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障害ある人の高校受験 都道府県ごとの方針に差が?

2度目の高校受験に挑む脳性まひの男性。結果はどうなる?
  • 2024年04月05日

 

誰もがお互いを尊重し合う「共生社会」の実現に向けて、今、学校現場では障害のあるなしに関わらず同じ教室で学ぶ“インクルーシブ教育”が広がりつつあります。しかし、義務教育ではない高校ではまだ一部にしか広がっていないのが現状です。

富士市に住む芹澤怜誠さん(16)は、脳性まひのため知的障害と身体障害があります。ことばでの意思疎通が難しく、カードなどを使って会話しています。芹澤さんは普通高校への進学を希望していますが、去年は不合格。この春、2度目の高校受験に挑みました。彼の挑戦が私たちに問いかけるものとは。
(伊東支局 記者・武友優歩)

※2024年1月12日に放送した内容の続編です。当時の記事はこちら

普通学校で過ごしてきた脳性まひの男性

神社で手を合わせる芹澤さん

3月上旬、芹澤さんの姿は地元の神社にありました。介助者と一緒に、「明日受験なので見守っててください」と手を合わせました。

右が母親・恭子さん

母親の恭子さん(44)です。芹澤さんが1歳の時に脳性まひと診断され、医師からは「一生寝たきりだろう」と告げられました。

 

運動会の様子

それでも、障害のない人ともたくさん触れ合いながら育ってほしい。芹澤さんは受け入れに前向きだった地元の幼稚園に入園し、小中学校の9年間も特別支援学校ではなく普通学校で過ごしてきました。

「幼稚園に入る前は下向いて、誰かが来ても笑ったりしなかったんですよ。友達が来て『怜誠くん、怜誠くん』って言ってくれるからどんどん顔を上げるようになりました。学校の力は偉大です」(母親・恭子さん)

去年、普通高校受験も不合格に

高校も地域で学びたい。去年、芹澤さんは地元の公立高校を受験しました。

開示されたテストの解答用紙

懸命に勉強しましたが、テストの点数は全体の1割に届かず。定員に空きはあったものの、結果は不合格でした。静岡県ではのべ70人が定員に空きがありながら不合格となっていました。

「高等学校においては、その学校が求める子どもたちの学びの基本的な条件を満たしている人を受け入れて学んでもらうという考え方ですので、誰でも入れるのではなくて、能力適性を判断するというところが大きなポイントになっています。仮に障害を持った方が普通高校での学びの機会を得られなかったとしても、特別支援学校などいろいろなパターンがあります」
(静岡県教育委員会 池上重弘 教育長)

進学難しいのか?静岡県外では合格も

それでも高校への進学をあきらめたくないと、恭子さんは、情報収集を続けました。そして、障害のある子どもの高校進学を後押しする人たちと交流する中で、ある事実を知りました。

定員内不合格0の都道府県(令和5年度)

黄色で示した9の都道府県では、知的障害があり、試験の問題を解くことが難しい人でも定員に空きがあれば受け入れていたのです。

そのうちの1つ、東京都です。

右側が松山正宗さん

都立の商業高校に通う松山正宗さんは、ダウン症で知的障害があります。授業中は支援員が付き添い、教員が理解度に合わせて課題を出したり、拡大したプリントを準備したりして学習しています。

都の教育委員会は、それぞれの高校が定員に達していない場合は、学ぶ意欲のある生徒を受け入れる方針です。

都立江東商業高校 智片将也 校長

「障害のある生徒の特性に応じて、先生方に指導内容を工夫して指導いただいております。いろいろな立場の生徒、いろいろな環境の生徒がいるということを理解することは教職員にとっても生徒にとっても、大変意義深いものだと思います」(都立江東商業高校 智片将也 校長)

2度目の受験へ挑む

講演活動の様子

芹澤さんたちは、静岡県の方針を変えたいと、障害のあるなしに関わらず、同じ教室で学ぶことの意義を訴える活動を進めています。

話すことや文字を書くことが難しいため選択肢を使う

その傍らで懸命に勉強を続け、2度目の受験に挑みました。

学力試験などが行われた一般入試は不合格。再募集に望みをかけました。

合格発表の瞬間

しかし。合格者の受験番号の中に芹澤さんの番号はありませんでした。ことしも、受験した高校は定員に達していませんでした。

「下向いている時は、『寂しい』と思ったんだろうと思います。『また学校に行けないよ』と聞いた時には、理解しているんだろうなと思いました。学校はもう行けないのではないかと思っているかもしれないです」(母親・恭子さん)

記者解説

Q. 高校は義務教育ではないとはいえ、都道府県によって方針が異なっているんですね。国で統一した方針は示されていないのでしょうか?

記者

統一した方針はありません。文部科学省は、定員に空きがある場合に不合格者を出すことは「ただちに否定されるものではない」というスタンスです。
一方で、学ぶ意欲のある子どもが学びの機会を得られなくなることは極力避けるべきとしています。

Q. 都道府県の方針次第ということですね。芹澤さんのように普通学校での教育を望む声もある一方で、特別支援学校のニーズも高いですよね?

記者

はい。特別支援学校は障害に合わせて手厚い教育を行うなど、子どもの自立に向けた力を養う場となっていて、こうした学校で学ばせることを希望する保護者は多いです。

一方で今、障害のある子どもとない子どもが分け隔てなく一緒に学ぶ機会を増やそうという機運も高まってきています。文部科学省も、小中学校や高校と特別支援学校を同じ敷地内に作る取り組みを進める方針で、インクルーシブ教育のあり方について模索している段階です。

取材を通じて、芹澤さんの小中学校の同級生と会う機会がありましたが、彼らは芹澤さんと本当に親しくしていて、何かに困っていると自然に手を貸していました。
母親の恭子さんは、こうした人間関係を作れる機会が中学までで終わってほしくない、と話していました。芹澤さんの挑戦は単に彼が高校進学できるかどうかだけではなく、高校も含めて、障害のある子どもの学ぶ場がどうあるべきか、私たちに問いかけているのだと感じました。

2024年3月29日に「おはよう日本」で放送した動画はこちらから(2か月限定)。

  • 武友優歩

    静岡局伊東支局・記者

    武友優歩

    2019年入局。静岡局が初任地で2022年から伊東支局。大学では教育や心理学を学んでいました。

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