ページの本文へ

静岡WEB特集

  1. NHK静岡
  2. 静岡WEB特集
  3. 沼津で発見!大海原を旅するタコ 水族館の飼育記録も更新中

沼津で発見!大海原を旅するタコ 水族館の飼育記録も更新中

タコが別の生き物に乗って海を旅する?不思議な生態を持つアミダコを取材しました NHK静岡 田中洋行アナウンサー 
  • 2023年02月06日

以前、生中継でお世話になった清水町の幼魚水族館から、駿河湾で珍しい タコ が発見され、飼育に成功しているという情報が寄せられました。

大海原を旅するとても不思議な生態を持つ「アミダコ」です。

発見例、水族館での飼育例も極めて少なく、生態は依然、謎に包まれたまま……。どんな生き物に乗って、どこからやってきたのでしょうか?
ドキドキしながら取材に向かいました。

アミダコに会いに清水町へ

まず去年(2022年)にオープンした清水町の商業施設内にある幼魚水族館へ。

海好き・魚好きアナウンサー 田中洋行

去年10月(2022年10月14日)にたっぷり静岡+で生中継して以来です。
(ブログ⇒ https://www.nhk.or.jp/shizuoka-ana-blog/510/

奥のコーナーに進むと……。

アミダコ

いました! 一見すると小さめのタコですが、よく知るマダコとは様子がずいぶん違います。
細長い腕を自分の胴の方に回し、吸盤を外側に向けています。

楕円形をしたラグビーボールのような形から、英語ではフットボールオクトパスと呼ばれています。
日本での「アミダコ」の名前の由来となったのは胴体部分の肌の凹凸。
写真ではちょっとわかりにくいですが、大きな個体になると、このひだがあみ目状になるようです。

水を噴射する口(いわゆるイラストのタコのおちょぼ口ですね)が長く大きいのが特徴で、観察してみると水を吐き出す頻度もマダコに比べてずいぶん早いです。

でもマダコと決定的に違うのが、発見された時の写真でわかります。
それがこちら。

「サルパ」に入って回遊 不思議な生態

サルパに入ったアミダコ(画像提供 幼魚水族館)

ペットボトルのような透明な何かに入っています。
実は、透明な筒のようなものも、れっきとした「生き物」。「サルパ」というホヤに近い動物です。
「サルパ」は普段、クラゲのように海を漂っています。

このタコ、この生き物の中に入って、大海原を旅しているんです。
水を噴射して自分の行きたい方向にも動けます。
人が馬に乗るように、大海を他の生き物に乗りながら旅するタコ。

「人馬一体」ではなく、「タコサルパ一体」……。
なんて不思議な生き物なんでしょう!

実は、タコの仲間には自ら貝殻を作って、古代のアンモナイトやオウムガイのように海を漂うものがいます。(アオイガイ タコブネなど)しかし、他の生き物を利用して大海原を回遊するタコは知られる限りこの種しかいません。

それにしてもどこで、どんな状況で発見されたのでしょうか?
実際に採取した人に会いに行ってみました。

発見された沼津市江浦へ

沼津市江浦にある水族館に魚を販売する会社

見つけたのは、日本国内をはじめ、世界の水族館に展示用の魚を販売する会社のスタッフ。
駿河湾に面した沼津市江浦(えのうら)にある会社では、社員が朝、目の前の岸壁を観察するのが日課です。

発見した矢吹淳平(やぶき・じゅんぺい)さんです。

魚の状態を確認する矢吹淳平さん

この日も水槽の魚の状態を注意深く見ていました。大学の水産学部で学芸員の資格を取得し、水族館ではなく魚を販売する会社でその知識を生かしています。

見つけた時の様子を再現してもらいました。

採取用のひしゃくとバケツ 傷つけないように取るのが大事です

「魚の幼魚や、クラゲなどが水面近くに浮いていたら、傷つけないように、長い柄のついたひしゃくで水ごとすくって、バケツの水の中にそっと移すんです」(矢吹淳平さん)

2023年1月14日、冷たい小雨の降る朝8時半のことです。
前日にいい風が吹いていたので、珍しい生き物が岸に寄せられているかもしれないと、期待して岩壁から海をのぞいていたという矢吹さん。

少し沖に大きなサルパが浮いているのを発見しました。
ひしゃくも届かず、諦めていたところ、沖でくるりとまわって岩壁に寄ってきました。

「これはチャンス!」とひしゃくを伸ばした矢吹さん。しかし……。

ひしゃくが浅く、サルパが入りきらず

「サルパの大きさが30センチほどあって、ひしゃくに半分ほどしか入らなかったんです。落ちてしまうんじゃないかと、ちょっと焦ってしまいました」(矢吹淳平さん)

なんとか無事に採取した矢吹さん。
ここでサルパに大きな目があることに気が付き、びっくりしました。

「え?タコ??」

驚いた矢吹さん。急いで飼育水槽に移しました。

発見されたばかりのアミダコ(画像提供 幼魚水族館)

全国の水族館とさまざまな生き物の取引のあるこの会社でも、サルパの中にいるタコの情報を知るスタッフはいませんでした。
スタッフ総出でインターネットで調べ、「アミダコ」だとわかったそうです。

国内で1週間を超える飼育例はみつからず、「このアミダコもすぐに死んでしまうかもしれない」と思った矢吹さん。急いで写真や動画で記録を取りました。

サルパの種類はオオサルパ。大きさは30センチほど。
中に入っているタコは25センチのメスでした。

アミダコを発見した矢吹淳平さん

「サルパに入った状態が見られるのは、このあたりでは数十年に1度と言われているので、見つけられて本当に嬉しいです」

「駿河湾の奥に位置する沼津には、時々、伊豆半島に沿って黒潮から分かれた温かい水が入ってくることがあるんです。アミダコもそんな海流に乗って流れ着いたのかもしれません」(矢吹淳平さん)

それにしても一体、このタコはどんな生活をしているのでしょうか?
タコやイカの生態に詳しく、NHKの生き物番組「ダーウィンが来た」などにもご協力いただいている琉球大学理学部の池田譲(いけだ・ゆずる)教授に電話で聞いてみました。

琉球大学
池田譲教授

アミダコの分布はとても広く、太平洋、インド洋、大西洋のあたたかい温帯域(南半球含む)の海です。
しかし、報告例は少なく、生態はわからないことばかりです。
メスに比べてオスは極端に小さく、分類の文献によると、メスが、胴体の大きさが31センチなのに対して、オスは3センチとあります。
サルパに入るのもオスの方が多く、身を守るためと考えられています。

メスは大きくなるとサルパを抜け出して浮遊生活するとされています。

水族館での飼育はとても貴重なので、光に対する動きなど、行動の特徴がわかると生態の解明につながるかもしれません。

水族館での飼育例は数えるほどしかなく、しかも数日で死んでしまうため、寿命や自然界で食べているものなど、わからないことだらけ。
しかも、あまりにも広い海でメスとオスはどう出会うんでしょうか?
サルパにはいつ、どこで入るんでしょうか?
考えれば考えるほど不思議です。

わからないことだらけのアミダコですが、水族館でのアミダコを観察すれば、大海原での生活を垣間見えるかも知れません。
再び水族館のタコを観察してみましょう!!

アミダコのもぐもぐタイムを拝見

飼育記録を更新中の幼魚水族館。一方で入っていたオオサルパは死んでしまいました。
アミダコはサルパがなくても元気なようです。

好物はあるのでしょうか?エサの時間を見せてもらいました。

まずはオキアミ。

オキアミを食べるアミダコ

もぐもぐと2匹をペロッと食べてしまいました。
続いてアサリのむき身。

アサリに近寄るアミダコ

長いピンセットで口の前に持って行くと、自らすすっと寄ってきました。

どうして生き物が食べものを目の前にした行動はかわいいんでしょう?
腕の付け根あたりを使ってアサリをつかむと、もぐもぐと食べ始めました。
見ている私までちょっと嬉しくなってきます。
2匹を難なく完食。

最後にキビナゴ1匹。

キビナゴをもぐもぐ

6~7センチほどの細長い魚体が徐々に吸い込まれ……完食!

いまは午前と午後の2回、このメニューで与えているそうです。
栄養バランスを考えて「甲殻類(オキアミ)」「軟体動物(アサリ)」そして「魚類(キビナゴ)」を与えているそうですが、好みもあるそう。

一番好きなエサはキビナゴだそうです。
どうしてわかったのかと言うと、最初にキビナゴを与えると、オキアミやアサリを残してしまうから。
苦手な野菜を残す人の子どものようでおもしろいですね(笑)。

でもひょっとするとアミダコは沖では小魚を主食としているのかも知れません。

なんとフンをするシーンにも遭遇してしまいました。

水槽内を漂うアミダコのフン

太さ1ミリに満たない長い長いフンがチュルチュルチュルッ! (15センチくらいありました)
お食事中の方、すみません。
しかし自然界では見ることのできない貴重な姿を見せていただきました。

水族館の居心地がよいのか、食事が気に入ったのか?
2月7日現在、水族館の飼育記録を更新し、24日生きています。

それにしても広い広い海で宇宙船のようなサルパに乗って漂うアミダコ。
沼津で見つかった個体は一体どこからやってきたのでしょうか?

実は、今回の発見で、ヒントとなる「物証」もあったのです。

後編では、サルパに残されていたあるモノから見えてきたアミダコの旅の経路と、まるで宝石のようなアミダコの赤ちゃんを写したカメラマンの話をお伝えします。
お楽しみに!!
 

幼魚水族館スタッフ撮影 墨を吐く貴重な姿
やっぱりタコなんですね(笑)
  • 田中 洋行(たなか ひろゆき)

    NHK静岡 アナウンサー

    田中 洋行(たなか ひろゆき)

    「しず海ひろば」で静岡の海の話題を発信中。海を漂うタコ・イカの仲間には生き物の進化の不思議を感じます。オウムガイをはじめ、タコブネ、アオイガイ、トグロコウイカなどの殻をコレクションしています。

ページトップに戻る