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土用のうしの日 夏に食べたいうなぎ 静岡「完全養殖」とは?

“ウナギスト”に聞きました
  • 2023年07月25日

ことしも土用のうしの日が近づいてきました。ウナギを食べることを楽しみにしている人も多いと思います。ニホンウナギの出身地はどこかご存じでしょうか。実は二ホンウナギは長い旅をして私たちの食卓にやってきます。そんなウナギを愛し研究しながら、ウナギの完全養殖の実用化を目指す自称“ウナギスト”にその魅力と研究の最前線を聞きました。

ニホンウナギの研究所

静岡県南伊豆町には、国立研究開発法人水産研究・教育機構という国の研究機関があります。南伊豆庁舎では、ウナギの完全養殖の実用化に向けた研究が日々行われています。完全養殖の技術は確立されているものの、コスト面が課題となっています。

髙崎竜太朗研究員

その研究員の1人が髙崎竜太朗さん(29)です。髙崎さんは研究と合わせてウナギの専門家“ウナギスト”として、日本をはじめ世界のウナギを追い求めています。

そもそもニホンウナギの出身地は?

ニホンウナギ

冒頭でお尋ねしたニホンウナギの出身地は、なんと日本から約2000キロ離れた太平洋のマリアナ海溝周辺です。ニホンウナギはマリアナ海溝周辺で産卵するのです。ニホンウナギは卵からかえると、仔魚と呼ばれる赤ちゃん「レプトセファルス」になり、太平洋を漂います。レプトセファルスは体の幅が広く海を漂いやすい姿です。

レプトセファルスと呼ばれるうなぎの赤ちゃん(右の黒いのが目)

そして東アジアなどの沿岸部を北上しながら稚魚のシラスウナギに成長。

稚魚のシラスウナギ(クロコと呼ばれる状態)

その後、日本の川にやってきて5~15年間を過ごします。ニホンウナギは海で生まれるのです

二ホンウナギの完全養殖の現状

そんな複雑な過程を経て成長するニホンウナギですが、ニホンウナギの完全養殖には、2010年に髙崎さんが所属する水産技術・教育機構が成功しました。ここで生まれた親ウナギが卵を産み、次の親になるというサイクルができあがり、海を知らないウナギが養殖されています。ただ、完全養殖にはコストと時間がかかることから、広く社会で利用できる商業化には至っていません。このため現在もニホンウナギの養殖は、天然のシラスウナギを捕獲して成長させています。天然資源に依存しているのが現状です。

完全養殖の実用化を目指す

レプトセファルスが育てられている水槽

髙崎さんが所属するシラスウナギの生産部量産グループでは、実用化を目指し①水槽の開発、②自動給餌器の開発、③エサの開発、④いかに早く成長させるかの開発の4つを行っています。

髙崎さんが担当するのは②の自動給餌器の開発。人件費のコスト削減を目指し開発を進めています。

(髙崎さん)「どれだけ簡素に育てるか、誰でも飼えるような状況を目指しています。今は職員が1日5回、2時間おきに手作業でエサをあげています。また、レプトセファルスは非常に繊細な生き物で、水槽が汚れると病気になってしまうため、毎日水槽を変える必要があります。この作業がより効率的になるよう目指しています」

手作業で与えているエサは?

レプトセファルスにエサを与える様子

手作業でエサを与えている様子を特別に見せてもらいました。エサは魚粉などを元に作られた人工飼料。これをペースト状にしています。

人工飼料の原料となる魚粉など

レプトセファルスは消化器官が未発達で、自然界では「マリンスノー」と呼ばれるプランクトンの死骸などを食べているとされています。しかし、エサの食べ方や捕食行動などわかっていないことも多く、えさの開発は手探りだといいます。

以前は「アブラツノザメ」の卵を混ぜた人工飼料を与えていたということですが、アブラツノザメの個体数が少ないことなどから開発を進め、今の人工飼料を与えているということです。

以前使われていた人工飼料
一番右がアブラツノザメの卵

2050年の実現目指す

国は、2050年までに養殖に使うシラスウナギを100%人工的に育てることを目指しています。天然資源に負荷をかけない持続可能な養殖体制を進めようというのです。

現状では、自然界のレプトセファルスは約110日~170日ほどでシラスウナギに成長するとされていますが、現在人工では、約160日~400日ほどかかるなど課題は多いといいます。

(髙崎さん)「簡単なことではありませんが、完全養殖の実用化が成し遂げられれば、ウナギが安くなる可能性もあります。楽しい食事の機会が増えるといいなと頑張っています。天然資源を枯渇させることなく、ウナギを食べたい日本人とウナギが共存する1つの支えになるだろうと考えています」

なぜ“ウナギスト”に?

髙崎さんは研究員として働く一方でウナギを愛するあまり、みずから“ウナギスト”と名乗って、世界各地のうなぎを追い求めています。

髙崎さんがうなぎの魅力にとりつかれたのは20歳の頃。大学の農学部で農業土木を研究していましたが、進路の選択に悩み、自分がやりたいことがわからなくなったといいます。そんなときに福岡県柳川市に住む祖父と食べたのが、名物「うなぎのせいろ蒸し」。幼いころから食べてきた馴染みの味でした。

ウナギのせいろ蒸し(提供:髙崎さん)

そのとき、身近にあったウナギの魅力に気づいたといいます。ウナギの完全養殖が成功して話題となっていた時期で、ウナギに関係する本を読みあさるうちに気がつくとウナギの虜になっていたといいます。

(髙崎さん)「まさに幼馴染への恋心に突然気づいた感じです。ウナギの存在は頭の片隅にありましたが、身近すぎで気づいていませんでした。相性もぴったりだったと思います」

“ウナギスト”を名乗る

ウナギの虜となった髙崎さん。日本各地のウナギの聖地を巡る旅が始まりました。

栃木県の星宮神社のウナギのモニュメント(提供:髙崎竜太朗さん)

各地のウナギの聖地を巡り、知識を得ると、学生のうちにウナギのシンポジウムで発表するなどの活動を始め、ウナギの専門家“ウナギスト”を名乗るようになりました。

シンポジウムで話す髙崎さん(提供:髙崎竜太朗さん)

次に始めたのが世界のウナギに出会う旅です。

インドネシアのシラスウナギ漁を視察(提供:髙崎竜太朗さん)

髙崎さんがウナギストとしてこれまでに出会ったウナギは、世界に19種類生息するウナギのうちなんと12種類

ニュージーランドでウナギにえさをあげる(提供:髙崎竜太朗さん)

世界各地のウナギを現地で捕ったり食べたり、文化を調べたりしているということで、ウナギに関する知識とともに集めたグッズはこんなにたくさん。

今の目標はすべての種類のうなぎに出会い、いつか20種類目を見つけることだということです。

ミャンマーでウナギとふれあう(提供:髙崎さん)

ユーチューバーとしてもウナギの生態や魅力を発信しています。

(髙崎さん)「鰻(うなぎ)は、漢字の通り、魚を1日に4回食べても、又食べたくなるというほど愛されています。生物として面白く魅力的です。大海原や沿岸の海、それに山間部の河川まで幅広く分布していることなど謎に包まれています。謎は多いですが、その魅力をもっと知って欲しいと思っています。ウナギは人生の最高のパートナーです」

  • 小田原かれん

    静岡局・記者

    小田原かれん

    2020年入局。新型コロナを中心に取材。趣味は釣り。ファンシーラットを2匹飼っています!お手もします。

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