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J3沼津 静岡県出身 中山雅史新監督・伊東輝悦選手に聞く

「静岡県東部の象徴に」日本サッカー界の歴史を作ってきた「レジェンド」2人が今季への意気込みを大いに語る 聞き手:後藤康之アナウンサー(NHK静岡)
  • 2023年02月08日

藤枝市出身の「ゴン」こと中山雅史新監督と、清水市(現在の静岡市清水区)出身で48歳のベテラン・伊東輝悦選手という、サッカー界を長きにわたってけん引してきた元日本代表の「レジェンド」2人が所属するアスルクラロ沼津。今シーズンは「結束~熱く闘え~!」をスローガンに、来月からはじまるリーグ戦に向けて練習に取り組んでいます。

今シーズンへの意気込みとともに、ともに日本代表で戦ってきたカズ選手への思いをうかがいました。【インタビューほぼ全文掲載です!】

初めてアスルクラロの取材に行くことに・・・

1998年のサッカーワールドカップ・フランス大会のジャマイカ戦で日本のワールドカップ初得点をマークした「ゴン」こと中山雅史監督と、1996年のアトランタオリンピックのブラジル戦で決勝ゴールをあげた伊東輝悦選手という「サッカー界のレジェンド」2人に直接話を聞ける機会。

しかも、沼津市がアニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」の舞台になっていることもあり、コラボユニフォームを作ったり、キャストの声優がスタジアムを訪れたりするなど、ホームゲームでさまざまなイベントを行っているクラブの取材。

・・・静岡駅から東海道線に乗りおよそ1時間。沼津駅を降りて練習場に向かう車の中で、サッカー好きでありアニメ好きの私の胸は躍っていました。

 

中山新監督が就任し、チームが始動してから半月あまり。
練習場に到着すると、この日はミニゲーム形式のトレーニングが行われていました。

「(攻守の)切り替え、切り替え!」コーチから飛ぶ大きな声。中山監督も時折、選手たちに近づいていって直接指導。
ピッチには熱気があふれていました。

「俺、しんどいわ」なんて言ってらんねえな。(伊東選手)

熱気あふれるピッチの上に、48歳のJリーガー・伊東選手の姿がありました。1996年のアトランタオリンピックのブラジル戦で決勝ゴールをあげた、「マイアミの奇跡」の立役者です。
鋭い動きでボールを追い、若い選手にパスを出していました。

取材におじゃました2月2日は、静岡市出身の55歳、「キングカズ」こと三浦知良選手がポルトガル2部リーグのオリベイレンセに移籍することが決まった日。
練習直後の伊東選手に、まずはカズ選手の新たな挑戦に思うことを聞いてみました。

(後藤)
「キングカズ」こと三浦知良選手がポルトガル2部に新たな挑戦をすることになりました。どう思いましたか? 

(伊東選手)
すごいなと思います。どこまで行っちゃうのかな?みたいな。 

(後藤)
ポルトガルでどんなカズ選手のプレーを見たい、期待したいって思いますか? 

(伊東選手)
やっぱりピッチに立っている姿を一番見たいなと思いますけどね。たぶん誰もが望んでるんじゃないかと思うんですけど。
ただポルトガル2部とはいえ、簡単なことじゃないと思うので・・・。
繰り返しになりますけど、そこに対してまたトライしに行くカズさん、「すげえな」って思いますね。 

(後藤)
ピッチに立つまでの準備でどんな大変さが待っているのか、どのように想像しますか? 

(伊東選手)
ポルトガルに行くとなると、環境がだいぶ違うと思うので、その生活のリズムであったりとか環境の変化に慣れるのにまずは大変だろうなと思いますよね。
ただカズさん、これまで長いキャリアがあるので、その辺は問題なく入っていけちゃうんじゃないかなと思うんですけど。

ゴールとかなんとかっていうよりも、ピッチの上にユニフォームを着て立ってる姿を見ることができたらうれしいなと思うし、それを見た方々、僕も含めてサッカーに携わる人も当然ですけど、一般の方々にも強いメッセージになるんじゃないかなとは思うので。
もうただただ身体に気を付けて頑張ってほしいなっていうところだけですね。 

(後藤)
伊東さん自身も、カズさんが海外に出てピッチに立つ姿を見るっていうのは励みになる部分がありますか? 

(伊東選手)
そうですね。僕も48…もう年、分かんなくなってきたなあ・・・。(笑)身体も本当にしんどくなってきて。
カズさん、それよりはるかに・・・7つ?もうだいぶ上なんですけど。(注:カズ選手は55歳)

「俺、しんどいわ」って言ってらんねえなと思いますもんね。

「しんどいわって言ってらんない」と笑う伊藤選手

ピッチに立って元気な姿を見せ続けたい

今シーズンも現役続行の48歳、伊東選手。
自分のプレーのことだけでなく、若い選手のことも考えながら開幕に臨もうと調整を続ける、ベテランならではの気概を語ってくれました。

(後藤)
いま、伊東さん自身のコンディションやチームの中での役割について、どういうふうに成熟が進んでいる段階ですか?

(伊東選手)
少しずつコンディション上げながら・・・個人的にはそんな感じですね。
チームでも、事前に中山さんが考えていることをピッチの中で少しずつ積み重ねているところなので、いまのところはいい形で進んでんじゃないかなと思うんですけど。 

(後藤)
ことしのアスルクラロ沼津はどんなチームになりそうですか? 

(伊東選手)
どうですかね・・・。中山さんに聞いてください。 (笑)
エネルギッシュというか、アグレッシブというか、そういう形が見せられるんじゃないかなと思うんですけど。 

(後藤)
チーム最年長として、けん引していかなければいけない立場ですよね。どういうふうにやっていこうって思っていますか? 

(伊東選手)
なるべく若い選手の足を引っ張らないように、若い選手からパワーをもらって、僕も何かしらいい形で刺激を与えられたらいいなと思ってるので、今シーズンもお互いに刺激し合いながらやりたいなと思うんですけど。

(後藤)
開幕戦に向けてまずはご自身をいい状態に持っていくっていうことを大事に? 

(伊東選手)
一番いいのはシーズン通して右肩あがりで上がっていくのが一番いいなと思うので、そこは身体と心とっていうか、うまくコントロールしながら最終的に右肩あがりになれればいいなみたいなところは考えながらやりたいなと思います。トレーニングしながらケアもして、老化に対して抵抗はしてるので。

(後藤)
どういうふうに静岡のサッカーやJ3を盛り上げていきたいって思いますか? 

(伊東選手)
勝利して少しでも上の順位に立って終われれば一番いいと思うので、それを目指してやるだけなんですけど。
 僕ができるとしたらいい準備をしてピッチに立てるように。元気な姿を見せ続けられたらいいなと思うので頑張りたいなと思います。

決意を胸に新シーズンに臨む伊藤選手

キングカズの挑戦は「悔しいね!」(中山監督)

伊東選手へのインタビューが終わったあと、中山監督が取材に応じてくれました。

まずは、1993年の「ドーハの悲劇」1997年の「ジョホールバルの歓喜」という、日本のワールドカップの歴史を語る上で忘れることのできない瞬間をともに味わった、同じ静岡県出身で学年がひとつ上の「盟友」カズ選手の海外挑戦について聞きました。

(後藤)
三浦知良選手がポルトガルで挑戦することが決まりました。 中山監督自身はどういうふうに感じましたか? 

(中山監督)
そういうところにチャンスがあるなら行くのがカズさんだと思うし、そこで何らかの挑戦をし、自分をまた大きくしてくるのかなっていう。そういう感想です。
自分もそこに行きたいっていう思いもありますけどね、それがなせないもどかしさ、そしてふがいなさ、悔しさってものは当然ありますけどね。
ただカズさんがそういうところに挑戦するってことは本当にワクワクさせてくれるし自分のパワーにもなるので、それをまた励みに僕も頑張っていければいいなとは思いますね。 

(後藤)
カズ選手は55歳。 中山さんも現役を長く続けていらっしゃいましたが、ピッチに立つまでの準備の難しさもご存じだと思うんですけれども? 

(中山監督)
それを怠ることなく日々ずっとやってくる、そうでなければたぶんグラウンドで勝負できないんですよね。
グラウンドで勝負してるのは長くても2時間ですよ。空いた時間をどう過ごすのか。自分を鍛える、あるいはケアして回復につとめるのかっていうことが一番大事で、一番きついところじゃないかなと思いますしね。
そのサイクルを崩さずにずっとやってこられてるっていう姿がすばらしいなと思いますし、それに年を取ってくるとどうしても故障であったり疲労であったりがなかなか抜けない部分がありますからそこを工夫していくんですけど、それを若いうちからトライ、アプローチしていたら、もっといまの選手たちも長くやれることにつながるんじゃないかなと思います。

だからそういうことが大事なんだっていうものを最後の最後に気付くんじゃなく、若いうちに気付けるか。気付いたもん勝ちじゃないかなって思いますね。
それはケアの部分だけでなくプレーの部分でもそうなんですけれども、「もっとああしていれば、こうしていれば」は、自分が退く時にやめていくときに感じるわけですよ。それがなくやめられる人っていうのは本当に幸せなサッカー人生を送った人だと思いますし、それはすばらしいことだと思いますけど、だいたいの人が「ああしとけばよかったこうしとけばよかった」っていう思いからやめていく道をとらざるをえない状況になっているわけで、それが少しでもそういう思いが少なくなるように、若いうちにどれだけ気付けてどれだけ行動に移せるかが勝負だと思ってますからね。

そういうものを選手にもしっかり伝えて日々の練習をどれだけ大切にしていけるのか、空いた時間、自分の時間をどれだけ大切にしていけるのかっていうのが自分のサッカー人生につながっていくんじゃないかなっていうものは伝えていこうと思いますし、ちょいちょいは伝えていますけどね。 

(後藤)
カズ選手は(JFLの)鈴鹿ポイントゲッターズで昨シーズンもゴールを決めて「70歳まで(現役)!」っておっしゃってましたよね? 

(中山監督)
10歳増えましたね!30代中盤から後半あたりでちょっと話したとき、「カズさんはいつまでやるの?」って言ったら「還暦」って言ったんですよ。だから(そのときから)10歳増えてますね!(笑)
その考えの進化も「キングはすごいね」って思いますけどね。

そういうのを聞くとね、悔しいね!やっぱりね。

だから舞台は違いますけど、自分のやれるところで精いっぱい自分を表現できたら。僕が表現するっていうことよりも、選手たちがどれだけ気持ちよく熱い姿勢を持ってグラウンドに立てるかっていうところにしっかりパワーを使っていけたらいいなと思いますね。

(後藤)
ポルトガルで、カズさんのどんなプレーに期待しますか?

(中山監督)
「またぎ」でしょ!カズさんと言ったら。またいでまたいで、いくのかなって(思ったら)、またまたいで、っていうね。そのプレーを見てみたいですね。
カズさんの全盛期のころ・・・いまが全盛期なのかもしれないですし、いろんなところでカズさんは努力してきてると思いますし、やはり攻めの姿勢ですよね。チャレンジしていく姿勢っていうものを見たいですし、そういうものをまた自分の活力にしていけたらいいなと思いますね。 

(後藤)
カズさんにいま、送るメッセージがあるとすれば? 

(中山監督)
自分の「精いっぱい」を出してすばらしいチャレンジにしてもらいたいなと思いますね。たぶんあの人だったらいろんなチャレンジして、いろんなことを吸収しても満足しないと思うんですよね。それでも、充実感を持った、そういうサッカー人生がポルトガルでも送れるように応援したいです。 

(後藤)
今シーズン、静岡にJ1のチームがないという状況ですけれども、カズさんの挑戦が静岡のサッカーにもいい影響を及ぼすんじゃないかって期待するところもあると思うのですが? 

(中山監督)
静岡に特化することとは思いませんけどね。とにかく日本のサッカーが盛り上がっていくことが重要だと思いますしね。海外でいろんな選手が日本人選手が活躍してくれていますし、やはりJリーグが盛り上がっていかないと。

J1に所属してるチームが静岡県内にはなくなってしまいましたけれども、J2からそこ(J1)に向かうパワー、熱い戦いで僕らもJ3で静岡県の東部として象徴になれるような戦いを展開していけば、また県内は盛り上がっていくんじゃないかなと思いますし、そういう盛り上がりが各都道府県で起きることが日本のサッカーの盛り上がりにつながると思いますし、日本にいる選手がとにかくそこに情熱を傾けて、いろんなものをプレーで発信していければいいのかなと思いますね。 

中山新監督が目指すのは「超・攻守一体サッカー」

チームは昨シーズン、J3の18チーム中15位。総得点がリーグワースト2位の27点にとどまり、得点力不足が課題となっています。
チームが目指すサッカーについてうかがいました。

(後藤)
開幕に向けて、いまどんな状況ですか? 

(中山監督)
選手は積極的に練習に取り組んでくれていますし、コーチングスタッフと話し合いながら「きょうはこういうテーマで」って、その日その日で練習メニューを構築してやっていますけどね。それが最終的に集まるのが開幕1週間前とか、そういうところなんじゃないのかなと思いますよ。

いまはまだまだチームとしてアプローチしなければいけない部分が多いですから、そこへフォーカスしてやっているっていう形ですからね。だから熟成度というのがいまひとつ僕自身も、どんなのがそれを図る指針になるんだろうっていうものがちょっとつかめていないのでね。
ただ、チームとしてはいい方向にいってるんじゃないかなっていう感触だけはあります。 

(後藤)
ことしのアスルクラロはどんなチームになりそうですか? 

(中山監督)
「攻守一体」ですね。
攻めていながらもボールを失ったらすぐ守りに切り替えられる。守りながらも攻めの姿勢を失わずにボールを奪いに行く、そこからゴールに向かっていく。

「攻守一体」といっても、それをさらに上のところでさらに躍動感を持って戦っていきたい。「超攻守一体」っていうものを掲げてプレーしていきたいなと思います。

「超・攻守一体」を熱く語る中山新監督

なかなかうまくいくことといかないこと、多いと思います。それをやはり試合の中で気付いたことを練習の中で解消していく、修正していく。それをもってまた次の試合に臨んでいく。

ただ、やっていく中でいろんな状況に対する対応として「割り切った戦い方」も必要なんじゃないかなっていうところもありますからね。
だから常に「超攻守一体」は頭の中に入れ、それをグラウンドの上で躍動させるっていうところを芯には持ってますけれども、そこに臨機応変にプレーできるように対応できるよう、そういうチーム力もつけていきたいなと思いますね。 

(後藤)
昨シーズンはJ3で下位に沈んでしまいましたが、ことしのアスルクラロ、期待していいですか?

(中山監督)
どうでしょうね?期待するんだったら来てください!
グラウンドに来てください。そして僕らの後押しをしてくれればそのパワーをいただいて、僕らはまたそこで躍動しようと思うのでね。

いろんなところで「楽しみです」って言われるんですけどね、僕自身も監督初めてなものですからね。そういう部分で不安は大きいですよ。
ただ、協力してくれるコーチングスタッフ、そしてそこに向かってひとつになろうというフロント、現場、選手、それぞれがみんな結束しようとしてますから。そこにサポーター、市民の皆さん、東部の皆さん、県の皆さん、日本全国からまたアスルクラロに注目してもらって、それが結束できたならば大きな力になるんじゃないかなと思いますから。

そういった中でそれを期待してるあなた(後藤)は来るべきだ! 

「期待しているなら(見に)来るべきだ!」のポーズ。

(後藤)
ぜひぜひ!楽しみにしています。ありがとうございました!

取材後記

ベテラン・伊藤選手の、慎重に選びながらつむがれたひとつひとつの言葉にこもる決意。
「ゴン中山節」ともいえる軽快な語り口と、その瞳の奥にみなぎる闘争心。
ことしの「サッカー王国・静岡」はJ2の清水エスパルス、ジュビロ磐田、藤枝MYFCの「三つどもえ」に加えてJ3のアスルクラロ沼津も熱い!
私もスタジアムに行きます!ゴンさん、待っていてください!

  • 後藤康之

    静岡放送局 アナウンサー

    後藤康之

    もともとは声優志望のアニメ好き。現在は「NHKニュース たっぷり静岡」キャスター。サッカー実況の経験はほとんどないが、通算8年勤務した佐賀局でサガン鳥栖の取材を長年担当。

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