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静岡 富士スピードウェイ 還暦レーサー 奇跡のカムバック

2023スーパーGT第2戦・GT300クラス 和田久選手   
  • 2023年05月12日

静岡県小山町にある富士スピードウェイ。
三重県の鈴鹿サーキットと並んで日本のモータースポーツの舞台となってきたところだ。
毎年5月の大型連休に開催されるレースには、全国から3万人を超える観客が訪れる。
なにがファンを魅了し、静岡に集まるのか。
還暦を過ぎて挑み続けるベテランレーサーを通じてその魅力を探った。
(全2回の1回目/2回目はこちら)。

                        取材・望月豊アナウンサー(静岡局)

ことし61歳の現役レーサー

レーシングドライバーの和田久選手と城内政樹選手。
ともに1962年生まれで、ことし61歳。
いまも、現役のプロレーサーとして活躍している。 

 

和田久選手(左)と城内政樹選手(右)

岐阜県出身の和田選手は、若い頃にはF1デビュー前のミハエル・シューマッハー(7度の世界王者)などとも競い合い、国内のトップレースで活躍してきた。 

1990年ごろ

愛知県出身の城内選手は、レーシングカートの世界選手権などで活躍し、自身のレースのかたわら鈴鹿サーキットのカートスクールで長年講師を務めた。

舞台は国内最高峰の「スーパーGT」

そんな2人は2010年からコンビを組み、アールキューズというチームを立ち上げて国内最高峰のスーパーGTに参戦を続けている。 
スーパーGTは、市販車を改造した車両で競い合う国内最高峰のレース。
国内外の自動車やタイヤメーカーが参加し、2つのクラスに合わせて42チームが参戦している。
1チーム2人のドライバー(距離が長い場合は3人)がレース中に交代しながら走り、年間8戦で争われる。 
特に、小山町の富士スピードウェイで毎年大型連休中に開催されるレースは、決勝だけで3万人以上が訪れるビッグイベント。静岡県内で一度にこれだけの人が集まるスポーツイベントはあまりないだろう。新型コロナも落ち着き、多くのファンが小山町に戻ってくるようすを取材したいと考えたとき、思い浮かんだのが和田選手たちだった。
 

ピンチが続いたアールキューズ 

和田選手には一度会ったことがある。
以前、鈴鹿サーキットで開催されていた伝統の1000キロ耐久レースが終わるとき、長年このレースに参戦していた和田さんにインタビューをお願いした。

あれから6年。当時55歳だった和田選手はまだ現役でレースを続けていた。 

久しぶりに会った和田選手は変わったようすもなく、相変わらずひょうひょうとしていた。

変わったのは車のカラーリング。去年還暦を迎え、赤い“ちゃんちゃんこ”ならぬ赤い車にしたのだという。

去年ともに還暦を迎え 車には「60」の文字が

 しかし、実際にはいろいろ大変だったようだ。
 おととし大分県で開催されたレースでは後続車に追突され壁にぶつかって車が全損。 

さらにちょうど1年前の5月、ここ富士スピードウェイのレースでもクラッシュして全損。 

和田選手本人もドクターヘリで横浜の病院に搬送されたというから、かなりの衝撃だったのだろう。
このときばかりは「もう、やめよう」と思ったという。 

それを聞いて内心驚いてしまった。 

以前のインタビューで、「レースをしている時が自分が一番輝いていられるから」と、成績が振るわなくても参戦し続ける理由を語ってくれたのが、とても印象的だったからだ。
自らチームを立ち上げ、オーナー兼ドライバーとしてチームを運営しながらレースを続けている。決して潤沢な資金があるわけではなく、端から見ても青息吐息の感じは否めない。成績はいつも下位。それでもレースが好きでレースの週末だけを楽しみに生きている。そんな感じだった。
その和田選手が「やめようと思った」というのだから、これは大変なことだ。

しかし、幸い大きなケガはなく、翌日には車の修理や資金繰りに奔走し始めたというから、いかにも和田選手らしい。 

「やめようと思ったのは結局1日だけだったね~」

資金や新車の手配の苦労は想像に難くないが、次の鈴鹿戦を欠場しただけで復帰を果たした。
公式プログラムは、一連の復活劇を「不屈の魂で」と紹介していた。 

ファンが待ちわびた5月の富士のレース 

そして迎えた5月のレース。ことしも多くのファンが小山町を訪れた。
コロナ禍での制限も緩和され、待ちわびていた人も多かったのか、予選日だけで公式発表で3万1600人が訪れた。

和田選手にとっては去年大きなクラッシュを喫しただけに、まずはきちんと走りきりたいところ。
そんな和田選手が一番気にかけていたのがタイヤである。

タイヤには雨用以外に、やわらかめ・硬めで種類が分かれる。その日の気温や路面温度に合っていなければ、摩耗が早くなったり車が安定しなかったりしてタイムに大きく関わってくる。 

気温によるタイヤの変化を自分の手で頻繁に確かめる
レース用のタイヤは爪痕が残るほど実は柔らかい
チームは走行後のタイヤの状態を入念にチェック
タイヤの扱いはとてもデリケートだ

「自分たちもやれることはやってタイヤの理解や使い方など進歩しているが、まわりのチームも上がり幅が大きいので、差を詰められていないのが現状」と和田選手は冷静に分析する。

さらに、スーパーGTにはいろいろなメーカー・車種が参戦しているが、見た目は同じでも中身はずいぶん異なる。例えばエンジンひとつ取っても、オーバーホール(消耗品の交換・修理)を頻繁に行っている状態と、使い古して最低限走れるという状態であれば、当然スピードは変わってくる。万全の体制が整えられなければ、国内最高峰のレースでトップを争うことはできない。そして残念ながら、和田選手たちアールキューズは資金的にそこまでの余裕がない。

チームスタッフのひとり・小峰さんは、和田選手と城内選手の実績と実力を知るだけに、「もう少しいいマシンで戦わせてあげたい」と本音をもらす。

小峰祥さん

だが、きちんとした体制・速い車を準備するのもまた実力なのがモータースポーツである。 

予選は26台中25位だった。
 
(後編につづく)

  • 望月豊

    NHK静岡 アナウンサー

    望月豊

    静岡県伊豆の国市出身。1998年入局。2003年から2009年まで津放送局で勤務。鈴鹿サーキットを中心にモータースポーツ現場で取材。

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