けていない人からは不公平にも映る。子育てや介護など、自分の時間と働く時間のバランスの中で、こうした働き方をパートの人が望んでいるのか疑問がある」

〇抜本的見直しが必要
「今回の対策は、あくまで人手不足対策という経済対策にとどまっているが、正社員の夫とそれを支える専業主婦の妻という過去の価値観で作られている現行の制度を、新しい価値観で見直していく視点が重要だ」

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