袴田事件 再審決定は? 支え続けた姉ひで子さんの半生
- 2023年03月09日
57年前、今の静岡市清水区でみそ製造会社の一家4人が殺害された事件。当時30歳の袴田巌さんが逮捕され、その後、死刑が確定しました。袴田さんはこれまで40年以上にわたって、再審・裁判のやり直しを求めてきました。3月13日、東京高等裁判所は袴田さんの再審を認めるかどうか判断を示します。
事件から半世紀以上にわたって袴田さんを支え続けてきたのは、姉のひで子さんです。弟の無実を訴え続けてきたひで子さんの半生は、事件と共にありました。
半世紀以上 無実を訴え続けるきょうだい
ことし2月、90歳の誕生日を迎えた姉のひで子さん。袴田さんや支援者に囲まれて自宅でお祝いの会が開かれました。事件から57年。そのほとんどは祝い事とは無縁の日々だったといいます。
(ひで子さん)「盆も正月もないそういう生活、長い間ね。だから世間とはちょっと切り離して生活してたからね。お祝いごととかは一切やらなんだ」
1966年、今の静岡市清水区で一家4人が殺害された事件。容疑者として逮捕されたのは、事件のあったみそ製造会社に勤めていた袴田さんでした。
(ひで子さん)「(巌は)大人しくてね、すべからく優しいのよ。まさか巌がね、そんなことするわけないと思っていた。なんかの間違いだろうと思っていた」
無実訴える 悲痛な手紙
家族のもとには、勾留中の袴田さんから毎日のように手紙が届きました。そこにつづられていたのは、無実を訴える悲痛な声です。
「僕は犯人ではありません。僕は毎日叫んでいます。此処静岡の風に乗って世間の人々の耳に届くことを、ただひたすらに祈って僕は叫ぶ」(袴田さんからの手紙)
「犯罪者の家族」という世間からの冷たい視線。それでもひで子さんは、弟の無実を信じ続けていました。
弟のために時間を費やす日々
月に1度は必ず面会へ。当時30代だったひで子さんは、仕事をしながら可能な限りの時間を弟のために費やしました。
(ひで子さん)「夜ふっと目開くと巌のことね、なんでこうなっちゃったかなって思うじゃん。こりゃ眠れない、酒飲んで寝よう思って酒飲んで寝る。顔の肌なんか、粗壁を触っているようだった。それでも化粧してさ、朝には仕事行かないかんから行ってた」
事件から5か月後に始まった裁判。「弟は何もしていないのだから、必ず無罪になる」と信じ、判決を待ちました。
(ひで子さん)「あたし達もうんと裁判を期待してたの。警察はそんなことを言っているけども、裁判になりゃ分かってくれると思ってね」
ところが・・
ひで子さんの思いは届きませんでした。一審で死刑判決。1980年には死刑が確定しました。
(ひで子さん)「全部敵に見えたもん。弁護士でさえ敵に見えた。支援者でさえ敵に見えた。誰もわかってくれないしね」
死刑確定で 心が・・
死刑が確定したあと、袴田さんの心は少しずつむしばまれていきます。「俺に姉はいない」と、ひで子さんとの面会を拒否するようになったのです。
共に拘置所に通った支援者の山崎俊樹さん。弟に会うことすら叶わず、ひで子さんの落胆ぶりは大きかったといいます。
(山崎俊樹さん)「喜怒哀楽を一切外に出すことなく、表情もほとんど変わらない。刑務官に会えますかと聞いて会えない。その時は肩を落としていた」
弟を信じ続ける
それでも「弟を支え、無罪になるまで闘い続ける」。裁判のやり直しを訴えながら、数年間面会拒否が続いても、拘置所に通い続けました。
そうしたひで子さんを支えようと、徐々に支援の輪が拡大。再審を求める運動も広がります。
再審開始! 姉のもとに帰る
そして、2014年3月。
静岡地方裁判所が再審開始を決定。
袴田さんは釈放され、48年ぶりにひで子さんのもとへ帰ってきました。
きょうだい水入らずの暮らし。しかし、死刑への恐怖から自分の世界に閉じこもるようになっていた袴田さんは、ほとんど会話をしません。
日課は、自分の好きな道を散歩すること。ようやく取り戻した、ささやかな自由です。
(ひで子さん)「巌のね、今、なんも言わんけどね、48年は凄まじいもんだと思うよ。あたしなんかのことは問題じゃないね。ごはん一緒に食べててね、ほんとよくぞ元気に出てきたと思ってるね」
長期化する審理 進む高齢化
しかし、再審は始まりませんでした。2018年、東京高裁は地裁とは逆に再審を認めなかったのです。
その2年後、最高裁判所は高裁の決定を取り消し、審理のやり直しを命じました。司法の判断に翻弄され続けた袴田さんは、今も死刑囚のままです。
3月9日に87歳になる袴田さん。去年の夏ごろから長く歩くことが難しくなりました。
裁判で真実が明らかになると信じ続けてきたひで子さんは90歳。
袴田さんは糖尿病を患い、ひで子さんも去年から毎月、医師の往診を受けるようになりました。
ひで子さんは、袴田さんのひげをやさしく剃ってあげています。
「巌に真の自由を与えて欲しい」。ひで子さんは、再審開始の日を待ち続けています。
(ひで子さん)「年で言えばね、いつ死んでも良い人間だもの、あたしもそうだけど、巌もそう。いつ何があっても覚悟してるけど。再審開始を見届けにゃ、死ぬにも死ねんよ」
動画はこちらからご覧ください。