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静岡 袴田さん再審事件を市民の目で見たら? 裁判員経験者らが模擬評議

  • 2023年12月12日

57年前、今の静岡市清水区で、みそ製造会社の一家4人が殺害された事件で強盗殺人などの罪に問われ、死刑が確定した袴田巌さん。現在、静岡地方裁判所の裁判官による再審=やり直しの裁判が進められていますが、いまの時代に同じ事件が起きたと仮定すると、裁判員裁判の対象になります。そこで、この事件を裁判員が審理したらいったいどうなるのか?元裁判官が進行役を務める模擬評議が行われました。

袴田さんの審理を担当した元裁判官も参加

この取り組みは裁判への市民参加を促そうと、大阪のボランティア団体が企画したもので、裁判員経験者など男女4人が裁判員役として参加しました。

その1人、会社員の大上薫さんです。大学生だった4年前に裁判員を務めたことがきっかけで裁判員制度に関心を持ち、模擬評議に参加しました。

裁判員役 大上薫さん
大学の先生が袴田事件を扱ってくれたので、そのときに初めて事件について知りました。みなさんの意見を聞きながら、でも自分が疑問に感じたことなどを述べていけたらと思います。

評議で裁判官役を務めたのは、9年前に静岡地裁の裁判長として袴田さんの再審を認める決定を出した元裁判官の村山浩昭さんです。評議を始めるにあたり、裁判員役の人たちに次のように切り出しました。

元裁判官 村山浩昭さん
この事件は1審の段階でいろんな証拠が出たんですけれども、何が一番問題だったかというと、「5点の衣類」という証拠がどこまで有罪の証拠として信用できるのか、ということだったんですね。

"5点の衣類" 裁判員はどう感じた? 

村山さんが議論の対象にしたのは、事件の発生から1年2か月後に現場近くのみそタンクから見つかった証拠、血に染まった「5点の衣類」です。過去の裁判で検察は「袴田さんが犯行時に着ていたもので事件後にみそタンクに隠した」と主張しました。この衣類が有罪の決め手となり、死刑が確定したのです。

元裁判官
村山浩昭さん

まず最初にですね、この5点の衣類を見てどうお感じになったのかを、裁判員の人に聞きたいんですけれども。

左:ズボン/右:ステテコ

大上さんは衣類のカラー写真を見て浮かんだ素朴な疑問を口にしました。

裁判員役 大上薫さん

血ですね。ズボンよりステテコのほうが(血が)付いてる感じがしましたので、そこがちょっと疑問に感じました。なんで(血が)ズボンにつかないのかなって。

元裁判官
村山さん

ズボンの上にステテコを履く人はいないでしょうからね。そういうふうに考えると、返り血ですから「外側の方から血が付いているはず」というご意見ですかね。

評議では、1年以上みそに漬けられた衣類の血痕の色についても話し合われました。裁判員役の人からは、長期間みそにつかった血痕に赤みが残るのは不自然だという意見が出されました。

裁判員役

血液が(衣類に)付くと、そんなに時間がたたなくても結構黒くなるという認識です。そんなに赤いのはちょっと不自然だと思います。

元裁判官
村山さん

それはやっぱり日頃洗濯とかされてる感覚ですかね。常識ですか。

裁判員役 大上さん

私も1年とかずっと漬けられていると、この赤みはないなってなんとなく思います。

"市民の目線"で議論を深める

今回の評議は、議論することが目的とされ、有罪か無罪かの結論は出しませんでした。
それでも大上さんは、評議を通して市民が裁判に参加する意義を感じたといいます。

裁判員役 大上薫さん
私は、もし裁判員が袴田事件の審理に入っていたら、絶対に裁判員の誰かが「おかしい」と声を上げて、「もうちょっと議論を深めよう」となるんじゃないのかなと思いました。裁判員の意義が、改めてわかったという点では、こういった評議をしてよかったと思います。

村山さんは多角的な議論のためにも、市民の目線は重要だと指摘します。

元裁判官 村山浩昭さん
検察官が言っているようなストーリーについて「どうしてこういう証拠になるのか」ということを、たぶん市民の方のほうが疑問を持つと思われるんですね。ぜひ裁判員制度や司法制度に関心をもってもらい、裁判員を辞退せずに審理に関わっていただきたいです。裁判員制度が市民のための制度、国民のための制度、司法のための制度になってほしいと思います。

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