ページの本文へ

静岡WEB特集

  1. NHK静岡
  2. 静岡WEB特集
  3. 【詳報】袴田事件 検察 特別抗告を断念

【詳報】袴田事件 検察 特別抗告を断念

死刑確定から40年以上経て再審開始へ
  • 2023年03月20日

57年前、静岡県で一家4人が殺害されたいわゆる「袴田事件」で、死刑が確定した袴田巌さんの再審=裁判のやり直しを認めた東京高等裁判所の決定について、検察は20日、最高裁判所に特別抗告しないことを明らかにしました。これで死刑判決の確定から40年あまりを経て、やり直しの裁判が開かれることになりました。関係者の声や抗告をめぐる動きをまとめした。

姉のひで子さん ガッツポーズ!

支援者が撮影した映像によりますと、袴田巌さん(87)の姉のひで子さん(90)は、検察が特別抗告を断念したことを自宅で支援者から伝えられた際、満面の笑顔で「やった!」と述べ、ガッツポーズしました。そして支援者と抱き合って喜びをかみしめていました。

袴田さんの姉のひで子さん

そのすぐ後、袴田さんが支援者の車でのドライブを終えて自宅に帰ってくると、ひで子さんはさっそくやり直しの裁判が開かれることを報告していました。ひで子さんは袴田さんの肩を優しくたたきながら、こう笑顔で語りかけました。

特別抗告の断念を伝えられる

「検察が特別抗告を断念した。だから、完全に今度は無罪だ。完全に勝った。あんたの言うとおりになった。もう安心だで、なにも心配なくなった。57年間闘ってきたもんね、いわちゃん」

専門家 “国による人権侵害”

検察が最高裁判所に特別抗告しないことを決めたことについて、東京高等裁判所の元裁判長で日本大学法科大学院の藤井敏明教授は、こう指摘しました。

日本大学法科大学院の藤井敏明教授

「いろいろな問題を抱えた事件の再審が長い年月かかってようやく決まったが、救済まであまりにも長すぎる期間を要したと思う。袴田さんに対する国による人権侵害だといわざるをえず、原因がどこにあったのか検証が求められる。同じようなことが起きないような手だてを講じるのが国の責任だ」

「やり直しの裁判で検察が有罪の証拠を提出してくることは考えられず、袴田さんの無罪が判決で明らかになると思う」

また、今回の再審開始決定を受けて、日弁連=日本弁護士連合会や専門家などから「いまの再審に関する法律には検察の証拠開示や抗告に関する具体的なルールがなく、長期化などの課題が生じている」という声が上がっていることについては、次のように述べました。

「これを機に法改正に向けた議論が深められていくのではないか」  

 浜松市ではさまざまな声

(浜松市中区の68歳の男性)「これだけ長い時間がかかって袴田さんの人生を棒に振った形になってしまい憤りの気持ちしかないです」

(浜松市中区の66歳の女性)「もし自分が袴田さんの立場だったら耐えられないと思います。支援者の皆さんが信じて一丸となって活動してこられた結果なのですごいと思います。えん罪だったらひどいのでしっかりやってほしいです」

(奈良県から訪れていた65歳の男性)「こんなことが日本であることが問題だと思います。なぜもっと早く結果が出なかったかなと思います」

(浜松市西区の75歳の男性)「刑務所に長い間入り家族も大変だったと思います。4人も亡くなっている事件なので、犯人は出てきてほしいです」

姉のひで子さん “ありがとう”“無罪になって”(午後5時半ごろ)

検察が特別抗告しないことを決め、やり直しの裁判が開かれることが決まったことについて、袴田さんの姉のひで子さん(90)は、次のように述べて、喜びました。

報道陣の取材に応じるひで子さん

「こんなにうれしいことはない。ありがとうのことばしかない。検察が特別抗告を断念したことにも『よくぞ決断してくれた』と敬意を表したい」

ひで子さんは自宅にいた午後4時半ごろ、特別抗告の断念について支援者から連絡を受けたということで、こう振り返りました。

「なにがなんだか、わからないくらい大騒ぎして、走り回って喜んだ。そのとき、ちょうど、巌が家に帰ってきたので『巌の言うとおりになったよ。もう大丈夫だから、安心していいよ』と伝えた。本人の反応はなかったが、きっと分かっていると思う。『当たり前だ』と思っているはずだ」

今後開かれるやり直しの裁判については「再審が開始され、無罪になって、巌が死刑囚でなくなることをひたすら願っている」

袴田さん 抗告断念伝えられる(午後4時半ごろ)

袴田さんは、姉のひで子さんとともに昼食をとり、支援者が差し入れた手作りのギョーザなどを食べたということです。そして午後1時ごろに支援者の車で日課のドライブに出かけ、浜松市内の公園や寺などをまわって午後4時半ごろに自宅に帰ってきたということです。

袴田さんは、自宅に帰ってきた直後に ひで子さんから検察が抗告を断念したことを伝えられたということです。袴田さんを支援している市民グループの代表の猪野待子さんは、次のように話しました。

「ひで子さんが喜んでいるのに対し、巌さんはまだわかっていないようで、反応が薄くて対照的だった。私たちもまだ夢を見ているんじゃないかと思う」

県警 再審見守る

静岡県警察本部は「県警としては再審を見守っていきたい」とコメントしています。

高検 “申し立て事由があるとの判断に至らず”

東京高検の山元裕史次席検事のコメントです。

「再審開始を認めた東京高裁の決定には承服し難い点があるものの、法の規定する特別抗告の申し立て事由があるとの判断に至らず、特別抗告しないこととした」

弁護団会見 “無実を早く明らかに”(午後4時半~)

記者会見で弁護団の事務局長を務める小川秀世弁護士は次のように述べました。

弁護団の事務局長を務める小川秀世弁護士

「さきほど午後4時29分に担当検事から特別抗告しないと電話があった。本当にありがたい。支援者をはじめとする人たちの力が1つになってきょうを迎えられたと思う」

弁護団長の西嶋勝彦弁護士は声を詰まらせながらこう話しました。

弁護団長の西嶋勝彦弁護士

「決定は1つ1つの論点について詳細に検討し、検察の主張は成り立たないと判断していたので、特別抗告の理由は全くないと思っていた。今後の再審の裁判で袴田さんの無実を早く明らかにしたい」

再審開始 今後の流れは?

検察が期限までに特別抗告しなかったことで、袴田巌さんの再審=裁判のやり直しが確定し、今後、静岡地方裁判所でやり直しの裁判が開かれることになります。

再審の審理は、確定した有罪判決を最初に言い渡した裁判所で行われ、今回は裁判員制度が始まる前の事件のため裁判官だけで審理にあたります。検察が争わなければ1回で審理が終わることもあり、無罪が言い渡され確定したら名誉回復のため官報と新聞に判決を掲載し、公に知らせることになっています。

一方、判決に不服がある場合は通常の裁判と同様に控訴や上告をすることができます。

特別抗告断念の連絡(午後4時半ごろ)

連絡を受けてバンザイする支援者ら 高検前

 

袴田巌さんの弁護団は、午後4時半から東京・霞が関で記者会見を予定していて、会見場に入るとすぐに「検察から『特別抗告を断念する』と連絡があった」と声をあげて、報道陣や集まった支援者に伝えました。弁護団の中には喜びのあまり目に涙を浮かべている人もいました。

袴田さんの支援活動にあたっている山崎俊樹さん

およそ30年にわたって袴田さんの支援活動にあたっている山崎俊樹さんは、次のように話しました。

「検察には組織のメンツのために特別抗告するようなことはやめてもらいたい。特別抗告する理由がないと思うので、自分たちの過ちを認めて反省してほしい」

弁護団ら 特別抗告の断念申し入れ(午後1時ごろ)

弁護団と支援者は改めて東京高検を訪れ、「袴田さんの無実は明白で、やり直しの裁判が開かれれば無罪判決は確実だ」として、特別抗告を断念するよう求める申し入れ書を提出しました。

東京高検に申し入れ書を提出

このあと、支援者らおよそ40人が「検察は抗告断念を」とか「無実の袴田さんに無罪を」などと書かれたプラカードを掲げて東京高検の前で座り込みを行いました。

支援者らの座り込み

特別抗告しないよう訴える(正午ごろ)

袴田さんの弁護団や支援者が東京都内で特別抗告を断念するよう強く訴えました。

このうち元プロボクサーの袴田さんを支援する日本プロボクシング協会のメンバーなどおよそ20人が東京・霞が関で街頭活動を行い、特別抗告をしないよう訴えました。

新田渉世さん

元東洋太平洋バンタム級チャンピオンの新田渉世さんはこう呼びかけました。

「東京高裁が再審開始決定という決定的なブローを相手に打ってくれた。検察はまだ反撃のパンチを打ち返そうとしているが、絶対にさせてはいけない」

袴田さん “普段と変わらない様子”(午前11:30)

20日午前 袴田さんと姉のひで子さん
(提供 袴田さん支援クラブ)
 

支援者によりますと、袴田さんは、午前7時半ごろに起きて朝ごはんに果物の盛り合わせを食べたということです。その後、午前中はテレビの前に置かれたいすに座り、普段と変わらない様子で過ごしているということです。

市民グループ代表 猪野待子さん

袴田さんを支援している市民グループの代表の猪野待子さんは、姉のひで子さんの様子について次のように話しました。

(猪野待子さん)「ひで子さんは、抗告されようがされまいが関係なく、まったく動揺していません。『巌は無実だから、どうってことない』と平然と言うと思います」

支援者によりますと、特別抗告の断念を求めるオンライン署名は、20日午前11時半の時点で3万7800筆あまり寄せられているということです。

検察 特別抗告の期限

袴田巌さん(87)は、57年前の1966年に今の静岡市清水区で一家4人が殺害された事件で死刑が確定しましたが、無実を訴えて40年あまりにわたって裁判のやり直しを求め、3月13日に東京高等裁判所で認められました。

東京高裁 再審=裁判のやり直し認める(3月13日)

これに対し、検察は不服がある場合に20日までに最高裁判所に特別抗告できることになっています。

姉のひで子さん“一区切りつけてもらいたい”

姉のひで子さん

この期限を前に19日、袴田さんの支援団体が浜松市で集会を開きました。この中で袴田さんの姉のひで子さん(90)は次のように訴えました。

(ひで子さん)「57年闘ってきてやっと再審開始になりました。これまで頑張って頑張って、57年という歳月が、知らぬ間に過ぎ、私も90歳になりました。もうこの辺で一区切りつけてもらいたい」

抗告断念を求める声

袴田さんの再審を認める決定を受けて、弁護団や支援団体は「袴田さんは87歳で、審理を継続させることは無用の負担と苦痛を与える」などとして、東京高等検察庁に対して抗告を断念するよう強く求めてきました。

支援者によりますと、特別抗告の断念を求めるオンライン署名は、19日午後7時の時点で3万6700筆あまり寄せられているということです。

検察が特別抗告を行うかどうか、その判断が注目されます。

ページトップに戻る