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深海魚カレー?ソーセージ! 静岡沼津市戸田

「しず海ひろば」根づけ 地域おこし協力隊の魂
  • 2022年12月15日

深海魚を使ったソーセージやカレー。静岡県沼津市戸田地区で新たな特産品づくりが始まっています。地域おこし協力隊だった青山沙織さんが奮闘していました。

深海魚の聖地

訪ねたのは、駿河湾に面した伊豆半島の西側にある沼津市戸田。古くから深海の底引き網漁で知られ、タカアシガニや本エビなどが有名です。漁協によると、駿河湾の深さ200メートルから500メートルの場所で網を引くと、さまざまな深海魚がとれるそうです。

静岡県沼津市戸田 穏やかな港

深海魚を生かす

この地で、沼津市の地域おこし協力隊として活動してきた青山沙織さん(40)。
食用としない未利用魚を活用した「ヘンテコ深海便」などを手がけています。

「ヘンテコ深海便」(写真 青山さん提供)

新たな特産品をつくりたいと、深海魚を使ったソーセージを開発。カレーづくりにも挑戦しています。青山さんはその思いをこう語りました。

「ここに来て4年半。深海魚の直送が話題になり、地域のために少しは実績をあげることができましたが何かしかけないと、新しいことやらないと、走り続けないと忘れられる

さっそく完成したソーセージを見せてもらいました。使っているのは、メヒカリやムツ、本エビ(ヒゲナガエビ)、それに豚肉などです。メヒカリは緑色の目が特徴で、脂がのった白身。そして本エビは、甘みとうまみのバランスがよいとして静岡県の「しずおか食セレクション」にも認定されている一品です。当初は、メギスやスミクイウオを使いましたが、魚臭さがあって地元の人たちと改良を重ねたそうです。

訪れた日は、静岡県水産・海洋技術研究所の水越麻仁主査が開発中の深海魚カレーの試作品の第1号を持ってきていました。

深海魚カレー 試作品完成

使っているのは、深海でとれるミノエビとベニガラエビ。ミノエビは頭が大きく胴の部分の殻がみのをかぶっているように見えます。水越さんによると、殻が固く身が少ないのが特徴で、流通量が少ないエビだということです。カレーにすると、うまみが強いだしが出るそうです。

ミノエビ(写真 静岡県提供)

青山さんは、自宅に持ち帰りすぐに試食。

「うーん。エビの味がすごく強い。でも塩あじが強い。トマトの酸味があるといいかな」

深海エビのうまみのポテンシャルを感じていました。おいしさを追求して材料を増やせば、原価があがる。どう改良するのか悩んでいました。「漁師さんにも食べてもらう」と青山さん、完成にはまだ時間がかかりそうです。

だしはミノエビ 実はベニガラエビ

最初はプレッシャー「まだ種まき」

青山さんは、2018年4月に沼津市の地域おこし協力隊に参加しました。兵庫県で生まれ育ち、海外に行きたいという夢を追いかけてオーストラリアでワーキングホリデーなどを経験しました。海の近くで仕事がしたいと沼津市の地域おこし協力隊に応募しました。

当初は地域のイベントのお手伝いを繰り返し、なんとか溶け込もうと必死だったといいます。そして3年目に深海魚の直送便を始めました。地域のためにもっと深海魚を売りたいという思いだったといいます。種類は2つ、食べられる深海魚を詰めた「深海魚直送便」と食用としない未利用魚を活用した「ヘンテコ深海便」です。どちらも人気だそうです。特に「ヘンテコ深海便」は、標本を作る人たちや寄生虫を研究している専門家、それに深海魚好きの子どもたちなどリピーターが多いということです。軌道に乗ったかと思い始めたころ、3年という地域おこし協力隊の任期が終わりました。

「最初は新しい土地でプレッシャーもあって何をしたらよいのか分からない状態でした。でも街や地域の人をよく見て、お手伝いや深海魚のデザインコンテストを企画しました。1つ1つ実績を積み重ねて、ようやく自分自身への自信と地域に理解してもらうことにたどりついたと思います。        今の仕事には満足していないけど、まだ3年なので種まきの時点です

「ようやくこの立場になれた」

地域おこし協力隊という定職がなくなった青山さん。去年、戸田の港の近くに民家を購入しました。深海魚の直送便は続けて欲しいという顧客からの要望があり、今では青山さんの生活の柱となっています。しかし、漁は天候に左右されるうえ、毎回大漁というわけではありません。そこで考えたのが、加工品でした。ソーセージもカレーも保存が効くため、安定した収入が期待できます。青山さんの苦労を知った漁師さんや地域の人、行政の人たちも力を貸してくれています。

青山さんは大学時代、デザインを学びました。本当は、深海魚という全国ブランドを生かして深海魚をテーマにしたいろんなグッズを作りたいと考えています。これまでにもトートバッグやポーチなどを手がけ、一部は漁協の直売所で販売しています。ただ今はデザインに専念するだけの余裕はないといいます。

青山さんデザインのグッズ

「今は目の前のことに精いっぱいで、目標はないんです。ただ深海魚を海外に卸すとか、海外にも目を向けられたらいいなとなんとなく考えています」
「やはり外の人なんで。以前はいい人でいようと思って、自分自身で苦しんだ。今は嫌なことは嫌と言いやすくなりました。ようやくこの立場になれた。もっともっと頑張って 地域の人たちに認めてもらいたい

地域おこし協力隊は、昨年度全国で約6000人(総務省による)が活動しています。新しい土地に住んで外からの目で地域のよさを見つめ直し、柔軟な発想で発信することが期待されています。任期が終わったあと同じ地域に定住したのは51%、この数字は多いのでしょうか?

新しい土地で、地域とともに人生をも成功させる。強い意志と地域の支えがないと続かないという地域おこし協力隊の厳しい実情が見えた気がしました。
それでも静岡の海の豊かさを発信しようと精いっぱい取り組む人たち、新たな時代に向けた漁業の深化を支える一翼を担っています。      




 

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