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静岡 袴田さん再審で証人尋問 専門家の主張のポイントは?争点は血痕の“赤み”

  • 2024年04月09日

静岡地方裁判所で開かれている袴田巌さんの再審=やり直しの裁判は、3月下旬にヤマ場を迎え、検察と弁護団が申請した専門家の証人尋問が3日連続で行われました。双方の証言の内容や今後の審理の見通しを詳しく解説します。

最大の争点  血痕の“赤み”不自然か

再審で審理の焦点となっているのは、事件の発生から1年2か月後に現場近くのみそタンクから見つかり、確定した判決で有罪の決め手とされた「5点の衣類」です。

これについて検察は「衣類は袴田さんのもので、犯行時に着用し、事件のあとみそタンクに隠した」と主張しています。

一方、弁護団は「1年以上みそに漬かっていたら血痕は黒く変色するはずで、赤みが残ることはない。赤みがあるのは、発見される直前に袴田さん以外の誰かが入れたものだからだ」と証拠のねつ造を主張しています。

これに対し、検察は「長期間みそに漬けられた血痕に赤みが残る可能性は認められる」と反論していて、再審では“血痕に赤みが残っていたことが不自然かどうか”が、最大の争点になっています。

弁護側の鑑定 「“赤み”残らず」

3月下旬、この争点をめぐって双方が申請した専門家の証人尋問が3日連続で行われました。
出廷したのは、検察と弁護団それぞれの依頼を受けて、血痕の赤みに関する鑑定を行ったり意見書を作成したりした、法医学や物理化学の専門家です。

5人の専門家(廷内スケッチ)

証人尋問は、検察側が2人・弁護側が3人のあわせて5人に対して行われました。やりとりの中心となったのは、去年3月に東京高等裁判所が袴田さんの再審を認める決め手となった、弁護側の専門家による鑑定結果でした。

 

旭川医科大学 奥田勝博助教

この鑑定で旭川医科大学の清水惠子教授と奥田勝博助教は、血液がみその成分にさらされると赤みが失われるメカニズムを調べるための実験を行いました。
その結果、「みそ特有の高い塩分濃度と弱酸性の性質によって、血液が黒くなる化学反応が進む」と分析。鑑定では、「血液を1年2か月間みそに漬けた場合、赤みが残ることはない」と結論づけました。

弁護側の専門家の実験

検察側「妨げる要因の検討不十分」

検察側の専門家(廷内スケッチ)

この鑑定結果について、検察側の専門家は「実験の手法や結果に異論はなく、一般論としては否定するものではない」などと述べ、一般的な科学現象として赤みが失われることを認めました。その上で、「黒くなる化学反応を妨げる要因についての検討が不十分だ」として、主に2つの要因を挙げました。
それが、みそタンク内の酸素の濃度と、血液が乾燥し血痕化することによる影響です。

検察側の専門家は、酸素の濃度について「みそは発酵の過程で酸素を消費するため、当時のタンク内に酸素はほとんどなかった」として、黒くなる化学反応が妨げられた可能性があると証言しました。
また、血液の乾燥については「『血液』よりも『血痕』のほうが化学反応の進行が遅くなる」として、乾燥の程度によっては化学反応が妨げられた可能性があるとも述べました。

こうしたことから、「1年以上みそに漬けた血痕に赤みが残っていた可能性は否定できない」と主張したのです。

弁護側専門家「結論は揺るがない」

弁護側の専門家(廷内スケッチ)

こうした検察側の専門家の主張に、弁護側の専門家も反論しました。
まず酸素の濃度については「当時、タンク内には黒くなる化学反応に十分な量の酸素があった」と証言しました。
また、血液の乾燥については「みその水分が浸透して、血痕が再び水溶液になるため、化学反応が進む」と述べ、検察側の専門家が指摘した2つの要因は考慮する必要がないという見解を示しました。

その上で「赤みを帯びたままというのは通常は起こらない現象で、『赤みが残らない』という結論は揺るがない」と反論しました。

対立する双方の主張

血痕の“赤み”についての双方の専門家の主張は、次の表のように整理できます。
 

検察側の専門家は、法医学者7人による共同鑑定書の中で「1年以上みそに漬けた血痕に赤みが残っていた可能性は否定できない」という見解をまとめています。これがどの程度の可能性なのかについて、共同鑑定書を座長としてまとめた久留米大学の神田芳郎教授は尋問で「みそタンク内の条件があまりにもわからないので、赤みが残る可能性がないとはいえない。『可能性が低い』というならわかるが、弁護側の専門家が『赤みが残らない』と断言していることに違和感がある」などと述べました。

こうした見解に対し、弁護側の専門家と弁護団は審理のあとの会見で次のように述べています。

弁護側の鑑定を実施 旭川医科大学 清水惠子教授
私ども科学者ができることは、実験結果から確率論的により起こりうる結果や事象を導き出して、それをもとに説明することだ。(検察側の専門家は)血痕に赤みが残る可能性があるという抽象的な可能性論を展開されているが、それは「仮説」である。実証実験をしていただいて、その上でお示し頂かないと、科学的反証とは言えず、揚げ足取りに終わってしまうので残念だ。

弁護団 間光洋弁護士
検察側の専門家は、抽象的な可能性論の繰り返しで、弁護側の専門家の結論を左右しない内容だ。一番重要な証拠とされた「共同鑑定書」が、検察の主張を支えるものではなかった。こんな証拠でよく有罪立証に踏み切ったなと感じる。ここまで審理を長引かせているのは理不尽で、検察庁という組織の問題性が浮き彫りになった。

今後の審理 見通しは?

証人尋問が終わり、去年10月から始まった再審は、いよいよ終盤に入ります。

4月17日に13回目、4月24日に14回目の審理が行われたあと、5月22日には検察の論告と求刑、弁護団による最終弁論が行われてすべての審理が終わる見通しです。
最大のヤマ場となった証人尋問で交わされた専門家たちの主張をふまえ、裁判所がどのような判断を示すのか、注目されます。

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