沼津で発見!大海原を旅するタコ(後編)旅の手がかりか?
- 2023年02月09日
「サルパ」という生き物に入って、大海原を旅する奇妙な生態を持つ「アミダコ」。
沼津で発見された個体は一体どこからやってきたのでしょうか?
そのヒントとなる「あるモノ」が、サルパに付着していました。
長年沼津の海に潜り続けてきた水中写真家 峯水亮さんの知見が、謎に満ちたアミダコの生活史に光を当てました。
そして、峯水さんが撮影した写真には宝石のような命の輝きがありました。
*「サルパ」はホヤに近い動物で、クラゲのように海を漂って暮らす生き物です。
アミダコを撮影 水中写真家 峯水亮さん
静岡県清水町にある「幼魚水族館」で飼育中のアミダコは、きょうもエサをよく食べ、元気です。
間もなく飼育1か月。アミダコだけに、水族館では彩美(あみ)さんというスタッフが飼育担当者として任命され、長期飼育に挑戦しています。日本の飼育記録を更新中です。
前回の記事(こちら⇒https://www.nhk.or.jp/shizuoka/lreport/article/000/50/)では、沼津市江浦(えのうら)で見つかったときの様子や展示中のアミダコがエサを食べる様子についてご紹介しましたが、実は、もう1人アミダコのエサやりを興味深そうに観察している方がいらっしゃいました。
水中写真家の峯水亮(みねみず・りょう)さんです。
夜の海でプランクトンなどを撮影するパイオニアで、小さな生き物の世界を幻想的、かつ精細に表現した写真は世界から高く評価されています。
ダイビングスポットとして知られる沼津市の大瀬崎の海に30年以上潜ってきた峯水さん。
なんと、水中でこれまでに4匹のアミダコに出会っているそうです。
田中:水中で出会ったアミダコはどのような個体だったのですか?
「サルパに入らず、単体で浮遊するメスに出会ったことがあります。2018年には今回と同じようなサルパに入ったアミダコを撮影しましたが、オスでした。海外でもサルパに入ったオスは知られていましたが、今回の発見で、メスもこうしてサルパに入ることを確認できたのは良かったです」
サルパに魚の卵が付いていた?!
実は、今回の発見で峯水さんが指摘したことがありました。
沼津市江浦で見つかったサルパに付いていた黒く小さな丸いものです。
よく見ると、サルパの縁に1~2㎜の小さな丸いつぶつぶが付いています。
「これはサンマの卵だと思います」(峯水亮さん)
実は、峯水さんが2018年2月に撮影したサルパにも同じような卵が付着していて、サンマの卵であることがわかりました。峯水さんは実際にサンマの卵を孵化させたこともあるそうです。
サンマが産卵するのはどこか?
サンマが卵を産み付けた場所や時間がわかれば、沼津にやってきた経路がわかるかも知れません。
サンマは漂流物や「流れ藻(ながれも)」と呼ばれる、海を漂うちぎれた海藻に卵を産み付けることが知られています。産卵場所はどこなんでしょうか?
静岡県水産・海洋技術研究所によりますと、サンマの産卵は秋から始まり、三陸や福島の沖から徐々に南下し、冬になると静岡県沖の黒潮のあたりで産卵すると考えられています。
北の魚のイメージがありますが、南下してきたサンマが伊豆半島の東岸の定置網に入ることもあり、下田では冬のこの時期、甘酢でしめた押しずし「さんまずし」が旬を迎えるそうです。
昔からとれていたので伊豆に伝統食があるんですね。
またサンマの卵は10日から20日ほどで孵化するそうです。(水温20~15度の条件)
改めて今回のサルパについていた卵を拡大してみると、サンマの赤ちゃんが丸まっているようにも見えます。
卵が産み付けられてから発見までの正確な日数はわかりませんでしたが、1月14日に沼津で見つかったアミダコは、おおよそ2022年の年末から年明けくらいに伊豆半島の南、50キロあたりを流れる黒潮付近にいたのかも知れません。
こんなイメージが浮かんできました。
2023年のお正月の頃。
太平洋を大河のように流れる青い黒潮の中をゆらゆら漂っていたサルパとアミダコ。
そこにある日、細長いサンマが体をすりつけて卵を産み付けます。
アミダコはびっくり。
流れが変わり、黒潮から分かれた温かい海水は伊豆半島に沿って駿河湾を北上。
富士山が大きく見えてきた沼津市江浦(えのうら)の岸にたどり着きました。
そこで岩壁から海を覗いていた矢吹淳平さんが発見。ひしゃくですくいます。
大きな目を見た矢吹さんはびっくり。
その日のうちに水族館に運ばれ、たくさんの人の前へ。
アミダコは好きなキビナゴ(エサの小魚)を食べる日々となりました。
あくまでわたしの想像の世界で科学的な証明はできませんが、「アミダコの大冒険」なんて絵本ができそうです(笑)。
鮮やかなアミダコの赤ちゃん
アミダコの不思議な生活が少し想像でき、水族館のアミダコを見る目もちょっと変わってきたところで、水中写真家の峯水さんがさらに驚きの写真を見せてくれました。
沼津の夜の海で撮影した、生まれて間もないアミダコの赤ちゃん(幼体)でした。
体長は1センチ未満。透ける体に、オレンジや黄色のドット柄を身にまとい、まるで宝石のようです。生まれて1か月前後と考えられ、サルパにも入っていません。
駿河湾の美しい命の輝きに、思わず息を飲んでしまいました。
駿河湾の奥で見つかったこの赤ちゃんは、一体どこで生まれたのでしょうか?
峯水さんによりますと、この日は2匹のアミダコの幼体が浮遊していたそうです。
ひょっとしたら母ダコは駿河湾で生んだのかもしれません。
この子は何を食べて大きくなるんでしょうか。
これから自分に合うサルパを見つけることはできるのでしょうか。
まだまだ生き物たちの未知の世界が広がる海。
人が住んでいない北極や南極などの話ではなく、この不思議な生き物の暮らしが、私たちのすぐ目の前にあるということに、小さな感動を覚えました。
知れば知るほどその貴重さを感じる海の命の世界。
不思議が詰まった静岡の海にはまだまだ発見がありそうですね。