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NHK静岡 田中洋行アナぶらり“薩埵峠(さった峠)”へ

「しず海ひろば」駿河湾にはグランドキャニオンがある?
  • 2022年12月12日

朝、富士山が見えると不思議と幸せな気持ちになりますよね。
「朝活」でぶらり薩埵峠(さった峠)へ。
でも、もし駿河湾に水が無かったら、薩埵峠(さった峠)からはグランドキャニオンのような景色が眺められるそうです。
想像すると、なんだかドキドキしてきました。 

富士の絶景を見に ぶらり薩埵峠(さった峠)

静岡に暮らしていると、生活の中に大きな富士山があり、はっきり見える日は幸せな気持ちになりますよね。学生時代から、二十数年ぶりに戻ってきた静岡でその気持ちを思い出しています。

いま住んでいる静岡の家にも一つだけ富士山を覗くことができる小さな窓があります。晴れた朝、この窓から富士山をチェックするのが私の日課です。

ある朝、この富士を見て、ふと好きな景色を見に行きたくなりました。歌川広重の浮世絵、東海道五十三次にもある「薩埵峠(さった峠)」です。これまで何度も通っている場所ですが、静岡に勤務してからは初めて。

せっかくなのでドリップしたコーヒーをポットに入れ、車を走らせました。いざ!

薩埵峠(さった峠)から見た富士山

朝8時すぎ。峠の駐車場に着きました。駿河湾と富士山、伊豆半島が見わたせます。訪れたのは11月中旬。みかん畑を吹く風も冷たく感じられるようになってきました。
さっそくポットのコーヒーを注ぎ飲むと、なんとぜいたくな時間!

ずっとこの景色に浸っていたくなります。

パシャパシャと写真を数枚撮りました。
釣り人を乗せた遊漁船が沖に向かって水を切っています。

青空の下、カラスウリが赤く色づいていました。

ススキの穂ももう少しで開きそうです。
せっかくなので「たっぷり静岡」のお天気コーナー「しずそら」に写真を提供しました。
(2022年11月16日放送)

国道と高速道路を走る車の音が遠くに聞こえます。穏やかな自然を感じ、時の流れを忘れます。
遊歩道は残念ながら崩落の危険があるとのことで通行止め。

駐車場に車を止め、道路を歩きながら景色を楽しみました。

でも実は、私、この絶景を前に、もう1つイメージしている景色があるんです。

それがこちら。

駿河湾の水を抜くと、グランドキャニオンのような景色が出現するのだとか。
アメリカの世界遺産、グランドキャニオンは幅が6キロから29キロ。深さはおよそ1600m。
駿河湾は湾口部で幅56キロ、深さ最大で2500m。
でも薩埵峠(さった峠)から西伊豆の間の駿河湾は、深さが1500mくらいなので、確かに同じ規模の谷が出現しそうです。

水を抜くとグランドキャニオンが現れる

グランドキャニオンの話を教えてくれたのは、東海大学海洋学部 海洋地球科学科の坂本泉教授です。

坂本泉教授(東海大学海洋学部)

坂本教授は長年、駿河湾を音波探査したり、カメラを沈めて調査したりと、海底を様々な方法で調べてきました。坂本教授の研究室で、駿河湾の海底図を見せてもらいました。

「富士川から太平洋に向かって巨大溪谷が出現するんです。とくにこのあたりは‟ゴージ”と言ってかなり険しい崖になっています…」

指をさす海底地形図は、薩埵峠(さった峠)から南、焼津市と松崎町の間あたりです。
すごい地形が現れました…。

「ゴージ(gorge)」は日本の登山用語でも「ゴルジュ」などと呼ばれる地形で、両側の岩壁が迫った谷を言います。2000m近い崖が両岸に迫る地形。等深線も複雑に入り組んでいます。

坂本教授に、その地点の水中カメラの映像を見せていただきました。
ごろごろとした石や岩が露出し、荒涼としたダイナミックな地形に、ムチカラマツやクモヒトデといった動物がまばらに。

ムチカラマツと思われる生き物(写真提供 坂本教授)
中央にクモヒトデのような生き物(写真提供 坂本教授)

さながらグランドキャニオンに生えているサボテンや、乾燥に強いクモのようです(笑)

さらに駿河湾の入り口から北の方角、富士山の方を見た立体図を見せてもらうと……。

駿河湾を南から見た海底図(画像提供 坂本教授)

単純に深いのではなく、いくつもの谷筋が見られ、高さが2500mの巨大溪谷が出現しました。
頂いたデータに少し色をつけさせていただきました。

確かにグランドキャニオンのような景色!

目の前の海のことを「地先(ちさき)」と言いますが、日本中どこを探したって、こんな地先を抱えているところはありません。
もし歌川広重がこの地形を見たらどんな浮世絵を描いたでしょうか?(笑)

実際は海水に満たされ、そんな荒涼とした景色は見えませんが、この巨大溪谷には、体長数センチの小さなサクラエビから、数メートルにおよぶ深海ザメまで、不思議で特徴的な生態系があるわけです。

そんな海底峡谷を想像しながら駿河湾を眺めると、なんだかドキドキしてきます。

この下にすごい地形があるんですね

水に覆われ、なかなか見えない海の世界ですが、研究者や博物館・水族館の学芸員、漁師さん、時には釣り人が?!静岡の海の不思議で豊かな世界の断片を見せてくれています。

NHK静岡では、これから「しず海ひろば」という海のWEB特集を制作していきます。
研究対象としても世界から注目される不思議で楽しい静岡の海。
みなさんも一緒に発見していきませんか?

「しず海ひろば」をどうぞよろしくお願いします。

 

「あたなに届けたい今がある」
たっぷり静岡 G(月ー金)午後6:10~

  • 田中 洋行(たなか ひろゆき)

    NHK静岡 アナウンサー

    田中 洋行(たなか ひろゆき)

    静岡の大学で海洋生物を学び、NHKアナウンサーに。 長崎・福井・名古屋・東京・千葉に勤務。 流氷の下からサンゴの海……さらにインドの山奥から槍ヶ岳の山頂まで、あちこちの自然を取材・リポートしてきました。 「しず海ひろば」で静岡のすばらしい海の話題を発信していきます。

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