ページの本文へ

静岡WEB特集

  1. NHK静岡
  2. 静岡WEB特集
  3. 【詳報】袴田事件 再審開始決定! 東京高裁

【詳報】袴田事件 再審開始決定! 東京高裁

半世紀以上にわたって有罪か無罪か争われた事件。東京高裁は13日、裁判のやり直しを認める決定を出した
  • 2023年03月13日

57年前、静岡県で一家4人が殺害されたいわゆる「袴田事件」で、無罪を主張しながらも死刑が確定した袴田巌さんについて、東京高裁は3月13日に再審=裁判のやり直しを認める決定をしました。

半世紀あまりにわたって有罪か無罪かが争われ続けた事件。決定をめぐる動きや経緯を詳しくお伝えします。

袴田さん “お祝いにお赤飯を” 

袴田巌さん

袴田さんを支援している市民グループの代表、猪野待子さんによると、袴田さんと日課のドライブに出かけている時に車内で再審が認められたという連絡を受けたということです。

(猪野待子さん)「袴田さんに『いいことがあったよ』と伝えると、うれしそうな表情をしていました。あすは昼食に赤飯を炊いて袴田さんとお祝いしたいと思います」

今後の手続きは?

再審開始を認めた東京高裁の決定に不服がある場合、検察は5日以内に最高裁判所に特別抗告することができます。今回は週末を挟むため特別抗告の期限は今月20日となります。特別抗告が行われれば、再審開始の判断は最高裁に委ねられることになり、審理が続きます。一方、決定が確定すれば、静岡地方裁判所でやり直しの裁判が行われ、無罪に大きく近づくことになります。

識者 “検察は潔く結論を受けれるべき”

決定について、元裁判官で刑事裁判の経験が長い半田靖史弁護士は「『血痕の赤みが失われるか化学的に説明する』という最高裁から与えられた課題について、高裁は専門的な知見によって合理的に裏付けられたと認定した。『疑わしきは被告人の利益に』という考え方に立ち、誰が衣類を隠したのかはっきりわからなくても、血痕に赤みが残っているのはおかしいとさえ言えればよいと判断した」と評価しました。

その上で、「検察が行った実験も弁護側の理論を裏付けるものと判断された。検察は立証の機会をたっぷり与えられていたので、潔く結論を受け入れるべきではないか」と指摘しました。

弁護団会見 “画期的な決定”(16:00~)

再審を認める決定を受け、袴田さんの姉のひで子さんと弁護団、それに支援する日弁連=日本弁護士連合会が会見を開きました。

ひで子さんと弁護団などの会見

(ひで子さん)「再審開始になることを願って今まで生きてきたので大変嬉しく思っています。家に帰ったら本人に、『良い結果が出たから安心しなさい』と言うつもりです。早く、死刑囚でなくなることを願っています」

(西嶋勝彦弁護団長)「決定は高裁での審理の争点だった血痕の色について検察官が行った実験には信用性がないと判断した。これまで争われてきた論点についても検察官の主張をことごとく排斥していて画期的だ」「それぞれの証拠を総合評価して無実になる可能性があることを明言していて、速やかにやり直しの裁判に移行するべきだと表明していると思う」

(日弁連の再審法改正実現本部の鴨志田祐美弁護士)「再審手続きを定めた法律には、証拠開示について明文化した規定がなく、再審開始を認める決定が出ても検察官が不服を申し立てることができるため審理が長引き、取り返しのつかない悲劇を生み出している。法改正しかないということを世の中に訴えていきたい」 

袴田さん  “勝つ日だと思うがね” (16:00前)

浜松市の寺を訪れる袴田巌さん

袴田巌さんは、再審=裁判のやり直しを認める決定が出されたあとの午後3時すぎ、支援者の運転する車で幼少期に足を運んでいた浜松市浜北区の岩水寺を訪れました。袴田さんは、寺の本堂の前でさい銭箱にお金を投げ入れると、静かに手を合わせ、線香を上げていました。また、寺の近くにある大きな仏像の前でも手を合わせていました。

日課のドライブ中の袴田さん

記者から「きょうはどんな日ですか」と声をかけられると、袴田さんは「勝つことだね。勝つ日だと思うがね」などと話しました。

号外 “お姉さんと幸せに”(15:00すぎ)

浜松市内の駅に号外掲示

再審決定を受けて、浜松市中心部にある遠州鉄道の新浜松駅の構内などに新聞の号外が張り出されました。

(浜松市の70代の女性)「再審が認められてよかったです。袴田さんが今までの時間を取り戻すように歩いていたのを見ていました。残りの人生をお姉さんと幸せに過ごしてほしい」

(浜松市の60代の男性)「あまりにも時間がかかりすぎたと思います。まだどうなるかわかりませんが、早く裁判所が結論を出してあげて袴田さんにゆっくりしてほしいと思います」

長年の支援者 “ほっとした”

支援者 山崎俊樹さん

およそ30年にわたって支援活動にあたり、血痕の付いた衣類をみそに漬ける実験を重ねてきた山崎俊樹さんは、次のように述べました。

「午後2時から5分間は、胸がばくばくでしたが、弁護士の旗を見て再審開始だとほっとしました。われわれは衣類の色がおかしい、血液の色がおかしいとさまざまな形で実験を積み重ねてきて、それを弁護団が評価して証拠として提出してくれたことが再審開始につながったのかなと思っています」

周防監督 “裁判きちんと検証を”

えん罪をテーマにした映画の監督を務め、袴田さんの支援を続けてきた周防正行さんは次のように指摘しました。

(周防正行さん)「うれしいです。再審開始決定は出るだろうと思っていましたが、裏切れたらどうしようと、ここまでドキドキするのかと思っていました。これで検察が特別抗告をするのであれば信じられません。この事件に限らず、なぜ間違った裁判が行われたのかきちんと検証し、これからの司法改革につなげてほしい」

東京高裁 証拠 “ねつ造”の疑いに言及

東京高裁の大善文男裁判長は、決定で次のように指摘し、再審を認めました。

弁護側が示した実験結果などについて、「1年以上みそに漬けられると、血痕の赤みは消えることが専門家の見解からも化学的に推測できる。袴田さんが犯行時に着ていたという確定判決の認定には合理的な疑いが生じる」として『無罪を言い渡すべき明らかな証拠』にあたると判断しました。

さらに「衣類は事件から相当な期間が経過したあとに第三者がタンクに隠した可能性が否定できず、事実上、捜査機関による可能性が極めて高い」と厳しく批判し、ねつ造の疑いに言及しました。

また袴田さんの釈放についても、「無罪になる可能性や再審開始決定にいたる経緯、袴田さんの年齢や心身の状況に照らして相当だ」として引き続き認めました。

支援者が検察庁前で抗議(14:45ごろ)

再審を認める決定が出たことを受けて袴田さんの支援者20人あまりは、午後3時前に東京高等検察庁の前に集まり、プラカードを掲げながら、「検察は再審開始決定に従え」とか「袴田さんに真の自由を」などとシュプレヒコールをあげていました。

東京高検前

東京高検 “適切に対処したい”

再審の開始を認める決定を受け、東京高等検察庁の山元裕史次席検事は次のようにコメントしました。

「検察官の主張が認められなかったことは遺憾である。決定の内容を精査し、適切に対処したい」

静岡県警察本部のコメントです。

「あくまでも法曹三者で審理しているため、県警は関与しておらず、お答えする立場にはない」

姉のひで子さん“心待ちにしていました”(14:15ごろ)

姉のひで子さんは、裁判所から笑顔で出てきました。

(ひで子さん)「再審開始になりました。本当にうれしいです。57年間闘ってきてこの日が来るのを、心待ちにしていました。ただただ、うれしいです。皆さまのおかげです」

弁護団の事務局長を務める小川秀世弁護士

(小川秀世弁護士)「再審開始は当然だと思っていましたが、本当に嬉しいです。決定では、争点になっていた衣類が犯行時の着衣ではないとはっきりと指摘されました。検察庁に対して特別抗告をしないよう申し入れに行きます」

「よくやった」「良かった」の声があがる

東京高裁 再審・裁判のやり直し認める(14:00)

再審開始決定を支援者に伝える
東京高裁前には多くの支援者ら

けさの袴田さん 身だしなみ整える(11:00すぎ公開)

けさのきょうだい(提供・袴田さん支援クラブ)

支援者によりますと、袴田巌さんはけさは9時半ごろに起床し、朝食にみかんやりんごなどの果物を食べたということです。また、ひで子さんが袴田さんのひげをそったり、髪を整えたりしていました。ひで子さんはきょう決定文を受け取るため東京高裁に向かい、袴田さんは同行せず自宅などで過ごすことにしています。

(提供・袴田さん支援クラブ)

ひで子さんが「きょうは東京へ行ってくるから。一晩、泊まってくるからね」と伝えると、袴田さんは「あ、そう」と応じていました。

支援者によりますと、袴田さんは午前中、テレビの前に置かれたいすに座り、ふだんと変わらない様子で過ごしているということです。

市民グループの代表 猪野待子さん

(猪野待子さん)「巌さんには普通に生活してほしいので、結果をこちらから伝えることはしませんが、再審開始になることを信じています」

姉のひで子さん 東京高裁へ出発(10:30ごろ)

タクシーに乗り込んだひで子さん

袴田巌さん(87)の姉のひで子さん(90)は、東京高等裁判所に向かうため、午前10時半前、支援者とともに自宅からタクシーでJR浜松駅に向かいました。報道陣から今の心境を問われ、次のように話しました。

「平常心でございます。再審開始になることを願っています」

これまでの経緯

異例の展開をたどる

事件が起きたのは、今から57年前の1966年6月。今の静岡市清水区でみそ製造会社の専務の家が全焼し、焼け跡から一家4人が遺体で見つかりました。4人は刃物で殺害されたうえ、家には油がまかれ放火されていました。

57年前の現場 今の静岡市清水区

事件から1か月半余り。会社の従業員だった元プロボクサーの袴田巌さんが強盗殺人などの疑いで逮捕されました。

袴田巌さん

当初は無実を訴えましたが、逮捕から19日後の取り調べでいったん自白し、裁判では再び無実を主張して争いました。

事件発生から1年2か月後、裁判が進められている途中で、みそ製造会社のタンクから血の付いたシャツなど犯人のものとされる5点の衣類が見つかりました。

みそタンクから見つかった「5点の衣類」

1968年、静岡地方裁判所は、自白した時に作られた45通の調書のうち44通は、捜査官に強要された疑いがあるとして、証拠として認めませんでしたが、衣類が有罪の証拠だとして死刑を言い渡しました。

静岡地裁 死刑判決

2審の東京高等裁判所と最高裁判所も無罪の主張を退け、1980年に死刑が確定しました。

翌年に弁護団は、事件の直後の捜索ではタンクから衣類が見つからなかったことや、衣類のサイズが合わないことなど不自然な点がある上、自白も強要されたものだとして再審・裁判のやり直しを申し立てました。

裁判で行われた装着実験

しかし、27年にわたる審理の末、2008年3月に最高裁で退けられました。

2008年3月の弁護団会見

「この不当な決定に屈することなく、これから第2次再審を含めた活動に努力したい」

その1か月後。弁護団は2度目の再審請求を行います。弁護団の求めに応じ、検察から600点にのぼる証拠が新たに開示されました。

開示された約600点の捜査資料

そして…

2014年 静岡地裁 再審認める

2014年、再審を認める決定が出されました。逮捕から48年、釈放も認める異例の決定でした。

異例の釈放 姉のひで子さん出迎える
姉のひで子さん

「先生が再審開始だよと言って、ホッといたしました。よく頑張ったねと言いたいですね」

審理で争点となったのは、みそタンクから見つかった血の付いた5点の衣類が袴田さんのものかどうかでした。

静岡地裁は、5点の衣類のDNA鑑定を行い、弁護側の専門家が「シャツの血痕のDNAの型は袴田さんと一致しない」と結論づけたことなどから、再審を認める決定を出しました。

さらに決定では、衣類に付いた血痕の色についても「1年以上、みそに漬かっていたとするには不自然だ」と指摘。その上で「捜査機関が重要な証拠をねつ造した疑いがある」と当時の捜査を厳しく批判しました。

2014年の静岡地裁の決定文

これに対し、検察は抗告。東京高裁の審理では、鑑定の手法が科学的に信頼できるかが争われました。5年前の2018年。東京高裁は、弁護側の専門家のDNA鑑定は信用できないとして、静岡地裁とは逆に、再審を認めませんでした。

2018年 東京高裁 再審認めず

一方で、年齢や健康状態などを踏まえ、釈放は取り消しませんでした。

袴田巌さん

そして、3年前、最高裁は、再審を認めなかった東京高裁の決定を取り消し、衣類に付いた血痕の色の変化について審理が尽くされていないとして、やり直しを命じました。

最高裁 審理のやり直し命じる

最大の争点は?

東京高等裁判所の審理で最大の争点となったのは、事件の発生から1年2か月後にみそ製造会社のタンクから見つかり、有罪の決め手となった「5点の衣類」に付いた血痕の色です。

みそタンクから見つかった「5点の衣類」

当時の捜査資料では、血痕について「濃い赤色」などと記され、赤みが残っていたとされていて、確定した判決では「袴田さんが犯行時に着ていて、その後隠したものだ」と判断されています。

当時の捜査資料

弁護側 “赤みなくなり 黒くなる”

これについて弁護側は「1年以上みそに浸かっていたら血痕は黒く変色するはずで、赤みがあるのは袴田さんが逮捕された後、衣類が発見される直前に誰かがタンクの中に入れたからだ」と主張。血痕のついた衣類をみそに漬ける実験を繰り返した結果、条件を変えて何度試しても血痕は黒くなったとして、この現象を化学的に説明するため、専門家に鑑定を依頼しました。

弁護団の実験の様子 2006年(提供 山崎俊樹さん)

専門家は黒くなる理由について「みそに含まれる強い塩分などによって赤みの原因であるヘモグロビンが分解されるなどした」と説明し、「1年以上みそに漬けた場合に血液の赤みが残ることはない」とする鑑定結果をまとめました。

弁護側は、袴田さん以外の何者かが衣類を入れたことを裏付けるものだと主張しています。

弁護側が依頼した専門家の実験

検察 “赤み残る可能性十分ある”

一方、検察はおととし9月から血痕の付いた布をみそに漬ける実験を行い、「5点の衣類」が発見されるまでの期間と同じおよそ1年2か月後に色の変化を確認しました。

検察の実験 (提供 袴田巌さん弁護団)

その結果、「一部には赤みがみられ、長期間みそに漬けた血痕に赤みが残る可能性を十分に示すことができた」と反論しています。

2022年 裁判官らが検察の実験結果を視察

去年11月には東京高裁で審理を担当する裁判官らが検察の実験結果を視察しました。裁判所は「長期間みそに漬けられた血痕に赤みが残るのか」という争点について、どのような判断を示すのか注目されました。

袴田さんの様子は?

袴田巌さんは、2014年に48年ぶりに釈放されてから浜松市の自宅で姉のひで子さんと2人で暮らしています。

釈放からまもなく9年となる中、袴田さんは、3月10日に87歳の誕生日を迎え、自宅では食事会が開かれ、ひで子さんや支援者から祝福を受けました。

87歳の誕生日

長期間にわたり死刑への恐怖のもとで収容された影響で、いまも十分な会話ができない状態が続いていますが、ひで子さんによりますと、最近は表情が豊かになり、以前よりもことばの数が増えたということです。

袴田さんは釈放されたあと、自宅の近くを散歩することが日課になっていました。

浜松市内を散歩する袴田さん

しかし、去年の夏ごろからは長く歩くことが難しくなり、支援者の車で外に出かけることを望むようになったということです。また、糖尿病を患っていて、日常生活では介助が必要な場面もあるということです。

袴田さんが逮捕されたあと、無実を信じて半世紀以上にわたり支え続けてきたひで子さんもことし2月に90歳となり、去年からは毎月、医師の往診を受けるようになりました。

ひで子さんの90歳の誕生日(提供 袴田さん支援クラブ)

ひで子さんは、袴田さんに代わって再審の請求人になっていて、袴田さんの弁護団は東京高等裁判所で行われた審理で弁護士の1人を請求人に加えるよう求めていましたが、去年12月に裁判所から認められました。

ひで子さんはいまだに死刑囚である袴田さんを案じ、東京高裁での審理の最終日には「巌はいまだ妄想の世界にいますが、真の自由を与えてください」と裁判官に訴えました。

姉のひで子さん

「年でいえばいつ何があっても覚悟しているけど、再審開始を見届けなければ死ぬにも死ねない。今は何も言わないけど、巌の48年はすさまじいものだと思う。死刑囚ではなくなったよって伝えてやりたい

ページトップに戻る