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【解説】静岡 袴田さん再審に向け3者協議 検察は方針示さず

裁判所・弁護団・検察それぞれの見解と今後の見通しは?
  • 2023年04月13日

57年前、静岡県で一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さんの再審=やり直しの裁判に向けて、裁判所・弁護団・検察による初めての協議が開かれました。検察が有罪を求める立証を行うかどうかが注目されましたが、今回、その方針は示されませんでした。協議のポイントと今後の見通しについて担当記者が解説します。

3者協議 焦点は検察が有罪立証するか

袴田さんの弁護団と姉・ひで子さん(右)

57年前の1966年に今の静岡市清水区で一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さん(87)について、東京高等裁判所は先月13日、捜査機関による証拠のねつ造の疑いに言及した上で再審を認める決定を出し、静岡地方裁判所でやり直しの裁判が開かれることになりました。 この裁判に向けて、裁判所と弁護団、検察による初めての3者協議が10日午後、静岡地裁で開かれました。袴田さんの姉・ひで子さんも参加し、審理の進め方などが話し合われました。焦点となっているのは、再審で検察側が袴田さんの有罪を求める立証を行うのかどうかです。

【検察】方針決定に3か月必要

弁護団によりますと、検察は方針決定に3か月は必要だとして、7月10日までに立証の方針を明らかにする考えを示したということです。 

小田葉月記者 3者協議で、検察がどのような方針を示すか注目されているのは、審理の期間に大きな影響が出るからです。今回、仮に有罪を立証する場合、審理の長期化が予想されます。

 過去に行われた再審の事例を見てみましょう。検察が無罪を主張して争わなかった「足利事件」では再審の開始から無罪が確定するまでの期間はおよそ5か月、「東京電力女性社員殺害事件」ではわずか10日でした。 一方、検察が再審で有罪を主張し、無期懲役を求刑した「布川事件」では、震災で判決が延期された影響もあり、再審の開始から無罪が確定するまでに10か月あまりかかりました。

しかし、今回の協議で検察は、有罪の立証をするかどうか方針を明らかにしませんでした。東京高等裁判所の元裁判長・藤井敏明さんは、3か月という検討の期間は長いと指摘します。 

藤井敏明教授

東京高裁元裁判長 日本大学法科大学院 藤井敏明教授
どうやって検察官が立証してくるのかがわからなければ、弁護団も準備のしようがありません。それが明らかになった段階で、対応を検討するわけですから。再審公判の立証方針の準備期間として3か月はすいぶん長いような気がします。できるだけ無駄に時間を費やすことがないようにするべきではないか。

【裁判所】提出する証拠の絞り込みを

また今回の協議で裁判所からは、過去の審理で扱った証拠の中から提出する証拠を絞り込むよう求められたということです。 

小田記者 なぜ証拠を絞り込む必要があるのか。今回の事件では、1966年に裁判が始まってから1980年に最高裁で死刑が確定するまでに行われた審理で、膨大な数の証拠が調べられてきました。やり直しの裁判は、死刑が確定するまでに行われたこの審理を再開して続けるという位置づけとなっています。このため、過去に扱った証拠はすべて引き継がれるのが原則です。しかし、そうすると証拠を調べるだけで日数がかかり、短期間で審理を終えるのが困難になるため、裁判所はあらかじめ提出する証拠を絞り込むよう、検察と弁護団双方に求めたのです。

裁判所はこの作業にあたり、過去の証拠をリスト化して双方に示し、検討を進めてもらうことにしています。しかし、弁護団としては、検察が立証の方針を示していない中で検討せざるをえないため、この作業が迅速に進むかは不透明で、再審が始まるまでに一定の期間がかかる見通しです。

【弁護団】検察は有罪立証の放棄を

 一方、弁護団は、袴田さんが長期間収容されていた影響でいまも十分に会話ができない状態が続いていることをふまえ、出廷を免除することを裁判所に求めたほか、検察に対して有罪の立証を放棄し、積極的に無罪を主張することを求めたということです。 

検察が方針決定に3か月必要だと主張したことについて、弁護団の事務局長を務める小川秀世弁護士は「ここまで時間がかかるのは予想外だった」として、その姿勢を批判しました。

小川秀世弁護士

弁護団事務局長 小川秀世弁護士
検察は全く説明しませんでした。なぜ3か月かかるのか、それについてもまったく答えませんでした。特別抗告を断念した段階で有罪を立証するかどうか検討しているはずで、しかも上級庁が判断をしてそれを地検が実施するということだと思いますので、そういう意味では3か月はとんでもない、長すぎると思います。

袴田ひで子さん

袴田さんの姉 ひで子さん
検察官が下ばかり向いていて上を向かないのが印象に残った。 何かを尋ねても「今考えています」とおっしゃるだけです。検察官が何を考えて何を言わんとしているのか、全然わかりませんでした。3者協議とはこんなものかなと思い、私はだまって聞いていました。なるべくはやく無罪放免にして死刑囚でなくしてほしい。

一刻も早い再審開始を

今後はことし7月まで月に1回のペースで協議が行われ、次回の協議は5月29日に開かれる予定です。弁護団は引き続き、有罪の立証を断念するよう求めるとともに、できるだけ早く方針を明らかにするよう要望していくことにしていて、年内には判決を出してほしいと訴えています。 

袴田さんは87歳、姉のひで子さんは90歳といずれも高齢となっています。 裁判所、弁護団、それに検察の3者にはできるだけ早く再審を始められるよう、協議を進めていくことが求められます。

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